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高校数学解説
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和算・源氏香からクラウゼン・フォンシュタウトの定理へ

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はじめに

 この記事は  第32回日曜数学会 での発表内容に加筆したものです。

 この記事では最初に関・ベルヌーイ数の分母についての法則について説明してから、源氏香の話をします。

 関・ベルヌーイ数と源氏香。何の関係もないように思われるでしょうが、源氏香の話から、ベル数・スターリング数の話を経て、最後に関・ベルヌーイ数の法則の証明につながる構成になっています。

 記事のタイトルの「クラウゼン・フォンシュタウトの定理」は、最後の証明のところで出てきます。

ややボリュームはありますが、なるべく平易な説明をしたいと思いますのでお付き合いいただければと思います。

 なお、この記事では整数の集合を Z で、素数の集合を P で表します。
 また、二項係数を (nk) で表します。
 つまり、
  (nk)=nCk
ということです。

関・ベルヌーイ数

 関・ベルヌーイ数は、べき乗和の公式を二項係数を使って表したときに、係数に表れる数列です。日本では関孝和が、スイスではヤコブ・ベルヌーイが、ほぼ同時期に独立して発見したと言われています。

 具体的に見てみましょう。次の式の赤い部分が関・ベルヌーイ数です。

10+20+30++n0=11(10)1n

11+21+31++n1=12((20)1n2+(21)12n1)

12+22+32++n2=13((30)1n3+(31)12n2+(32)16n1)

13+23+33++n3=14((40)1n4+(41)12n3+(42)16n2+(43)0n1)

14+24+34++n4=15((50)1n5+(51)12n4+(52)16n3+(53)0n2+(54)(130)n1)

1k+2k+3k++nk=1k+1j=0k(k+1j)Bjnkj+1

B0B1B2B3B4B5B6B7B8B9B10
112160130014201300566
B11B12B13B14B15B16B17B18B19B20
06912730076036175100438677980174611330
B11212

 関・ベルヌーイ数については、定義の仕方により 12 とする場合と 12 とする場合があります。この記事では、上記のべき乗和の式から定義するため、 12 とする立場を採用しています。

なぜべき乗の数が増えると公式に新しい関・ベルヌーイ数が現れるのか

 なぜべき乗の数が増えると公式に新しい関・ベルヌーイ数が次々と現れるのでしょうか。それを考えるために、 m1 番目までの関・ベルヌーイ数がわかっているときに、積分を使って m 番目の関・ベルヌーイ数を求める操作を説明します。

 説明しやすくするために、 n までの自然数の m 乗和を Sm(n) で表すことにします。

   Sm(n):=1m+2m+3m++nm

 先ほどの式を使うとこうなります。

  Sm(n)=1m+1j=0m(m+1j)Bjnmj+1

 nx に置き換えた式を考えます。

  Sm(x)=1m+1j=0m(m+1j)Bjxmj+1

 ここでちょっと飛躍しますが、Sm(x) を この式の右辺で定義される x の関数だと思うことにします。
 また、x が整数でない場合も定義域に含む関数だと考えます。

 このとき、xm1=Sm1(x)Sm1(x1) が必ず成り立ちます。

 x が自然数のときに成り立つことは自明だと思います。
 自然数でないときについても、x=1,2, と順に代入していけば、多項式の係数について次数以上の連立方程式を作ることができるので、必ず成り立つことが分かります。

 言い換えると、xm1=Sm1(x)Sm1(x1) は恒等式になっているということです。

 次に、mSm1(x) を積分しててできる原始関数のうち積分定数 0 のものを Fm(x) とします。

 Sm(x)x の次数は必ず 1 以上ですから、Fm(x)x の次数は必ず 2 以上になります。

  Fm(x)=mSm1(x)dx(積分定数は0)=j=0m11mj+1(mj)Bjxmj+1=1m+1j=0m1m+1mj+1(mj)Bjxmj+1=1m+1j=0m1(m+1j)Bjxmj+1

