Petrov分類とはWeylテンソルの分類で、歴史的にはPetrov分類はCartanによる4次元Lorentz多様体のWeylテンソルの分類が始まりのようです。その後、Petrov、Penroseら(他にもたくさん)により相対論における有用なツールとなりました。Petrov分類は相対論を本格的に勉強すると必ず出会う概念の一つなので相対論を学ぶ者にとっての一つの試金石です。現在では4次元Lorentzに限らず4次元Riemannや4次元Neutoral metricや高次元にもPetrov分類の類似が考えられています。この記事では4次元Lorentz多様体のPetrov分類について解説します。
Petrov分類の論じ方は数種類あります。Petrov分類が論じられている教科書は多くありますが、概念的に何をやっているのかよく分からなかったりします。おそらく最も概念的にすっきりするのはWeylテンソルのJordan標準形を使った議論です。Jordan標準形は線形写像の分類論なので、これを使うとWeylテンソルが"分類された感"を得られます。ただこの方法は代数的なので幾何学的な理解を得にくいというデメリットもあります(私が頭悪いだけで賢い人は自明につながりを見出せるのかもしれないが)。
Jordan標準形での議論はまた別の記事にまとめる予定ですが、この記事では代数的な明瞭さを少々犠牲にする代わりに"null断面曲率"を使う幾何学寄りの方法を解説します。またこの方法はnull tetradを使う方法であり実際に4次元時空の分析をするときにPetrov分類を使いやすい定式化であると思います。
Weylテンソルは$n(>2)$次元擬リーマン多様体の共形不変なテンソルで、
\begin{align}
W_{abcd}=R_{abcd}-\frac{1}{n-2}(g_{ac}R_{bd}-g_{ad}R_{bc}+R_{ac}g_{bd}-R_{ad}g_{bc})+\frac{S}{(n-1)(n-2)}(g_{ac}g_{bd}-g_{ad}g_{bc})
\end{align}
と与えられます。特徴は1番目$a$と3番目$c$のindexを縮約すると$W^a_{\ \ bad}=0$となることです。このためリーマンテンソルのtracefree partとも呼ばれます。indexの入れ替えに関してリーマンテンソルと同じ対称性を持ちます。
\begin{align}
&W_{abcd}=-W_{abdc}=-W_{bacd}\\
&W_{abcd}=W_{cdab}\\
&W_{abcd}+W_{acdb}+W_{adbc}=0
\end{align}
Weylテンソルの定義式を見れば分かるように、時空の幾何学を決めるリーマンテンソルはRicciテンソルとWeylテンソルに分解されます。相対論だとEinstein方程式からRicciテンソルが決まりますし、相対論でない文脈でもRicciテンソルに関する条件を課すことが多いです。しかし4次元以上ではRicciテンソルだけではリーマンテンソルが決まらないのでRicciテンソルに対する条件だけでは時空の幾何学的性質を考察することが困難です。そこで時空がWeylテンソルが0、すなわちconformally flatの幾何とWeylテンソルが最も一般的な状態の幾何の間のどの状態にあるのかを指定できれば非常に便利です。conformally flatな状態とWeylテンソルが一番汚い状態の中間状態を4種類に分けて定義したのがPetrov分類です。
WeylテンソルをHodge dual$\ast$の固有空間で分解することを考えます。Hodge dual$\ast:\Lambda^2T_pM\to\Lambda^2T_pM$は$\ast^2=-1$を満たすので$\Lambda^2T_pM$の複素構造を定め、$*$の固有値$\pm i$に対応した固有空間を$U_\pm$とすると、$\Lambda^2T_pM^\mathbb{C}=U_+\oplus U_-$と分解できます。$U_+$の元をself-dual、$U_-$の元をanti self-dualと呼びます。
$T_pM$のo.n.b.を$\{e_0,e_1,e_2,e_3\}$とし、
\begin{align}
&k:=(e_0+e_3)/\sqrt{2}\\
&l:=(-e_0+e_3)/\sqrt{2}\\
&m:=(e_1-ie_2)/\sqrt{2}
\end{align}
と置くと、
\begin{align}
U_+:=\textrm{Span}_\mathbb{C}\{m\wedge k,\ \bar m\wedge l,\ l\wedge k-m\wedge\bar m\}\\
U_-:=\textrm{Span}_\mathbb{C}\{\bar m\wedge k,\ m\wedge l,\ l\wedge k+m\wedge\bar m\}
\end{align}
となることが計算すれば分かります。また分解$U_+\oplus U_-$が直交直和分解であることも分かります。
