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INTEGRALIS
第5章で取り上げた問題の作問者の方々をご紹介します。(敬称略)
積分の問題を見たとき、皆さんは最初に何を考えるだろうか。
「何を置換するか」「部分積分が使えないか」「どの公式を当てはめるか」など、考え方は人それぞれだと思う。
私の場合、まず考えるのは、「この被積分関数は、何を微分したら現れるのか」ということだ。
原始関数の形を予想し、微分して係数を合わせる。それが難しければ、積の微分を逆向きに利用できないか考える。それでも見通しが立たなければ、既に知っている積分の形に持ち込むための式変形や置換を探す。
こうした考え方を身につけると、複雑に見える積分でも、ほとんど計算せずに答えが分かることがある。
もちろん、すべての積分が簡単に解けるわけではない。しかし、積分を解くうえで重要なのは、計算を速く行うこと以上に、そもそも計算しなくてよい部分を見つけることだと考えている。
この記事では、私が普段積分を解く際に意識していることを、できる限り具体的に言語化していきたい。
特に重視するのは、なぜその原始関数を予想できるのか、なぜその置換を思いつくのか、そして複数の解法から何を基準に選ぶのか、という部分である。
主な対象はINTEGRALISに挑戦する方だが、大学入試の積分にも役に立つ内容に仕上げた。
積分を解く際、私が最も大切にしている考え方がある。
積分とは、未知の形を既知の形に帰着させることである。
例えば、次の積分を考える。
$$
\int\frac{2x}{1+x^4}\,dx
$$
ここで、
$$
t=x^2
$$
と置換してもよい。しかし、
$$
\frac{d}{dx}\arctan x=\frac{1}{1+x^2}
$$
という既知の微分公式を思い出せば、分母の四次式と分子の一次式が一つの構造として見えてくる。
その結果、
$$
\int\frac{2x}{1+x^4}\,dx=\arctan(x^2)+C
$$
と求められる。
このとき行っているのは、特別な計算ではない。既に知っている微分の形を、少し広く捉えているだけである。
そもそも、置換積分も部分積分も、元をたどれば合成関数や積の微分を逆向きに利用したものである。
したがって、まずは既知の微分・積分の構造をどれだけ認識できるかが重要になる。
では、既知の形を増やすとはどういうことだろうか。
もちろん、さまざまな公式や典型的な積分を覚えることも大切である。しかし、それと同じくらい重要なのが、一つの既知形を拡大解釈して、認識できる範囲を広げることだ。
例えば、
$$
\frac{d}{dx}\arctan x=\frac{1}{1+x^2}
$$
を知っていれば、合成関数の微分法から、
$$
\frac{d}{dx}\arctan f(x)=\frac{f'(x)}{1+f(x)^2}
$$
という形まで一般化できる。
ここまで理解していれば、
$$
\int\frac{2x+1}{(x^2+x+2)\{1+\ln^2(x^2+x+2)\}}\,dx
$$
という積分を見ても、分母の複雑さに惑わされる必要はない。
$$
f(x)=\ln(x^2+x+2)
$$
という一つの塊を見つければ、先ほどの既知形と同じ構造を持っていることが分かる。
したがって、
$$
\begin{aligned}
&\int\frac{2x+1}{(x^2+x+2)\{1+\ln^2(x^2+x+2)\}}\,dx\\
&=\arctan\{\ln(x^2+x+2)\}+C
\end{aligned}
$$
となる。
重要なのは、この積分の答えそのものを覚えることではない。
既知の関数の中に別の関数が入り込んでも、微分構造さえ一致していれば同じように扱えるという考え方を習得することである。
一つの公式から多くの積分を認識できるようになれば、覚えるべき個別の公式を無制限に増やす必要はなくなる。
つまり、既知形を増やすことと、既知形を拡大解釈することは、互いに補い合う学習方法なのである。
通常、微分では与えられた関数の導関数を求める。
一方、積分では導関数に相当する式が与えられ、そこから元の関数を探すことになる。
それなら、最初から原始関数になりそうな形を予測して、その微分が被積分関数と一致するか調べればよい。
これは特別な発想というより、積分を微分の逆操作として捉えた、ごく自然な考え方である。
例えば、指数関数と多項式の積が現れたなら、原始関数もそれらの積になっている可能性を考える。分母にある式とその微分が現れたなら、対数関数や逆三角関数の微分形を疑う。
また、積の微分を逆向きに利用すれば、通常の部分積分を逐一書かずに処理できる場合もある。
本記事では、こうした考え方を微分形接触や瞬間部分積分といった手法を通して整理していく。
さらに、それらを直接適用できないときには、何を目標に式を変形するのか、どのように置換を設計するのかも考えていく。
ここで忘れてはならないのは、置換の目的は、既知の形や扱いやすい形へ帰着させることだという点である。
ごく当たり前のことに思えるかもしれないが、積分を前にして「何と置換するか」ばかりを考え、かえって視野が狭くなってしまうことがある。
大切なのは、何を置換するかではなく、その置換によって何を簡単にしたいのか、どのような形に帰着させたいのかを考えることである。この点は常に意識してほしい。
ここまでは主に原始関数の話をしてきたが、定積分では少し事情が異なる。
定積分の場合、原始関数を求めずに値を決定できることがあるからだ。
例えば、
$$
I=\int_0^1\frac{x^2}{x^2+(1-x)^2}\,dx
$$
を考える。
この積分を直接計算しようとすると、少々面倒な式変形が必要になる。
しかし、積分区間が0から1であることに着目し、
$$
x\mapsto1-x
$$
と変数を置き換えると、
$$
I=\int_0^1\frac{(1-x)^2}{x^2+(1-x)^2}\,dx
$$
となる。
これらを加えれば、
$$
2I=\int_0^1 1\,dx=1
$$
よって、
$$
I=\frac12
$$
と求まる。
ここでは原始関数を一切求めていない。
被積分関数だけでなく、積分区間の対称性を利用することで、計算そのものを不要にしたのである。
このように、定積分では被積分関数だけでなく、積分区間にも目を向けることが重要である。
特に、変数を変換したときに積分区間や被積分関数がどのように変化するかを調べることで、元の積分との関係が見えてくる場合がある。
対称性や周期性などは、その代表例である。これらをうまく利用すれば、原始関数を求めることなく積分値を決定できることもある。
本記事では、既知形の認識から始まり、原始関数の予測、微分形接触、部分積分、置換の発見といった考え方を順に扱っていく。
重要なのは、個々の問題の解法を覚えることではなく、未知の問題に対しても自分で解法を組み立てられるようになることである。
最終的な目標は、この記事を読み終えた読者が、初等関数で解ける積分に困らなくなることだ。
第0章では、積分を既知形へ帰着させるという考え方について述べた。本章では、そのための基本操作と、よく知られた置換・変換を扱う。
重要なのは、操作の方法だけでなく、元の積分をどのような形に変えたいのか、そのためになぜその操作を選ぶのかを理解することである。
置換積分は、合成関数の微分法則を逆向きに利用したものである。
$$
\frac{d}{dx}F(g(x))=F'(g(x))g'(x)
$$
ここで、
$$
F'(x)=f(x)
$$
とすれば、
$$
\int f(g(x))g'(x)\,dx=F(g(x))+C
$$
を得る。
実際、
$$
t=g(x)
$$
と置けば、
$$
dt=g'(x)\,dx
$$
なので、
$$
\int f(g(x))g'(x)\,dx=\int f(t)\,dt
$$
となる。
例えば、
$$
I=\int\frac{2x}{1+x^2}\,dx
$$
を考える。
分母を一つの変数として扱えば、簡単な有理関数になりそうである。そこで分母を微分すると、
$$
(1+x^2)'=2x
$$
となり、分子と一致する。
したがって、
$$
t=1+x^2
$$
と置けば、
$$
I=\int\frac{1}{t}\,dt
$$
$$
=\ln(1+x^2)+C
$$
となる。
ここでの着想は、単に分母を置き換えることではない。分母を新しい変数にしたとき、分子がその微分因子として処理でき、既知の積分形になると予測しているのである。
より一般には、次のような形を積分したいなら、
$$
\int f(g(x))h(x)\,dx
$$
まず関数の内部を新しい変数として扱うことを考え、残りの因子がその微分とどう関係するかを確認すればよい。
ただし、置換積分の目的は合成関数の内部を取り出すことに限らない。根号を取り除いたり、三角関数を有理化したりする場合にも、同じ置換積分の原理を利用できる。
部分積分は、積の微分法則を逆向きに利用したものである。
$$
\frac{d}{dx}\{f(x)g(x)\}=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)
$$
これを積分して整理すると、
$$
\int f(x)g'(x)\,dx
=f(x)g(x)-\int f'(x)g(x)\,dx
$$
を得る。
置換積分では合成関数の構造を利用したが、部分積分では積の構造を利用する。
ここで重要なのは、一方を微分し、もう一方を積分した結果、新しく現れる積分が簡単になるかどうかである。
例えば、
$$
I=\int x\ln x\,dx
$$
を考える。ただし、変数は正の範囲とする。
対数関数を微分すると分母に変数が現れる。一方、一次式を積分すれば二次式になるため、両者を掛けたときに約分が期待できる。
そこで、対数関数を微分し、一次式を積分する。
$$
I=\frac{x^2}{2}\ln x
-\int\frac{x^2}{2}\cdot\frac{1}{x}\,dx
$$
$$
=\frac{x^2}{2}\ln x-\frac{x^2}{4}+C
$$
部分積分では「どちらを微分するか」だけでなく、微分と積分を行った後、どのような積が残るかまで考えたい。
次の積分を考える。
$$
I=\int x^2e^x\,dx
$$
指数関数は微分しても形を保ち、多項式は微分すると次数が下がる。このことから、原始関数も指数関数と多項式の積になっていると予測できる。
まず、
$$
F_0(x)=x^2e^x
$$
を微分すると、
$$
F_0'(x)=(x^2+2x)e^x
$$
となる。
求めたい被積分関数より余計な項が現れたので、その分を打ち消すように修正する。
$$
F_1(x)=(x^2-2x)e^x
$$
$$
F_1'(x)=(x^2-2)e^x
$$
今度は定数項が不足している。そこで、さらに修正する。
$$
F_2(x)=(x^2-2x+2)e^x
$$
$$
F_2'(x)=x^2e^x
$$
したがって、
$$
I=(x^2-2x+2)e^x+C
$$
を得る。
このように、積の微分によって現れる余計な項を順に打ち消し、原始関数を直接構成する方法を、ここでは瞬間部分積分と呼ぶ。
通常の部分積分と異なる原理ではなく、部分積分の繰り返しを原始関数の予測として処理しているのである。
この計算は、次の表で整理することもできる。
$$
\begin{array}{c|c|c}
\text{符号}&\text{微分する関数}&\text{積分する関数}\\ \hline
+&x^2&e^x\\
-&2x&e^x\\
+&2&e^x\\
&0&
\end{array}
$$
対応する項を符号に従って加えると、
$$
x^2e^x-2xe^x+2e^x
$$
となる。
これは反復部分積分を表形式に整理する tabular integration と呼ばれる方法である。表を使えば手順が分かりやすいが、慣れれば頭の中で同じ処理ができる。
一般に、多項式を、
$$
P(x)=a_nx^n+\cdots+a_1x+a_0
$$
とすれば、
$$
\int P(x)e^x\,dx
=e^x\sum_{k=0}^n(-1)^kP^{(k)}(x)+C
$$
となる。
もっとも、この公式を新たに覚える必要はない。微分で生じる余計な項を打ち消していけば、同じ結果を得られるからである。
なお、定積分でも考え方は同じである。瞬間部分積分によって原始関数を求めた後、積分区間の両端の値を代入すればよい。
瞬間部分積分は、多項式と指数関数の積だけに限らない。原始関数の構造を予測し、微分によって係数や項を調整するという考え方は、第2章でさらに一般化する。
部分積分を繰り返すと、元の積分が再び現れる場合がある。これは cyclic integration by parts(巡回型の部分積分)と呼ばれることがある。
例えば、
$$
I=\int e^x\sin x\,dx
$$
を考える。
指数関数は微分・積分しても形を保ち、三角関数は微分によって正弦と余弦を行き来する。そのため、部分積分を繰り返せば元の積分に戻ることが予想できる。
実際、
$$
I=e^x\sin x-\int e^x\cos x\,dx
$$
さらに、
$$
\int e^x\cos x\,dx=e^x\cos x+I
$$
であるから、
$$
2I=e^x(\sin x-\cos x)
$$
となり、
$$
I=\frac{e^x}{2}(\sin x-\cos x)+C
$$
を得る。
ここでは、部分積分によって積分を消すのではなく、元の積分に戻ることを利用し、その積分についての方程式を作っている。
元の積分が再び現れても、そこに至るまでに別の項が得られていれば、それらを整理することで積分値を求められる。
部分積分を繰り返すもう一つの方法として、同じ種類の積分同士の関係を利用することがある。
例えば、
$$
I_n=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^n x\,dx
$$
を考える。ただし、指数は非負整数とする。
この積分はWallis(ウォリス)積分として知られている。
ここで目指したいのは、正弦関数の冪を含む積分を、次数の小さい同種の積分へ帰着させることである。
そこで正弦関数を一つ分離する。
$$
I_n=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^{n-1}x\sin x\,dx
$$
後ろの正弦関数を積分すると余弦関数が現れ、前の正弦関数の冪を微分しても余弦関数が現れる。
したがって、部分積分後には余弦関数の二乗が現れる。この二乗は、
$$
\cos^2x=1-\sin^2x
$$
によって正弦関数だけに戻せる。
つまり、部分積分の選び方は、最初から同じ種類の積分へ戻すことを見込んだものである。
実際、2以上の整数について部分積分すると、
$$
I_n=(n-1)\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^{n-2}x\cos^2x\,dx
$$
となる。
恒等式を利用すれば、
$$
I_n=(n-1)(I_{n-2}-I_n)
$$
なので、
$$
I_n=\frac{n-1}{n}I_{n-2}
$$
を得る。
初期値は、
$$
I_0=\frac{\pi}{2},\qquad I_1=1
$$
であり、これらから任意の非負整数に対する積分値を順次求められる。
この漸化式からはWallisの積公式などにもつながるが、ここでは同種の積分へ帰着させるという部分積分の使い方を理解しておけば十分である。
巡回型の部分積分では元の積分そのものに戻り、Wallis積分では指数の異なる同種の積分へ戻る。両者は異なる処理だが、部分積分によって積分同士の関係を作るという点で共通している。
例えば、次の二つの分数冪が同時に現れたとする。
$$
x^{\frac{1}{2}},\qquad x^{\frac{1}{3}}
$$
それぞれに根号が含まれるため、そのままでは多項式として扱いにくい。
そこで、両方を整数冪にできないかと考える。
指数の分母は2と3なので、その最小公倍数を利用し、
$$
x=t^6
$$
と置けば、変数が正の範囲で、
$$
x^{\frac{1}{2}}=t^3,\qquad x^{\frac{1}{3}}=t^2
$$
となる。
複数の有理数指数が現れたときには、その分母の最小公倍数を用いて一括して整数冪に変えられる。
ただし、根号を消すだけで積分が簡単になるとは限らない。置換後の微分因子も考慮する必要がある。
例えば、
$$
I=\int\frac{1}{\sqrt{x}+x}\,dx
$$
なら、
$$
t=\sqrt{x}
$$
と置くことで、
$$
x=t^2,\qquad dx=2t\,dt
$$
となり、
$$
I=\int\frac{2t}{t+t^2}\,dt
$$
$$
=2\int\frac{1}{1+t}\,dt
$$
$$
=2\ln(1+\sqrt{x})+C
$$
を得る。ただし、変数は正の範囲とする。
ここでは平方根が消えるだけでなく、微分によって現れた因子が分母と約分されている。
次の積分を考える。
$$
I=\int\frac{1}{1+e^x}\,dx
$$
分母に指数関数が現れているが、指数関数全体を一つの文字として見れば、単なる一次式になる。
そこで、
$$
t=e^x
$$
と置くと、
$$
dx=\frac{1}{t}\,dt
$$
であるから、
$$
I=\int\frac{1}{t(1+t)}\,dt
$$
となる。
部分分数分解によって、
$$
I=\int\left(\frac{1}{t}-\frac{1}{1+t}\right)dt
$$
$$
=x-\ln(1+e^x)+C
$$
を得る。
指数関数を一つの変数として扱うことで、指数関数の有理式を通常の有理関数へ帰着させている。
同様に、対数関数を含む積分では、
$$
t=\ln x
$$
という置換も考えられる。
この場合、
$$
x=e^t,\qquad dx=e^t\,dt
$$
となるため、対数関数の冪を多項式として扱える。
例えば、
$$
I=\int(\ln x)^2\,dx
$$
なら、
$$
I=\int t^2e^t\,dt
$$
となる。
これは瞬間部分積分によって処理できる既知形なので、
$$
I=x\{(\ln x)^2-2\ln x+2\}+C
$$
を得る。
このように、一つの置換によって、別の既知の積分技法を適用できる形へ変えることもできる。
例えば、
$$
I=\int\sin^3x\cos x\,dx
$$
を考える。
正弦関数の三乗に余弦関数が掛けられているので、正弦関数を一つの変数として扱えば、三乗の部分を多項式にできそうである。
さらに、正弦関数を微分すると余弦関数が現れる。
そこで、
$$
t=\sin x
$$
と置けば、
$$
dt=\cos x\,dx
$$
より、
$$
I=\int t^3\,dt
$$
$$
=\frac{\sin^4x}{4}+C
$$
となる。
一方、
$$
I=\int\frac{1}{1+\cos x}\,dx
$$
では、分母の微分因子が分子に存在しない。
そこで、直接置換する前に、分母を既知の微分形へ変えられないかを考える。
半角公式から、
$$
1+\cos x=2\cos^2\frac{x}{2}
$$
であるから、
$$
I=\frac{1}{2}\int\frac{1}{\cos^2\frac{x}{2}}\,dx
$$
となる。
ここで正接関数の微分形が現れたので、
$$
I=\tan\frac{x}{2}+C
$$
を得る。
三角関数が現れたからといって、必ず三角置換を行う必要はない。恒等式による変形だけで既知形に帰着できる場合もある。
有理関数の積分は、多くの置換積分の最終的な帰着先となる。
一般に、
$$
R(x)=\frac{P(x)}{Q(x)}
$$
という有理関数を考える。
まず、多項式の除算によって分子の次数を分母より低くできる。残った真分数については、部分分数分解が基本となる。
例えば、
$$
I=\int\frac{1}{x^2-1}\,dx
$$
では、分母を因数分解すると、
$$
x^2-1=(x-1)(x+1)
$$
となる。
一次式の逆数は対数関数の微分形なので、それらの和へ分解することを考える。
実際、
$$
\frac{1}{x^2-1}
=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{x-1}-\frac{1}{x+1}\right)
$$
より、
$$
I=\frac{1}{2}\ln\left|\frac{x-1}{x+1}\right|+C
$$
となる。
また、分子が分母の微分と関係している場合には、部分分数分解の前に対数関数の微分形を取り出せる。
例えば、
$$
\int\frac{2x+1}{x^2+x+3}\,dx
=\ln(x^2+x+3)+C
$$
である。
分母に実数範囲で因数分解できない二次式が現れる場合には、平方完成によって逆三角関数の微分形へ帰着できる。
分母に重複した因子が現れる場合、原始関数の有理関数部分を先に取り出す方法がある。
例えば、
$$
I=\int\frac{1}{(1+x^2)^2}\,dx
$$
を考える。
分母が二乗になっているので、分母が一乗の有理関数を微分すれば、この形に近づけそうである。
そこで、
$$
F(x)=\frac{x}{1+x^2}
$$
と置くと、
$$
F'(x)=\frac{1-x^2}{(1+x^2)^2}
$$
となる。
分母は一致したので、残った分子の差を調整する。
$$
\frac{1}{(1+x^2)^2}
=\frac{1}{2}\left(\frac{x}{1+x^2}\right)'
+\frac{1}{2(1+x^2)}
$$
したがって、
$$
I=\frac{x}{2(1+x^2)}+\frac{1}{2}\arctan x+C
$$
を得る。
この例では、有理関数の一部を別の有理関数の微分として取り出し、残りの積分を簡単にしている。
Ostrogradsky–Hermiteの簡約法は、この操作を一般の有理関数へ体系化したものである。重複因子を持つ分母を簡約し、残りをより扱いやすい有理関数の積分へ帰着させる。
ここでは一般的な計算アルゴリズムまで踏み込まず、原始関数に含まれそうな有理関数を予測し、それを微分して残りの積分を簡単にするという発想を押さえておけばよい。
ここからは、よく知られた置換や変換について、その式をどのように導くのか、どのような場合に利用するのかを考える。
例えば、
$$
\sqrt{a^2-x^2}
$$
という平方根を考える。ただし、定数は正とする。
平方根の内部には二つの平方の差がある。これを完全平方に変えられれば、平方根を簡単にできそうである。
ここで、
$$
1-\sin^2\theta=\cos^2\theta
$$
という恒等式が使える。
この恒等式は、直角三角形の三平方の定理に対応している。
平方根を直角三角形の辺として見れば、角度によって二辺を表せる。
斜辺の長さを一定と考えれば、角度を用いて、
$$
x=a\sin\theta
$$
と表せる。
したがって、
$$
\sqrt{a^2-x^2}=a\cos\theta
$$
となる。ただし、余弦が非負となる範囲で考える。
例えば、
$$
I=\int\frac{1}{\sqrt{a^2-x^2}}\,dx
$$
なら、
$$
dx=a\cos\theta\,d\theta
$$
であるから、
$$
I=\int1\,d\theta
$$
$$
=\arcsin\frac{x}{a}+C
$$
を得る。
この置換では、平方根が完全平方になり、さらに微分因子と約分できている。
同様に、
$$
\sqrt{a^2+x^2}
$$
には、
$$
1+\tan^2\theta=\sec^2\theta
$$
を利用して、
$$
x=a\tan\theta
$$
という置換が考えられる。
また、
$$
\sqrt{x^2-a^2}
$$
には、
$$
\sec^2\theta-1=\tan^2\theta
$$
を利用して、
$$
x=a\sec\theta
$$
と置く方法もある。
いずれも、平方根の内部にある二次式を三角関数の恒等式で完全平方にすることが目的である。