 次に、

  xm1=Sm1(x)Sm1(x1)

ですから、

  xm1Sm1(x)+Sm1(x1)=0

です。
 この式の左辺を m 倍してから積分します。

   (mxm1mSm1(x)+mSm1(x1))dx=xmFm(x)+Fm(x1)+C

 C は積分定数です。
 ここで積分前の式をみると、x の多項式のように見えますが、展開すると 0 になる式ですので、積分した後の式を展開したら 1 次以上の項はすべて打ち消しあって、定数項のみが残り、定数関数の形になるはずです。

 そこで、 Cm=xmFm(x)+Fm(x1) で定義される定数 Cm を導入すれば、

  xm=Fm(x)Fm(x1)+Cm

 とすることができます。
 これは x についての恒等式であることに注意してください。

 xm について x=1,2,3,,n の和を取ると望遠鏡和になって

   k=1nxm=k=1n(Fm(x)Fm(x1)+Cm)=Fm(n)Fm(0)+Cmn=Fm(n)+Cmn

 勘のいい方は、ここで出てきた定数 Cm が関・ベルヌーイ数の正体だと気が付いたかもしれませんが、もう少し計算を進めてみましょう。式の左辺を Sm(n) に書き換え、

  Fm(x)=1m+1j=0m1(m+1j)Bjxmj+1

を使ってさらに書き換えると

   Sm(n)=1m+1j=0m1(m+1j)Bjnmj+1+Cmn

この式を、最初の式

    Sm(n)=1m+1j=0m(m+1j)Bjnmj+1

と見比べてみましょう。Bm=Cm となっていますね。

 べき乗の数が増えてくると新たな関・ベルヌーイ数が次々と現れてくるのは、 n1 乗和の式を積分して n 乗和の式を導出するときに、新しい定数が次々と現れるから、ということが分かると思います。

関・ベルヌーイ数の法則

B0B1B2B3B4B5B6B7B8B9B10
112160130014201300566
B11B12B13B14B15B16B17B18B19B20
06912730076036175100438677980174611330

 関・ベルヌーイ数にはいくつかの法則があります。
・ 奇数番目の関・ベルヌーイ数は B1 を除いて 0 である。
・ 偶数番目の関・ベルヌーイ数は B0 を除いて符号が交互に入れ替わる。
ということには、すぐに気が付くかもしれません。
実はほかにも、ぱっと見では気づかない面白い法則があります。

n2468101214161820
Bn16130142130566691273076361751043867798174611330
分母63042306627306510798330
素因数分解23235237235231123571323235172371923511
n の正の約数1,21,2,41,2,3,61,2,4,81,2,5,101,2,3,4,6,121,2,7,141,2,4,8,161,2,3,6,9,181,2,4,5,10,20
n の正の約数 +12,32,3,52,3,4,72,3,5,92,3,6,112,3,4,5,7,132,3,8,152,3,5,9,172,3,4,7,10,192,3,5,6,11,21
n の正の約数 +1 かつ素数2,32,3,52,3,72,3,52,3,112,3,5,7,132,32,3,5,172,3,7,192,3,5,11

 今回ご紹介するのは偶数番目の関・ベルヌーイ数の分母についての法則です。
 n 番目の関・ベルヌーイ数の分母は、「n の正の約数に 1 を足した数のうち素数であるもの」の積になるのです!

 n が偶数のとき、n 番目の関・ベルヌーイ数の(既約分数の)分母は、「n の正の約数に 1 を足した数のうち素数であるもの」の積になる。

  B12 の分母は 2730=2×3×5×7×13
  12 の正の約数は 1,2,3,4,6,12
  それらに 1 を足した数のうち素数は 2,3,5,7,13

