今回はメビウスの反転公式を紹介する。
今まで、数学の問題を解いたり色々な定理を調べたりする中で、最近は特に整数関連の話題が面白いと感じていた。その中で、解いていた問題の題材にメビウス関数があったため、探究してみようと思った。
JMO2024 予選問題 第12問
メビウス関数になんらかの法則性があるのではないか。
メビウス関数について参考文献『数学オリンピック2021~2025(日本評論社)』などを調査し、見つけたメビウス関数に関する性質やメビウスの反転公式を実際に証明するとともに、メビウスの反転公式について、具体的な関数に当てはめた場合を示し、更に特殊な場合について考察する。
本発表では次の記号を用いることがある。
$\mathbb{Z} : 整数全体の集合$
$\mathbb{Q} : 有理数全体の集合$
$\mathbb{R} : 実数全体の集合$
$\mathbb{C} : 複素数全体の集合$
${a\mid b} : aはbの約数 \Longleftrightarrow bはaの倍数$
$n$を正の整数とする。関数$\mu(n)$を次のように定義する。
$$ \begin{eqnarray} \mu (n)= \left\{ \mathcal{} \begin{array}{l} n=1のとき \mu (1)=1 \\nがある素数pで2回割り切れる時 \mu(n)=0 \\nが相異なるk個の素数の積である時 \mu(n)=(-1)^{k} \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
これをメビウス関数と呼ぶ。
また、メビウス関数について次の性質が一般に知られている。
$n$を2以上の整数とする。
$\left(\sum\limits_{ nの全ての約数d }\mu(d) = \right)\sum\limits_{ d \mid n }\mu(d)=0 $
$p_{i}(1 \leq i \leq k)$を素数としたとき、
$ n=p_{1}^{e_{1}}p_{2}^{e_{2}}p_{3}^{e_{3}} \cdots p_{k}^{e_{k}}$と素因数分解したとする。
このとき$d$は$n$の約数なので$p_{i}$を$0$から$e_{i}$回選んだものの積でと表せる。
$e_{i} \geq 2$のとき、$\mu(n)$の定義より、$\mu(d)=0$である
よって、$e_{i}=1$の場合を考えればよいので、
$n=p_{1}p_{2}p_{3} \cdots p_{k}$ となる。
この約数の個数は$k$個の中から$l$個選ぶ組み合わせの合計になる。
したがって、約数の個数は、
$p_{1}$から$p_{k}$の中から$0$個選ぶとき${}_k \mathrm{ C }_0=1$ 個
$p_{1}$から$p_{k}$の中から$1$個選ぶとき${}_k \mathrm{ C }_1 $ 個
$p_{1}$から$p_{k}$の中から$2$個選ぶとき$ {}_k \mathrm{ C }_2 $ 個
$\cdots$
$p_{1}$から$p_{k}$の中から$k$個選ぶとき$ {}_k \mathrm{ C }_k $ 個となる。
$\mu(1)=1$であり、それぞれの符号を考慮すると、
これらの和は
$1-{}_k\mathrm{C}_1+(-1)^2{}_k\mathrm{C}_2- \cdots +(-1)^k{}_k\mathrm{C}_k$
となり、二項定理より
$(1-1)^{k}=0$ Q.E.D
nを正の整数とする。
$g(n)= \sum\limits_{ d\mid n } f(d) $ で定めるとき、
$f(n)=\sum\limits_{d\mid n} \mu( \frac{n}{d} ) g(d)$ が成立する。
$d’$を$d$の正の約数とする。
このとき
$\sum\limits_{d\mid n} \mu( \frac{n}{d} ) g(d)=\sum\limits_{d\mid n} \mu( \frac{n}{d} ) \sum\limits_{d’\mid d}f(d’)$ である。
ここで、$d’$を固定すると $\sum\limits_{d’\mid d}f(d’)$ の値は一つに定まるから
$\sum\limits_{d\mid n} \mu( \frac{n}{d} ) $ について考えていく。
$n=d’$のとき、$d’\mid d$ かつ$d\mid d’$ であるから$d’=d=n$
$\mu(1)=1$であるから $\sum\limits_{d\mid n} \mu( \frac{n}{d} ) =1$
$n \neq d’$のとき、$d$は$n$の約数であるから$\frac{n}{d}$も$n$の約数である。
ゆえに、定理1より $\sum\limits_{d\mid n} \mu( \frac{n}{d} ) =0$ である。
以上より、$\sum\limits_{d\mid n} \mu( \frac{n}{d} ) \sum_\limits{d’\mid d}f(d’)$ について $n=d’$のときの項のみが残る。
よって、$\sum\limits_{d\mid n} \mu( \frac{n}{d} ) g(d)=\sum\limits_{d\mid n} \mu( \frac{n}{d} ) \sum\limits_{d’\mid d}f(d’)=f(n)$ が示された Q.E.D.