三角置換と同じ目的は、双曲線関数でも達成できる。
双曲線関数は、
$$
\sinh t=\frac{e^t-e^{-t}}{2}
$$
$$
\cosh t=\frac{e^t+e^{-t}}{2}
$$
と定義され、
$$
\cosh^2t-\sinh^2t=1
$$
を満たす。
例えば、
$$
\sqrt{a^2+x^2}
$$
という平方根なら、
$$
1+\sinh^2t=\cosh^2t
$$
を利用できる。
そこで、
$$
x=a\sinh t
$$
と置けば、
$$
\sqrt{a^2+x^2}=a\cosh t
$$
$$
dx=a\cosh t\,dt
$$
となる。
例えば、
$$
I=\int\frac{1}{\sqrt{a^2+x^2}}\,dx
$$
なら、
$$
I=\int1\,dt
$$
である。
ここで、
$$
e^t=\sinh t+\cosh t
$$
より、
$$
I=\ln(x+\sqrt{a^2+x^2})+C
$$
を得る。定数に依存する差は積分定数に吸収した。
三角置換と双曲線関数による置換は、平方根を完全平方にするという目的が共通している。どちらを使うかは、平方根の内部の符号や微分因子の形によって判断すればよい。
次のような積分を考える。
$$
I=\int\frac{1}{2+\sin x+\cos x}\,dx
$$
正弦と余弦が同時に現れるので、一方をそのまま新しい変数にしても、もう一方の処理が問題になる。
そこで、正弦と余弦を同時に有理式で表せないかと考える。
この発想を理解するには、単位円を見るとよい。
単位円上の点と固定点を結ぶ直線の傾きを、新しい変数として使う。図は単位円を等倍率で拡大したもので、直線と円の交点は正確に対応している。
単位円上の点を、
$$
P=(\cos x,\sin x)
$$
とする。
この点と、
$$
A=(-1,0)
$$
を結ぶ直線の傾きを、新しい変数とする。
$$
t=\frac{\sin x}{1+\cos x}
$$
半角公式によって、
$$
t=\tan\frac{x}{2}
$$
である。
ここで、直線の方程式を、
$$
Y=t(X+1)
$$
と書く。
単位円の方程式、
$$
X^2+Y^2=1
$$
に代入すると、
$$
X^2+t^2(X+1)^2=1
$$
となる。
既知の交点に対応する因子を取り除けば、
$$
X=\frac{1-t^2}{1+t^2}
$$
を得る。
さらに、
$$
Y=\frac{2t}{1+t^2}
$$
である。
したがって、
$$
\cos x=\frac{1-t^2}{1+t^2}
$$
$$
\sin x=\frac{2t}{1+t^2}
$$
となる。
また、
$$
dx=\frac{2}{1+t^2}\,dt
$$
である。
正弦・余弦・微分のすべてが、新しい変数の有理式として表された。
これがWeierstrass置換である。
この置換の重要な点は、正弦と余弦を個別に処理する必要がないことである。
正弦と余弦の有理式を表す関数を用いて、
$$
\int R(\sin x,\cos x)\,dx
$$
という一般的な積分を考える。
Weierstrass置換によって、
$$
\int R\left(
\frac{2t}{1+t^2},
\frac{1-t^2}{1+t^2}
\right)\frac{2}{1+t^2}\,dt
$$
となる。
右辺は有理関数の積分である。
したがって、正弦と余弦から四則演算によって構成された被積分関数なら、局所的にはすべて有理関数の積分へ帰着させられる。
これは単なる例題に対する置換ではなく、ある種類の積分全体を処理できる方法である。
例えば、最初の積分に適用すれば、
$$
I=\int\frac{2}{t^2+2t+3}\,dt
$$
となる。
平方完成して、
$$
I=2\int\frac{1}{(t+1)^2+2}\,dt
$$
より、
$$
I=\sqrt2\arctan\left(\frac{1+\tan\frac{x}{2}}{\sqrt2}\right)+C
$$
を得る。
ただし、半角の正接が定義される連続な区間ごとに考える。
Weierstrass置換は非常に汎用的だが、必ずしも計算が最も簡単になるとは限らない。置換後に高次の有理関数が現れる場合もあるため、通常の三角恒等式で処理できるなら、そちらを優先してもよい。
双曲線関数についても、正弦・余弦と似た有理化を考えられる。
双曲線関数は指数関数で定義されるので、
$$
u=e^x
$$
と置けば、
$$
\sinh x=\frac{u^2-1}{2u}
$$
$$
\cosh x=\frac{u^2+1}{2u}
$$
$$
dx=\frac{1}{u}\,du
$$
となる。
これによって、双曲線関数の有理式を通常の有理関数へ帰着させられる。
また、半角の双曲線正接を利用して、
$$
t=\tanh\frac{x}{2}
$$
と置けば、
$$
\sinh x=\frac{2t}{1-t^2}
$$
$$
\cosh x=\frac{1+t^2}{1-t^2}
$$
$$
dx=\frac{2}{1-t^2}\,dt
$$
となる。
どちらも双曲線関数の有理式を有理化する方法である。積分によっては指数置換の方が簡単になり、別の積分では半角置換の方が式を整理しやすい場合がある。
次に、二次式の平方根を含む積分を考える。
$$
I=\int R(x,\sqrt{ax^2+bx+c})\,dx
$$
ここで、二変数の有理関数を表す記号を用いた。
このような積分では、平方根と元の変数の両方を新しい変数の有理式で表せれば、有理関数の積分へ帰着できる。
そこで、平方根を含む方程式を作り、両辺を2乗したときに特定の項が消えるようにする。
これがEuler置換の基本的な発想である。代表的な3種類を考えよう。
二次の係数が正の場合を考える。
$$
a>0
$$
平方根の内部にある二次の項を消したいので、
$$
\sqrt{ax^2+bx+c}=\sqrt a\,x+t
$$
という関係を作る。
両辺を2乗すると、
$$
ax^2+bx+c=ax^2+2\sqrt a\,xt+t^2
$$
となり、二次の項が相殺される。
したがって、
$$
x=\frac{t^2-c}{b-2\sqrt a\,t}
$$
を得る。
これにより、元の変数を新しい変数の有理式として表せる。
また、最初の関係式から平方根も有理式として表せるため、積分全体を有理関数に変換できる。
例えば、
$$
\sqrt{x^2+1}
$$
という平方根に対しては、
$$
t=\sqrt{x^2+1}-x
$$
と置ける。
この置換には別の導き方もある。
平方根を含む式と、その共役な式を掛けると、
$$
(\sqrt{x^2+1}-x)(\sqrt{x^2+1}+x)=1
$$
となる。
そこで、一方を新しい変数とすれば、もう一方はその逆数で表せる。
$$
\sqrt{x^2+1}-x=t
$$
$$
\sqrt{x^2+1}+x=\frac{1}{t}
$$
二つの式を引くと、
$$
2x=\frac{1}{t}-t
$$
なので、
$$
x=\frac{1-t^2}{2t}
$$
を得る。
つまり、二次の項を相殺するという考え方と、共役な式を利用して有理化するという考え方は、同じ置換につながっている。
二次式が実数解を持つ場合には、その零点を利用できる。
$$
a\alpha^2+b\alpha+c=0
$$
となる実数を選ぶ。
このとき、
$$
ax^2+bx+c=(x-\alpha)\{a(x+\alpha)+b\}
$$
と因数分解できる。
二次式に一次式の因子があるので、平方根をその因子と新しい変数の積として表せば、2乗した後に共通因子を消せそうである。
そこで、
$$
\sqrt{ax^2+bx+c}=t(x-\alpha)
$$
と置く。
両辺を2乗すると、
$$
(x-\alpha)\{a(x+\alpha)+b\}=t^2(x-\alpha)^2
$$
となる。
適切な区間で共通因子を除けば、
$$
a(x+\alpha)+b=t^2(x-\alpha)
$$
であるから、
$$
x=\frac{a\alpha+b+\alpha t^2}{t^2-a}
$$
を得る。
ここでは、二次式の零点を利用することで、2乗後の方程式を一次式にしている。
例えば、
$$
\sqrt{x^2-1}
$$
では、
$$
\alpha=1
$$
を選べる。
そこで、
$$
\sqrt{x^2-1}=t(x-1)
$$
と置けば、
$$
x+1=t^2(x-1)
$$
となるので、
$$
x=\frac{t^2+1}{t^2-1}
$$
を得る。
この場合も、平方根と元の変数を有理式で表せる。
定数項が正の場合には、
$$
c>0
$$
平方根の内部にある定数項を相殺することを考える。
そこで、
$$
\sqrt{ax^2+bx+c}=\sqrt c+tx
$$
と置く。
両辺を2乗すると、
$$
ax^2+bx+c=c+2\sqrt c\,tx+t^2x^2
$$
となり、定数項が消える。
したがって、
$$
x=\frac{2\sqrt c\,t-b}{a-t^2}
$$
を得る。
これも新しい変数の有理式である。
3種類のEuler置換は、いずれも平方根を含む方程式を作り、2乗したときに方程式の次数が下がるように設計している。
Euler置換は、図形としても理解できる。
平方根を新しい座標として、
$$
y=\sqrt{ax^2+bx+c}
$$
と置けば、
$$
y^2=ax^2+bx+c
$$
という二次曲線を考えられる。
例として二次曲線と、その上の点を通る直線を示した。曲線上の既知点を通る直線の傾きを新しい変数とする。交点は曲線の方程式を満たしている。
二次曲線上の既知の点を通る直線を考えると、その直線と曲線の交点の座標を、直線の傾きによって表せる。
例えば、定数項が正なら、
$$
(0,\sqrt c)
$$
は曲線上の点である。
この点を通る直線は、
$$
y=\sqrt c+tx
$$
と表せる。
これはEuler置換(Ⅲ)そのものである。
また、二次式が実数解を持つ場合には、
$$
(\alpha,0)
$$
が曲線上の点となり、そこを通る直線を利用すると(Ⅱ)が得られる。図はこの(Ⅱ)の例であり、曲線と直線は
$$
y^2=x^2-1,\qquad y=t(x-1)
$$
を満たす。
(Ⅰ)では、直線の傾きに二次の係数の平方根を含め、2乗したときに二次の項を消している。幾何学的には、曲線の漸近線に平行な直線を考えている。
したがって、Euler置換は平方根の有理化という代数的な方法であると同時に、二次曲線を直線によって有理的に表す方法でもある。
Möbius変換は、一次分数変換とも呼ばれ、
$$
x=\frac{at+b}{ct+d}
$$
という形で表される。ただし、
$$
ad-bc\neq0
$$
とする。
このとき、
$$
dx=\frac{ad-bc}{(ct+d)^2}\,dt
$$
となる。
この変換を積分で利用する際には、式の中で重要な役割を持つ点を、扱いやすい位置へ移すという発想が役立つ。
例えば、
$$
I=\int\frac{1}{x^2-1}\,dx
$$
を考える。
分母には二つの零点が存在する。
$$
x=1,\qquad x=-1
$$
そこで、一方を新しい変数の原点へ移し、もう一方を分母に吸収することを考える。
$$
t=\frac{x-1}{x+1}
$$
と置くと、
$$
x=\frac{1+t}{1-t}
$$
となる。
また、
$$
dx=\frac{2}{(1-t)^2}\,dt
$$
$$
x^2-1=\frac{4t}{(1-t)^2}
$$
であるから、
$$
I=\frac{1}{2}\int\frac{1}{t}\,dt
$$
$$
=\frac{1}{2}\ln\left|\frac{x-1}{x+1}\right|+C
$$
を得る。
この積分であれば部分分数分解の方が簡単だが、ここでは零点の位置を移すことで分母を簡単にしている。
一般に、Möbius変換は拡張された実数直線上の異なる3点を、別の3点へ移すように構成できる。
特に、
$$
0,\qquad1,\qquad\infty
$$
という標準的な位置へ移すことは、積分区間の端点や分母の零点を整理する際に役立つ。
つまり、複雑な式の中に現れる重要な点の配置を変えることも、置換の目的の一つなのである。
Möbius変換の特別な場合として、
$$
t=\frac{1}{x}
$$
という逆数置換がある。
この置換では、
$$
dx=-\frac{1}{t^2}\,dt
$$
となる。
逆数置換によって、正の冪と負の冪を入れ替えたり、無限区間を有限区間へ移したりできる。
さらに、次の式を考えよう。
$$
x+\frac{1}{x}
$$
この式は、変数をその逆数へ置き換えても変わらない。
したがって、逆数に関する対称性を持つ式を一つの変数にまとめたいなら、
$$
t=x+\frac{1}{x}
$$
という置換が自然に考えられる。
これはJoukowski変換の実変数版に対応している。文献によってはZhukovskyという綴りも用いられる。
例えば、
$$
x^2+\frac{1}{x^2}
=\left(x+\frac{1}{x}\right)^2-2
$$
なので、逆数対称性を持つ式を新しい変数の多項式として整理できる。
また、
$$
t=x+\frac{1}{x}
$$
から、
$$
x^2-tx+1=0
$$
を得るため、
$$
x=\frac{t\pm\sqrt{t^2-4}}{2}
$$
となる。
このように式をまとめられる一方、逆変換で平方根が現れる場合もある。
したがって、置換後の微分まで含めて、積分全体が簡単になるかを考える必要がある。
また、正の範囲全体では一対一でないため、定積分では必要に応じて区間を分けて扱う。
次のような平方根が現れたとする。
$$
\sqrt{\frac{ax+b}{cx+d}}
$$
根号を取り除くために、この式全体を新しい変数として扱う。
$$
t=\sqrt{\frac{ax+b}{cx+d}}
$$
両辺を2乗すると、
$$
t^2(cx+d)=ax+b
$$
となるので、
$$
x=\frac{b-dt^2}{ct^2-a}
$$
を得る。
元の変数も平方根も、新しい変数の有理式として表された。
この置換は、根号の置換とMöbius変換を組み合わせたものとして理解できる。
特別な公式を覚えるよりも、根号を一つの変数にして2乗し、元の変数について解くという操作から導ければ十分である。
ここまでは、与えられた積分を有理関数へ帰着させる方法を考えてきた。
では、どのような場合に初等関数へ帰着できるのかを、積分の形から判定できないだろうか。
次の積分を考える。
$$
I=\int x^m(a+bx^n)^p\,dx
$$
ここでは、指数を有理数とし、係数は非退化な場合を考える。
Chebyshevの二項微分の積分定理によれば、次の3つのうち少なくとも1つが整数であることが、原始関数を初等関数で表せるための必要十分条件となる。
$$
p,\qquad\frac{m+1}{n},\qquad
p+\frac{m+1}{n}
$$
この条件がなぜ置換の指針になるのかを考えよう。
まず、
$$
t=x^n
$$
と置く。
すると、
$$
I=\frac{1}{n}\int t^{\frac{m+1}{n}-1}(a+bt)^p\,dt
$$
となる。
ここで、
$$
q=\frac{m+1}{n}
$$
と定義すれば、
$$
I=\frac{1}{n}\int t^{q-1}(a+bt)^p\,dt
$$
と書ける。
つまり、分数冪を含む部分が二つに整理された。
$$
t^{q-1},\qquad(a+bt)^p
$$
これらを同時に整数冪として扱えるようにすることを考える。
$$
p\in\mathbb Z
$$
なら、二項式の部分は既に有理関数である。
したがって、残った分数冪を取り除く置換を考えればよい。
例えば、指数の分母を正整数で表して、
$$
q=\frac{r}{s}
$$
とすれば、
$$
t=u^s
$$
によって単項式の分数冪を整数冪に変えられる。
$$
q\in\mathbb Z
$$
なら、単項式の部分は既に整数冪となる。
今度は二項式の分数冪を取り除けばよい。
指数を、
$$
p=\frac{r}{s}
$$
と表して、
$$
u=(a+bt)^{\frac{1}{s}}
$$
と置けば、
$$
t=\frac{u^s-a}{b}
$$
となり、積分全体を有理関数へ帰着させられる。
例えば、
$$
I=\int\frac{x^2}{\sqrt{1+x^3}}\,dx
$$
なら、
$$
u=\sqrt{1+x^3}
$$
と置くことで、
$$
du=\frac{3x^2}{2\sqrt{1+x^3}}\,dx
$$
より、
$$
I=\frac{2}{3}\sqrt{1+x^3}+C
$$
を得る。
$$
p+q\in\mathbb Z
$$
なら、二つの冪をまとめることを考える。
実際、
$$
t^{q-1}(a+bt)^p
=t^{p+q-1}\left(\frac{a}{t}+b\right)^p
$$
と変形できる。
ここで、
$$
u=\frac{a}{t}+b
$$
と置けば、
$$
t=\frac{a}{u-b}
$$
となる。
整数冪の部分は有理関数になり、残る分数冪も適切な冪根の置換によって有理化できる。
Chebyshevの定理は、初等関数で積分できるかを判定するだけでなく、指数の関係からどの部分を新しい変数にすればよいかを教えてくれる。
なお、ここまでの議論は3条件が成立するときの有理化方法を説明するものだ。3条件がいずれも成立しない場合に初等関数で積分できないことの証明には、さらに高度な理論が必要になるため、本記事では扱わない。
次の式を考える。
$$
x-\frac{1}{x}
$$
逆数置換を行うと、この式は符号が反転する。
$$
x\longmapsto\frac{1}{x}
$$
$$
x-\frac{1}{x}\longmapsto-\left(x-\frac{1}{x}\right)
$$
したがって、この式の二乗は逆数置換によって変わらない。
この対称性を利用すれば、もとの積分と逆数置換後の積分を組み合わせられるのではないかと考えられる。
これがCauchy–Schlömilch変換の基本的な発想である。
正の定数と適切な連続関数について、積分が収束するとき、
$$
\int_0^\infty f\left(\left(ax-\frac{b}{x}\right)^2\right)dx
=\frac{1}{a}\int_0^\infty f(t^2)\,dt
$$
が成り立つ。
この公式を導いてみよう。
左辺を、
$$
I=\int_0^\infty f\left(\left(ax-\frac{b}{x}\right)^2\right)dx
$$
とする。
ここで、
$$
t=\frac{b}{ax}
$$
と置く。
すると、平方の内部は符号が反転するだけなので、
$$
I=\frac{b}{a}\int_0^\infty
f\left(\left(at-\frac{b}{t}\right)^2\right)\frac{1}{t^2}\,dt
$$
を得る。
元の積分と同じ関数が現れたので、二つの表現を足し合わせる。
$$
2I=\int_0^\infty
f\left(\left(ax-\frac{b}{x}\right)^2\right)
\left(1+\frac{b}{ax^2}\right)dx
$$
ここで、
$$
u=ax-\frac{b}{x}
$$
と置きたい。
実際、
$$
du=\left(a+\frac{b}{x^2}\right)dx
$$
となり、先ほど現れた因子と対応している。
したがって、
$$
2I=\frac{1}{a}\int_{-\infty}^{\infty}f(u^2)\,du
$$
となる。
被積分関数は偶関数なので、
$$
I=\frac{1}{a}\int_0^\infty f(u^2)\,du
$$
を得る。
つまり、この変換は、逆数置換によって得た二つの積分を足し、別の置換に必要な微分因子を作り出している。
例えば、
$$
I=\int_0^\infty\frac{x^2}{(1+x^2)^2}\,dx
$$
を考える。
分子で分母を割る形に変形すると、
$$
\frac{x^2}{(1+x^2)^2}
=\frac{1}{x^2+2+\frac{1}{x^2}}
$$
となる。
ここで、
$$
x^2+2+\frac{1}{x^2}
=\left(x-\frac{1}{x}\right)^2+4
$$
なので、
$$
I=\int_0^\infty
\frac{1}{\left(x-\frac{1}{x}\right)^2+4}\,dx
$$
と書ける。
この形ならCauchy–Schlömilch変換を適用できる。
$$
I=\int_0^\infty\frac{1}{t^2+4}\,dt
$$
$$
=\frac{\pi}{4}
$$
となる。
この例では、逆数対称性を持つ式が最初から現れていたわけではない。分子と分母の関係を調べ、既知の変換を適用できる形へ変形している。
ここでも、変換を知っていることと、その変換を利用できる形を見抜くことの両方が重要である。
Cauchy–Schlömilch変換では、逆数対称性を利用して二つの積分を組み合わせた。
これに関連して、一対一でない変換を区間ごとに処理し、複数の微分因子を足すことで積分を簡単にする方法がある。
まず、正の定数について、
$$
t=x-\frac{a}{x}
$$
という変換を考える。
もとの変数について整理すると、
$$
x^2-tx-a=0
$$
となる。
この方程式は二つの実数解を持つ。
$$
x_+(t)=\frac{t+\sqrt{t^2+4a}}{2}
$$
$$
x_-(t)=\frac{t-\sqrt{t^2+4a}}{2}
$$
一方は正の範囲、もう一方は負の範囲に対応している。
ここで二つの解の和を考えると、
$$
x_+(t)+x_-(t)=t
$$
となる。
したがって、
$$
x_+'(t)+x_-'(t)=1
$$
である。
積分区間を正と負に分けてそれぞれ置換すると、二つの微分因子の和が1になる。
そのため、適切な可積分関数について、
$$
\int_{-\infty}^{\infty}
f\left(x-\frac{a}{x}\right)dx
=\int_{-\infty}^{\infty}f(t)\,dt
$$
が成立する。ただし、原点の左右の積分がそれぞれ収束することを前提とする。
例えば、
$$
I=\int_{-\infty}^{\infty}
\frac{1}{1+\left(x-\frac{1}{x}\right)^2}\,dx
$$
なら、
$$
I=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{1+t^2}\,dt
$$
$$
=\pi
$$
を得る。
この考え方を一般化したものがGlasserのマスター定理である。一般形では、複数の有理関数的な項を含む変換を扱い、Cauchyの主値積分が関係する場合もある。
ここでは、一対一でない変換でも、複数の枝を適切に扱えば積分が簡単になる場合があることを理解しておきたい。
ここまでに扱った主な置換と、その微分をまとめる。公式の暗記のためではなく、各置換の目的を理解したうえで確認するための表である。
基本的な冪・指数・対数の置換については、
$$
\begin{array}{c|c|c}
\text{目的}&\text{置換}&\text{微分}\\ \hline
\text{冪根の有理化}&x=t^n&dx=nt^{n-1}\,dt\\
\text{指数関数の有理化}&t=e^x&dx=\frac{1}{t}\,dt\\
\text{対数関数の整理}&t=\ln x&dx=e^t\,dt
\end{array}
$$
三角関数と双曲線関数については、
$$
\begin{array}{c|c|c}
\text{目的}&\text{置換}&\text{微分}\\ \hline
\text{平方根の簡単化}&x=a\sin t&dx=a\cos t\,dt\\