 この記事の最後で、この事実を証明する予定です。
 いったん和算の話に移りますが、最後にちゃんとこの話につながりますのでしばらくおつきあいください。

和算・源氏香からクラウゼン・フォンシュタウトの定理へ

源氏香

 源氏香とは、5 つの香木を炷いて(「たいて」と読みます。)、そのうち同じ香りものがあるかないかを判断し、どのくらいあっていたかを競い合う上流階級の遊びでした。江戸時代には和算家がこれを「 n 種類の香木」に一般化して研究しました。そして、ベル数、スターリング数、関・ベルヌーイ数にあたる数列を次々と発見していきました。

 どんな遊びなのかもう少し詳しく説明しましょう。
 プレイヤーはまず縦に 5 本の線を引きます。それからゲームマスターが 5 つの香木を炷くのですが、説明の都合上、順に A,B,C,D,E と名前をつけます。

 プレイヤーが引いた 5 本の線は右から順に A,B,C,D,E に対応します。プレイヤーはゲームマスターが炷いた香りを聞きます(誤字ではありません。香は「嗅ぐ」ではなく「聞く」ものなのです。) 。

 そして、同じ香りのものがあったと思ったときは、対応する線を横線でつなぎます。

 このとき、5 つとも同じ香りのときもあれば、全部違う香りのときもあります。A,C,D,E4 つが同じ香りのときだとか、A,DC,E2 組が同じ香りのときもあります。同じ香りの組が 2 組あるときは、横線の高さを変えて区別することにします。

 そうしてできあがる図のパターンは全部で 52 とおりあります。これに、源氏物語 54 帖のうち 52 帖を対応させているのが「源氏香の図」というわけです。雅ですね。

 同じ香りの組が 2 組ある場合、どちらの組の横線を高くするかについては、特に法則性はないようです。

源氏香の図 源氏香の図

※ 画像は 日本語版ウィキペディアのDaisuke615さん - 原版の投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0 より

 源氏香の図は 52 種類あります。これは、「区別のつく 5 つの要素からなる集合の分割が 52 とおりある」と解釈することができます。

 和算家は源氏香の問題を一般化して、6 種香の場合、7 種香の場合、8 種香の場合、…という具合に調べていきました。
 今日ではそれらは「ベル数」と呼ばれているものになります。

ベル数

 区別のつく n 個の要素からなる集合の分割が何通りあるかを 「ベル数」と呼びます。この記事ではベル数を

 B(n)

で表します。

B(1)B(2)B(3)B(4)B(5)B(6)B(7)B(8)B(9)B(10)
1251552203877414021147115975

 源氏香との関係でいうと、源氏香の 52 種は

 B(5)=52

に対応しています。

 和算家はさらに、区別のつく n 個の要素からなる集合を k 個に分ける分割の個数についても調べていました。
 今日ではそれらは「第 2 種スターリング数」と呼ばれているものになります。

2 種スターリング数

 区別のつく n 個の要素からなる集合を k 個に分ける分割の個数を、第 2 種スターリング数といいます。
 この記事では第 2 種スターリング数を

 {nk}

で表します。

 第 2 種スターリング数は S(n,k)Snk などと表記することもあります。

2 種スターリング数の漸化式

 後で必要になるので、第 2 種スターリング数の漸化式を紹介します。

2 種スターリング数の漸化式

  {n+1k}={nk1}+k{nk}

 この漸化式も、和算家が発見しています。

 なぜこの式が成り立つのか、源氏香で考えてみましょう。

 n+1 種の香が k 個のグループに分かれる場合の数は何通りか考えるにあたり、最後の香を炷く前の状態、つまり n 種の香を炷いた状態から考えます。

 ありえるのは、 「n 種の香を炷いた段階で k1 個のグループに分かれていて、最後に新しい香を炷いた場合」と、「n 種の香を炷いた段階で k 個のグループに分かれていて、最後にどれかのグループと同じ香を炷いた場合」です。

