超幾何級数の和公式は, 有限和の場合には証明が簡単になることがある. 例えばGaussの超幾何定理
はが正でない整数の場合Vandermondeの恒等式と呼ばれる
という形になる. このように, 有限和になる超幾何級数はterminatingであると呼ばれ, それに対する無限和のものはnon-terminatingであると呼ばれる. をに置き換えて両辺にを掛けるとこれは
となって, 一般二項定理により
の両辺の係数を比較することにより示すことができる.
Vandermondeの恒等式は
は全ての非負整数で成り立つことを意味している. ここで, 複素解析において以下の定理があったことを思い出す.
一致の定理
領域上で正則な複素関数がで集積点を持つような点列の上で一致するならば, 全体でである.
先ほどの状況だと, 点列は集積点を持たないので, 一致の定理は使えない. しかし, 類似で同じことを考えると, -Vandermondeの恒等式
は次の等式が
で成り立つことを意味している. 点列はを集積点に持つから, 両辺がにおいて正則であることが分かればこの等式はの近傍で成り立つことになり, それは解析接続によって両辺が収束する範囲に拡張される. 右辺がにおいて正則であるのは明らかである. 左辺に関しても, と書けることから, 正則であることが分かる.
よって, -Vandermondeの和公式は一般のに拡張され, をに置き換えると, -Vandermondeの和公式から以下が示せたことになる.
次に, 同じ方法をRogersの和公式に対して試してみる. TerminatingなRogersの和公式は非負整数に対して,
と表される. これは,
がに対して成り立つことを意味しており, 両辺はにおいて正則であるから, この等式はのまわりで成り立つ. 解析接続により, より一般のに関しても成立する. つまり, として以下が得られたことになる.
上の2つの例において, この方法は上手くいった. しかし, あらゆるterminatingな和公式がこの方法によってnon-terminatingに一般化されるわけではない. 例えば, -Vandermondeの恒等式にはもう一つの形
がある. 右辺にがついていることを考えると, の場合に右辺に一致するようなものを考えようとすると, 自然なものとしては
のようになるだろう. しかし, これらはにおいて正則ではないので一致の定理は使えない. 左辺も同様に拡張を試みると,
となるが, 先ほどはだったので, 正則だったが, 今度はが掛かっていないので正則にならない. いずれにしてもこの方法でnon-terminatingに拡張するのは難しそうである. しかし, 上の-Vandermondeの恒等式には以下のようなnon-terminatingへの拡張は知られている.
それはnon-terminating -Vandermondeの恒等式と呼ばれている. このように, 一致の定理による方法では上手くいかない場合もあるが, 古典的な場合には使えなかった一致の定理が類似で考えると使えることがあるというのは興味深いと思う.