$\Lambda^2T_pM$を$\ast$で複素化した空間を$V=(\Lambda^2T_pM,\ast)$とすると、$P_\pm:=(1\mp i\ast)/2:V\to U_\pm$ は複素ベクトル空間としての全単射写像であり、さらに$P_\pm\ast=iP_\pm$が成り立つので、複素同型写像となります。また$U_+$と$U_-$は複素共役同型であることも分かります。さらに基底の対応としては、
\begin{align}
&P_+(\sqrt{2}e_1\wedge k)=m\wedge k\\
&P_+(\sqrt{2}e_1\wedge l)=\bar m\wedge l\\
&P_+(2e_3\wedge e_0)=l\wedge k-m\wedge \bar m
\end{align}
となることも単純な計算で分かります。基底$\{\sqrt{2}e_1\wedge k,\sqrt{2}e_1\wedge l,2e_3\wedge e_0\}$と基底$\{m\wedge k,\bar m\wedge l,l\wedge k-m\wedge \bar m\}$に関する計量はそれぞれ
\begin{align}
\begin{pmatrix}
0 & 2 & 0\\
2 & 0 & 0\\
0 & 0 & -4
\end{pmatrix},\
\begin{pmatrix}
0 & 1 & 0\\
1 & 0 & 0\\
0 & 0 & -2
\end{pmatrix}
\end{align}
となることから、$P_+$がscale factor=2の相似写像であることも分かります。
Weylテンソルのindexの対称性を考えると、$W^{ab}_{\ \ \ \ \ cd}$は$\Lambda^2T_pM\to\Lambda^2T_pM$という線形写像と見なせます。この写像を$\mathbb{W}$と書くことにします。そして、このとき$\mathbb{W}\ast=\ast\mathbb{W}$が成り立つことが分かるので(appendix)、$\mathbb{W}:V\to V$は複素線形写像と見なせます。
また$\mathbb{W}$を複素線形に拡張して$\Lambda^2T_pM^\mathbb{C}$上の写像と見なせば、$U_\pm$はそれぞれ$\mathbb{W}$の不変空間となるので、$\mathbb{W}=\mathbb{W}_+\oplus \mathbb{W}_-$と分解されます。$\mathbb{W}_\pm$をWeylテンソルのself-dual/anti self-dual partと呼びます。
$\mathbb{W}:V\to V,\ P_+:V\to U_+,\ \mathbb{W}_+:U_+\to U_+$は$P_+\circ\mathbb{W}=\frac{1}{2}(1-i\ast)\mathbb{W}=\mathbb{W}_+\circ P_+$となるので、テンソル表現空間として$(\mathbb{W},V)$と$(\mathbb{W}_+,U_+)$は$\mathbb{C}$同型となります(同様に$(\mathbb{W},V)$と$(\mathbb{W}_-,U_-)$は共役$\mathbb{C}$同型)。従って本質的にはself-dual partの情報のみでWeylテンソルは理解できることになります。
4次元ではWeylテンソルは実10次元(複素5次元)の自由度があります。これを確認するために5つの複素数としてWeylスカラー$\Psi_i\ (i=0,1,2,3,4)$を
\begin{align}
&\Psi_0=W(k,m,k,m),\Psi_1=W(k,l,k,m),\Psi_2=W(k,m,\bar m,l)\\
&\Psi_3=W(l,k,l,\bar m),\Psi_4=W(l,\bar m,l,\bar m)
\end{align}
で定義します。Weylスカラーを使って他の成分は表せることを見るには以下のようにします。まずWeylテンソルがtracefreeなので
\begin{align}
W(k,x,l,y)+W(l,x,k,y)+W(m,x,\bar m,y)+W(\bar m,x,m,y)=0
\end{align}
が成り立ち、$x,y$を適当に選ぶと
\begin{align}
&W(k,m,k,\bar m)=W(l,m,l,\bar m)=W(k,m,l,m)=0\\
&W(l,k,l,k)=-\Psi_2-\bar \Psi_2\\
&W(m,\bar m,m,\bar m)=-\Psi_2-\bar \Psi_2\\
&W(k,m,\bar m,m)=-\Psi_1\\
&W(l,\bar m,m,\bar m)=-\Psi_3
\end{align}
が分かり、またBianchi恒等式$W(k,l,m,\bar m)+W(k,m,\bar m,l)+W(k,\bar m,l,m)=0$より、
\begin{align}
W(k,l,m,\bar m)=-\Psi_2+\bar\Psi_2
\end{align}
が分かります。これより$\{k\wedge l,k\wedge m,k\wedge\bar m,l\wedge m,l\wedge\bar m,m\wedge\bar m\}$に関する成分を行列表示すると