 これをもとに考えれば、先ほどの漸化式が導かれます。

 漸化式も使って、第 2 種スターリング数 {nk} を表にするとこんな感じになります。

nk123456
11
211
3131
41761
511525101
61319065151

 この表で {n1}={nn}=1 となっていることに注目してください。定義からも明らかな式ですが、この性質は後ほど使います。

{n1}={nn}=1

 源氏香との関係でいうと、源氏香の 52 種は

  {51}+{52}+{53}+{54}+{55}=1+15+25+10+1=52

に対応しています。

2 種スターリング数の一般項

 第 2 種スターリング数の一般項は次の式で表すことができます。

2 種スターリング数の公式

 {nk}=1k!(kn(k1)(k1)n+(k2)(k2)n(k3)(k3)n++(1)k1(kk1)1n)

 なぜこの公式が成り立つのかは、源氏香で説明できます。

 例えば {53} で考えてみましょう。

 つまり、5 つの香を同じグループでわけると 3 つのグループに分かれる場合の数です。

 3 種類の香を 5 回炷く場合の数は単純計算で 35 になりそうですが、この中には 2 種類しかない場合や 1 種類しかない場合も含まれているので、その分を減らさなければなりません。

 3 種類の香を A,B,C とし、さらに、香 A を使わない炷き方の集合を同じ記号を使いまわして A とします。香 B,C も同様とします。

 また、集合の元の数を |A| のように表します。

 そうすると、包除原理により、A,B,C のちょうど 3 種類の香を炷く場合の数は

  35|A||B||C|+|AB|+|BC|+|CA|=35(31)25+(32)15

となります。
源氏香では、A,B,C を入れ替えたものも同一視しますので、全体を 3! で割ることで

 {53}=13!(35(31)25+(32)15)

を得ます。

 一般の場合も、これと同様にして計算できるので、先ほどの公式が成り立ちます。

xn を下降階乗冪と第 2 種スターリング数で表す

 xn を下降階乗冪と第 2 種スターリング数で表します。

下降階乗冪は、次のように定義されます。

  xn:=x(x1)(x2)(xn+1)

 xn を下降階乗冪と第 2 種スターリング数で次のように表すことができます。

  xn={n1}x1+{n2}x2+{n3}x3++{nn}xn

 数学的帰納法で証明する。

(i) n=1 のとき
  x1={11}x1

 は明らかに成り立つ。

(ii) n=k のとき成り立つと仮定する。
  xn={n1}x1+{n2}x2+{n3}x3++{nn}xn

 両辺に x をかけて変形していきます。

  xn+1={n1}xx1+{n2}xx2+{n3}xx3++{nn}xxn={n1}(x1+x2)+{n2}(2x2+x3)+{n3}(3x3+x4)++{nn}(nxn+xn+1)={n1}x1+({n1}+2{n2})x2+({n2}+3{n3})x3++({nn1}+n{nn})xn+{nn}xn+1={n1}x1+{n+12}x2+{n+13}x3++{n+1n}xn+{nn}xn+1={n+11}x1+{n+12}x2+{n+13}x3++{n+1n}xn+{n+1n+1}xn+1

 したがって n=k+1 のときも成り立つ。

 (なお、4 行目の変形では漸化式を、最後の行では {n1}={nn}=1 を使っています。)

(i)(ii)より、すべての自然数 n について

  xn={n1}x1+{n2}x2+{n3}x3++{nn}xn

は成り立つ。

 

xn を上昇階乗冪と第 2 種スターリング数で表す

 xn を上昇階乗冪と第 2 種スターリング数で表します。

上昇階乗冪は、次のように定義されます。

  xn:=x(x+1)(x+2)(x+n1)