\text{平方根の簡単化}&x=a\sinh t&dx=a\cosh t\,dt\\
\text{三角関数の有理化}&t=\tan\frac{x}{2}&dx=\frac{2}{1+t^2}\,dt\\
\text{双曲線関数の有理化}&t=\tanh\frac{x}{2}&dx=\frac{2}{1-t^2}\,dt
\end{array}
$$
一次分数変換と逆数に関する置換については、
$$
\begin{array}{c|c|c}
\text{目的}&\text{置換}&\text{微分}\\ \hline
\text{一次分数変換}&x=\frac{at+b}{ct+d}&dx=\frac{ad-bc}{(ct+d)^2}\,dt\\
\text{逆数変換}&t=\frac{1}{x}&dx=-\frac{1}{t^2}\,dt\\
\text{逆数対称性}&t=x+\frac{1}{x}&dt=\left(1-\frac{1}{x^2}\right)dx
\end{array}
$$
Euler置換については、次の3種類が代表的である。
$$
\begin{aligned}
\text{(Ⅰ)}\quad &t=\sqrt{ax^2+bx+c}-\sqrt a\,x\\
\text{(Ⅱ)}\quad &t=\frac{\sqrt{ax^2+bx+c}}{x-\alpha}\\
\text{(Ⅲ)}\quad &t=\frac{\sqrt{ax^2+bx+c}-\sqrt c}{x}
\end{aligned}
$$
それぞれ適用条件と定義域に注意する必要がある。逆変換と微分は先ほど導出した関係から求められるため、表には重複して掲載しない。
また、Chebyshevの定理、Cauchy–Schlömilch変換、Glasserのマスター定理は、単独の置換だけでなく、指数関係や定積分の構造を利用するものである。そのため、この表とは分けて理解しておくとよい。
ここまでは主に、不定積分を既知の関数の微分形へ帰着させる方法を考えてきた。
しかし、定積分では原始関数を求めることだけが目的ではない。積分区間と被積分関数の関係を利用すれば、原始関数を求めずに積分値を決定できる場合もある。
定積分では、置換と同時に積分区間も変更する必要がある。
例えば、
$$
I=\int_0^1\frac{2x}{1+x^2}\,dx
$$
に対して、
$$
t=1+x^2
$$
と置けば、
$$
x=0\longmapsto t=1
$$
$$
x=1\longmapsto t=2
$$
であるから、
$$
I=\int_1^2\frac{1}{t}\,dt
$$
$$
=\ln2
$$
を得る。
また、部分積分では、
$$
\int_a^bf(x)g'(x)\,dx
=[f(x)g(x)]_a^b-\int_a^bf'(x)g(x)\,dx
$$
となる。
ただし、原始関数を直接求められる場合には、通常どおり両端の値を代入すればよい。
定積分では、積分区間の両端を入れ替える置換が役立つ。
$$
t=a+b-x
$$
と置けば、
$$
dt=-dx
$$
となり、
$$
\int_a^bf(x)\,dx
=\int_a^bf(a+b-x)\,dx
$$
を得る。
この関係はKing's Propertyと呼ばれることがある。
例えば、
$$
I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}
\frac{\sin x}{\sin x+\cos x}\,dx
$$
を考える。
ここで区間を反転させると、正弦と余弦が入れ替わる。
したがって、
$$
I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}
\frac{\cos x}{\sin x+\cos x}\,dx
$$
である。
二つの式を足せば、
$$
2I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}1\,dx
$$
となるので、
$$
I=\frac{\pi}{4}
$$
を得る。
この例では、積分区間を反転させること自体が目的ではない。
反転によって正弦と余弦が入れ替わり、二つの分数を足せば分母が消えると予測できることが重要なのである。
つまり、原始関数を求める代わりに、同じ積分値を持つ別の表現を作り、積分同士を比較している。
区間反転を利用すれば、積分区間を半分に折り返すこともできる。
積分区間の中点を、
$$
m=\frac{a+b}{2}
$$
とする。
積分を中点で分割すると、
$$
\int_a^bf(x)\,dx
=\int_a^mf(x)\,dx+\int_m^bf(x)\,dx
$$
である。
後半の積分に区間反転を適用すれば、
$$
\int_m^bf(x)\,dx
=\int_a^mf(a+b-x)\,dx
$$
なので、
$$
\int_a^bf(x)\,dx
=\int_a^m\{f(x)+f(a+b-x)\}\,dx
$$
を得る。
後半の区間を反転させて前半に重ねると、積分区間を半分にできる。
このような区間の折り返しはQueen's Propertyと呼ばれることがある。King's Propertyと同様に通称であり、独立した新しい定理ではない。
特に被積分関数が中点に関して対称なら、
$$
f(a+b-x)=f(x)
$$
なので、
$$
\int_a^bf(x)\,dx=2\int_a^mf(x)\,dx
$$
となる。
この性質は、被積分関数の対称性を利用するだけでなく、元の積分と変換後の積分を組み合わせる際にも役立つ。
例えば、
$$
I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\ln(\sin x)\,dx
$$
を考える。
この広義積分は収束するが、原始関数を初等関数で表すことはできない。
そこで、区間反転を利用する。
$$
I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\ln(\cos x)\,dx
$$
二つの式を加えると、
$$
2I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\ln(\sin x\cos x)\,dx
$$
となる。
倍角公式から、
$$
\sin x\cos x=\frac{\sin2x}{2}
$$
なので、
$$
2I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\ln(\sin2x)\,dx
-\frac{\pi}{2}\ln2
$$
を得る。
ここで、
$$
t=2x
$$
と置けば、
$$
\int_0^{\frac{\pi}{2}}\ln(\sin2x)\,dx
=\frac{1}{2}\int_0^\pi\ln(\sin t)\,dt
$$
となる。
正弦関数はこの区間の中点に関して対称なので、
$$
\int_0^\pi\ln(\sin t)\,dt
=2\int_0^{\frac{\pi}{2}}\ln(\sin t)\,dt
$$
である。
したがって、
$$
2I=I-\frac{\pi}{2}\ln2
$$
となり、
$$
I=-\frac{\pi}{2}\ln2
$$
を得る。
この例では、区間反転、倍角公式、区間折り返しを組み合わせ、元の積分についての方程式を作っている。
偶関数について、
$$
f(-x)=f(x)
$$
なら、
$$
\int_{-a}^af(x)\,dx=2\int_0^af(x)\,dx
$$
となる。
また、奇関数について、
$$
f(-x)=-f(x)
$$
なら、
$$
\int_{-a}^af(x)\,dx=0
$$
となる。ただし、通常の意味で積分が存在する場合に限る。
周期関数についても、周期を利用して積分区間を移動・分割できる。
例えば、
$$
f(x+T)=f(x)
$$
なら、
$$
\int_a^{a+T}f(x)\,dx
=\int_0^Tf(x)\,dx
$$
である。
また、正整数について、
$$
\int_0^{nT}f(x)\,dx
=n\int_0^Tf(x)\,dx
$$
となる。
これらの性質は、いずれも区間を変換したときに被積分関数がどう変化するかを利用している。
積分区間が無限である場合や、被積分関数が発散する点を含む場合には、極限を用いて積分を定義する。
例えば、
$$
I=\int_1^\infty\frac{1}{1+x^2}\,dx
$$
に対して、
$$
t=\frac{1}{x}
$$
と置けば、無限区間を有限区間へ変換できる。
実際、
$$
dx=-\frac{1}{t^2}\,dt
$$
より、
$$
I=\int_0^1\frac{1}{1+t^2}\,dt
$$
$$
=\frac{\pi}{4}
$$
となる。
ただし、無限端点の変換は極限として扱っている。
また、対称性を利用する場合にも、収束の確認は必要である。
例えば、
$$
\int_{-1}^1\frac{1}{x}\,dx
$$
は被積分関数が奇関数であっても、通常の広義積分としては収束しない。
正負の部分が相殺されるように見えても、それだけで積分値が0になるとは限らないのである。
次のような広義積分を考える。
$$
I=\int_0^\infty\frac{f(ax)-f(bx)}{x}\,dx
$$
分子には同じ関数が現れ、引数だけが異なっている。
それぞれの項を別々に積分しようとすると発散してしまう場合もあるが、同じ関数であることを利用すれば、二つの積分を比較できそうである。
正の定数と適切な条件を満たす関数について、Frullaniの積分公式は、
$$
\int_0^\infty\frac{f(ax)-f(bx)}{x}\,dx
=\{f(0)-f(\infty)\}\ln\frac{b}{a}
$$
という形で表される。
なぜこのような関係が成り立つのだろうか。
まず、積分区間を有限に制限し、
$$
I_{\varepsilon,R}
=\int_\varepsilon^R\frac{f(ax)-f(bx)}{x}\,dx
$$
とする。
説明のため、
$$
0< a< b
$$
とする。
それぞれの項で、
$$
u=ax,\qquad u=bx
$$
と置くと、
$$
I_{\varepsilon,R}
=\int_{a\varepsilon}^{aR}\frac{f(u)}{u}\,du
-\int_{b\varepsilon}^{bR}\frac{f(u)}{u}\,du
$$
となる。
積分区間が重なる部分を打ち消せば、
$$
I_{\varepsilon,R}
=\int_{a\varepsilon}^{b\varepsilon}\frac{f(u)}{u}\,du
-\int_{aR}^{bR}\frac{f(u)}{u}\,du
$$
を得る。ただし、十分に小さい正の下端と十分に大きい上端を取っている。
元の長い積分区間ではなく、原点近くと無限遠近くの区間だけが残った。
端点の極限を考えると、
$$
\lim_{\varepsilon\to0+}
\int_{a\varepsilon}^{b\varepsilon}\frac{f(u)}{u}\,du
=f(0)\ln\frac{b}{a}
$$
$$
\lim_{R\to\infty}
\int_{aR}^{bR}\frac{f(u)}{u}\,du
=f(\infty)\ln\frac{b}{a}
$$
となる。
これによってFrullaniの公式が得られる。
例えば、
$$
I=\int_0^\infty\frac{e^{-ax}-e^{-bx}}{x}\,dx
$$
なら、
$$
I=\ln\frac{b}{a}
$$
を得る。
ここでは、それぞれの項を別々に積分するのではなく、置換によって共通部分を打ち消している。
積分を簡単にする別の方法として、パラメータを導入して積分を考える手法がある。
例えば、
$$
I(a)=\int_\alpha^\beta f(x,a)\,dx
$$
と定義する。
適切な条件の下では、Leibniz(ライプニッツ)の積分微分法則によって、
$$
I'(a)=\int_\alpha^\beta
\frac{\partial f}{\partial a}(x,a)\,dx
$$
が成り立つ。
この関係を利用し、パラメータについて微分した後の積分を求める方法が Feynman's trick と呼ばれる。
元の積分よりも、パラメータについて微分した積分の方が簡単になる場合に有効である。
ただし、積分と微分の交換には条件が必要であり、INTEGRALISではIAC寄りの内容となるため、ここでは紹介にとどめる。
積分に絶対値が現れた場合には、まず絶対値の内部がどこで符号を変えるかを調べる。
例えば、
$$
I=\int_0^2|x-1|\,dx
$$
を考える。
絶対値の内部は、
$$
x=1
$$
で符号が変わる。
符号の変わる点で区間を分ければ、絶対値を外して積分できる。
したがって、
$$
|x-1|=\begin{cases}
1-x&(x<1)\\
x-1&(x\geq1)
\end{cases}
$$
なので、
$$
I=\int_0^1(1-x)\,dx+\int_1^2(x-1)\,dx
$$
$$
=1
$$
となる。
この例では、絶対値を外して計算するだけでなく、グラフと座標軸で囲まれた二つの三角形の面積として求めることもできる。
また、区間が対称な場合には、絶対値を外す前に対称性を利用した方が簡単なこともある。
例えば、絶対値を取った関数が偶関数なら、正の定数について、
$$
\int_{-a}^a|f(x)|\,dx
=2\int_0^a|f(x)|\,dx
$$
となる。
したがって、絶対値を含む積分では、符号の変化だけでなく、グラフの形や対称性も確認したい。
二つの値の最大値と最小値は、絶対値によって表せる。
$$
\max\{u,v\}=\frac{u+v+|u-v|}{2}
$$
$$
\min\{u,v\}=\frac{u+v-|u-v|}{2}
$$
これは、二つの値の平均から、その差の半分だけ上下に離れたところに最大値と最小値があることを意味している。
この関係を関数に適用すれば、
$$
\max\{f(x),g(x)\}
=\frac{f(x)+g(x)+|f(x)-g(x)|}{2}
$$
となる。
例えば、
$$
I=\int_0^1\max\{x,1-x\}\,dx
$$
では、二つの関数の大小関係が、
$$
x=\frac{1}{2}
$$
で入れ替わる。
そのため、
$$
I=\int_0^{\frac{1}{2}}(1-x)\,dx
+\int_{\frac{1}{2}}^1x\,dx
$$
$$
=\frac{3}{4}
$$
となる。
最大値・最小値を含む積分では、絶対値に変換する方法と、関数の交点で区間を分割する方法の両方を考えられる。
どちらを選ぶべきかは、積分の形によって判断すればよい。
床関数は、実数以下の最大の整数を与える関数であり、
$$
\lfloor x\rfloor
=\max\{n\in\mathbb Z\mid n\leq x\}
$$
と定義される。
日本ではGauss(ガウス)記号と呼ばれることもある。
例えば、
$$
\lfloor2.7\rfloor=2,\qquad
\lfloor-1.2\rfloor=-2
$$
である。
床関数を含む積分では、整数を境に関数の値が変わることを利用する。
床関数は整数区間ごとに一定値を取るため、区間分割によって積分を総和へ帰着させられる。
例えば、
$$
I=\int_0^3\lfloor x\rfloor\,dx
$$
なら、
$$
I=\int_0^1 0\,dx+\int_1^2 1\,dx+\int_2^3 2\,dx
$$
$$
=3
$$
となる。
一般に、正整数について、
$$
\int_0^n\lfloor x\rfloor\,dx
=\sum_{k=0}^{n-1}k
$$
$$
=\frac{n(n-1)}{2}
$$
である。
ここでは、積分を総和へ帰着させている。
ただし、床関数の内部が複雑な関数である場合には、単純に整数点で区間を分けるのではなく、その内部が整数となる点を調べる必要がある。
実数の小数部分は、
$$
\{x\}=x-\lfloor x\rfloor
$$
と定義される。
整数について、
$$
k\leq x< k+1
$$
なら、
$$
\{x\}=x-k
$$
である。
小数部分は、各整数区間で同じ形を繰り返す。
この関数には、
$$
\{x+1\}=\{x\}
$$
という周期性がある。
そのため、正整数について、
$$
\int_0^n\{x\}\,dx
=n\int_0^1x\,dx
$$
$$
=\frac{n}{2}
$$
となる。
また、
$$
x=\lfloor x\rfloor+\{x\}
$$
という関係もあるため、床関数を含む積分と小数部分を含む積分を相互に変換できる場合がある。
有限個の関数の和であれば、積分の線形性から、
$$
\int_a^b\sum_{k=0}^n f_k(x)\,dx
=\sum_{k=0}^n\int_a^bf_k(x)\,dx
$$
が成り立つ。ただし、各関数は積分可能とする。
例えば、
$$
I=\int_0^1\sum_{k=0}^n x^k\,dx
$$
なら、
$$
I=\sum_{k=0}^n\int_0^1x^k\,dx
$$
$$
=\sum_{k=0}^n\frac{1}{k+1}
$$
となる。
一方、総和を先に計算した方が簡単になる場合もある。
例えば、等比数列の和は、
$$
\sum_{k=0}^n x^k
=\frac{1-x^{n+1}}{1-x}
$$
と表せる。ただし、右辺の分母が0とならない範囲で考える。
したがって、有限和を含む積分では、総和を先に処理するか、各項を積分するかを比較して判断すればよい。
無限級数については、有限和と異なり、積分と総和を無条件で交換することはできない。
しかし、既知の級数の和を利用することはできる。
例えば、
$$
|x|<1
$$
では、
$$
\sum_{n=0}^{\infty}x^n=\frac{1}{1-x}
$$
である。
したがって、
$$
I=\int_0^{\frac{1}{2}}\sum_{n=0}^{\infty}x^n\,dx
$$
なら、先に級数の和を計算して、
$$
I=\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{1}{1-x}\,dx
$$
$$
=\ln2
$$
となる。
この計算では、積分と無限和を交換していない。まず級数を既知の関数として表し、その後に積分している。
一方、項別積分を行う場合には、一様収束など、交換を正当化できる条件が必要となる。
総和の極限を定積分へ帰着させる方法として、区分求積法がある。
例えば、
$$
\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}
\sum_{k=1}^n\left(\frac{k}{n}\right)^2
$$
を考える。
この式では、区間を等分した各点での関数値に、区間の幅を掛けて足し合わせている。
したがって、二次関数のRiemann(リーマン)和として捉えられる。
$$
\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}
\sum_{k=1}^n\left(\frac{k}{n}\right)^2
=\int_0^1x^2\,dx
$$
$$
=\frac{1}{3}
$$
となる。
ここでは、総和を展開して極限を計算する必要はない。
総和の形から、どの関数の定積分に対応するのかを認識できれば、直接積分へ帰着できる。
総和に対する部分積分に相当する操作として、Abelの総和公式がある。
部分和を、
$$
A_k=\sum_{j=1}^k a_j
$$
と定義すると、
$$
\sum_{k=1}^n a_kb_k
=A_nb_n+\sum_{k=1}^{n-1}A_k(b_k-b_{k+1})
$$
が成り立つ。
部分積分では、一方の関数を微分し、もう一方を積分することで積の形を変えていた。
Abelの総和公式では、一方の数列について差分を取り、もう一方について部分和を作る。
したがって、総和の中に二つの数列の積が現れた場合にも、どちらの数列について部分和を取り、どちらについて差分を取れば扱いやすくなるかを考えられる。
積分と総和は異なる操作だが、積の構造を利用して式を簡単にするという点では共通している。
本章で扱った手法は、いずれも積分を既知形へ帰着させるためのものである。重要なのは操作そのものではなく、どのような形を目指し、そのために何を変えるのかを考えることだ。
前章では、置換積分や部分積分を、微分法則から導いた。本章では、それらの法則を逆向きに利用し、被積分関数から原始関数を直接予測する方法を考える。
ここで目指すのは、特定の積分の解法を覚えることではない。
初めて見る被積分関数に対しても、どこに着目し、どの関数を原始関数の候補として考え、その候補が適切かをどう判断するのか。その思考過程を自分で再現できるようになることである。
原始関数の予測は、勘に頼るものではない。微分によって関数がどのような形へ変化するかを知っていれば、その変化を逆向きにたどることで候補を絞り込める。
そして、最初に考えた候補が完全に一致する必要もない。微分して生じる余計な項を調整したり、複数の微分形を組み合わせたりすることで、原始関数を構成できる場合がある。
既知の微分構造を被積分関数の中に見つけ、必要な係数や項を調整して原始関数を求めることを、ここでは微分形接触と呼ぶ。
例えば、
$$
I=\int\frac{x}{(1+x^2)^3}\,dx
$$
を考える。
まず、分母に三乗が現れていることに着目する。
冪関数を微分すると指数が1減る。したがって、分母の三乗は、分母が二乗の関数を微分した結果かもしれない。
そこで、
$$
F(x)=\frac{1}{(1+x^2)^2}
$$
を原始関数の候補とする。
この候補を微分すると、外側の冪関数だけでなく、その内部の二次式も微分される。
$$
F'(x)=-\frac{4x}{(1+x^2)^3}
$$
分母は一致しており、分子も定数倍を除けば一致する。
したがって、
$$
I=-\frac{1}{4(1+x^2)^2}+C
$$
となる。
ここで行ったのは、分母の冪を一つ下げるという機械的な操作だけではない。
分母の形から原始関数を予測し、その内部を微分すると分子に必要な因子が現れることを確認している。
では、この被積分関数に対して最初に何を見るべきなのだろうか。
被積分関数を観察するときには、単に目立つ部分を探すのではなく、その特徴がどのような微分操作によって生じるのかを考えたい。
例えば、次のような微分形を考える。
$$
\frac{d}{dx}g(x)^p
=pg(x)^{p-1}g'(x)
$$
$$
\frac{d}{dx}\ln|g(x)|
=\frac{g'(x)}{g(x)}
$$
$$
\frac{d}{dx}\arctan g(x)
=\frac{g'(x)}{1+g(x)^2}
$$
$$
\frac{d}{dx}\arcsin g(x)
=\frac{g'(x)}{\sqrt{1-g(x)^2}}
$$
$$
\frac{d}{dx}e^{g(x)}
=g'(x)e^{g(x)}
$$
これらの式から、原始関数を予測する際の手掛かりが得られる。ただし、それぞれの公式は微分可能性や分母・根号などの定義域に注意して用いる。
分母にある式と、その微分に対応する因子が分子にあれば、対数関数を考えられる。
分母が平方の和になっていれば、逆正接関数を考えられる。
平方根の内部が平方の差になっていれば、逆正弦関数などの微分形が候補になる。
また、指数関数が現れたときには、その指数を微分した因子が存在するかを調べられる。
ただし、これらは原始関数を決定するための条件ではなく、候補を発見するための手掛かりである。
例えば、分母が平方の和になっていても、分子が対応していなければ、そのまま逆正接関数の微分形として処理できるわけではない。
ある部分の形から候補を作り、残りの部分によってその候補を検証する。 この二つを分けて考えることが重要である。