\begin{align}
W=\begin{pmatrix}
& k\wedge l & k\wedge m & k\wedge\bar m & l\wedge m & l\wedge\bar m & m\wedge\bar m \\
k\wedge l & -\Psi_2-\bar \Psi_2 & \Psi_1 & \bar\Psi_1 & -\bar\Psi_3 & -\Psi_3 & -\Psi_2+\bar\Psi_2\\
k\wedge m & & \Psi_0 & 0 & 0 & -\Psi_2 & \Psi_1\\
k\wedge\bar m & & & \bar\Psi_0 & -\bar\Psi_2 & 0 & -\bar\Psi_1\\
l\wedge m & & & & \bar\Psi_4 & 0 & \bar\Psi_3\\
l\wedge\bar m & & & & & \Psi_4 & -\Psi_3\\
m\wedge\bar m & & & & & & -\Psi_2-\bar \Psi_2
\end{pmatrix}
\end{align}
となります。
また$\mathbb{W}$がself-dual/anti self-dual分解されることは一般論から分かりますが、基底$\{m\wedge k,\ \bar m\wedge l,\ l\wedge k-m\wedge\bar m,\bar m\wedge k,\ m\wedge l,\ l\wedge k+m\wedge\bar m\}$に関して成分を計算すると
\begin{align}
\mathbb{W}=
\begin{pmatrix}- \Psi_{2} & \Psi_{4} & - 2 \Psi_{3} & 0 & 0 & 0\\\Psi_{0} & - \Psi_{2} & 2 \Psi_{1} & 0 & 0 & 0\\- \Psi_{1} & \Psi_{3} & 2 \Psi_{2} & 0 & 0 & 0\\0 & 0 & 0 & - \overline{\Psi_{2}} & \overline{\Psi_{4}} & -2 \overline{\Psi_{3}}\\0 & 0 & 0 & \overline{\Psi_{0}} & - \overline{\Psi_{2}} & 2 \overline{\Psi_{1}}\\0 & 0 & 0 & - \overline{\Psi_{1}} & \overline{\Psi_{3}} & 2 \overline{\Psi_{2}}\end{pmatrix}
\end{align}
となることが分かります。
Weylテンソルは$U_+$上の振る舞いが分かれば完全に理解できることが分かりました。$U_+$の元$m\wedge k,\ \bar m\wedge l$などは$||m\wedge k||^2=||\bar m\wedge l||^2=0$を満たします。このように2形式$\beta$が$||\beta||^2=0$を満たすとき、$\beta$はnull planeと呼ばれます。今$\beta$は複素2形式なので$T_pM^\mathbb{C}$の2次元の断面を指定していると理解できます。このPetrov分類の幾何学的なアイデアはこのself-dual null planeに関する"Weyl断面曲率"を考えることです。
通常の断面曲率は
\begin{align}
K(X,Y)=\frac{R(X,Y,X,Y)}{||X\wedge Y||^2}
\end{align}
なので、null plane $X\wedge Y$に対して、この式の$R$を単に$W$に置き換えたものをWeylテンソルの特徴量的なものとして使うことはできません。ちなみに、この事情により定曲率でないLorentz多様体の断面曲率は非有界となります。そこでnull planeに対しては単に$W(X,Y,X,Y)$を断面曲率の代替物として考えます。しかし同じnull planeを指定する$X,Y$は2次一般線形群で変換する自由度があり、$X'=aX+bY,\ Y'=cX+dY$とするとき、$W(X',Y',X',Y')=(ad-bc)^2W(X,Y,X,Y)$となります。よってnull planeの"Weyl断面曲率"は0かどうかだけが意味を持ちます。
Petrov分類を幾何学っぽく一言で言うと、「self-dual null planeで"Weyl断面曲率"が0になるものがどれぐらいあるか」をWeylテンソルの特徴量として分類するというものです。
$U_+\ni\beta=m\wedge k+A\bar m\wedge l+B(l\wedge k-m\wedge\bar m)$と表せるとしてよいので、これがnull planeになるためには、$||\beta||^2=-2B^2+2A=0$なので、$B=z\in\mathbb{C}$と置くと、
\begin{align}
