この記事は分数階微積分(fractional calculus)の入門について数回に分けて述べていきます. 分数階微分に一意的な定義はありません. よってさまざまな定義の仕方がありますが, 本記事は
Riemann-Liouvilleの分数階微分, 積分の定義を採用します.
前提知識は大学1,2年で習う微積くらいです. ルベーグ積分の知識があればより理解が深まると思います. 高校生でもガンマ関数とベータ関数知っていれば雰囲気は理解できるのかな?
初回は分数階積分を定義するところまでします.
あくまでも分数階微積分を知ってもらうのが今回の目的なので分数階積分や微分の基本的な性質などは紹介しません. またすべて証明を付けることはありません. 気になる方は参考文献12を参照してください.
(日本語の書籍は私が知る限り知らないのでこの辺の話題をいつか和書とか作りたいですね...)
webにはいくつか日本語で書かれたものもあります345
関数$f(x)=x$ の$1$階微分は$f^\prime(x)=1$となる. では仮に$f(x)$の$\frac12$階微分というものを考えることができるならどうなるのか?
話を単純化させるために微分作用素$D=\frac{d}{dx}$とする. 仮に$\frac12$階微分が存在するとしたら$D^{\frac12}D^{\frac12}=(D^{\frac12})^2=D$ という等式が成り立ってほしい.この性質が担保されれば$f(x)$の$\frac12$階微分も以下のように推測することができる.
$(D^\frac12)^2f(x)=1 \Longrightarrow D^\frac12 f(x)=\sqrt{x}+c$
$c$は積分定数みたいなもの
上の予想は実際正しくないが, 正解にだいぶ近づいている.
それでは本題に入っていく. 初回は分数階積分を定義するための準備とアイデアを紹介していく.
まずは分数階微積分の定義や計算で必要になってくる特殊関数を定義し, その性質を述べる.
(2)関数$B : (0, \infty)\times (0, \infty) \to \mathbb{R}$を
$$ B(x, y) = \int_0^1 t^{x-1}(1-t)^{y-1}dt$$
によって定義し, これをベータ関数とよぶ.
ガンマ関数は階乗の一般化である. ガンマ関数は一般に実部が負の整数でない複素数まで拡張することが出来るが, 本記事は正の実数までとする.
次の性質は基本的である.
任意の$x,y>0$ に対して以下が成り立つ.
次に古典的な(通常の微分積分学の)での結果をまとめる. 次の微分積分学の基本定理は微分と積分の関係を表したものである.
$f : [a,b] \to \mathbb{R}$ を連続関数, $F : [a, b] \to \mathbb{R}$ を $F(x)= \int_a^x f(t)dt$ とする. このとき, $ F^{\prime} (x) = f(x)$ が成り立つ
便利上, 次のように積分作用素と微分作用素を定義する.
(a) 微分可能な関数$f$ をその微分に写す作用素$D$ を $D f(x) = f^{\prime}(x)$ と定める.
(b) 関数 $f$ を 区間 $[a, b]$ でリーマン可積分とする. $f$ を$a$を中心とする原始関数に写す作用素$J_a$を $J_a f(x) = \int_a^{x} f(x) dx \ \ (a\leq x \leq b)$
と定める.
(c) $n\in\mathbb{N}$ とし, $D^n$ と $J_a^n$ を $D^1 = D$, $J_a^1 = J_a$ とし, $2\leq n$ に対して, $D^n =DD^{n-1}$, $J_a^n = J_a J_a^{n-1}$ とする.
$n\in\mathbb{N}$ に対して,$ D^n J_a^n f(x) = f(x)$ となる.
なので一般の$n$に拡張する場合この性質を成り立たい.
リーマンリウヴィウルの定義は定義$2$の(c)を一般の$n\not\in\mathbb{N}$ に拡張する. その準備のために積分作用素を$n$回作用させたときについて次のことが成り立つ.
$n\in\mathbb{N}, f \in C^{\infty}([a,b])$ とする. このとき, $a\leq x \leq b$ において
\begin{equation}
J_a^n f(x) = \frac{1}{(n-1)!} \int_a^x (x-t)^{n-1}f(t) dt
\end{equation}
が成り立つ.