被積分関数を、
$$
I=\int f(x)\,dx
$$
とし、原始関数の候補を、
$$
F_0(x)
$$
とする。
このとき、
$$
F_0'(x)=af(x)
$$
となったなら、係数を調整すればよい。ただし、係数は0でない定数とする。
$$
I=\frac{F_0(x)}{a}+C
$$
また、
$$
F_0'(x)=f(x)+r(x)
$$
となったなら、
$$
I=F_0(x)-\int r(x)\,dx
$$
とできる。
つまり、候補を微分して完全に一致しなかった場合でも、その差が簡単に積分できるなら、予測は十分に役立っている。
ここで重要になるのは、候補が正しいかどうかという二択の判断ではない。
候補を微分した結果、元の被積分関数にどれだけ近づき、どのような積分が残るのかを考えることである。
微分形接触では、候補を発見することと、その候補を修正することが一続きの操作になっている。
合成関数の微分法則は、
$$
\frac{d}{dx}F(g(x))=F'(g(x))g'(x)
$$
である。
これを逆向きに利用する場合、最も重要になるのが、被積分関数のどの部分を内部の関数と捉えるかという判断である。
この判断を曖昧なままにしてしまうと、知っている積分公式を当てはめるだけになり、少し形が変わった問題には対応しにくくなる。
そこで、具体例を通して、候補を見つけるまでの過程を考えてみよう。
次の積分を考える。
$$
I=\int\frac{x\cos(x^2)}{1+\sin^2(x^2)}\,dx
$$
まず、分母を見る。
$$
1+\sin^2(x^2)
$$
ここには、ある関数の二乗に1を加えた構造がある。
この特徴から、逆正接関数の微分形を考えられる。
$$
\frac{d}{dt}\arctan t=\frac{1}{1+t^2}
$$
そこで、二乗されている関数を一つのまとまりとして捉える。
$$
g(x)=\sin(x^2)
$$
このとき、原始関数の候補は、
$$
F(x)=\arctan(\sin(x^2))
$$
となる。
ここまでの判断では、分母しか利用していない。候補が適切かどうかを確かめるには、分子も調べる必要がある。
内部の関数を微分すると、
$$
g'(x)=2x\cos(x^2)
$$
である。
求めたい被積分関数の分子は、
$$
x\cos(x^2)
$$
なので、必要な微分因子が定数倍を除いて一致している。
したがって、
$$
F'(x)=\frac{2x\cos(x^2)}{1+\sin^2(x^2)}
$$
より、
$$
I=\frac12\arctan(\sin(x^2))+C
$$
を得る。
この積分を解くときに、最初から複雑な合成関数全体を理解する必要はない。
分母の外側に逆正接関数の微分形を見つけ、その内部となる関数を決める。そして、分子がその内部の微分に対応しているかを確認すればよい。
さらに重要なのは、内部の関数が複雑になっても、判断の方法が変わらないことである。
例えば、正弦関数の内部が多項式になっていても、指数関数になっていても、外側に現れる構造は同じように認識できる。
合成関数の内部を一つずつ置換していくのではなく、複数の関数を一つの構造として捉えることが、計算を短縮するための鍵となる。
次の二つの積分を比較してみよう。
$$
I=\int\frac{x}{1+x^4}\,dx
$$
$$
J=\int\frac{x^3}{1+x^4}\,dx
$$
どちらも分母は同じである。しかし、分子が異なるため、適切な原始関数の候補も変わる。
まず、最初の積分では、
$$
1+x^4=1+(x^2)^2
$$
と書ける。
逆正接関数の微分形を考えるなら、内部の候補は、
$$
g(x)=x^2
$$
である。
実際、
$$
g'(x)=2x
$$
となり、分子の一次式と対応する。
したがって、
$$
I=\frac12\arctan(x^2)+C
$$
を得る。
一方、二つ目の積分では分母全体を一つの関数として捉えてみる。
$$
g(x)=1+x^4
$$
すると、
$$
g'(x)=4x^3
$$
となり、分子と対応する。
したがって、対数関数の微分形から、
$$
J=\frac14\ln(1+x^4)+C
$$
を得る。
最初の積分では、分母を平方の和として捉えた。二つ目では、分母全体を一つの関数として捉えた。
この違いから分かるのは、原始関数の候補を決める際に、分母の形だけを見ても十分ではないということである。
分母から候補を作り、分子との関係によってどの候補を採用するかを判断する。
この操作を繰り返すことで、同じ分母でも異なる微分構造を認識できるようになる。
次の積分を考える。
$$
I=\int\frac{2xe^{x^2}}{1+e^{2x^2}}\,dx
$$
分母には指数関数が現れている。
そこで、まず分母全体を一つの関数として捉えてみる。
$$
g_1(x)=1+e^{2x^2}
$$
これを微分すると、
$$
g_1'(x)=4xe^{2x^2}
$$
となる。
しかし、分子は、
$$
2xe^{x^2}
$$
なので一致しない。
この時点で積分を諦める必要はない。分母の別の構造を考えればよい。
$$
1+e^{2x^2}=1+(e^{x^2})^2
$$
と書けるので、逆正接関数の微分形が候補になる。
そこで、
$$
g_2(x)=e^{x^2}
$$
と考える。
すると、
$$
g_2'(x)=2xe^{x^2}
$$
となり、分子と一致する。
したがって、
$$
I=\arctan(e^{x^2})+C
$$
を得る。
この積分では、最初に考えた候補が一致せず、別の候補に切り替えている。
しかし、その判断に試行錯誤を延々と続ける必要はない。
対数関数を予測したときに現れる分子は、分母全体の微分である。一方、逆正接関数を予測したときには、平方の内部となる関数の微分が分子に現れる。
この違いを知っていれば、どちらが適切かを計算前にある程度判断できる。
つまり、候補を比較する際には、その候補を微分するとどの因子が現れるはずかを先に予測することが重要なのである。
ここまでは分母から考えてきたが、いつも分母を最初に見る必要はない。
例えば、
$$
I=\int x\cos(x^2)\,dx
$$
では、分母が存在しない。
しかし、余弦関数の内部にある二次式を微分すると、
$$
(x^2)'=2x
$$
となり、前に掛けられている因子と対応する。
また、正弦関数を微分すると余弦関数が現れる。
この二つを組み合わせれば、
$$
I=\frac12\sin(x^2)+C
$$
を得る。
このように、分子・分母という形にこだわる必要はない。
指数関数や三角関数が現れたときには、その内部を微分した因子が、被積分関数の別の場所に存在しないか調べることができる。
要するに、どこを一つの関数と見るかは、その部分の微分が被積分関数の残りの部分にどう現れるかによって判断するのである。
合成関数の微分形が見つからない場合でも、積や商の微分を逆向きに利用できることがある。
積の微分法則は、
$$
\frac{d}{dx}\{u(x)v(x)\}
=u'(x)v(x)+u(x)v'(x)
$$
である。
また、商の微分法則は、
$$
\frac{d}{dx}\frac{u(x)}{v(x)}
=\frac{u'(x)v(x)-u(x)v'(x)}{v(x)^2}
$$
となる。
これらの公式から、被積分関数に現れる項の組合せを説明できないか考えてみよう。
次の積分を考える。
$$
I=\int\frac{1-2x-x^2}{(1+x^2)^2}\,dx
$$
分母に二次式の二乗が現れている。
商を微分すると分母が二乗になるので、原始関数の候補として、
$$
F(x)=\frac{P(x)}{1+x^2}
$$
という形を考えられる。
では、分子の関数をどのように選べばよいだろうか。
商の微分では、分子の微分と分母の微分が現れる。
求めたい被積分関数の分子は二次式なので、まず一次式を候補にしてみる。
$$
P(x)=ax+b
$$
これを用いると、
$$
F(x)=\frac{ax+b}{1+x^2}
$$
である。
微分すると、
$$
F'(x)=\frac{a(1-x^2)-2bx}{(1+x^2)^2}
$$
を得る。
したがって、分子の係数を比較すれば、
$$
a=1,\qquad b=1
$$
となる。
よって、
$$
I=\frac{x+1}{1+x^2}+C
$$
である。
ここでは、分母の二乗から商の微分を考え、その後に分子の次数から原始関数の分子を予測している。
この方法の利点は、最初から原始関数の分子を正確に思いつく必要がないことだ。
分子の次数などから候補の形を考え、未知の係数を微分によって決定すればよい。
次の積分を考える。
$$
I=\int\{(1+x^2)\cos x+2x\sin x\}\,dx
$$
被積分関数には二つの項がある。
一方の項には正弦関数、もう一方には余弦関数が現れている。
ここで、正弦関数を微分すると余弦関数になることに着目する。
また、
$$
(1+x^2)'=2x
$$
である。
つまり、二つの項は、
$$
u'(x)v(x)+u(x)v'(x)
$$
という積の微分形に対応している。
そこで、
$$
F(x)=(1+x^2)\sin x
$$
を予測できる。
実際、
$$
F'(x)=2x\sin x+(1+x^2)\cos x
$$
となるので、
$$
I=(1+x^2)\sin x+C
$$
を得る。
この例では、二つの項のうち一方を先に積分するのではなく、両方の項が一つの積を微分した結果ではないかと考えている。
特に、二つの関数がそれぞれ微分された形で別々の項に現れている場合には、積の微分形を疑う価値がある。
次の積分を考える。
$$
I=\int
\frac{(1+x^2)\cos x-2x\sin x}{(1+x^2)^2}\,dx
$$
分母が二乗なので、商の微分が候補になる。
さらに、分子には正弦と余弦が現れている。
ここで、分母を一乗にした商を想像し、その分子には正弦関数が入っているのではないかと考える。
$$
F(x)=\frac{\sin x}{1+x^2}
$$
この候補を微分すれば、
$$
F'(x)=
\frac{(1+x^2)\cos x-2x\sin x}{(1+x^2)^2}
$$
となり、求めたい被積分関数と一致する。
したがって、
$$
I=\frac{\sin x}{1+x^2}+C
$$
を得る。
ここでは、分母の二乗から商の微分を予測し、分子に含まれる正弦・余弦の関係から、商の分子となる関数を決めている。
つまり、複数の微分法則を別々に覚えるだけでなく、その組合せによってどのような式が現れるかも考えている。
これができるようになると、一見複雑な被積分関数でも、もとの原始関数は非常に単純な場合があると分かる。
原始関数の候補を微分しても、被積分関数と完全には一致しないことがある。
このとき、候補を捨てて最初から考え直す必要はない。
重要なのは、何が一致していて、何が不足しているのかを調べることである。
例えば、
$$
I=\int\frac{2x+3}{1+x^2}\,dx
$$
を考える。
分母を微分すると、
$$
(1+x^2)'=2x
$$
となる。
これは分子全体とは一致しないが、一部分とは一致している。
そこで、
$$
\frac{2x}{1+x^2}
$$
という部分を対数関数の微分形として取り出せる。
残った、
$$
\frac{3}{1+x^2}
$$
は逆正接関数の微分形である。
したがって、
$$
I=\ln(1+x^2)+3\arctan x+C
$$
を得る。
ここで行っているのは、被積分関数全体を一つの微分形に対応させることではない。
一致する部分を先に処理し、残りを別の既知形として捉えているのである。
このように、微分形接触は、被積分関数の一部分に対しても利用できる。
次の積分を考える。
$$
I=\int\frac{x^2}{(1+x^2)^2}\,dx
$$
分母が二乗なので、商の微分が候補になる。
そこで、
$$
F_0(x)=\frac{x}{1+x^2}
$$
と予測してみる。
これを微分すると、
$$
F_0'(x)=\frac{1-x^2}{(1+x^2)^2}
$$
となる。
求めたい分子は二次の項だけなので、完全には一致しない。
しかし、分母の形は一致している。
そこで、もう一つの既知形を考える。
$$
\frac{d}{dx}\arctan x=\frac{1}{1+x^2}
$$
これを通分すれば、
$$
\frac{d}{dx}\arctan x
=\frac{1+x^2}{(1+x^2)^2}
$$
となる。
つまり、二つの原始関数の候補から、
$$
1-x^2
$$
$$
1+x^2
$$
という二種類の分子を作れる。
この二つの差を取れば、定数項が消え、二次の項だけが残る。
実際、
$$
x^2=\frac12(1+x^2)-\frac12(1-x^2)
$$
である。
したがって、
$$
I=\frac12\arctan x-\frac{x}{2(1+x^2)}+C
$$
を得る。
この積分では、最初の候補だけで解こうとすると一致しない。しかし、その候補と別の微分形を組み合わせることで原始関数を構成できた。
ここで重要なのは、候補の選び直しではなく、既に見つけた微分形を利用し、不足している成分を補うという考え方である。
微分形接触では、被積分関数を分解する代わりに、原始関数の候補を修正することもできる。
例えば、
$$
I=\int(x^2+2x+3)e^x\,dx
$$
を考える。
指数関数は微分しても形が変わらず、多項式は微分によって次数が下がる。
したがって、原始関数も多項式と指数関数の積になっていると予測できる。
まず、
$$
F_0(x)=x^2e^x
$$
とすると、
$$
F_0'(x)=(x^2+2x)e^x
$$
となる。
求めたい被積分関数と比べると、
$$
3e^x
$$
が不足している。
この不足分は簡単に補える。
$$
F(x)=(x^2+3)e^x
$$
とすれば、
$$
F'(x)=(x^2+2x+3)e^x
$$
となるので、
$$
I=(x^2+3)e^x+C
$$
を得る。
ここでは、求めたい被積分関数を分解するのではなく、最初に予測した原始関数に項を追加している。
これは瞬間部分積分と同じ発想である。
ただし、このような計算を毎回部分積分として書き下す必要はない。どの項が余分に現れるか、どの項が不足するかを直接考えられれば、原始関数を短い計算で構成できる。
候補の修正が常に有効とは限らない。
候補を微分した結果、元の被積分関数との差が、元の積分と同じくらい複雑になる場合もある。
そのようなときには、候補を修正し続けるよりも、別の微分構造を探した方がよい。
例えば、ある候補を微分したことで新しく平方根や複雑な分母が現れ、元の積分よりも扱いにくくなったなら、その候補は積分を簡単にするという目的に合っていない可能性がある。
反対に、候補を微分した結果、残った部分が定数倍の調整や簡単な既知形だけで済むなら、その候補は有効である。
ここでも、判断の基準は明確である。
微分した結果、求めたい積分がどれだけ簡単になるか。
候補が一見もっともらしいかどうかではなく、その候補によって計算が進むかを判断したい。
微分形接触では、式を展開してしまうと見えにくくなる構造がある。
その一つが、二つの関数の平方の和である。
例えば、
$$
I=\int\frac{1-x^2}{x^4+3x^2+1}\,dx
$$
を考える。
分母は四次式だが、次のように書ける。
$$
x^4+3x^2+1=(1+x^2)^2+x^2
$$
つまり、二つの関数の平方の和になっている。
ここで逆正接関数の微分形を一般化してみよう。
二つの関数について、
$$
t=\frac{u(x)}{v(x)}
$$
と置く。ただし、分母が0にならない区間で考える。
合成関数と商の微分法則から、
$$
\frac{d}{dx}\arctan\frac{u(x)}{v(x)}
=\frac{u'(x)v(x)-u(x)v'(x)}{u(x)^2+v(x)^2}
$$
を得る。
ここで注目したいのは、分母である。
二つの関数の平方の和を、商の逆正接関数を微分した結果として作れる。
そこで、元の積分では、
$$
u(x)=x
$$
$$
v(x)=1+x^2
$$
と考えてみる。
分母は一致するので、次に分子を確認する。
$$
u'v-uv'=(1+x^2)-2x^2
$$
$$
=1-x^2
$$
となる。
求めたい被積分関数と一致したので、
$$
I=\arctan\left(\frac{x}{1+x^2}\right)+C
$$
を得る。
この例では、四次式を因数分解していない。
平方の和という構造を認識し、その二つの式の商から逆正接関数を予測している。
この微分形には、幾何学的な意味がある。
二つの関数の値を平面上の点の座標として考える。
$$
P=(v(x),u(x))
$$
原点から点までの距離を、
$$
r(x)=\sqrt{u(x)^2+v(x)^2}
$$
とする。
また、原点から点を見た方向の角度を考える。
$$
\theta(x)=\arctan\frac{u(x)}{v(x)}
$$
ただし、角度は連続に定められる区間で考える。
すると、
$$
\theta'(x)
=\frac{u'v-uv'}{u^2+v^2}
$$
となる。
つまり、逆正接関数を含む微分形は、平面上を動く点の角度の変化率として理解できる。
ここで分母に現れる平方の和は、原点からの距離の二乗である。
一方、分子は、二つの座標とその微分を交差させた形になっている。
この構造を知っていれば、分母が平方の和になっている積分を見たときに、逆正接関数の内部を商として予測する発想につながる。
同じ二つの関数を用いて、今度は次の関数を考える。
$$
F(x)=\frac12\ln(u(x)^2+v(x)^2)
$$
これを微分すると、
$$
F'(x)
=\frac{uu'+vv'}{u^2+v^2}
$$
となる。
先ほどの逆正接関数と比較すると、分母は同じである。しかし、分子の形が異なる。
逆正接関数では、
$$
u'v-uv'
$$
が現れた。
一方、対数関数では、
$$
uu'+vv'
$$
が現れる。
この違いも幾何学的に理解できる。
距離について、
$$
F(x)=\ln r(x)
$$
なので、対数関数の微分形は、原点からの距離の対数の変化率に対応している。
つまり、同じ平方の和から、角度に対応する逆正接関数と、距離に対応する対数関数という二つの候補を考えられる。
では、どちらを利用すればよいのだろうか。
ここでも判断するのは分子である。
先ほどと同じく、
$$
u(x)=x,\qquad v(x)=1+x^2
$$
とすれば、
$$
uu'+vv'=x+2x(1+x^2)
$$
$$
=2x^3+3x
$$
となる。
したがって、
$$
\frac{d}{dx}
\left\{\frac12\ln(x^4+3x^2+1)\right\}
=\frac{2x^3+3x}{x^4+3x^2+1}
$$
である。
一方、逆正接関数の微分形では、
$$
1-x^2
$$
という分子が現れる。
したがって、これらを組み合わせれば、
$$
J=\int\frac{2x^3-x^2+3x+1}{x^4+3x^2+1}\,dx
$$
も直接求められる。
分子を、
$$
2x^3-x^2+3x+1=(2x^3+3x)+(1-x^2)
$$
と分ければよい。
したがって、
$$
J=\frac12\ln(x^4+3x^2+1)
+\arctan\left(\frac{x}{1+x^2}\right)+C
$$
を得る。
この方法の本質は、四次式を含む有理関数を特別な公式として覚えることではない。
分母を平方の和と見たとき、そこからどのような微分形を作れるかを考え、分子との関係によって候補を選んでいるのである。
ここまでは、被積分関数の一部分から原始関数の候補を比較的直接に予測してきた。
しかし、複数の微分形が混ざっている場合には、原始関数の形をある程度まとめて仮定し、その係数を決める方が効率的なこともある。
例えば、
$$
I=\int\frac{2x^3-x^2+2x+5}{(1+x^2)^2}\,dx
$$
を考える。
まず、分母が二次式の二乗であることに着目する。
この形から、分母が一乗の有理関数を微分した結果を考えられる。
また、対数関数や逆正接関数を微分して通分しても、同じ分母を持つ有理関数が現れる。
そこで、原始関数に含まれそうな関数として、
$$
\ln(1+x^2)
$$
$$
\arctan x
$$
$$
\frac{x}{1+x^2}
$$
$$
\frac{1}{1+x^2}
$$
を考える。
なぜこの四つなのだろうか。
最初の二つは、微分すると分母が一乗の有理関数になる。これを通分すれば、分母が二乗の有理関数として表せる。
後の二つは、微分すると最初から分母が二乗になる。
したがって、これらを組み合わせれば、求めたい被積分関数と同じ種類の式を作れる可能性がある。
そこで、次の形を仮定する。
$$
F(x)=a\ln(1+x^2)+b\arctan x+\frac{cx+d}{1+x^2}
$$
ここで、係数は未知の定数とする。
微分すると、
$$
F'(x)
=\frac{2ax}{1+x^2}
+\frac{b}{1+x^2}
+\frac{c(1-x^2)-2dx}{(1+x^2)^2}
$$
となる。
通分すると、
$$
F'(x)
=\frac{2ax^3+(b-c)x^2+(2a-2d)x+(b+c)}{(1+x^2)^2}
$$
を得る。
分母が一致しているので、分子の係数を比較すればよい。
$$
\begin{cases}
2a=2\\
b-c=-1\\
2a-2d=2\\
b+c=5
\end{cases}
$$
したがって、
$$
a=1,\qquad b=2,\qquad c=3,\qquad d=0
$$
となる。
よって、
$$
I=\ln(1+x^2)+2\arctan x+\frac{3x}{1+x^2}+C
$$
を得る。
この方法では、原始関数を一度に思いついていない。
被積分関数の形を微分によって再現できそうな関数を選び、それらを組み合わせたうえで係数を決めている。
係数を決める方法で重要なのは、どの関数を候補に含めるかという判断である。
候補を増やせば必ずよいというわけではない。必要のない関数を加えてしまうと、未知の係数が増え、かえって計算が複雑になる。
そこで、まず被積分関数の特徴を観察する。
今回の場合、被積分関数は有理関数であり、分母は二次式の二乗だった。
したがって、対数関数、逆正接関数、分母が一乗の有理関数を考えることには理由がある。
反対に、指数関数や三角関数を突然候補に加える理由は見当たらない。
つまり、候補は思いつくままに選ぶのではなく、その候補を微分すると、求めたい種類の式が現れるかどうかによって絞り込む。
もし、最初に選んだ候補だけでは係数が一致しなければ、そこで初めて別の候補を加えることを考えればよい。
このようにすると、最初から大きな式を仮定せずに済む。
微分形接触では、原始関数の完成形を一瞬で思いつくことだけが重要なのではない。必要な関数を少しずつ選び、微分によって構造を再現するという方法も有効なのである。
ここまで、合成関数、積・商の微分、複数の微分形の組合せなどを考えてきた。
しかし、実際に初見の積分を解くときには、どの方法が適切かを教えてくれる見出しは存在しない。
一つの被積分関数に対して、複数の原始関数の候補を考えられる場合もある。
そのため、微分形接触を実際に使いこなすには、候補を思いつくことに加えて、候補を比較し、採用するかどうかを判断する必要がある。
積分を見たとき、私はまず被積分関数全体の構造を確認する。
このとき、最初から特定の公式を当てはめようとする必要はない。
例えば、分数式であれば、分母がどのような関数によって構成されているかを見る。分母に冪が現れれば冪関数や商の微分を、平方の和が現れれば逆正接関数を考えられる。
一方、指数関数や三角関数が掛けられている場合には、その内部を微分した因子が存在するかを考える。
また、二つ以上の項が足し引きされている場合には、それらが積や商を微分して生じた項ではないかと考えられる。
ただし、いつも分母から見るべきだという意味ではない。
被積分関数の中で、微分によって現れたと考えやすい特徴を探すことが目的である。