\beta_z=m\wedge k+z^2\bar m\wedge l+z(l\wedge k-m\wedge\bar m)=(m+zl)\wedge(k-z\bar m)
\end{align}
となります。$z=\infty$のとき、$\beta=\bar m\wedge l$と見なせば、self-dual null planeは$z\in\mathbb{C}\cup\{\infty\}=S^2$をパラメータとする族$\beta_z$で表されることが分かりました。
self-dual null planeの重要な性質として以下の命題があります。
任意のself-dual null plane $\beta\in U_+$に対して、適当なnull tetrad $\{m,\bar m,l,k\}$があり、$\beta=m\wedge k$となる。
self-dual null plane $\beta\in U_+$に対して、$\tilde\beta\in V$があり、$P_+\tilde\beta=\beta$となる。$0=g(\beta,\beta)=g(P_+\tilde\beta,P_+\tilde\beta)=g(\tilde\beta,\tilde\beta)/2$なので$\tilde\beta$はnull 2-formである。さらに
\begin{align}
0=g(P_+\tilde\beta,P_+\tilde\beta)=\frac{1}{4}(g(\tilde\beta,\tilde\beta)-g(\ast\tilde\beta,\ast\tilde\beta)-2ig(\tilde\beta,\ast\tilde\beta))
=\frac{1}{2}(g(\tilde\beta,\tilde\beta)-ig(\tilde\beta,\ast\tilde\beta))
\end{align}
となるので、$g(\tilde\beta,\tilde\beta)=g(\tilde\beta,\ast\tilde\beta)=0$となる。
$g(\tilde\beta,\ast\tilde\beta)=0\Leftrightarrow\tilde\beta\wedge\tilde\beta=0$なので、$\tilde\beta=x\wedge y,\ x,y\in T_pM$となる(appendix)。
$g(\tilde\beta,\tilde\beta)=0$なので、$x,y$は退化した2次元面$N$を張る。$N$の基底としてunit spacelikeベクトル$e_1$とnullベクトル$k$で$e_1\perp k$となる組$\{e_1,k\}$が取れる。$x,y$は$e_1,k$の線形結合で書けるので、$\tilde\beta\propto e_1\wedge k$となり、$k$を適当にrescaleすれば$\tilde\beta=\sqrt{2}e_1\wedge k$となるとしてよい。よって適当なnull tetrad $\{m,\bar m,l,k\}$があり、$\beta=P_+\tilde\beta=m\wedge k$となる。
Weylテンソルが0でないとき、2形式$\beta$で表されるplaneがprincipalであるとは、$W(\beta,\beta)=0$となることを言います。self-dual principal null planeを見つけるには、$z$に関する方程式
\begin{align}
W(m+zl,k-z\bar m,m+zl,k-z\bar m)=0
\end{align}
を解けばよいことになります。
\begin{align}
&W(m+zl,k-z\bar m,m+zl,k-z\bar m)\\
&=W(m,k,m,k)+2z(-W(m,k,m,\bar m)+W(m,k,l,k))\\
&+z^2(-2W(m,k,l,\bar m)+W(m,\bar m,m,\bar m)-2W(m,\bar m,l,k)+W(l,k,l,k))\\
&+2z^3(W(m,\bar m,l,\bar m)-W(l,k,l,\bar m))\\
&+z^4W(l,\bar m,l,\bar m)\\
&=\Psi_0+4\Psi_1z-6\Psi_2z^2-4\Psi_3z^3+\Psi_4z^4\cdots(1)
\end{align}
となり、この方程式の解$z$に関する場合分けを考えることで以下のPetrov分類を定義します。
Weylテンソルが点$p\in M$において、algebraically generalまたはPetrov type Iであるとは、(1)が4つの異なる根を持つときをいう。algebraically generalでないとき、algebraically specialであるという。algebraically specialのときさらに以下のPetrov typeがある
II:2重根1つと単根2つを持つ
III:3重根1つと単根1つを持つ
D:2重根を2つ持つ
N:4重根を1つ持つ
O:Weylテンソルは点$p$において0