 さきほどの下降階乗冪のときの式で、xx に置き換えるとこうなります。

  (x)n={n1}(x)1+{n2}(x)2+{n3}(x)3++{nn}(x)n

  xn=(1)n1{n1}x1+(1)n2{n2}x2+(1)n3{n3}x3++(1)nn{nn}xn

1 種スターリング数

 ここからは源氏香の話から離れますが、証明に必要なため第 1 種スターリング数について説明します。

 第1種スターリング数  [nk] は、上昇階乗冪

  xn=x(x+1)(x+2)(x+n1)

x のべき級数:

  xn=k=0n[nk]xk

で表現したときの展開係数として定義されます。(0kn)
また、便宜上 [00]=1 と定義します。

 具体的に見てみましょう。
 次の式たちの赤い部分が第 1 種スターリング数です。

  x0=1
  x1=0+1x
  x2=0+1x+1x2
  x3=0+2x+3x2+1x3
  x4=0+6x+11x2+6x3+1x4
  x5=0+24x+50x2+35x3+10x4+1x5

これらの係数から第1種スターリング数 [nk] の表をつくると

nk012345
0100000
1010000
2011000
3023100
40611610
50245035101

という具合になります。

 表からもわかるように、n<k のときは [nk]=0 としています。

 こうすることで、この後の式変形がやりやすくなります。

 また、n>0 のときは、 [n0]=0,[n1]=(n1)! であることにも注目してください。この後の式変形で使います。

Sm(n) をスターリング数を使った式にする

 これから、n までの自然数の m 乗和 Sm(n) を第 1 種スターリング数と第 2 種スターリング数を使った式にしていきます。

 まず、先ほど導出した x のべき乗を上昇階乗冪と第 2 種スターリング数で表す式を使います。

  xm=(1)m1{m1}x1+(1)m2{m2}x2+(1)m3{m3}x3++(1)mm{mm}xm

 見やすさのために で書き直します。

  xm=k=1m(1)mk{mk}xk

 いよいよ Sm(n) を変形していきます。

     Sm(n)=l=1nlm=l=1n(k=1m(1)mk{mk}lk)=k=1m((1)mk{mk}l=1nlk)

  l=1nlk の部分は望遠鏡和で次のように計算できます。

   l=1nlk=l=1n1k+1(lk+1(l1)k+1)=1k+1nk+1

 これを使って

     Sm(n)=k=1m((1)mk{mk}l=1nlk)=k=1m((1)mk1k+1{mk}nk+1)

 さらに、上昇階乗の部分を第 1 種スターリング数

  nk=l=0k[kl]nl

を使って書き換えます。

     Sm(n)=k=1m((1)mk1k+1{mk}nk+1)=k=1m((1)mk1k+1{mk}l=0k+1[k+1l]nl)

k+1<l のときは [k+1l]=0 であることから、

   l=0k+1[k+1l]nl=l=0m+1[k+1l]nl

と書き換えることができます。さらに、k+1>0 のときは、[k+10]=0 ですから、   l=0m+1[k+1l]nll=1m+1[k+1l]nl に書き換えることができます。

     Sm(n)=k=1m((1)mk1k+1{mk}l=0k+1[k+1l]nl)=k=1m((1)mk1k+1{mk}l=1m+1[k+1l]nl)=l=1m+1(k=1m(1)mk1k+1{mk}[k+1l]nl)

 最後の行で足し算の順番を入れ替えています。「長方形状にならんだ数の総和は、行方向に足したものを列方向に足しても、列方向に足したものを行方向に足しても求められる」とイメージしてもらえば何をしているかわかると思います。

公式の導出

 この記事の冒頭にも出てきましたように、関・ベルヌーイ数を使って次のように Sm(n) を表すことができます。

   Sm(n)=1m+1j=0m(m+1j)Bjnmj+1

先ほどの式と並べてみましょう。

   Sm(n)=1m+1j=0m(m+1j)Bjnmj+1

   Sm(n)=l=1m+1(k=1m(1)mk1k+1{mk}[k+1l]nl)

 ここで、Sm(n)n の多項式とみたときの n1 の項の係数を 2 通りで計算してみましょう。一致するはずですから、イコールで結ぶことができます。

  1m+1(m+1m)Bm=k=1m(1)mk1k+1{mk}[k+11]