そのうえで、候補となる原始関数を考える。
候補が複数ある場合、それぞれを最後まで微分する必要はない。
例えば、
$$
I=\int\frac{x^3}{1+x^4}\,dx
$$
に対して、分母を平方の和と見れば、逆正接関数も連想できる。
しかし、その場合には内部の関数を微分して一次式が現れる。
求めたい分子は三次式なので、直接対応しない。
一方、分母全体を微分すれば三次式が現れる。
したがって、対数関数の方が適切だと判断できる。
この判断では、二つの候補を実際に最後まで計算して比較しているわけではない。
候補を微分したときに生じる因子を予測し、被積分関数と対応するかを確かめている。
慣れてくると、この比較を頭の中で行えるようになる。
原始関数の候補がすぐに見つからない場合でも、被積分関数を少し変形するだけで既知形が現れることがある。
例えば、
$$
I=\int\frac{x^2}{1+x^2}\,dx
$$
を考える。
分母には平方の和があるため、逆正接関数を考えられる。しかし、分子が二次式なので、そのままでは一致しない。
分母全体の微分を考えても、分子とは一致しない。
この場合、複雑な原始関数を予測する前に、多項式の除算によって簡単な形にできないか考える。
$$
\frac{x^2}{1+x^2}
=1-\frac{1}{1+x^2}
$$
したがって、
$$
I=x-\arctan x+C
$$
となる。
ここでの発想は、原始関数の候補を増やすことではない。
被積分関数を既知の微分形が見えやすい形へ変えているのである。
最初の形で候補が見つからなくても、式変形によって認識できる構造が増える場合がある。
反対に、被積分関数を分解しない方がよい場合もある。
例えば、
$$
I=\int e^x\left(\ln(1+x^2)+\frac{2x}{1+x^2}\right)dx
$$
を考える。
括弧の中には、対数関数と有理関数が現れている。
これらを別々に積分しようとすると、かえって計算が複雑になりそうである。
そこで、括弧全体が何を微分した結果なのかを考えてみる。
まず、
$$
\frac{d}{dx}\ln(1+x^2)=\frac{2x}{1+x^2}
$$
である。
つまり、括弧の中には、ある関数とその微分が足し合わされている。
さらに、外側には指数関数が掛けられている。
指数関数を含む積の微分を考えると、
$$
\frac{d}{dx}\{e^xf(x)\}
=e^x\{f(x)+f'(x)\}
$$
となる。
この形に対応させれば、
$$
f(x)=\ln(1+x^2)
$$
と予測できる。
したがって、
$$
I=e^x\ln(1+x^2)+C
$$
を得る。
この例では、被積分関数を細かく分けるよりも、複数の項を一つの積の微分構造として捉える方が簡単だった。
つまり、式変形を考える際には、分解する方向だけでなく、まとめる方向も考えられる。
ここまでの考え方を整理すると、原始関数の候補を比較する際には、次のような判断が役立つ。
最後に、微分形接触を無理に適用する必要はないことも確認しておきたい。
例えば、
$$
I=\int e^{x^2}\,dx
$$
を考える。
指数関数を原始関数の候補にすると、
$$
\frac{d}{dx}e^{x^2}=2xe^{x^2}
$$
となる。
求めたい被積分関数にはない因子が現れる。
一方、
$$
J=\int xe^{x^2}\,dx
$$
なら、必要な因子が既に存在するため、
$$
J=\frac12e^{x^2}+C
$$
と求められる。
この二つの積分は見た目が似ている。しかし、内部の微分因子の有無によって、直接既知形へ帰着できるかどうかが異なる。
なお、最初の積分は初等関数で原始関数を表せないことが知られている。ただし、微分形接触によって候補が見つからないというだけで、初等関数による積分が不可能だと判断できるわけではない。
原始関数の候補が見つからなければ、置換や部分積分、別の式変形によって構造を変えることも考えられる。
微分形接触の目的は、すべての積分を無理に暗算で求めることではない。
原始関数を直接予測できる構造が存在するなら、それを見抜いて不要な計算を省くことである。
ここまでの考え方を、いくつかの積分で確認してみよう。
それぞれの例題では、すぐに計算を始めるのではなく、まず原始関数の候補を考えてほしい。
その際、どの部分に着目し、どの微分構造を利用しようとしているのかも意識するとよい。
$$
I=\int\frac{x}{\sqrt{1-x^4}}\,dx
$$
分母に平方根が現れている。
ここで、
$$
1-x^4=1-(x^2)^2
$$
と書ける。
この形から、逆正弦関数の微分形を考えられる。
$$
\frac{d}{dt}\arcsin t
=\frac{1}{\sqrt{1-t^2}}
$$
そこで、内部の関数を、
$$
g(x)=x^2
$$
とする。
微分すると、
$$
g'(x)=2x
$$
となり、分子と対応する。
したがって、
$$
I=\frac12\arcsin(x^2)+C
$$
を得る。
ただし、実数で被積分関数が定義される開区間で考える。
この例では、平方根を取り除くための置換を探すのではなく、平方根の内部を既知の逆三角関数の微分形として認識している。
$$
I=\int\frac{\sin x}{1+\cos^2x}\,dx
$$
分母は平方の和になっている。
そこで、逆正接関数の微分形を考える。
$$
g(x)=\cos x
$$
とすれば、
$$
g'(x)=-\sin x
$$
である。
求めたい分子とは符号だけが異なる。
したがって、
$$
I=-\arctan(\cos x)+C
$$
となる。
この積分では、分母を平方の和として捉えるだけでなく、正弦関数が余弦関数を微分した結果であることにも着目している。
$$
I=\int\frac{1+(1-x)e^x}{(1+e^x)^2}\,dx
$$
分母が二乗なので、商の微分を考えてみる。
分母を一乗にした関数が原始関数の候補になると予測できる。
そこで、
$$
F(x)=\frac{P(x)}{1+e^x}
$$
と考える。
分子には一次式と指数関数の積が現れているので、まず、
$$
P(x)=x
$$
を試してみる。
このとき、
$$
F'(x)=\frac{1+e^x-xe^x}{(1+e^x)^2}
$$
となる。
分子を整理すれば、
$$
1+e^x-xe^x=1+(1-x)e^x
$$
であるから、被積分関数と一致する。
したがって、
$$
I=\frac{x}{1+e^x}+C
$$
を得る。
この例では、分母の二乗から商の微分を考え、分子に現れる一次式と指数関数の関係から、原始関数の形を予測している。
$$
I=\int\frac{2x^2+3}{(1+x^2)^2}\,dx
$$
分母の二乗から、商の微分を考えられる。
しかし、分子の定数項と二次の項は、単純に商の微分だけで再現するには適していない。
そこで、逆正接関数の微分形も組み合わせることを考える。
$$
\frac{d}{dx}\arctan x
=\frac{1+x^2}{(1+x^2)^2}
$$
$$
\frac{d}{dx}\frac{x}{1+x^2}
=\frac{1-x^2}{(1+x^2)^2}
$$
これらを組み合わせれば、求めたい分子を作れる。
実際、
$$
2x^2+3=\frac52(1+x^2)+\frac12(1-x^2)
$$
なので、
$$
I=\frac52\arctan x+\frac{x}{2(1+x^2)}+C
$$
を得る。
この例では、最初に見つけた微分形だけで解こうとせず、二つの微分形を組み合わせることが有効だった。
$$
I=\int\frac{1+x^2}{1+x^4}\,dx
$$
分母は四次式だが、ある二つの式の平方の和として表せないかを考えてみる。
ここで、
$$
1+x^4=(1-x^2)^2+2x^2
$$
と変形できる。
したがって、
$$
1+x^4=(1-x^2)^2+(\sqrt2x)^2
$$
である。
この形から、商の逆正接関数を予測できる。
$$
u(x)=\sqrt2x
$$
$$
v(x)=1-x^2
$$
とすれば、
$$
u'v-uv'
=\sqrt2(1-x^2)+2\sqrt2x^2
$$
$$
=\sqrt2(1+x^2)
$$
となる。
求めたい分子は、この定数倍である。
したがって、
$$
I=\frac{1}{\sqrt2}
\arctan\left(\frac{\sqrt2x}{1-x^2}\right)+C
$$
を得る。ただし、この表示は分母が0にならない区間ごとに用いる。区間をまたぐ場合には逆正接関数の枝を適切に調整する。
この例では、最初から分母が平方の和として与えられていたわけではない。
原始関数に逆正接関数を予測し、その微分形を作れるように分母を変形している。
つまり、被積分関数から直接既知形を見つけるだけでなく、利用したい微分形に合わせて式を作り変えるという考え方が使われている。
$$
I=\int e^{x^3}\cos(e^{x^3})x^2\,dx
$$
この積分では、指数関数と余弦関数が組み合わされている。
まず、余弦関数が現れていることから、正弦関数を微分した結果ではないかと考える。
そこで、
$$
F(x)=\sin(e^{x^3})
$$
を候補とする。
微分すると、
$$
F'(x)=3x^2e^{x^3}\cos(e^{x^3})
$$
となる。
被積分関数の3倍なので、
$$
I=\frac13\sin(e^{x^3})+C
$$
を得る。
この例では、複数の合成関数が重なっている。しかし、外側の正弦関数から順に微分した結果を予測すれば、一つの構造として認識できる。
$$
I=\int\frac{2x^3+10x}{x^4+10x^2+9}\,dx
$$
分母は四次式である。
例題5と同じように、平方の和を探すことも考えられる。
実際、
$$
x^4+10x^2+9=(x^2+3)^2+(2x)^2
$$
と表せる。
しかし、逆正接関数の微分形を利用する前に、分母全体を微分した結果を確認してみる。
$$
(x^4+10x^2+9)'=4x^3+20x
$$
これは分子の2倍である。
したがって、対数関数の微分形へ直接帰着できる。
$$
I=\frac12\ln(x^4+10x^2+9)+C
$$
この例で重要なのは、分母を平方の和へ変形できるとしても、必ず逆正接関数を選ぶ必要はないということだ。
分母全体の微分が分子に対応していれば、対数関数の方が簡単に求められる。
一方、次の積分ではどうだろうか。
$$
J=\int\frac{6-2x^2}{x^4+10x^2+9}\,dx
$$
分母は同じだが、分子は異なる。
そこで、
$$
u(x)=2x,\qquad v(x)=x^2+3
$$
と考える。
すると、
$$
u'v-uv'=2(x^2+3)-4x^2
$$
$$
=6-2x^2
$$
となる。
したがって、
$$
J=\arctan\left(\frac{2x}{x^2+3}\right)+C
$$
を得る。
このように、同じ分母から異なる原始関数を予測できる場合がある。
どちらが適切かは、分母の見た目だけでなく、分子がどの微分構造に対応しているかによって判断するのである。
微分形接触の本質は、原始関数を勘で当てることではない。
被積分関数から微分構造を予測し、候補を微分して検証し、必要に応じて修正する。その過程を繰り返すことで、初めて見る積分に対しても原始関数の候補を自分で構成できるようになる。
大切なのは、知っている微分公式を増やすことだけではない。
一つの微分公式から、どれだけ多くの形を認識できるかということである。
微分形接触は、既知の微分構造から原始関数を予測・構成する考え方であり、部分積分は、積の微分法則に基づいて積分を変形する方法である。
両者は異なる側面を持つため、状況に応じて使い分けることも、組み合わせることもできる。
また、部分積分の計算を短縮する方法として瞬間部分積分がある。これは独立した積分法ではなく、原始関数の候補を予測し、微分によって生じる余計な項を修正することで、部分積分に相当する計算を効率化するものである。
重要なのは、手法の名前から解法を決めないことである。被積分関数の構造を調べ、原始関数をどのような形で構成すれば計算が簡単になるかを考える。
まず、合成関数と積の微分法則を比較する。
$$
\frac{d}{dx}F(g(x))=F'(g(x))g'(x)
$$
$$
\frac{d}{dx}\{f(x)g(x)\}=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)
$$
前者では、内部の関数の微分因子が被積分関数に含まれていれば、原始関数を直接予測できる。
一方、後者を逆向きに利用すれば、部分積分の公式が得られる。
$$
\int f(x)g'(x)\,dx
=f(x)g(x)-\int f'(x)g(x)\,dx
$$
部分積分では、一方の関数を微分し、もう一方を積分することで、元の積分を別の積分へ変形する。
これに対して、原始関数を直接予測する場合には、積を微分したときに目的の項と余計な項がどのように現れるかを考え、その差を修正する。
例えば、
$$
I=\int x\sin(x^2)\,dx
$$
なら、
$$
\frac{d}{dx}\cos(x^2)=-2x\sin(x^2)
$$
なので、
$$
I=-\frac{1}{2}\cos(x^2)+C
$$
となる。
この積分では、合成関数の微分因子が既にそろっているため、原始関数を直接予測できる。
一方、
$$
J=\int x\sin x\,dx
$$
ではどうだろうか。
正弦関数の原始関数を考え、まず、
$$
F_0(x)=-x\cos x
$$
を候補とする。
微分すると、
$$
F_0'(x)=x\sin x-\cos x
$$
となる。
目的の項は現れたが、余計な項も生じている。
そこで、
$$
\frac{d}{dx}(-x\cos x+\sin x)=x\sin x
$$
より、
$$
J=-x\cos x+\sin x+C
$$
を得る。
これを部分積分として書けば、
$$
J=-x\cos x+\int\cos x\,dx
$$
となり、同じ結果が得られる。
したがって、原始関数の候補を直接修正する方法は、部分積分とは異なる新しい積分法則を使っているわけではない。
部分積分で生じる計算を、原始関数の予測と微分による修正によって短縮しているのである。
これが瞬間部分積分の基本的な位置づけである。
次の積分を考える。
$$
I=\int 3x^2e^{x^3}\,dx
$$
指数関数の内部を微分すると、
$$
(x^3)'=3x^2
$$
となり、指数関数の前にある因子と一致する。
したがって、
$$
I=e^{x^3}+C
$$
となる。
この場合、多項式と指数関数の積だからといって、部分積分を考える必要はない。
一方、
$$
J=\int(1+3x^3)e^{x^3}\,dx
$$
では、指数関数の内部の微分因子だけでは被積分関数全体を説明できない。
しかし、指数関数に変数を掛けた関数を考えると、
$$
\frac{d}{dx}\{xe^{x^3}\}
=e^{x^3}+3x^3e^{x^3}
$$
となる。
したがって、
$$
J=xe^{x^3}+C
$$
を得る。
この二つを比較すると、同じ指数関数が現れていても、内部の微分因子だけで処理できる場合と、積の微分構造を利用する場合があることが分かる。
重要なのは、多項式と指数関数のどちらを先に積分するかではない。
原始関数を合成関数として予測するのか、積として予測するのか。その構造を考えることである。
次の積分を考える。
$$
I=\int e^{\sin x}
\left(\cos x\ln x+\frac{1}{x}\right)dx
$$
ただし、変数は正とする。
括弧の中には対数関数とその微分が現れている。
$$
\frac{d}{dx}\ln x=\frac{1}{x}
$$
また、指数関数の内部を微分すると余弦関数が現れる。
$$
\frac{d}{dx}\sin x=\cos x
$$
そこで、指数関数と対数関数の積を考える。
一般に、
$$
\frac{d}{dx}\{e^{g(x)}f(x)\}
=e^{g(x)}\{g'(x)f(x)+f'(x)\}
$$
である。
今回の場合、
$$
g(x)=\sin x,\qquad f(x)=\ln x
$$
とすれば、括弧の中の二つの項が同時に現れる。
したがって、
$$
I=e^{\sin x}\ln x+C
$$
を得る。
この例では、指数関数の内部の微分と、対数関数の微分が異なる項に現れている。
それらを個別に積分するのではなく、一つの積を微分した結果としてまとめているのである。
合成関数の微分形を認識することと、積の微分法則を逆向きに利用することは、二者択一ではない。
合成関数の微分と積の微分を同時に利用し、一つの原始関数を構成することもできる。
部分積分を実行すると、元の積分とは別の積分が現れる。
この新しい積分が簡単になるように関数を選ぶことが、部分積分の基本的な判断基準となる。
一方、瞬間部分積分では、その変形を逐一書き下さず、原始関数の候補を微分したときに現れる余計な項を打ち消していく。
これは部分積分の計算を短縮したものであり、利用している原理は積の微分法則である。
次の積分を考える。
$$
I=\int x^2\sin x\,dx
$$
多項式と三角関数の積である。
正弦関数を積分すると負の余弦関数になることから、まず、
$$
F_0(x)=-x^2\cos x
$$
を候補とする。
微分すると、
$$
F_0'(x)=x^2\sin x-2x\cos x
$$
となる。
求めたい項は現れたが、余計な項も生じた。
そこで、
$$
F_1(x)=-x^2\cos x+2x\sin x
$$
と修正する。
これを微分すると、
$$
F_1'(x)=x^2\sin x+2\sin x
$$
となる。
今度は余計な項に変数が含まれていないので、簡単に打ち消せる。
$$
F_2(x)=-x^2\cos x+2x\sin x+2\cos x
$$
実際、
$$
F_2'(x)=x^2\sin x
$$
であるから、
$$
I=-x^2\cos x+2x\sin x+2\cos x+C
$$
を得る。
ここでは、最初に目的の項を作る候補を選び、余計な項を順に打ち消している。
修正の過程で注目したいのは、三角関数が正弦と余弦の間で変化する一方、それらに掛けられた多項式の次数が下がっていることである。
そのため、修正を繰り返すことで、最終的には余計な項をすべて消すことができる。
多項式を、
$$
P(x)
$$
とし、次の積分を考える。
$$
I=\int P(x)e^x\,dx
$$
原始関数も指数関数と多項式の積になっていると予測する。
$$
F(x)=Q(x)e^x
$$
これを微分すると、
$$
F'(x)=\{Q'(x)+Q(x)\}e^x
$$
となる。
したがって、求めたい被積分関数と一致させるには、
$$
Q'(x)+Q(x)=P(x)
$$
となればよい。
ここで、まず、
$$
Q_0(x)=P(x)
$$
と考える。
すると、
$$
Q_0'(x)+Q_0(x)=P'(x)+P(x)
$$
となり、余計な項として多項式の微分が現れる。
そこで、
$$
Q_1(x)=P(x)-P'(x)
$$
と修正する。
微分すると、
$$
Q_1'(x)+Q_1(x)=P(x)-P''(x)
$$
となる。
同じ操作を繰り返せば、最終的に、
$$
Q(x)=P(x)-P'(x)+P''(x)-\cdots
$$
という形が得られる。
多項式は有限回の微分で0になるため、この修正は必ず終了する。
これが、多項式と指数関数の積に対して瞬間部分積分が有効な理由である。
同様に、多項式と正弦・余弦の積についても、多項式の次数が下がることを利用できる。
ただし、三角関数そのものは微分しても消えず、正弦と余弦の間で循環する。
したがって、多項式の次数が下がることによる有限回の修正と、関数の組合せが巡回することによる処理は区別して考えたい。
多項式と三角関数の積では、三角関数が循環しても多項式の次数が下がるため、有限回の部分積分で処理できる。
一方、微分しても次数が下がる部分がなく、同じ種類の関数が繰り返し現れる場合には、その巡回構造自体を利用する方がよい。
原始関数の候補を作り、その微分で生じた余計な項を修正するだけでなく、最初の候補を作る段階で余計な項をできるだけ簡単にすることもできる。
単に正しい原始関数を見つけるだけでなく、その原始関数へ到達するまでの計算が短くなるように、候補そのものを設計するのである。
次の積分を考える。
$$
I=\int x\arctan x\,dx
$$
逆正接関数と一次式の積である。
原始関数も、逆正接関数と多項式の積になっている可能性を考える。
そこで、
$$
F(x)=P(x)\arctan x
$$
と置く。
微分すると、
$$
F'(x)=P'(x)\arctan x+\frac{P(x)}{1+x^2}
$$
となる。
求めたい項は、
$$
x\arctan x
$$
なので、逆正接関数が掛けられた部分を一致させるためには、
$$
P'(x)=x
$$
とすればよい。
したがって、
$$
P(x)=\frac{x^2}{2}+a
$$
と考えられる。ただし、定数は未定としておく。
このとき、
$$
F'(x)=x\arctan x+\frac{\frac{x^2}{2}+a}{1+x^2}
$$
となる。
ここで、余計に現れた分数をどう処理するかが問題になる。
もちろん、この分数を積分することもできる。しかし、定数を自由に選べるのであれば、分数自体を簡単にできないだろうか。
分母は、
$$
1+x^2
$$
なので、分子もその定数倍になれば、分数全体が定数になる。
そこで、
$$
a=\frac12
$$
と選ぶ。
すると、
$$
P(x)=\frac{1+x^2}{2}
$$
となり、
$$
\frac{d}{dx}\left\{\frac{1+x^2}{2}\arctan x\right\}
=x\arctan x+\frac12
$$
を得る。
余計に現れる項は定数なので、
$$
I=\frac{1+x^2}{2}\arctan x-\frac x2+C
$$
となる。
ここで重要なのは、原始関数の候補を決める際に定数を残しておいたことである。
最初から、
$$
P(x)=\frac{x^2}{2}
$$
と決めてしまっても、積分は解ける。
しかし、定数の自由度を利用すれば、後から積分する必要のある項を最初から簡単な形へ変えられる。
つまり、原始関数の候補を予測する際には、目的の項を作れることだけでなく、余計な項をどのような形にできるかまで考えられるのである。
この考え方は、逆正接関数に限らない。
原始関数を積として予測するときには、一方を微分した項によって目的の部分を作り、もう一方を微分した項が余分に現れる。
そのため、目的の部分を一致させる条件を保ったまま、候補の中にある未定係数や定数を調整できる場合がある。
ここで注意したいのは、自由に調整できる部分が必ず存在するわけではないことである。
しかし、自由度が存在するなら、それを最初から固定してしまう必要はない。
余計な項を定数、既知の微分形、あるいはより低次の式へ変えられないかを考える。
このように、原始関数の候補を作ること自体を計算の最適化に利用するのが、この方法の特徴である。
実際の積分では、合成関数の微分と積の微分が何重にも組み合わされている場合がある。
そのようなとき、まず繰り返し現れる式を一つのまとまりとして捉え、その内部で部分積分を適用できる。
また、必ずしも置換や部分積分の計算をすべて書き下す必要はない。原始関数の形を予測できれば、元の変数のまま直接構成することもできる。
次の積分を考える。
$$
I=\int(2x+1)(x^2+x)^2e^{x^2+x}\,dx
$$
まず、
$$
x^2+x
$$
という式が繰り返し現れていることに着目する。
さらに、
$$
(x^2+x)'=2x+1
$$
であり、必要な微分因子も含まれている。
そこで、内部の式を一つの変数として捉える。
$$
t=x^2+x
$$
と考えれば、積分は、
$$
I=\int t^2e^t\,dt
$$