帰納法で示す. $n=1$のときは明らか. $n$のとき定理が成り立つとすれば,
\begin{eqnarray}
J_a^{n+1} f(x) &=& \int_a^x \bigg( \frac{1}{(n-1)!} \int_a^t (t-s)^{n-1} f(s) ds \bigg) dt \nonumber \\
&=& \frac{1}{(n-1)!} \int_a^x \int_a^t (t-s)^{n-1} f(s)dsdt \nonumber
\end{eqnarray}
$f$ は区間$[a,b]$ で連続であるから, フビニの定理より積分の順序交換をでき,
\begin{eqnarray}
J_a^{n+1} f(x) &=& \frac{1}{(n-1)!} \int_a^x \int_s^x (t-s)^{n-1} f(s)dtds \nonumber \\
&=& \frac{1}{(n-1)!} \int_a^x \frac{1}{n} (x-s)^n f(s) ds \nonumber \\
&=& \frac{1}{n!} \int_a^x (x-s)^n f(s) ds \nonumber
\end{eqnarray}
Riemann-Liouvilleの積分を定義するとき, 定理$3$ における$(n-1)!$の部分をガンマ関数に置き換えることで分数階積分を定義している.
$n \in \mathbb{R}_{+}$ とする. 作用素$J_{a}^{n}$を$L^1[a,b]$において次のように定義する.
\begin{equation}
J_a^n f(x) = \frac{1}{\Gamma(n)} \int_a^x (x-t)^{n-1} f(t) dt
\end{equation}
Riemann-Liouville$n$階積分とよぶ. $n=0$に対しては, $J_a^0 = I$ とする. ただし, $I$は恒等写像とする.
これは定理$3$ においてリーマン可積分からルベーグ可積分に拡張したことを除けば古典論と一致する.
さて, ここで問題になってくるのが上で定義した分数階積分が存在するのかどうなのかが問題になる. しかし, $1\leq n$ のとき, 中の積分は可積分関数$f(x)$ と $(x-a)^{n-1}$ の積なので$J_a^n f$ はほとんどすべての$x\in[a,b]$ で存在するのは明らか. だが, $0< n<1$ のときは明らかではないのでチェックする必要がある. 実はそのことは保証されるが証明はここでは省略する.
$f(x) = (x-a)^{\beta}$, $-1<\beta$, $0< n$とする. このとき,$J_{a}^{n}f = \frac{\Gamma(\beta+1)}{\Gamma(n + \beta + 1)}(x-a)^{ n + \beta}$ となる.
\begin{eqnarray} J_a^nf(x) &=& \frac{1}{\Gamma(n)} \int_a^x (x-t)^{n-1}(t-a)^\beta dt \nonumber \\ \nonumber &=& \frac{1}{\Gamma(n)} \int_0^1 (x-((x-a)s+a))^{n-1} \cdot (s(x-a))^\beta \cdot (x-a)ds \\ \nonumber &=& \frac{1}{\Gamma(n)} \int_0^1 ((1-s)(x-a))^{n-1} \cdot s^\beta (x-a)^{\beta+1}ds \\ \nonumber &=& \frac{1}{\Gamma(n)}(x-a)^{n + \beta} \int_0^1(1-s)^{n-1}s^\beta ds \\ \nonumber &=& \frac{1}{\Gamma(n)}(x-a)^{n + \beta} \cdot B(n, \beta+1) \\ \nonumber &=& \frac{1}{\Gamma(n)}(x-a)^{n + \beta} \cdot \frac{\Gamma(n)\Gamma(\beta+1)}{\Gamma(n + \beta+1)} \\ &=& \frac{\Gamma(\beta+1)}{\Gamma(n + \beta + 1)}(x-a)^{ n + \beta} \nonumber \end{eqnarray}
これは$n+\beta \in\mathbb{N}$のとき, 古典論と一致しているのがわかる.
今回は分数階積分を定義し, その計算例までしました. 分数, と言いながら今回は実数まで拡張しました. fractional を分数と訳しているだけなので実際は分数だけじゃなく実数, 複素数まで拡張することができます. 日本語で非整数階微分などとわざと述べているものもありますが, この記事では分数階微分ということにしています.
次回は分数階微分を定義し, その計算例を紹介します.
今回紹介した積分作用素$J_a^n$は実は半群の構造を持ちます. 余裕がある人は証明してみてもいいかもしれません. 積分作用素についての性質は余裕があれば今後やるかもしれません. 初めてのmathlogなのでどこかミスがあるかもしれません. もし何かあれば指摘お願いします.
それではまた次回.