Petrov分類は(1)の根たちの重複度が変化して、異なる根同士が合流して一致することで退化してtypeが推移していきます。可能な推移の仕方は以下の図に示されています(これをPenrose図と呼ぶことがある)。
Petrov分類の退化推移図
(1)を計算するときに、$(\mathbb{W}_+,U_+)$を使うと簡単に計算することができます。self-dual null planeは基底$\{m\wedge k,\ \bar m\wedge l,\ l\wedge k-m\wedge\bar m\}$に関して、$\beta={}^T(1,z^2,z)$と表されるので
\begin{align}
&W(m+zl,k-z\bar m,m+zl,k-z\bar m)=g(\beta,\mathbb{W}_+\beta)\\
&=(1,z^2,z)
\begin{pmatrix}
0 & 1 & 0\\
1 & 0 & 0\\
0 & 0 & -2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
- \Psi_{2} & \Psi_{4} & - 2 \Psi_{3} \\
\Psi_{0} & - \Psi_{2} & 2 \Psi_{1} \\
- \Psi_{1} & \Psi_{3} & 2 \Psi_{2}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1\\ z^2 \\ z
\end{pmatrix}\\
&=\Psi_0+4\Psi_1z-6\Psi_2z^2-4\Psi_3z^3+\Psi_4z^4
\end{align}
となります。
基本的な命題を示します。
4次元時空$(M,g)$の任意の点$p$において、適当な近傍$U$と$U$上のnull tetrad$\{m,\bar m,l,k\}$があり、$\Psi_0=0$となる。
type Oのときは自明なので、それ以外の場合であるとする。
点$p$の任意の近傍$U$でnull tetradを任意にとると、(1)は$\Psi_i:U\to\mathbb{C}$を係数に持つ方程式である。$\Psi_i$は連続であるから$U$上で少なくとも1つのprincipal self-dual null planeが存在する。点$p$での重複度$q$が最小の根に対応するprincipal self-dual null planeを$\beta$とする。必要なら$U$を小さく取り直すことで、$U$上で$\beta$に対応する根の重複度が$q$とり小さくならないようにすることができる。
$\beta=m\wedge k$となるように必要ならnull tetradを取り換えると、新しいnull tetradに関する(1)は$z=0$を根に持つから$\Psi_0=0$である。
上の命題よりprincipal self-dual null planeは少なくとも1つは存在し、適当なnull tetradを取れば$\Psi_0=0$にできることが分かったので、同様の議論を繰り返すことで重複度に関する$\Psi_i$の条件が得られます。
4次元時空$(M,g)$上の近傍$U$において、$\mathcal{N}$をprincipal self-dual null planeとし、$U$上で$\mathcal{N}$の重複度qは一定であるとする。このとき、$U$上のnull tetrad $\{m,\bar m,l,k\}$ を $\beta=m\wedge k$となるように取ると、このnull tetradに関して以下が成り立つ。
$q=1$のとき、$\Psi_0=0,\Psi_1\ne 0$
$q=2$のとき、$\Psi_0=0,\Psi_1=0,\Psi_2\ne0$
$q=3$のとき、$\Psi_0=0,\Psi_1=0,\Psi_2=0,\Psi_3\ne0$
$q=4$のとき、$\Psi_0=0,\Psi_1=0,\Psi_2=0,\Psi_3=0,\Psi_4\ne0$
逆に、$U$上で上記の$\Psi_i$に関するいづれかの条件を満たすnull tetradが存在すれば、$\beta$の重複度は上記に対応する数になる。
以上の考察から自明に以下の命題を得ます。
4次元時空$(M,g)$上の近傍$U$において、algebraically specialであるために必要十分条件は$\Psi_0=\Psi_1=0$を満たすnull tetradが存在することである。
命題2の$q=2$の条件ではtype IIとtype Dを区別することが出来ません。type Dは以下のようになります。
type D$\Leftrightarrow\Psi_0=\Psi_1=\Psi_3=\Psi_4=0,\ \Psi_2\ne0$
$z=0$が2重根であるとする。このとき$\Psi_0=\Psi_1=0,\ \Psi_2\ne0$であるから、
\begin{align}
\mathbb{W}_+=\begin{pmatrix}- \Psi_{2} & \Psi_{4} & - 2 \Psi_{3}\\0 & - \Psi_{2} & 0\\0 & \Psi_{3} & 2 \Psi_{2}\end{pmatrix}