と同じ構造になる。
ここで、多項式と指数関数の積に対して部分積分を利用できる。
その計算を短縮するために、原始関数の候補を直接修正してみよう。
まず、
$$
F_0(t)=t^2e^t
$$
と考える。
微分すると、
$$
F_0'(t)=(t^2+2t)e^t
$$
となり、余計な一次の項が現れる。
そこで、
$$
F_1(t)=(t^2-2t)e^t
$$
と修正する。
すると、
$$
F_1'(t)=(t^2-2)e^t
$$
となる。
最後に定数項を調整すれば、
$$
F(t)=(t^2-2t+2)e^t
$$
を得る。
したがって、
$$
I=e^{x^2+x}\{(x^2+x)^2-2(x^2+x)+2\}+C
$$
となる。
この例では、まず合成関数の内部にある複雑さを一つの変数としてまとめ、そのうえで部分積分に相当する計算を行った。
しかし、重要なのは置換そのものではない。
最初から原始関数を、
$$
F(x)=e^{x^2+x}P(x^2+x)
$$
と予測しても、同じ方法で係数を調整できる。
つまり、合成関数の内部を一つのまとまりとして扱い、そのまとまりを変数とする原始関数を設計しているのである。
次の積分を考える。
$$
I=\int\frac{x\ln(1+x^2)}{(1+x^2)^2}\,dx
$$
分母の二次式と、その微分因子に着目する。
$$
t=1+x^2
$$
と置けば、
$$
dt=2x\,dx
$$
なので、
$$
I=\frac12\int\frac{\ln t}{t^2}\,dt
$$
となる。
ここで、分母が二乗であることと、分子に対数関数が現れていることに注目する。
原始関数の候補として、
$$
F_0(t)=-\frac{\ln t}{t}
$$
を考える。
微分すると、
$$
F_0'(t)=\frac{\ln t-1}{t^2}
$$
となる。
求めたい項は現れているが、余計な項もある。
そこで、
$$
F(t)=-\frac{\ln t+1}{t}
$$
と修正する。
すると、
$$
F'(t)=\frac{\ln t}{t^2}
$$
となる。
したがって、
$$
I=-\frac{\ln(1+x^2)+1}{2(1+x^2)}+C
$$
を得る。
この例では、合成関数の微分因子を利用するだけでなく、部分積分によって処理できる対数関数と有理関数の積を、原始関数の予測と修正によって計算している。
瞬間部分積分は、多項式と指数関数の積だけに限定されない。
部分積分によって生じる別の積分が簡単になるなら、ほかの関数の組合せについても、その計算を原始関数の修正という形で短縮できる。
次の積分を考える。
$$
I=\int x^3\arctan(x^2)\,dx
$$
まず、逆正接関数の内部にある二次式に注目する。
$$
t=x^2
$$
と考えれば、
$$
x^3\,dx=\frac t2\,dt
$$
なので、
$$
I=\frac12\int t\arctan t\,dt
$$
と同じ構造になる。
この積分には部分積分を適用できるが、原始関数の候補を直接設計して計算を短縮することもできる。
そこで、
$$
F(t)=P(t)\arctan t
$$
と予測する。
微分すると、
$$
F'(t)=P'(t)\arctan t+\frac{P(t)}{1+t^2}
$$
となる。
求めたい項に合わせるためには、
$$
P'(t)=\frac t2
$$
とすればよい。
したがって、
$$
P(t)=\frac{t^2}{4}+a
$$
と置く。
ここで余計に現れる項は、
$$
\frac{P(t)}{1+t^2}
$$
である。
この分数が定数になるように、
$$
a=\frac14
$$
と選ぶ。
すると、
$$
\frac{d}{dt}\left\{\frac{1+t^2}{4}\arctan t\right\}
=\frac t2\arctan t+\frac14
$$
となる。
したがって、
$$
I=\frac{1+t^2}{4}\arctan t-\frac t4+C
$$
を得る。
元の変数に戻せば、
$$
I=\frac{1+x^4}{4}\arctan(x^2)-\frac{x^2}{4}+C
$$
となる。
この例では、合成関数の内部を取り出すこと、部分積分に対応する原始関数の形を予測すること、余計な項が簡単になるよう候補を調整することを組み合わせている。
それぞれの操作を独立した手順として繰り返すよりも、原始関数を構成するための一連の判断として考える方が自然である。
積分では、被積分関数を分解することで簡単になる場合もあれば、反対に、複数の項を一つの微分構造としてまとめる方がよい場合もある。
特に重要なのは、個々の項は積分しにくくても、それらを組み合わせると簡単な原始関数が現れる場合があるということだ。
次の積分を考える。
$$
I=\int\{\sin(x^2)+2x^2\cos(x^2)\}\,dx
$$
被積分関数は二つの項からなる。
最初の項だけを見れば、
$$
\sin(x^2)
$$
という関数が現れている。
この関数は、原始関数を初等関数で表すことができない。
しかし、それは元の積分まで初等関数で求められないことを意味しない。
そこで、二つ目の項との関係を考える。
$$
2x^2\cos(x^2)
$$
ここには、正弦関数の内部を微分した因子が含まれている。
$$
\frac{d}{dx}\sin(x^2)=2x\cos(x^2)
$$
さらに、二つ目の項には余分に変数が一つ掛けられている。
このことから、正弦関数に変数を掛けた関数を微分したのではないかと予測できる。
$$
F(x)=x\sin(x^2)
$$
実際、
$$
F'(x)=\sin(x^2)+2x^2\cos(x^2)
$$
となる。
したがって、
$$
I=x\sin(x^2)+C
$$
を得る。
この例では、最初の項を単独で積分しようとすると問題が難しくなる。
しかし、二つの項をまとめて観察すると、それらが一つの積の微分によって同時に現れることに気づける。
被積分関数を複数の項へ分解するべきか、それとも一つの微分構造としてまとめるべきか。
この判断は、表面的な項の数だけでは決まらない。
各項が独立した既知の微分形に対応している場合には、分解する方法が有効である。
一方、ある項が別の項に含まれる関数の微分と関係しているなら、積の微分として統合することを考えられる。
例えば、先ほどの積分では、
$$
\sin(x^2)
$$
と、
$$
2x^2\cos(x^2)
$$
が独立した項ではなく、同じ積の微分から現れていた。
この関係に気づければ、一方の項の原始関数が初等関数で表せないことは障害にならない。
重要なのは、被積分関数をどのように分割できるかだけではない。
どのように組み合わせれば、一つの簡単な微分構造として説明できるかを考えることである。
原始関数の候補を修正するときには、微分によって関数の形がどのように変化するかを考える必要がある。
特に、次の二つを区別したい。
一つは、多項式の次数が下がることによって、余計な項を有限回で消せる場合である。
もう一つは、微分を繰り返しても同じ種類の関数が現れるため、最初からそれらを組み合わせた原始関数を予測する場合である。
次の積分を考える。
$$
I=\int e^{2x}\cos x\,dx
$$
指数関数は微分しても定数倍になるだけである。
一方、三角関数は微分によって正弦と余弦の間で変化する。
したがって、原始関数も指数関数と正弦・余弦の組合せになっていると予測できる。
そこで、
$$
F(x)=e^{2x}(a\cos x+b\sin x)
$$
と置く。
微分すると、
$$
F'(x)=e^{2x}\{(2a+b)\cos x+(2b-a)\sin x\}
$$
となる。
求めたい被積分関数には余弦関数だけが現れている。
したがって、
$$
\begin{cases}
2a+b=1\\
2b-a=0
\end{cases}
$$
を満たせばよい。
これを解くと、
$$
a=\frac25,\qquad b=\frac15
$$
となる。
よって、
$$
I=\frac{e^{2x}}5(2\cos x+\sin x)+C
$$
を得る。
この積分は、部分積分を繰り返して元の積分に戻る方法でも処理できる。
しかし、原始関数の形を最初から予測できれば、未知の係数を決めるだけでよい。
ここでは、微分によって元の積分に戻ることを待っているのではない。
微分しても同じ種類の関数の組合せから外れないことを利用し、原始関数の形を先に決めているのである。
多項式が掛けられている場合には、次数が下がることと、関数が巡回することの両方を利用できる。
例えば、多項式を、
$$
R(x)
$$
とし、次の積分を考える。
$$
I=\int R(x)e^x\sin x\,dx
$$
多項式は微分によって次数が下がる。一方、指数関数は形を保ち、三角関数は正弦と余弦の間で変化する。
このことから、原始関数を、
$$
F(x)=e^x\{P(x)\sin x+Q(x)\cos x\}
$$
と予測できる。
ここで、多項式の次数を、
$$
\deg R=n
$$
とすれば、候補として、
$$
\deg P\leq n,\qquad \deg Q\leq n
$$
を考えられる。
実際に微分すると、
$$
F'(x)=e^x\{(P'+P-Q)\sin x+(P+Q'+Q)\cos x\}
$$
となる。
したがって、
$$
P'+P-Q=R
$$
$$
P+Q'+Q=0
$$
を満たす多項式を求めればよい。
ここでは、正弦・余弦・指数関数・多項式という範囲の中で原始関数を構成できることを利用している。
つまり、微分しても同じ種類の関数の組合せから外れないという性質から、原始関数の候補を絞り込めるのである。
多項式と指数関数の積では、多項式の次数を下げて余計な項を消していく方法が使える。
多項式と三角関数の積でも、三角関数は循環するが、多項式の次数が下がるため、有限回の部分積分で処理できる。
一方、指数関数と三角関数だけの積では、同じ種類の関数が繰り返し現れる。この場合には、正弦と余弦を最初から候補に含め、係数を決定する方法が有効である。
さらに、多項式・指数関数・三角関数が同時に現れる場合でも、原始関数を同じ種類の関数の組合せとして予測できる。
重要なのは、微分によって関数がどのように変化するかを見通すことである。
多項式の次数が下がるなら、その性質を利用して有限回の修正を行う。
関数の種類が巡回するなら、その組合せを最初から候補に含める。
修正方法は、微分したときに関数がどのように変化するかによって選ぶのである。
原始関数の予測、修正項の調整、複数の微分構造の組合せを利用する積分を考える。
単に原始関数を求めるだけでなく、その候補をどのように作れるのか、微分した結果をどう利用するのかにも注目してほしい。
$$
I=\int\frac{2x+3x^3}{\sqrt{1+x^2}}\,dx
$$
分母には平方根がある。
その内部を微分すると、
$$
(1+x^2)'=2x
$$
となる。
しかし、分子には一次式だけでなく三次式も含まれているため、平方根の微分形だけでは直接一致しない。
そこで、平方根に多項式を掛けた関数を考える。
$$
F(x)=x^2\sqrt{1+x^2}
$$
微分すると、
$$
F'(x)=2x\sqrt{1+x^2}+\frac{x^3}{\sqrt{1+x^2}}
$$
となる。
通分すれば、
$$
F'(x)=\frac{2x+3x^3}{\sqrt{1+x^2}}
$$
なので、
$$
I=x^2\sqrt{1+x^2}+C
$$
を得る。
ここでは、平方根の微分によって分母を作り、多項式の微分によって分子の残りの項を作っている。
$$
I=\int\frac{(\ln x)^2}{x^2}\,dx
$$
ただし、変数は正とする。
分母が二乗になっているので、原始関数にも変数を分母に持つ関数が現れるのではないかと考える。
また、分子に対数関数の二乗があることから、
$$
F_0(x)=-\frac{(\ln x)^2}{x}
$$
を候補とする。
微分すると、
$$
F_0'(x)=\frac{(\ln x)^2-2\ln x}{x^2}
$$
となる。
求めたい項は現れたが、対数関数の一次の項が余計に現れている。
そこで、
$$
F_1(x)=-\frac{(\ln x)^2+2\ln x}{x}
$$
と修正する。
すると、
$$
F_1'(x)=\frac{(\ln x)^2-2}{x^2}
$$
となる。
最後に定数項を調整して、
$$
F(x)=-\frac{(\ln x)^2+2\ln x+2}{x}
$$
とすれば、
$$
F'(x)=\frac{(\ln x)^2}{x^2}
$$
となる。
したがって、
$$
I=-\frac{(\ln x)^2+2\ln x+2}{x}+C
$$
を得る。
この例では、分母に変数を残したまま、対数関数の多項式を順に修正している。
多項式の次数が下がるという性質は、変数そのものの多項式だけでなく、対数関数を変数のように扱った場合にも利用できる。
$$
I=\int
\frac{e^{\sin x}\{1-x^2+x(1+x^2)\cos x\}}{(1+x^2)^2}\,dx
$$
分母が二乗になっているので、商の微分を考えられる。
また、分子には指数関数と余弦関数が現れている。
ここで、
$$
\frac{d}{dx}e^{\sin x}=e^{\sin x}\cos x
$$
である。
したがって、指数関数を一方の因子とする積を微分したのではないかと考えられる。
さらに、有理関数の部分について、
$$
\frac{d}{dx}\frac{x}{1+x^2}
=\frac{1-x^2}{(1+x^2)^2}
$$
という関係がある。
求めたい被積分関数の分子にも、
$$
1-x^2
$$
という部分が存在する。
そこで、これら二つの関数の積を候補とする。
$$
F(x)=\frac{xe^{\sin x}}{1+x^2}
$$
微分すると、
$$
F'(x)=e^{\sin x}
\left\{
\frac{1-x^2}{(1+x^2)^2}
+\frac{x\cos x}{1+x^2}
\right\}
$$
となる。
通分すれば被積分関数と一致するので、
$$
I=\frac{xe^{\sin x}}{1+x^2}+C
$$
を得る。
この例では、合成関数、積、商の三つの微分構造を同時に利用している。
分母の二乗から商の微分を、指数関数と余弦関数から合成関数の微分を考え、それらを一つの積の微分へまとめている。
$$
I=\int 2xe^{x^2}\{1+\ln(1+e^{x^2})\}\,dx
$$
まず、対数関数の内部にある式を一つのまとまりとして捉える。
$$
g(x)=1+e^{x^2}
$$
このとき、
$$
g'(x)=2xe^{x^2}
$$
であり、被積分関数に必要な微分因子が現れている。
残る部分は、
$$
1+\ln g(x)
$$
である。
ここで、対数関数を単独で考えるのではなく、次の積を微分してみる。
$$
F(x)=g(x)\ln g(x)
$$
すると、
$$
F'(x)=g'(x)\{1+\ln g(x)\}
$$
となる。
求めたい被積分関数と一致するので、
$$
I=(1+e^{x^2})\ln(1+e^{x^2})+C
$$
を得る。
この例では、合成関数の内部の微分因子を認識し、その内部で対数関数を含む積の微分構造を利用している。
$$
I=\int x^2e^x\sin x\,dx
$$
指数関数、三角関数、多項式が同時に現れている。
多項式は微分によって次数が下がる。一方、三角関数は正弦と余弦の間で変化し、指数関数は形を保つ。
したがって、原始関数もこれらの関数の組合せになっていると予測できる。
そこで、
$$
F(x)=e^x\{P(x)\sin x+Q(x)\cos x\}
$$
と置く。
多項式の次数から、
$$
P(x)=ax^2+bx+c
$$
$$
Q(x)=dx^2+ex+f
$$
と考える。
微分すると、
$$
F'(x)=e^x\{(P'+P-Q)\sin x+(P+Q'+Q)\cos x\}
$$
となる。
求めたい被積分関数と一致させるためには、
$$
P'+P-Q=x^2
$$
$$
P+Q'+Q=0
$$
を満たせばよい。
多項式の係数を比較すると、
$$
\begin{cases}
a-d=1\\
2a+b-e=0\\
b+c-f=0\\
a+d=0\\
b+2d+e=0\\
c+e+f=0
\end{cases}
$$
を得る。
これを解けば、
$$
a=\frac12,\qquad b=0,\qquad c=-\frac12
$$
$$
d=-\frac12,\qquad e=1,\qquad f=-\frac12
$$
となる。
したがって、
$$
P(x)=\frac{x^2-1}{2}
$$
$$
Q(x)=\frac{-x^2+2x-1}{2}
$$
である。
よって、
$$
I=\frac{e^x}{2}
\{(x^2-1)\sin x+(-x^2+2x-1)\cos x\}+C
$$
を得る。
この例では、部分積分によって多項式の次数を下げる考え方と、正弦・余弦が巡回することを利用する考え方を組み合わせている。
原始関数の係数を最初から思いつく必要はない。
重要なのは、微分しても同じ種類の関数の組合せから外れないことを見抜き、原始関数に必要な関数の形を決定することである。
積分を速く正確に解くためには、計算を始める前の判断が重要になる。
同じ積分に対して複数の解法が存在しても、それぞれに必要な計算量は大きく異なる。ある方法では長い式変形が必要になる一方、別の方法ではほとんど計算せずに答えが得られることもある。
そのため、重要なのは、利用できる手法を知っていることだけではない。
問題の構造から有力な解法を発見し、必要な計算を予測し、最も効率的で確実な解法を組み立てることである。
ここでいう最適化は、単に計算の行数を減らすことではない。解法を探す時間、実際の計算量、答案の記述量、誤答の危険性まで含めて考える。
また、必ずしも数学的な意味で最短の解法を証明する必要はない。重要なのは、十分に効率的な方法を素早く見つけ、不要な探索や計算に時間を費やさないことである。
解法設計では、問題に含まれる情報を個別に処理するのではなく、それらの関係から解法を組み立てる。
例えば、被積分関数に平方の和が現れている場合、それだけを見れば逆正接関数の微分形を考えられる。
しかし、定積分で積分区間が対称なら、原始関数を求めずに済むかもしれない。
また、平方の和が複雑な関数から構成されている場合には、その二つの関数の関係を利用できる可能性もある。
したがって、被積分関数の特徴を見つけることと、その特徴を利用することは区別したい。
何が含まれているかを把握したうえで、それらを使って何ができるかを考えるのである。
まず、何を求める必要があるかを確認する。
不定積分なら原始関数を構成する必要がある。一方、定積分では、積分値さえ決定できれば原始関数を求める必要はない。
さらに、積分を含む不等式の証明であれば、積分値を厳密に求めずに済む場合もある。
この違いは、解法選択に直接影響する。
例えば、
$$
I=\int_0^1
\frac{2x-1}{1+(x^2-x)^2}\,dx
$$
を考える。
分母が平方の和になっているので、
$$
\frac{d}{dx}\arctan(x^2-x)
=\frac{2x-1}{1+(x^2-x)^2}
$$
という微分形を利用できる。
したがって、
$$
I=\left[\arctan(x^2-x)\right]_0^1=0
$$
となる。
しかし、原始関数を求める必要はなかったとも考えられる。
実際、
$$
x\longmapsto1-x
$$
と変換すると、分母は変化せず、分子だけが符号を変える。
したがって、
$$
I=-I
$$
より、
$$
I=0
$$
を得る。
この積分では、二つの方法がどちらも有効である。
原始関数の微分形が即座に分かるなら、そのまま計算してもよい。一方、区間反転による反対称性を先に認識できれば、原始関数を求めずに値を決定できる。
重要なのは、どちらか一方を必ず優先することではない。
問題が要求する結果に対して、どちらが少ない判断と計算で到達できるかを考えることである。
複雑な積分では、被積分関数に現れる各部分を、次のような観点から捉える。
解法における各情報の役割を見極め、利用できる関係を組み立てることである。
積分の構造を把握したら、どの操作によって目的の形へ到達できるかを考える。
原始関数を求めずに値を決められるなら、その方法が有力になる。
原始関数の形を直接予測できるなら、実際に微分して一致するか確認すればよい。
それが難しい場合には、置換、部分積分、式変形などによって既知形へ帰着させることを考える。
ただし、これらは固定された順番ではない。
問題によっては、最初に置換を考える方が自然な場合もあるし、複数の方法を組み合わせた方がよい場合もある。
重要なのは、最終的にどの形へ持ち込みたいのかを考え、そのための操作を選ぶことである。
解法設計では、最初に思いついた方法をすぐに実行する必要はない。
ある方法で解けると分かっても、別の方法の方が計算を大幅に短縮できる可能性がある。
ただし、考えられる方法をすべて最後まで試す必要もない。
必要なのは、候補となる方法を素早く見つけ、それぞれの方法を少し先まで予測し、効率のよいものへ絞り込むことである。
候補となる解法は、被積分関数の構造から考える。
例えば、次のような関係が考えられる。
| 認識した構造 | 考えられる方向 |
|---|---|
| 積分区間と被積分関数の対称性 | 原始関数を求めずに値を決定する |
| 既知の微分形との対応 | 原始関数を直接予測する |
| 積・商の微分による項の生成 | 原始関数の候補を構成・修正する |
| 繰り返し現れる合成関数 | 内部を一つのまとまりとして扱う |
| 多項式・根号・三角関数の関係 | 式変形や置換によって既知形へ帰着させる |
| 微分による次数の減少や巡回 | 部分積分や係数比較を利用する |
この表は、対応する手法を機械的に選ぶためのものではない。
一つの構造から複数の方法を考えられる場合もあれば、複数の構造を組み合わせて初めて有効な方法になる場合もある。
したがって、各特徴を独立した解法へ直結させるのではなく、候補を発見するための手掛かりとして利用する。
候補を比較する際には、実際に最後まで計算する必要はない。
例えば、置換を考えたなら、置換後にどの種類の積分が残るかを予測する。
部分積分を考えたなら、一方を微分し、もう一方を積分したとき、何が残るかを考える。
原始関数の候補を考えたなら、それを微分したとき、目的の項と余計な項がどのように現れるかを確認する。
ここで重要なのは、その操作によって問題がどれだけ解答に近づくかである。
例えば、根号を取り除けても、高次の有理関数が残るなら、必ずしも計算が簡単になったとはいえない。
一方、式の見た目が複雑になっても、既知の微分形が現れれば、解答までの計算は短くなる。
ある方法を実行した後の形が明らかに不利なら、最後まで計算する必要はない。
例えば、置換後に複雑な分母が残り、分子の微分因子もそろわないと分かったなら、その置換は優先度を下げられる。
また、部分積分によって元の積分より複雑な積分が現れ、簡単になる見通しがなければ、別の方法を考える理由になる。
ただし、変形後の式が複雑になっただけで、その方法を除外するべきではない。
さらに一手進めることで大きな相殺が起こる場合もあるからである。
したがって、候補を除外する際には、途中式の見た目だけでなく、その後の変化まで考える必要がある。
有効な候補を見つけることと、不利な候補を早い段階で見切ることの両方が、解法選択の速度を決める。
解法を選ぶ際には、実際に計算する前に、どの程度の作業が必要になるかを見積もりたい。
ただし、計算量を正確な数値として求める必要はない。
重要なのは、候補同士を比較できる程度に、残る計算の規模や複雑さを把握することである。
例えば、有理関数に部分分数分解を適用する場合、分母の因数の数や重複度によって、決定する係数の数が変わる。
一方、同じ有理関数でも、商の微分形を直接認識できれば、係数比較を行わずに済む場合がある。
次の積分を考える。
$$
I=\int\frac{x^2+1}{(x^2-1)^2}\,dx