 この式を、(m+1m)=m+1 や、[k+11]=k! を使って整理すると

  Bm=k=1m(1)mkk!k+1{mk}

 m の偶奇と Bm の偶奇の関係がわかりやすいように (1)m の前に出して公式を作ります。

  Bm=(1)mk=1m(1)kk!k+1{mk}

関・ベルヌーイ数を第 2 種スターリング数で表す公式

 Bm=(1)mk=1m(1)kk!k+1{mk}

整数になるか分数になるか

 だいぶ長くなってきましたが、ようやく一番重要な公式が導出できました。ここからさらに、公式内の の引数 k ごとに項が整数になるか分数になるか考えていきます。

 偶数番目の関・ベルヌーイ数についてのみ考えますので、公式の m2m に書き換えておきます。

 B2m=(1)2mk=12m(1)kk!k+1{2mk}=k=12m(1)kk!k+1{2mk}

 これから、k!k+1{2mk} の部分が整数になるかと分数になるかについて場合分けして調べます。

合成数のとき

 まず、 k+1 が合成数のときについて考えます。
 {2mk} が整数であることに注意してください。

「素数の 2 乗以外の合成数のとき」「2 より大きい素数の 2 乗のとき」「22 のとき」の 3 つに場合分けします。

  1. k+1 が素数の 2 乗以外の合成数のとき
     分母は k より小さい異なる 2 数の積にできるので、k!k+1 は必ず整数になります。

  2. k+12 より大きい素数の 2 乗のとき
     その素数を p とおきます。

 k+1=pp>2p

 より

 k2p

 ですから、k! は素因数として p2 個以上もつので、k!k+1 は必ず整数になります。

  1. k+1=22 のとき

 次に、 k+1=22 のときについて考えます。

 k!k+1=32 なのでこの部分は整数にはなりません。しかし、k!k+1{2mk}=3!4{2m3} は整数になります。

 整数になることを示すために、第 2 種スターリング数の一般項の公式

 {nk}=1k!(kn(k1)(k1)n+(k2)(k2)n(k3)(k3)n++(1)k1(kk1)1n)

を使います。

k!k+1{2mk}=3!4{2m3}=3!413!(32m(31)22m+(32)12m)=14(32m(31)22m+(32)12m)

 カッコの中身を mod4 で計算するとこうなります。

 32m(31)22m+(32)12m(1)2m30m+3mod40mod4

 カッコの中身は 4 の倍数になりますから、k!k+1{2mk} は整数になります。

 ここまでで、「k!k+1{2mk} は、k+1 が合成数のときは整数になる」ことを示しました。

 k!k+1{2mk} は、k+1 が合成数のときは整数になる。

素数のとき

 次に、k+1 が素数のときについて考えます。

 先ほどの公式を使うと

 k!k+1{2mk}=1k+1(k2m(k1)(k1)2m+(k2)(k2)2m(k3)(k3)2m++(1)k1(kk1)12m)

となります。

 突然ですが k+1P のときは、

  (kj)(1)jmod(k+1)

となります。

  j(j1)(j2)21(kj)=(k+11)(k+12)(k+1j)
  j(j1)(j2)21(kj)(1)(2)(j)mod(k+1)
  j(j1)(j2)21((kj)(1)j))0mod(k+1)

 j<k+1 であるから、k+1P のときは

  j(j1)(j2)210mod(k+1)

なので、

  (kj)(1)j0mod(k+1)

すなわち

  (kj)(1)jmod(k+1)

 また、素数 p を法として、1 から (p1) までの n 乗和が
0 (n(p1) の倍数じゃないとき)
1 (n(p1) の倍数のとき)
になります。

 このことは原子根を使って証明できます。

原子根

3 以上の)素数 p1 以上 p 未満の整数 r が以下の性質を満たすとき,r を法 p に対する原始根と呼ぶ。
r,r2,,rp2 のいずれもが p で割って余り 1 でない」
(また,r=1p=2 に対する原始根である,とする。)