\end{align}
である。この$\mathbb{W}_+$の固有値と固有ベクトルの組は、単純な計算で
\begin{align}
&\lambda_1=-\Psi_2,\ v_1=\begin{pmatrix}
1\\ 0 \\ 0
\end{pmatrix}\\
&\lambda_2=2\Psi_2,\ v_2=\begin{pmatrix}
-\frac{2\Psi_3}{3\Psi_2}\\ 0 \\ 1
\end{pmatrix}\\
\end{align}
であると分かる。
$U_+$のnull planeは${}^T(1,z^2,z)$または${}^T(0,1,0)$に比例したベクトルである(後者は$z=\infty$に対応している)。$v_2$はどちらでもないから、$z=0$以外の重複度2の固有ベクトルはの固有値も$\lambda'_2=-\Psi_2$でなければならない。またその固有ベクトルは$v_1$以外のnull planeなので$v_2'={}^T(0,1,0)$としてよい。$\mathbb{W}_+v_2'=-\Psi_2v_2'$であるためには、$\Psi_3=\Psi_4=0$である。
逆は明らかである。
以上よりPetrov分類の同値な以下の定義が得られました。
4次元時空$(M,g)$の点$p\in M$において以下の各条件を満たすnull tetrad $\{m,\bar m,l,k\}$が存在する時、$p$においてWeylテンソルはそれぞれPetorv type I,II,D,III,N,Oであるという。
type I: $\Psi_0=0,\Psi_1\ne 0$
type II: $\Psi_0=0,\Psi_1=0,\Psi_2\ne0$
type D: $\Psi_0=0,\Psi_1=0,\Psi_2\ne0,\Psi_3=0=\Psi_4=0$
type III: $\Psi_0=0,\Psi_1=0,\Psi_2=0,\Psi_3\ne0$
type N: $\Psi_0=0,\Psi_1=0,\Psi_2=0,\Psi_3=0,\Psi_4\ne0$
type O: $\Psi_0=0,\Psi_1=0,\Psi_2=0,\Psi_3=0=\Psi_4=0$
$[\mathbb{W},\ast]=0$を示します。
$F_{abcd}$をリーマンテンソルと同じindexの対称性を持つテンソルとし、$g^{ac}F_{abcd}=kg_{bd}$を満たすとします。$k=0$のときは、$F$はWeylテンソル$W$と見なせ、$k\ne0$のときはEinstein空間のリーマンテンソルと見なせますので、$[\mathbb{F},\ast]=0$を証明すればよいです。
$\{e_0,e_1,e_2,e_3\}$をo.n.b.とします。$g^{ac}F_{abcd}=kg_{bd}$を成分ごとに書き下すと
\begin{align}
(00) \quad & F_{1010} + F_{2020} + F_{3030} = -k \\
(11) \quad & -F_{0101} + F_{2121} + F_{3131} = k \\
(22) \quad & -F_{0202} + F_{1212} + F_{3232} = k \\
(33) \quad & -F_{0303} + F_{1313} + F_{2323} = k \\
\\
(01) \quad & F_{2021} + F_{3031} = 0 \\
(02) \quad & F_{1012} + F_{3032} = 0 \\
(03) \quad & F_{1013} + F_{2023} = 0 \\
\\
(23) \quad & -F_{0203} + F_{1213} = 0 \\
(31) \quad & -F_{0301} + F_{2321} = 0 \\
(12) \quad & -F_{0102} + F_{3132} = 0
\end{align}
となります。
(00),(11),(22),(33)は
$$
k = -F_{0101} - F_{0202} - F_{0303} = F_{2323} + F_{3131} + F_{1212}
$$
\begin{align}
\alpha \begin{cases}
F_{0101} + F_{2323} = 0 \\
F_{0202} + F_{3131} = 0 \\
F_{0303} + F_{1212} = 0
\end{cases}
\end{align}
と同値です。実際、(00),(11),(22),(33)を全て足せば最初の式の2つ目の等号が得られ、これと(11),(22),(33)とをそれぞれ引き算すれば$\alpha$が得られます。
また残りの式を整理すると
\begin{aligned}
\beta \begin{cases}
F_{0212} = F_{3103} \\
F_{0112} = F_{2303} \\
F_{0131} = F_{2302}
\end{cases}
\quad