$$
これは部分分数分解によって求められる。
しかし、分母が二乗になっているので、商の微分も候補になる。
そこで、
$$
F(x)=\frac{x}{x^2-1}
$$
を考える。
微分すると、
$$
F'(x)=-\frac{x^2+1}{(x^2-1)^2}
$$
となる。
したがって、
$$
I=-\frac{x}{x^2-1}+C
$$
を得る。
この場合、部分分数分解を実行する前に、商の微分形を一度確認するだけで計算量を大幅に減らせた。
ここで比較しているのは、単なる式変形の行数ではない。
部分分数分解では、因数分解、係数決定、各項の積分が必要になる。
一方、商の微分を利用する方法では、候補を一度微分して係数を調整すればよい。
つまり、解法を構成するために必要な操作の種類と、その回数を予測しているのである。
計算量が増えるかどうかは、変形後の式を調べることである程度判断できる。
例えば、次のような場合には注意したい。
計算量が少ない方法でも、成立条件の確認や複雑な場合分けが必要になる場合がある。
一方、計算は少し長くても、既知の公式を直接適用でき、必要な根拠を簡潔に示せる方法もある。
そのため、解法選択では計算量だけでなく、答案として必要な記述量も考慮する。
ただし、必要な論証を省略して記述量を減らすことは、最適化とはいえない。
比較すべきなのは、正しい答案を完成させるために必要な計算と記述の総量である。
複雑な積分では、一つの手法だけで解答に到達できるとは限らない。
その場合には、複数の手法をどの順序で利用するかが重要になる。
同じ手法を組み合わせても、適用する順序によって計算量が変わることがあるからである。
次の積分を考える。
$$
I=\int_0^\pi\frac{x\sin x}{1+\cos^2x}\,dx
$$
被積分関数には変数そのものが掛けられているので、部分積分が候補になる。
また、
$$
t=\cos x
$$
という置換も考えられる。
しかし、そのまま置換すると、変数の因子が、
$$
x=\arccos t
$$
となって残る。
したがって、置換だけでは簡単な有理関数の積分にならない。
ここで、積分区間が0からπであることに注目する。
$$
x\longmapsto\pi-x
$$
と変換すると、
$$
\sin(\pi-x)=\sin x
$$
$$
\cos^2(\pi-x)=\cos^2x
$$
となる。
したがって、
$$
I=\int_0^\pi\frac{(\pi-x)\sin x}{1+\cos^2x}\,dx
$$
を得る。
元の積分と加えると、
$$
2I=\pi\int_0^\pi\frac{\sin x}{1+\cos^2x}\,dx
$$
となる。
ここで初めて、
$$
t=\cos x
$$
と置く。
すると、
$$
I=\frac{\pi}{2}\int_{-1}^{1}\frac{1}{1+t^2}\,dt
$$
$$
=\frac{\pi^2}{4}
$$
を得る。
この積分では、置換そのものが不適切だったわけではない。
置換を行う前に区間反転を利用することで、置換後に残る複雑な因子を消去できたのである。
複数の手法を組み合わせる場合には、ある操作が別の操作をどのように助けるかを考える。
例えば、対称性によって一部の因子を消去すれば、その後の置換が簡単になることがある。
また、式を因数分解することで、初めて利用できる微分形が現れる場合もある。
逆に、最初に展開してしまうと、後から利用したかった構造が見えにくくなることもある。
そこで、複数の操作が考えられる場合には、次のように考える。
まず、各操作によって何が変化するかを予測する。
次に、その変化によって別の操作が簡単になるかを調べる。
そして、計算量が最も減りそうな順序を選ぶ。
重要なのは、操作を単純に並べることではない。
後の操作が有効になるように、前の操作を選ぶことである。
区間反転を利用したからといって、その後も対称性だけで解こうとする必要はない。
同様に、置換を行った後に部分積分を利用してもよいし、部分積分の途中で別の置換を考えてもよい。
解法は、一つの技法を最初から最後まで使い続けるものとは限らない。
必要な段階で、最も適した方法へ切り替えてよい。
その際、各操作がどのような目的を持っているかを明確にしておくと、計算の見通しを保ちやすくなる。
複雑な積分では、見た目から自然に思いつく方法が、最も効率的な方法とは限らない。
高次の有理関数だから部分分数分解を行う、指数関数が現れたから置換する、関数の積だから部分積分を行うという判断では、全体の構造を見逃す場合がある。
むしろ、一見不自然な原始関数の候補や式変形によって、計算量が大幅に減ることがある。
次の積分を考える。
$$
I=\int
\frac{(x^4-x^3+x^2+x+2)e^{\frac{x}{1+x^2}}}{(1+x^2)^2}
\,dx
$$
被積分関数には、四次式、有理関数、指数関数が同時に現れている。
ここで、
$$
g(x)=\frac{x}{1+x^2}
$$
と考える。
その微分は、
$$
g'(x)=\frac{1-x^2}{(1+x^2)^2}
$$
である。
指数関数の内部の微分因子は、被積分関数に現れる分母と関係している。
しかし、分子は一致しない。
そこで、指数関数だけを原始関数として考えるのではなく、別の関数を掛けた形を候補とする。
$$
F(x)=P(x)e^{g(x)}
$$
微分すると、
$$
F'(x)=e^{g(x)}\{P'(x)+P(x)g'(x)\}
$$
となる。
したがって、求めたい分子に対応するのは、
$$
P'(x)(1+x^2)^2+P(x)(1-x^2)
$$
である。
この式が四次式になるように、多項式の次数を考える。
まず、一次式を候補として、
$$
P(x)=ax+b
$$
と置く。
すると、
$$
P'(x)(1+x^2)^2+P(x)(1-x^2)
$$
$$
=ax^4-ax^3+(2a-b)x^2+ax+(a+b)
$$
となる。
求めたい分子と比較すれば、
$$
a=1,\qquad b=1
$$
である。
よって、
$$
P(x)=x+1
$$
となる。
したがって、
$$
I=(x+1)e^{\frac{x}{1+x^2}}+C
$$
を得る。
この積分では、四次式を直接処理する方法を考えるよりも、原始関数がどのような積になっているかを予測する方が効率的だった。
複雑な原始関数の候補は、最初からその形を思いつく必要はない。
例えば、先ほどの積分なら、次の順番で考えられる。
まず、指数関数は微分しても同じ指数関数を因子に持つ。
したがって、原始関数にも同じ指数関数が現れる可能性を考える。
次に、指数関数だけでは分子が一致しないため、別の関数を掛けることを考える。
さらに、被積分関数が有理関数と指数関数の積なので、その別の関数として多項式や有理関数を候補にできる。
最後に、微分後の次数から候補の形を絞り込む。
このように、候補を一度に思いつくのではなく、被積分関数から必要な条件を逆算し、候補の自由度を段階的に減らしているのである。
解法を比較するときには、途中式が複雑に見えるかどうかだけで判断しない方がよい。
ある操作によって式が一時的に長くなっても、次の操作で大きな相殺が起こるなら、結果として計算は短くなる。
反対に、最初の変形で式が簡単に見えても、その後に複雑な積分が残るなら、効率的とは限らない。
したがって、解法の候補を評価する際には、最初の一手だけでなく、その先にどのような既知形や相殺が現れるかまで考える。
特に、複数の関数が組み合わされた積分では、各部分を個別に処理するよりも、全体を一つの微分構造として捉えた方がよい場合がある。
複雑な式ほど、最初から細かく分解するのではなく、全体を微分したら何が現れるかという方向から考えることが有効になる。
解法の探索は、長く続ければよいというものではない。
複数の候補を考え続ける時間も、積分を解くために必要な時間の一部だからである。
十分に効率的な方法が見つかったなら、より短い解法を探し続けるよりも、計算へ移る方が合理的な場合がある。
一方、計算を始めた後でも、想定以上に複雑になったなら、別の方法へ変更することを考えられる。
重要なのは、探索を終える判断と、現在の方法を変更する判断を区別することである。
ある方法によって、既知の積分へ帰着できることが分かり、残りの計算も十分に少ないなら、その方法を採用できる。
例えば、原始関数の候補を微分するだけで被積分関数と一致するなら、別の置換を探す必要は通常ない。
また、区間反転によって積分値を直接決定できるなら、複雑な原始関数を求める必要もない。
このように、残りの計算が明確で、十分に少ないことを解法確定の判断基準にできる。
ただし、途中に未確認の条件が残っている場合には、その確認も含めて計算量を考える必要がある。
一度選んだ方法でも、計算を進めるうちに不利だと分かる場合がある。
例えば、置換後に高次の有理関数が現れ、多数の係数を決定する必要があると分かったとする。
このとき、元の積分に対して別の対称性や微分構造を利用できそうなら、方法を変更する価値がある。
しかし、高次の有理関数になったという理由だけで、必ず変更するべきではない。
その有理関数が既知の微分形へ容易に帰着できるなら、計算を続ける方が速い。
したがって、切替えを判断する際には、現在の方法で残る計算と、別の方法を探すための時間を比較する必要がある。
逆に、最初に見つかった方法が明らかに長い計算を必要とするなら、すぐに採用しない方がよい場合がある。
例えば、ある置換によって複雑な部分分数分解が必要になる一方、別の変数変換によって分母と分子の一部が相殺されそうなら、後者を検討する価値がある。
特に、複数の異なる関数が一つの積分に現れている場合、それらが独立しているのか、ある共通の変換によって結びついているのかを確認したい。
このような場面では、最初の候補を最後まで計算するよりも、少し探索を続ける方が全体の時間を短縮できることがある。
ただし、よりよい方法が存在することを保証できない場合もある。
そのため、解法を探し続けるかどうかは、現在の方法で必要になる計算と、別の方法が見つかる可能性の両方から判断する。
解法を確定した後は、計算を必要な範囲にとどめ、正確に実行する。
この段階で重要なのは、解法をさらに複雑にしないことである。
例えば、既に合成関数の微分形を認識できているなら、置換をすべて書き下す必要はない場合がある。
また、式を展開せずに比較できるなら、展開によって計算量を増やす必要もない。
次の積分を考える。
$$
I=\int_0^1\frac{4x^3}{(1+x^4)^2}\,dx
$$
ここでは、
$$
\frac{d}{dx}\left(-\frac{1}{1+x^4}\right)
=\frac{4x^3}{(1+x^4)^2}
$$
なので、
$$
I=\left[-\frac{1}{1+x^4}\right]_0^1
$$
$$
=\frac12
$$
となる。
この場合、置換を行ったことをすべて書き下す必要はない。
利用した微分形と、両端の値を代入する計算が分かれば十分である。
ただし、計算を短縮することと、必要な根拠を省略することは異なる。
不定積分では、求めた原始関数を微分すれば、被積分関数と一致するか確認できる。
また、定積分では、積分値の符号や大きさから、明らかな計算ミスを発見できる場合がある。
さらに、複雑な変数変換を利用したときには、積分区間や変数の対応が正しいかを確認する必要がある。
特に注意したいのは、次のような箇所である。
解法を発見するまでに考えたことを、すべて答案に書く必要はない。
候補となる方法を比較したり、途中で方針を変更したりした場合でも、最終的に採用した方法について、その正しさが伝わるだけの根拠を示せばよい。
一方、積分と極限の交換、変数変換の条件、広義積分の収束など、解法の成立に必要な事項は省略できない場合がある。
したがって、答案を短くする際には、単に行数を減らすのではなく、必要な論証を残したまま、不要な記述を取り除くことが重要になる。
解法を探すために必要な思考と、解法の正しさを示すために必要な記述は区別したい。
次の広義積分を求めよ。
$$
I=\int_{-\infty}^{\infty}
\frac{
|x|^3
\left\{\arctan\left(\frac{x^2-1}{x}\right)\right\}^4
}{
(x^4-x^2+1)^{\frac32}
\left\{1+\exp\left(\frac{1-x^2}{x}\right)\right\}
}
\,dx
$$
ただし、積分は $x=0$ で分割して考える。
この積分には、高次の有理式、指数関数、逆正接関数、絶対値が同時に現れている。
まず、それぞれの部分に共通する構造がないか調べる。
逆正接関数の内部は、
$$
\frac{x^2-1}{x}=x-\frac1x
$$
と書ける。
さらに、指数関数の内部は、
$$
\frac{1-x^2}{x}=-\left(x-\frac1x\right)
$$
である。
また、
$$
1+\left(x-\frac1x\right)^2
=\frac{x^4-x^2+1}{x^2}
$$
より、
$$
\frac{|x|^3}{(x^4-x^2+1)^{\frac32}}
=\frac{1}{\left\{1+\left(x-\frac1x\right)^2\right\}^{\frac32}}
$$
となる。
したがって、
$$
h(x)=x-\frac1x
$$
と考えれば、被積分関数の大部分を一つの関数によって表せる。
ここで、
$$
f(t)=\frac{(\arctan t)^4}{(1+t^2)^{\frac32}}
$$
と置けば、
$$
I=\int_{-\infty}^{\infty}
\frac{f(h(x))}{1+e^{-h(x)}}\,dx
$$
となる。
ただし、通常の置換 $t=h(x)$ をそのまま適用しようとしても、微分因子が存在しない。
そこで、置換を実行する前に、対称性を考える。
まず、
$$
h(-x)=-h(x)
$$
である。
また、$f$ は偶関数なので、
$$
f(-t)=f(t)
$$
が成り立つ。
そこで、元の積分に $x\mapsto-x$ を適用すると、
$$
I=\int_{-\infty}^{\infty}
\frac{f(h(x))}{1+e^{h(x)}}\,dx
$$
を得る。
ここで、
$$
\frac{1}{1+e^{-t}}+\frac{1}{1+e^t}=1
$$
であるから、二つの積分を加えると、
$$
2I=\int_{-\infty}^{\infty}f(h(x))\,dx
$$
となる。
指数関数を含む部分が完全に消去された。
残った積分には、
$$
h(x)=x-\frac1x
$$
という構造がある。
ここで、$t=h(x)$ を満たす $x$ を求める。
$$
x^2-tx-1=0
$$
より、
$$
x_{\pm}(t)=\frac{t\pm\sqrt{t^2+4}}2
$$
である。
$x_+(t)$ は正、$x_-(t)$ は負であり、それぞれの枝は $t$ が全実数を動くとき、正または負の半直線全体を動く。
また、
$$
x_+'(t)=\frac12\left(1+\frac{t}{\sqrt{t^2+4}}\right)
$$
$$
x_-'(t)=\frac12\left(1-\frac{t}{\sqrt{t^2+4}}\right)
$$
なので、
$$
x_+'(t)+x_-'(t)=1
$$
となる。
したがって、積分を正負の区間に分け、それぞれの枝で置換すると、
$$
\int_{-\infty}^{\infty}f(h(x))\,dx
=\int_{-\infty}^{\infty}
f(t)\{x_+'(t)+x_-'(t)\}\,dt
$$
$$
=\int_{-\infty}^{\infty}f(t)\,dt
$$
となる。
ここで、$f(t)=O(|t|^{-3})$ であるため、積分は絶対収束する。したがって、以上の変数変換は正当化される。
これはGlasserのマスター定理の特別な場合であり、ここでは初等的な変数変換によって導いた。
よって、
$$
2I=\int_{-\infty}^{\infty}
\frac{(\arctan t)^4}{(1+t^2)^{\frac32}}\,dt
$$
を得る。
最後に、
$$
t=\tan\theta
$$
と置く。
このとき、
$$
-\frac{\pi}{2}<\theta<\frac{\pi}{2}
$$
であり、
$$
\frac{dt}{(1+t^2)^{\frac32}}
=\cos\theta\,d\theta
$$
となる。
したがって、
$$
2I=\int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}}
\theta^4\cos\theta\,d\theta
$$
である。
被積分関数は偶関数なので、
$$
I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\theta^4\cos\theta\,d\theta
$$
となる。
多項式と三角関数の積であるから、部分積分によって処理できる。
原始関数の候補を直接構成すると、
$$
F(\theta)=
(\theta^4-12\theta^2+24)\sin\theta
+(4\theta^3-24\theta)\cos\theta
$$
となる。
実際、
$$
F'(\theta)=\theta^4\cos\theta
$$
である。
したがって、
$$
I=\left[
(\theta^4-12\theta^2+24)\sin\theta
+(4\theta^3-24\theta)\cos\theta
\right]_0^{\frac{\pi}{2}}
$$
より、
$$
I=\frac{\pi^4}{16}-3\pi^2+24
$$
を得る。
この問題で重要だったのは、個々の関数を直接積分しなかったことである。
指数関数を処理しようとして置換を考えても、高次の有理式と逆正接関数が残る。
また、最初から $t=x-\frac1x$ と置換しようとしても、微分因子が不足するため、通常の置換としては簡単にならない。
一方、共通する関数 $h(x)$ を認識すれば、対称性によって指数関数を消去できることが分かる。
さらに、通常の一対一の置換が難しいことから、逆関数の二つの枝を利用する方法へ発想を切り替えられる。
こうして、
$$
\text{共通構造の認識}
\longrightarrow
\text{対称性}
\longrightarrow
\text{積分変換}
\longrightarrow
\text{部分積分}
$$
という経路を設計できる。
各操作が次の操作に必要な形を作っていることが、この解法の特徴である。
次の定積分を求めよ。
$$
I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}
\frac{
x|\cos2x|
\left\{1+2\ln^2(2-\sin2x)\right\}
}{
(2-\sin2x)\sqrt{1+\ln^2(2-\sin2x)}
}
\,dx
$$
被積分関数には、変数 $x$、絶対値、三角関数、対数関数、平方根が現れている。
これらを個別に処理することも考えられるが、最初にどの構造を簡単にするべきかを考える。
まず、積分区間が、
$$
0\leq x\leq\frac{\pi}{2}
$$
であることに注目する。
区間反転、
$$
x\longmapsto\frac{\pi}{2}-x
$$
を考えると、
$$
\sin\left(2\left(\frac{\pi}{2}-x\right)\right)=\sin2x
$$
$$
\left|\cos\left(2\left(\frac{\pi}{2}-x\right)\right)\right|
=|\cos2x|
$$
となる。
したがって、被積分関数のうち、$x$ 以外の部分は区間反転によって変化しない。
そこで、
$$
f(x)=
\frac{
|\cos2x|\left\{1+2\ln^2(2-\sin2x)\right\}
}{
(2-\sin2x)\sqrt{1+\ln^2(2-\sin2x)}
}
$$
と置けば、
$$
f\left(\frac{\pi}{2}-x\right)=f(x)
$$
である。
したがって、
$$
I=\int_0^{\frac{\pi}{2}}
\left(\frac{\pi}{2}-x\right)f(x)\,dx
$$
となる。
元の積分と加えると、
$$
2I=\frac{\pi}{2}\int_0^{\frac{\pi}{2}}f(x)\,dx
$$
なので、
$$
I=\frac{\pi}{4}\int_0^{\frac{\pi}{2}}f(x)\,dx
$$
を得る。
変数 $x$ が被積分関数から消えた。
残った式について、
$$
2-\sin2x
$$
という部分に注目する。
ここで、
$$
(\sin x-\cos x)^2
=1-\sin2x
$$
なので、
$$
2-\sin2x=1+(\sin x-\cos x)^2
$$
である。
また、
$$
|\cos2x|
=|\cos x-\sin x|(\cos x+\sin x)
$$
が、積分区間全体で成り立つ。
したがって、
$$
t=\sin x-\cos x
$$
と置くことを考えられる。
このとき、
$$
dt=(\cos x+\sin x)\,dx
$$
であり、
$$
|\cos2x|\,dx=|t|\,dt
$$
となる。
積分区間は、
$$
x=0\longmapsto t=-1
$$
$$
x=\frac{\pi}{2}\longmapsto t=1
$$
である。
したがって、
$$
I=\frac{\pi}{4}\int_{-1}^{1}
\frac{
|t|\{1+2\ln^2(1+t^2)\}
}{
(1+t^2)\sqrt{1+\ln^2(1+t^2)}
}
\,dt
$$
となる。
被積分関数は偶関数なので、
$$
I=\frac{\pi}{2}\int_0^1
\frac{
t\{1+2\ln^2(1+t^2)\}
}{
(1+t^2)\sqrt{1+\ln^2(1+t^2)}
}
\,dt
$$
を得る。
ここで、対数関数の内部を微分すると、
$$
\frac{d}{dt}\ln(1+t^2)=\frac{2t}{1+t^2}
$$
となる。
よって、
$$
u=\ln(1+t^2)
$$
と置けば、
$$
I=\frac{\pi}{4}\int_0^{\ln2}
\frac{1+2u^2}{\sqrt{1+u^2}}\,du
$$
となる。
残った積分では、分母に平方根が現れている。
その内部は、
$$
1+u^2
$$
なので、
$$
\sqrt{1+u^2}
$$
を含む原始関数を考える。
ここで、平方根に変数を掛けた関数を微分すると、
$$
\frac{d}{du}\left\{u\sqrt{1+u^2}\right\}
=\sqrt{1+u^2}+\frac{u^2}{\sqrt{1+u^2}}
$$
となる。
通分すれば、
$$
\frac{d}{du}\left\{u\sqrt{1+u^2}\right\}
=\frac{1+2u^2}{\sqrt{1+u^2}}
$$
であり、被積分関数と一致する。
したがって、
$$
I=\frac{\pi}{4}
\left[u\sqrt{1+u^2}\right]_0^{\ln2}
$$
より、
$$
I=\frac{\pi}{4}\ln2\sqrt{1+\ln^22}
$$
を得る。
この問題では、最初から対数関数の内部を置換しようとしても、$x|\cos2x|$ という因子が残るため、簡単な積分にならない。
また、変数 $x$ が掛けられていることから部分積分を考えることもできるが、もう一方の因子の原始関数を求める必要があり、計算量が増える。
そこで、まず区間反転によって変数 $x$ を消去した。
次に、
$$
2-\sin2x=1+(\sin x-\cos x)^2
$$
という関係と、
$$
|\cos2x|
=|\sin x-\cos x|(\sin x+\cos x)
$$