 原子根には「rp に対する原始根のとき r,r2,,rp1p で割ったあまりは全て異なり,その余りは 1 から p1 を一巡する。」や、「任意の素数 p に対して原始根 r が存在する。」という重要な性質があります。

(i) np1 のとき

 素数 p の原子根を 1 つ選び a とします。 p を法として、「 1,2,,p1 」と「 1a,2a,,(p1)a 」は順序を除いて合同になります。

 なぜなら、 kaha ならば、 (kh)a0 となり、a0 からkh となることから、khkaha となるからです。

 したがって、これらを n 乗した和も合同になります。つまり

  (1a)n+(2a)n+(3a)n++((p1)a)n1n+2n+3n++(p1)n

  (an1)(1n+2n+3n++(p1)n)0

 原子根の定義より、 np1 のときは an1 ですから、

 1n+2n+3n++(p1)n0

となります。

(ii) np1 のとき

 原子根の定義より、 np1 のときは an1 ですから、先ほどと同様に原子根を 1 つ選び a とします。 p を法として、「 1,2,,p1 」と「 a,a2,,ap1 」は順序を除いて合同になります。

 したがって、これらを n 乗した和も合同になります。つまり

  1n+2n+3n++(p1)n(a1)n+(a2)n+(a3)n++(ap1)n(an)1+(an)2+(an)3++(an)p111+12+13++1p11

これを使って

 h!h+1{2mk}=1k+1(k2m(k1)(k1)2m+(k2)(k2)2m(k3)(k3)2m++(1)k1(kk1)12m)

の右辺のカッコの中だけを mod(k+1) で計算していくと

 k2m(k1)(k1)2m+(k2)(k2)2m(k3)(k3)2m++(1)k1(kk1)12mk2m(1)(k1)2m+(1)2(k2)2m(1)3(k3)2m++(1)k1(1)k112mk2m+(k1)2m+(k2)2m+(k3)2m++12m{0(k+1P)(2m0modk)1(k+1P)(2m0modk)(mod(k+1))

 したがって、k!k+1{2mk} は、「k+1 が 素数であり、かつ k2m の約数 でない」ときは整数になり、「k+1 が 素数であり、かつ k2m の約数 である」ときは (整数1k+1) になります。

 k!k+1{2mk} は、「k+1 が 素数であり、かつ k2m の約数 でない」ときは整数になり、「k+1 が 素数であり、かつ k2m の約数 である」ときは (整数1k+1) になる。

 合成数のときの結果と合わせるとこうなります。

 k!k+1{2mk} は、「k+1 が 素数であり、かつ k2m の約数 である」ときは (整数1k+1) になり、それ以外のときは整数になる。

 もとの式に戻りましょう。

 B2m=k=12m(1)kk!k+1{2mk}

(1)k の部分について考えます。 k+1 が偶素数(つまり 2)のときは (1)k=1 、奇素数(つまり 3 以上の素数) のときは (1)k=1 となります。「整数 12 」は「整数 +12 」ともかけることを利用して次のようにまとめることができます。

 (1)kk!k+1{2mk}={整数1k+1(k+1P)(k|2m)整数

 式のなかで (k|2m) の部分は、k2m の約数であるという意味です。
 以上より、B2m は次のようになることがわかります。

 B2m=k=12m{整数1k+1(k+1P)(k|2m)整数

クラウゼン・フォンシュタウトの定理

 得られた式には、クラウゼン・フォンシュタウトの定理という名前が付いています。

クラウゼン・フォンシュタウトの定理

B2n+(p1)|2npP1pZ

 非自明で面白い式だと思います!

 具体例でクラウゼン・フォンシュタウトの定理が成り立つことを確認してみましょう。

 B2=16=11213 B4=130=1121315 B6=142=1121317 B8=130=1121315 B10=566=11213111 B12=6912730=112131517113 B14=76=21213 B16=3617510=6121315117 B18=73867798=56121317119 B20=174611330=528121315111

 確かに成り立っていますね!