\gamma \begin{cases}
F_{0203} + F_{3112} = 0 \\
F_{0103} + F_{2312} = 0 \\
F_{0102} + F_{2331} = 0
\end{cases}
\end{aligned}
となります。
$F:\Lambda^2T_pM\times\Lambda^2T_pM\to\mathbb{R}$と見なして、基底$\{e_0\wedge e_1,e_0\wedge e_2,e_0\wedge e_3,e_2\wedge e_3,e_3\wedge e_1,e_1\wedge e_2\}$に関して$F$の成分を行列で書くと
\begin{align}
F=
\begin{pmatrix}
& 01 & 02 & 03 & 23 & 31 & 12 \\
01 & F_{0101} & F_{0102} & F_{0103} & F_{0123} & F_{0131} & F_{0112} \\
02 & & F_{0202} & F_{0203} & F_{0223} & F_{0231} & F_{0212} \\
03 & & & F_{0303} & F_{0323} & F_{0331} & F_{0312} \\
23 & & & & F_{2323} & F_{2331} & F_{2312} \\
31 & & & & & F_{3131} & F_{3112} \\
12 & & & & & & F_{1212}
\end{pmatrix}
=:\begin{pmatrix}
A & B \\
C & D
\end{pmatrix}
\end{align}
ここで、$A,B,C,D$は3x3の対称行列で${}^tB=C$を満たします。
$\alpha,\gamma$より$A=-D$が分かり、$\beta$より${}^tB=B$が分かります。よって
\begin{align}
F=\begin{pmatrix}
A & B \\
B & -A
\end{pmatrix}
\end{align}
が分かります。よって
\begin{align}
\mathbb{F}=\begin{pmatrix}
-I_3 & 0 \\
0 & I_3
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
A & B \\
B & -A
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
-A & -B \\
B & -A
\end{pmatrix}
=-A\otimes I_2+B\otimes J\\
J=\begin{pmatrix}
0 & -1 \\
1 & 0
\end{pmatrix}
\end{align}
となります。またHodge starはこの基底に関して
\begin{align}
*=-I_2\otimes J
\end{align}
と表されるので、$[\mathbb{F},*]=0$が分かります。
2形式$\beta\in\Lambda^2V$が$x,y\in V$を使って$\beta=x\wedge y$と書けるとき、$\beta$は分解可能であると言います。$\beta$が分解可能なら$\beta\wedge\beta=0$となりますが、実は逆も成り立ちます。この記事で必要なのは$\dim V\le4$のときなので、以下の命題を示します。
$\dim V\le4$のとき、2形式$\beta\in\Lambda^2V$が分解可能であることと$\beta\wedge\beta=0$となることは同値である。(実は何次元でも成り立つ)
$\dim V=2$のときは自明。
$\dim V=3$のとき、任意の2形式$\beta$は$\beta\wedge\beta=0$である。そして分解可能でもあることが次のようにして分かる。$\beta=ae_1\wedge e_2+be_1\wedge e_3+ce_2\wedge e_3$とする。$k=xe_1+ye_2+ze_3$とするとき、$k\wedge\beta=(xc-yb+za)e_1\wedge e_2\wedge e_3$となるから、$x,y,z$を適当に定めれば、$k\wedge\beta=0$とできる。よって$\beta=x\wedge k,\ x\in V$と書かれる($k$をメンバーに持つ基底で$\beta$を展開すれば明らか)。
$\dim V=4$のとき、$V$の基底を$\{e_0,e_1,e_2,e_3\}$とするとき、$\beta=e_0\wedge k+\alpha$と表せる。ここで$\alpha$は$\{e_1,e_2,e_3\}$と関連が無い2形式であり、$\alpha=v\wedge w,\ v,w\in V$と表せるとしてよい。$e_1$と$k$が従属なら証明は終わりなので、従属でないとする。$\beta\wedge\beta=e_0\wedge k\wedge v\wedge w=0$であるから、この4つは一次従属である。よって$k,v,w$が一次従属であり、$\beta$が分解可能であると分かる。