という関係を組み合わせ、置換によって三角関数を取り除いた。
さらに、対数関数の内部の微分因子を利用して、最後の積分を簡単な代数関数へ帰着させた。
ここで、平方根を含む積分だからといって、さらに三角置換を行う必要はない。
積の微分を考えれば、原始関数を直接予測できるからである。
したがって、
$$
\text{区間反転}
\longrightarrow
\text{三角恒等式と絶対値}
\longrightarrow
\text{置換}
\longrightarrow
\text{原始関数の直接予測}
$$
という順序で処理できる。
この問題の重要な点は、複数の方法が利用可能であっても、その順序を誤ると不要な計算が残ることである。
また、最後に平方根を含む積分へ帰着した時点で、さらに置換を続けるのではなく、原始関数の形を考えることも重要になる。
どの操作を使うかだけでなく、どこでその操作を終え、次の方法へ移るかまで含めて解法を設計している。
積分の解法設計では、問題に含まれる構造から候補となる方法を発見し、それぞれの方法によって何が起こるかを予測する。
さらに、各操作の順序や組み合わせを考えることで、必要な計算量を大幅に減らせる場合がある。
重要なのは、解ける方法を一つ見つけることではない。
問題の構造を理解し、必要な技法を適切な順序で組み合わせ、正確な答えへ効率よく到達できる解法を設計することである。
ここでは、INTEGRALISの過去問を用いて、実際の問題に対する解法設計を考える。
重要なのは、示された解法を覚えることではない。
問題を見たときに何を認識し、どのような方法を候補に挙げ、なぜその解法を選ぶのかを考えてほしい。
各問題では、まず自分で解法を検討してから、解法設計と解答を確認することを勧める。
INTEGRALIS BASIC — Difficulty 3
Integral Basic Contest #18 / Problem C
作問:ri_ruru07
$$
I=\int_0^\infty\frac{x\ln x}{(1+x^2)^2}\,dx
$$
この積分には対数関数と有理関数が現れている。
部分積分を行うことも考えられるが、まず積分区間に注目する。
積分区間は0から無限大であり、分母は $1+x^2$ の二乗である。
ここから、
$$
x\longmapsto\frac1x
$$
という変換を考えられる。
この変換では、
$$
\ln\frac1x=-\ln x
$$
となる。
一方、有理関数の部分がどう変化するかを確認すると、
$$
\frac{\frac1x}{\left(1+\frac1{x^2}\right)^2}
\frac1{x^2}
=\frac{x}{(1+x^2)^2}
$$
となる。
つまり、有理関数の部分は積分の変数変換に伴う微分因子まで含めて元の形に戻り、対数関数だけが符号を変える。
したがって、元の積分と変換後の積分を比較すれば、積分値を決定できる。
$$
x=\frac1t
$$
と置くと、
$$
dx=-\frac1{t^2}\,dt
$$
であるから、
$$
I=-\int_0^\infty\frac{t\ln t}{(1+t^2)^2}\,dt
$$
となる。
よって、
$$
I=-I
$$
より、
$$
I=0
$$
を得る。
なお、被積分関数は0の近くで $O(x|\ln x|)$、無限大で $O(\ln x/x^3)$ となるため、広義積分は絶対収束する。
この問題では、部分積分によって原始関数を求めることも可能である。
しかし、積分値だけが必要なので、逆数変換によって積分全体の符号が反転することを利用した方が早い。
原始関数を求められることと、求める必要があることは異なる。
INTEGRALIS BASIC — Difficulty 4
Integral Basic Contest #8 / Problem C
作問:nekoyanag_green
$$
I=\int_0^{\frac{\pi}{6}}\frac{1}{1+2\sin^2x}\,dx
$$
分母には $\sin^2x$ が現れている。
三角関数の二乗を含むため、半角公式によって式を変形する方法も考えられる。
しかし、分母を $\cos^2x$ で割ると、
$$
1+2\sin^2x
=\cos^2x(1+3\tan^2x)
$$
となる。
さらに、
$$
\frac{dx}{\cos^2x}=d(\tan x)
$$
である。
したがって、正接関数を置換すれば、有理関数の積分へ直接帰着できる。
ここで重要なのは、三角関数の二乗が現れたから正接置換を選んだのではないことである。
分母を整理した結果、微分因子までそろうことが予測できたため、その置換を選んでいる。
$$
t=\tan x
$$
と置くと、
$$
I=\int_0^{\frac1{\sqrt3}}\frac{1}{1+3t^2}\,dt
$$
となる。
したがって、
$$
I=\left[\frac1{\sqrt3}\arctan(\sqrt3t)\right]_0^{\frac1{\sqrt3}}
$$
より、
$$
I=\frac{\pi}{4\sqrt3}
$$
を得る。
置換の候補を考える際には、置換後の式だけでなく、微分因子まで確認する必要がある。
分母の一部分だけが簡単になっても、ほかの部分が複雑になれば有効な置換とは限らない。
この問題では、置換後に逆正接関数の微分形へ直接帰着できることを見通せた点が重要である。
INTEGRALIS BASIC — Difficulty 5
Integral For Highschool Student #6 / Problem D
作問:ri_ruru07
$$
I=\int_0^1\sqrt{1+4x(1-x)}\,dx
$$
根号の内部には、
$$
x(1-x)
$$
という式が現れている。
この式は、
$$
x\longmapsto1-x
$$
によって変化しない。
また、
$$
4x(1-x)=1-(2x-1)^2
$$
であるから、
$$
1+4x(1-x)=2-(2x-1)^2
$$
となる。
したがって、積分区間の中心を原点へ移す置換を考えれば、平方根の内部を二次式の差として扱える。
ここでは、根号を取り除くことだけを目的に置換を選ぶのではない。
積分区間の対称性と根号の内部の構造が同時に簡単になる置換を選んでいる。
$$
t=2x-1
$$
と置くと、
$$
I=\frac12\int_{-1}^{1}\sqrt{2-t^2}\,dt
$$
となる。
被積分関数は偶関数なので、
$$
I=\int_0^1\sqrt{2-t^2}\,dt
$$
である。
ここで、
$$
t=\sqrt2\sin\theta
$$
と置けば、
$$
I=2\int_0^{\frac{\pi}{4}}\cos^2\theta\,d\theta
$$
となる。
よって、
$$
I=\int_0^{\frac{\pi}{4}}(1+\cos2\theta)\,d\theta
$$
$$
=\frac{\pi}{4}+\frac12
$$
を得る。
根号を含む積分では、すぐに三角置換を始める必要はない。
この問題では、最初に区間の中心を利用して式を整理することで、後の三角置換が簡単になった。
複数の操作が必要な場合には、後の操作が有効になるように、前の操作を選ぶことが重要である。
INTEGRALIS BASIC — Difficulty 6
Integral Basic Contest #9 / Problem E
作問:ri_ruru07
$$
I=\int_0^{\frac{\pi}{4}}
\frac{e^x(2+\sin2x)}
{2\cos^2x+2e^{2x}\sin^2x}
\,dx
$$
分母には、指数関数と三角関数の平方が現れている。
ここで、
$$
2\cos^2x+2e^{2x}\sin^2x
=2\cos^2x(1+e^{2x}\tan^2x)
$$
と変形できる。
この形から、逆正接関数の微分形を考えられる。
そこで、
$$
g(x)=e^x\tan x
$$
と予測する。
このとき、
$$
g'(x)=e^x\tan x+\frac{e^x}{\cos^2x}
$$
である。
分母をそろえると、
$$
g'(x)=\frac{e^x(1+\sin x\cos x)}{\cos^2x}
$$
となる。
一方、
$$
2+\sin2x=2(1+\sin x\cos x)
$$
なので、被積分関数の分子とも対応する。
したがって、逆正接関数の微分形が完全に現れていることが分かる。
$$
g(x)=e^x\tan x
$$
とすると、
$$
\frac{g'(x)}{1+g(x)^2}
=
\frac{e^x(2+\sin2x)}
{2\cos^2x+2e^{2x}\sin^2x}
$$
である。
したがって、
$$
I=\left[\arctan(e^x\tan x)\right]_0^{\frac{\pi}{4}}
$$
より、
$$
I=\arctan(e^{\frac{\pi}{4}})
$$
を得る。
この問題では、指数関数と三角関数を別々に処理する必要はなかった。
分母を平方の和として捉え、逆正接関数の内部を予測することで、複雑な被積分関数を一つの微分構造として扱えた。
被積分関数が複雑でも、原始関数の形が複雑とは限らない。
INTEGRALIS BASIC — Difficulty 7
Integral Basic Contest Expert #4 / Problem A
作問:sakumonjp
$$
I=\int_1^\pi
\frac{
e^x\{(x-x^2)\ln x\cos x-x^2\ln x\sin x-(1-x)\sin x\}
}{
x(\ln x)^2
}
\,dx
$$
ただし、下端は右側からの極限として扱う。
分母には、
$$
x(\ln x)^2
$$
という式が現れている。
このことから、
$$
\frac{1}{\ln x}
$$
を含む商の微分を考えられる。
また、分子には、
$$
e^x,\qquad \sin x,\qquad \cos x
$$
が組み合わされている。
さらに、$1-x$ という因子も現れている。
そこで、これらを一つの積としてまとめた原始関数を予測する。
$$
F(x)=\frac{e^x(1-x)\sin x}{\ln x}
$$
この候補を微分すると、積の微分と商の微分によって、分子に現れる各項が同時に生成される。
$$
F(x)=\frac{e^x(1-x)\sin x}{\ln x}
$$
とすると、
$$
F'(x)=
\frac{
e^x\{(x-x^2)\ln x\cos x-x^2\ln x\sin x-(1-x)\sin x\}
}{
x(\ln x)^2
}
$$
である。
したがって、
$$
I=\lim_{a\to1+}\{F(\pi)-F(a)\}
$$
となる。
ここで、
$$
F(\pi)=0
$$
である。
また、
$$
\lim_{x\to1+}\frac{1-x}{\ln x}=-1
$$
より、
$$
\lim_{x\to1+}F(x)=-e\sin1
$$
となる。
したがって、
$$
I=e\sin1
$$
を得る。
この問題では、複雑な分子を展開して個別に積分する方法は有効ではない。
分母の構造から原始関数に必要な因子を予測し、分子の各項を積の微分によって説明する方が効率的である。
また、下端で $\ln x=0$ となるため、原始関数の式に直接代入することはできない。
原始関数を発見する判断と、積分端点を正しく評価する判断の両方が必要になる。
INTEGRALIS BASIC — Difficulty 8
Integral Basic Contest Expert #3 / Problem B
作問:sakumonjp
$$
I=\int_{\frac{\pi}{4}}^{\frac{5\pi}{4}}
e^x\ln x(2x\sin x+\sin x-\cos x)\,dx
$$
被積分関数には対数関数が掛けられている。
したがって、対数関数を微分する部分積分が候補になる。
しかし、すぐに部分積分を実行する必要はない。
まず、対数関数を除いた部分が何を微分した結果なのかを考える。
$$
e^x(2x\sin x+\sin x-\cos x)
$$
には、指数関数と三角関数、多項式が現れている。
ここで、
$$
G(x)=xe^x(\sin x-\cos x)
$$
を考える。
微分すると、
$$
G'(x)=e^x(2x\sin x+\sin x-\cos x)
$$
となる。
したがって、元の積分は、
$$
I=\int_{\frac{\pi}{4}}^{\frac{5\pi}{4}}\ln x\,G'(x)\,dx
$$
と表せる。
部分積分によって残る積分も、
$$
\frac{G(x)}x=e^x(\sin x-\cos x)
$$
となり、容易に処理できる。
さらに、
$$
\sin\frac{\pi}{4}-\cos\frac{\pi}{4}=0
$$
$$
\sin\frac{5\pi}{4}-\cos\frac{5\pi}{4}=0
$$
なので、部分積分の境界項が消えることまで予測できる。
部分積分より、
$$
I=\left[\ln x\,G(x)\right]_{\frac{\pi}{4}}^{\frac{5\pi}{4}}
-\int_{\frac{\pi}{4}}^{\frac{5\pi}{4}}\frac{G(x)}x\,dx
$$
となる。
境界項は0なので、
$$
I=-\int_{\frac{\pi}{4}}^{\frac{5\pi}{4}}
e^x(\sin x-\cos x)\,dx
$$
である。
ここで、
$$
\frac{d}{dx}(-e^x\cos x)
=e^x(\sin x-\cos x)
$$
なので、
$$
I=\left[e^x\cos x\right]_{\frac{\pi}{4}}^{\frac{5\pi}{4}}
$$
となる。
したがって、
$$
I=-\frac{e^{\frac{5\pi}{4}}+e^{\frac{\pi}{4}}}{\sqrt2}
$$
を得る。
この問題では、対数関数を微分する部分積分が有効だった。
しかし、部分積分の前に、それ以外の部分を何の微分として扱うかを考える必要がある。
さらに、積分区間の両端でどの因子が0になるかを調べることで、境界項の計算も省略できた。
部分積分を使うかどうかだけでなく、何を一つの関数として扱い、結果としてどの項が残るかまで予測している。
INTEGRALIS BASIC — Difficulty 8
Integral Basic Contest Expert #1 / Problem C
作問:dragoemon
$$
I=\int_0^{2\pi}
\max\{
|5\cos x+\sin x|,
|2\cos x+5\sin x|,
|-3\cos x+4\sin x|
\}\,dx
$$
被積分関数には、三つの三角関数の一次結合の絶対値が現れている。
これらの大小を比較し、区間を細かく分割することも可能である。
しかし、場合分けが多くなることが予想される。
そこで、三角関数の一次結合をベクトルの内積として捉える。
$$
u(x)=(\cos x,\sin x)
$$
と置く。
また、
$$
v_1=(5,1),\qquad
v_2=(2,5),\qquad
v_3=(-3,4)
$$
とする。
すると、被積分関数は、
$$
\max_{1\leq k\leq3}|v_k\cdot u(x)|
$$
となる。
これは、六つの点、
$$
\pm v_1,\qquad\pm v_2,\qquad\pm v_3
$$
の凸包を考えたとき、方向 $u(x)$ に対する支持関数である。
つまり、この積分は三角関数の計算ではなく、平面図形の問題として解釈できる。
六つの点を順に並べると、
$$
(5,1),\quad(2,5),\quad(-3,4),
$$
$$
(-5,-1),\quad(-2,-5),\quad(3,-4)
$$
となる。
これらは、この順に凸六角形の頂点をなす。
隣接する三辺の長さは、
$$
\sqrt{(5-2)^2+(1-5)^2}=5
$$
$$
\sqrt{(2+3)^2+(5-4)^2}=\sqrt{26}
$$
$$
\sqrt{(-3+5)^2+(4+1)^2}=\sqrt{29}
$$
である。
六角形は原点について中心対称なので、残りの三辺も同じ長さになる。
したがって、その周長は、
$$
L=2(5+\sqrt{26}+\sqrt{29})
$$
となる。
ここで、凸多角形の方向 $u(x)$ への支持関数を $h(x)$、同じ方向への射影の幅を $w(x)$ とすると、中心対称性から、
$$
w(x)=2h(x)
$$
である。
また、凸多角形の各辺を $e_1,\ldots,e_6$ とすると、射影の全変動が幅の2倍になるため、
$$
2w(x)=\sum_{k=1}^{6}|e_k\cdot u(x)|
$$
が成り立つ。
これを $0\leq x\leq\pi$ で積分すると、
$$
\int_0^\pi w(x)\,dx
=\frac12\sum_{k=1}^{6}
\int_0^\pi|e_k\cdot u(x)|\,dx
$$
となる。
各辺について、
$$
\int_0^\pi|e_k\cdot u(x)|\,dx=2|e_k|
$$
なので、
$$
\int_0^\pi w(x)\,dx=L
$$
を得る。
一方、$h(x+\pi)=h(x)$ であるから、
$$
I=\int_0^{2\pi}h(x)\,dx
=\int_0^\pi w(x)\,dx
$$
となる。
したがって、
$$
I=2(5+\sqrt{26}+\sqrt{29})
$$
を得る。
この問題では、絶対値を外して場合分けを進めれば、計算できないわけではない。
しかし、三角関数の一次結合を内積として認識すれば、被積分関数全体が一つの幾何学的な意味を持つことが分かる。
その結果、複数の三角関数の大小比較を行わずに、六角形の周長だけから積分値を決定できた。
積分の構造を別の数学的対象として解釈することで、計算そのものを置き換えるという発想が重要になる。
INTEGRALIS BASIC — Difficulty 10
Integral Basic Contest Expert #1 / Problem D
作問:ri_ruru07
$$
I=\int_0^1
\frac{\sqrt{x(1-x)}}{x^2+x+1}\,dx
$$
分子には、
$$
\sqrt{x(1-x)}
$$
が現れている。
この形から、
$$
x=\frac{1+\cos\theta}{2}
$$
という置換を考えられる。
この置換では、平方根が正弦関数になり、積分区間も簡単に変換される。
ただし、三角置換を行うだけでは積分は終わらない。
重要なのは、その後に現れる三角関数の有理式を、どのような形へ変形するかである。
$$
x=\frac{1+\cos\theta}{2}
$$
と置けば、
$$
\sqrt{x(1-x)}=\frac{\sin\theta}{2}
$$
となる。ただし、$0\leq\theta\leq\pi$ で考える。
また、
$$
dx=-\frac{\sin\theta}{2}\,d\theta
$$
である。
したがって、
$$
I=\int_0^\pi
\frac{\sin^2\theta}{\cos^2\theta+4\cos\theta+7}\,d\theta
$$
となる。
ここで、分子と分母の関係を調べる。
$$
1-\cos^2\theta
=-(\cos^2\theta+4\cos\theta+7)
+4(\cos\theta+2)
$$
なので、
$$
I=-\pi+
4\int_0^\pi
\frac{\cos\theta+2}
{(\cos\theta+2)^2+3}\,d\theta
$$
を得る。
この変形によって、分母に平方の和が現れた。
しかし、分子は分母の微分因子ではないため、ここで直接逆正接関数へ帰着させることはできない。
そこで、三角関数を有理化する。
$$
t=\tan\frac{\theta}{2}
$$
と置く。
このとき、
$$
\cos\theta=\frac{1-t^2}{1+t^2}
$$
$$
d\theta=\frac{2}{1+t^2}\,dt
$$
なので、
$$
I=-\pi+
2\int_0^\infty
\frac{t^2+3}{t^4+3t^2+3}\,dt
$$
となる。
ここで、四次式を直接因数分解する方法も考えられる。
しかし、分母は偶関数であり、積分区間は0から無限大である。
そのため、逆数変換によって分子の $t^2$ と定数項を関係づけられる可能性がある。
そこで、
$$
t=3^{\frac14}u
$$
と置く。
すると、
$$
I=-\pi+
2\cdot3^{\frac14}
\int_0^\infty
\frac{1+\frac{u^2}{\sqrt3}}
{u^4+\sqrt3u^2+1}\,du
$$
となる。
一般に、
$$
J(a)=\int_0^\infty
\frac{1}{u^4+au^2+1}\,du
$$
とする。ただし、$a>-2$ とする。
ここで、
$$
u\longmapsto\frac1u
$$
と変換すると、
$$
J(a)=\int_0^\infty
\frac{u^2}{u^4+au^2+1}\,du
$$
を得る。
したがって、
$$
2J(a)=\int_0^\infty
\frac{1+u^2}{u^4+au^2+1}\,du
$$
である。
ここで、
$$
v=u-\frac1u
$$
と置く。
すると、
$$
dv=\left(1+\frac1{u^2}\right)du
$$
であり、
$$
u^4+au^2+1
=u^2\{v^2+a+2\}
$$
となる。
したがって、
$$
2J(a)=\int_{-\infty}^{\infty}
\frac{1}{v^2+a+2}\,dv
$$
$$
=\frac{\pi}{\sqrt{a+2}}
$$
を得る。
よって、
$$
J(a)=\frac{\pi}{2\sqrt{a+2}}
$$
である。
先ほどの積分に戻る。
逆数変換によって、
$$
\int_0^\infty
\frac{u^2}{u^4+\sqrt3u^2+1}\,du
=J(\sqrt3)
$$
である。
したがって、
$$
I=-\pi+
2\cdot3^{\frac14}
\left(1+\frac1{\sqrt3}\right)J(\sqrt3)
$$
となる。
ここで、
$$
J(\sqrt3)=\frac{\pi}{2\sqrt{2+\sqrt3}}
$$
なので、
$$
I=\pi\left\{
\frac{3^{\frac14}\left(1+\frac1{\sqrt3}\right)}
{\sqrt{2+\sqrt3}}-1
\right\}
$$
となる。
整理すれば、
$$
I=\pi\left(\sqrt{\frac{2}{\sqrt3}}-1\right)
$$
を得る。
この問題では、最初の三角置換だけでは計算を完了できない。
また、半角置換によって有理関数へ帰着した後も、四次式をそのまま因数分解して進める必要はなかった。
分母の対称性と積分区間の形から逆数変換を考えることで、分子の異なる項を同じ積分として扱えた。
さらに、
$$
u-\frac1u
$$
という置換を利用することで、四次式の積分を二次式の積分へ帰着させた。
この問題で重要なのは、一つの置換を思いつくことではない。
ある操作によって現れた式から、次に利用できる構造を認識し、複数の変換を順に組み立てることである。
これらの問題では、解法を選ぶ際の判断がそれぞれ異なる。
ある問題では対称性によって原始関数が不要になり、別の問題では原始関数を直接予測することで置換や部分積分の計算を省略できる。
また、複雑な積分では、一つの操作だけでは十分でなく、複数の変換を適切な順序で組み合わせる必要がある。
解法を発見する際には、最初に思いついた方法をすぐに実行するのではなく、その方法によって何が簡単になり、どのような計算が残るかを予測したい。
問題に含まれる構造を見極め、利用できる方法を比較し、最も効率的な経路を組み立てることが、実践的な解法設計の中心となる。