 ここまでくれば、「n が偶数のとき、n 番目の関・ベルヌーイ数の分母は、『n の正の約数に 1 を足した数のうち素数であるもの』の積になる」ことは簡単にわかりますね。

 分数の部分はすべて 1素数 の形になっていますから、通分して分母をそれら素数の積にすることができます。
 通分の操作を考えると、分子はそれら素数のどれを法としても 1 と合同になりますので、通分した後に約分されることがないこともわかりますね。

 というわけで、この記事の主題を示すことができました。

 n が偶数のとき、n 番目の関・ベルヌーイ数の(既約分数の)分母は、「n の正の約数に 1 を足した数のうち素数であるもの」の積になる。

おわりに

 これでこの記事はおわりです。

 今回の発表は小林吹代著「和算からベルヌーイ数へと続く数の世界」をベースにしています。
 ベル数やスターリング数について、和算的なアプローチで解説している本です。
 「和算的な」と感じたのは、抽象的な式よりも、具体的な計算の中から法則を見出すようなスタイルで説明している部分が多いからです。

 この辺は読む人によって好みが分かれそうではありますが、私はわかりやすいと思いました。

 正直なところ、和算とクラウゼン・フォンシュタウトの定理は直接は関係ないと思います。

 この本の「はじめに」では、「源氏香といえば 2023 年国際数学オリンピックのロゴの関屋ですよね」「関屋といえば和算家関」「和算家関といえば関・ベルヌーイ数」「関・ベルヌーイ数といえばクラウゼン・フォンシュタウトの定理ですよね」のような流れ(意訳)で源氏香とクラウゼン・フォンシュタウトの定理を強引に結び付けていて感動しました。

 本の中では、スターリング数の説明に源氏香を使っていたりして、和算家の考えていたことがほんのり伝わってきて楽しいです。(この記事を作るにあたり大いに参考にさせていただきました。)

 よかったら読んでみてください。

 この本を買ったきっかけは、中学校入試の問題で源氏香の問題が出題されたのをみて、源氏香について調べようとしたのがきっかけでした。
 その問題では、源氏香の図(何カ所か「穴」があいている)や問題文だけで1ページ以上使っていて、第 2 種スターリング数にあたる数字を計算させる小問なんかもあって、ずいぶん挑戦的な問題でした。いまのところネットには公開されていないようです。(解答速報は塾のサイトなどで出ているようです。)

おまけ

 実は、日曜数学会で源氏香がテーマになったのは過去になんどかあったということで・・・

 和算で取り扱われていたので、趣味で数学をしている人には割と知られている遊びだったりするのかも。

 興味を持った人はぜひいろいろ調べてみてね。

ヘカテー:源氏香をやりませう @第28回日曜数学会

ちばまさみ:源氏香(げんじこう) @第6.28回日曜数学会

参考文献

[1]
小林吹代, 和算からベルヌーイ数へと続く数の世界 ~ベル数・スターリング数でも和算家はスゴかった~ (知りたい!サイエンス), 技術評論社, 2024
投稿日:225
更新日:225
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  1. はじめに
  2. 関・ベルヌーイ数
  3. なぜべき乗の数が増えると公式に新しい関・ベルヌーイ数が現れるのか
  4. 関・ベルヌーイ数の法則
  5. 和算・源氏香からクラウゼン・フォンシュタウトの定理へ
  6. 源氏香
  7. ベル数
  8. $2$ 種スターリング数
  9. $2$ 種スターリング数の漸化式
  10. $2$ 種スターリング数の一般項
  11. $x^n$ を下降階乗冪と第 $2$ 種スターリング数で表す
  12. $x^n$ を上昇階乗冪と第 $2$ 種スターリング数で表す
  13. $1$ 種スターリング数
  14. $S_m(n)$ をスターリング数を使った式にする
  15. 公式の導出
  16. 整数になるか分数になるか
  17. クラウゼン・フォンシュタウトの定理
  18. おわりに
  19. おまけ
  20. 参考文献