また、メビウスの反転公式は $f,g:\mathbb{Z}_{ \geq 1} \mapsto \mathbb{C}$ においても成り立つ。
メビウスの反転公式が実際に成り立っているのか具体的な関数を用いて検証していく。
ここで、青色線のは元々のオリジナルの関数$f(d)$、緑色の線は$g(n)$、赤色の線は反転公式で計算しなおした$f(n)$である。
この場合は下の図のようになる。
$f(x)=1$
この場合は下の図のようになる。
$f(x)=x$
この場合は下の図のようになる。
$f(x)=x^2$
確かに今示した3つの例で $f(n)=\sum\limits_{d\mid n} \mu(\frac{n}{d})g(d)$ が成り立っていることがわかる。
今回は任意の正の整数$n$について $f(n)=g(n)$ となる場合を考えていく。結論から言ってしまうと、初等的な関数で考えると、$f(x)=0$ の場合のみである。特殊な関数も含めると無限に関数を考えることはできる。しかし、そのような関数を半ば無理やり定義することにあまり意味はないように思われる(素人目線)。
実際に $f(x)=0$ の場合のグラフを見ると例4のようになり、確かに全て一致している。
この場合は下の図のようになる。
$f(x)=0$
では、$f(n)=g(n)$ が成り立つ条件について考えていく。
$f(n)=g(n)=\sum\limits_{d\mid n}f(d)$ であるから、
$f(n)=\sum\limits_{d\mid n}f(d)$ となる条件を考える。
任意の正の整数$n$について、
$n$が素数のとき、$n$の約数は$1$と$n$のみである。
よって、$\sum\limits_{d\mid n}f(d)=f(1)+f(n)=f(n)$ であるから、$f(1)=0$
$n$は2以上の正の整数とする。
以下の操作を繰り返すことによって $f(n)=0$ が示される。
例えば、$f(2)$を求めることを考える。
ここで$f(4)$を考えると、$f(4)=f(1)+f(2)+f(4)$なので$f(2)=0$となる。
同様に、小さいな数字から順次$f(n)=0$が示される。
具体的には、ある数$n$に対する$f(n)$は、その値を約数に持つ$n$以上の値を考えれば良い。
今回メビウス関数、メビウスの反転公式について調べる中で、証明の理解に苦しむことも多々あったが全体を通して非常に奥の深い関数だと思った。例えば、素数定理やゼータ関数との関わりが深い。今後の探究において、私の数学力との相談になるが、もっと他の関数とのつながりは見てみたいと思った。また、メビウスの反転公式を調べる中で最も有効であったのは『双対性』という言葉である。
双対性
数学におけるAとBの双対性とは、数学的対象 Aからなんらかの手続きで数学的対象Bを構成することができ, Bからもなにかの手続きでAを構成することが出来る状況をいいます。
東北大学大学院理学研究科・理学部より
私たちの身近な例でいくと、正多面体は双対性を持っている。例えば、辺と頂点との関係を入れ替えることで、正六面体は正八面体と双対な関係であり、正十二面体は正二十面体と双対な関係である。そして、正四面体は自己双対(双対の操作をしたときに自分になる)である。実は、最後のメビウスの反転公式に関する筆者の考察はこの自己双対に着想を得ている。
今後の展望としては、前述した通り、メビウス関数とゼータ関数のつながりについて探究していきたい。