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現代数学解説
文献あり

高校数学からはじめる作用素環論入門の入門

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$$\newcommand{Cstar}[0]{\mathrm{C}^*\!} \newcommand{n}[1]{\left\lVert#1\right\rVert} \newcommand{Sp}[0]{\mathrm{Sp}} $$

はじめに

久々のMathlog投稿です.
この記事は Wathematicaのアドカレ をきっかけに書かれたものです.
僕は作用素環周りの関数解析を専門に勉強しているのですが,今回は作用素環論のわかりやすい記事を作ろうと思います.書生只今修行中でして至らぬ点があれば(優しく)コメントして頂ければ幸いです.
この記事を書くにあたり大変お世話になった戸松玲治先生,ゼミとお酒を通して交流してくれた先輩方と友人たちにこの場を借りて感謝致します.

目的:高校数学をきっかけに作用素環の雰囲気を導入・紹介し,参考図書など自分の知っている範囲内で出せる「その後」に繋がりそうな情報を提供する

定理などの紹介の順番が普通とは異なる箇所が多々あります

示される順よりも,優先度と照らし合わせた上で読んでわかりやすい順で事項を紹介したつもりです.

文字定数の分離と作用素環

皆さんは受験生の時に「文字定数の分離」という技術に出くわしたことがあると思います.

$a$を実数とするとき,$x^3-x-a=0$の実解の個数を答えよ.

これには代数的アプローチと解析的アプローチがあると思います.
代数的にやるには,解を形式的に$\alpha,\beta,\gamma$とおいて解と係数の関係から$a$の条件に帰着させればできそうですが,絶対に面倒です
ここで出てくるのが文字定数の分離.$x^3-x=a$と式変形して$y=x^3-x$$y=a$の交点の個数を調べるのでした.

!FORMULA[7][425232336][0]の時は実解!FORMULA[8][36213][0]個! $a=0.2$の時は実解$3$個!

$x^3-x=a$という代数的な式を$2$つの関数の連立と解釈しているということです.より正確には

文字定数の分離の裏には可換環(代数的)と連続関数環(解析的・位相的)が同一視できるという事実が隠れている

ということなのです.この上枠事実(Gelfand-Naimarkの定理と言います)の説明がこの記事の前半でやることです.より詳しく書くと

  1. Banach環の基本事項
  2. Banach環そこ上の非零準同型(Gelfand変換まで)
  3. $\Cstar$環の基本事項
  4. Gelfand-Naimarkの定理

という順番です.
上の$2.$では環から関数環への写像$\Gamma\colon A\to C_0(\Omega)$を定めるのですが,そのために送り先の関数環$C_0(\Omega)$$\Omega$の整備からやります.但し$C_0(\Omega)$$\Omega$上の連続関数の集まりで「無限遠で消える」ものであり,各点で演算を入れて環になります.$\Omega$上の連続関数環という理解で今回は結構です.

注意の見出し

巷でよく見る作用素環についてのpdf には$\Cstar$環とは「位相空間を非可換化したもの」と説明してあることが多いですが,それは上枠の事実(後述のGelfand-Naimarkの定理),つまり可換環は位相空間と同一視できわかりきっているということを踏まえて非可換環の解析に作用素環の動機があるからです.

Banach環にまつわるエトセトラ

PUFFYの曲 ではありません.

ノルム環,ノルム$*$環,Banach環,Banach$*$

$ A $: $\mathbb{C}$線形空間
$ A $環/代数であるとは,双線型写像
$A \times A \rightarrow A \hspace{10mm} (a, b) \mapsto ab $
で結合則
$(ab)c=a(bc)\;(a,b,c\in A)$
が定義される空間とする.部分集合$B\subset A$$A$部分環であるとは$B$$A$の演算で閉じているときをいう.

$A$$*$であるとは以下を満たす共役線型写像$*:A\to A,\;a\mapsto a^*$$*$演算/対合)を持つときをいう:
任意の$a\in A$に対して$(a^*)^*=a$
任意の$a,b\in A$に対して$(ab)^*=b^*a^*$

$A$上のノルム$\n{\cdot}$劣乗法的であるとは
$\n{ab}\leqq\n{a}\n{b}\;(a,b\in A)$
となるときをいう.このとき$(A,\n{\cdot})$ノルム環という.以下ノルム環は零環を除くものとする.さらに$A$が単位元$1_{A}$$\n{1_{A}}=1$となるものを持つとき単位的ノルム環という.
$*$演算の入ったノルム環をノルム$*$という.

ノルム環$(A,\n{\cdot})$のノルム$\n{\cdot}$が完備ノルムのときBanach環という.さらに$*$演算も入れて
$\n{a^*}=\n{a}\;(a\in A)$
をみたすものをBanach$*$という.

ノルム$1$の単位元を持つBanach環を単位的Banach環といいます.なんかくどい.
$*$演算は物理でいうダガーで,線形代数でいう随伴の一般化です.

コンパクト集合$\Omega$上の連続関数環$C(\Omega)$に一様ノルムを入れると単位的Banach環になります.

単位元のノルムが$1$でない定義をしている本もある

この場合は正規化=ノルム$1$にしてから議論しなければなりません.

単位的Banach環のスペクトル

$A$を単位的Banach環とする.

$A$の元$a$可逆とは
$\exists b\in A\;s.t.\;ab=ba=1_{A}$
となるときをいう.$A$の可逆元全体を$\mathrm{Inv}(A)$と書くことにする.

$A$の元$a$スペクトル$\sigma(a)$$\mathbb{C}$の部分集合で
$\mathrm{Sp}_{A}(a)\coloneqq\set{\lambda\in\mathbb{C}|\lambda1_{A}-a\notin\mathrm{Inv}(A)}$
と定める.

$A$の元$a$スペクトル半径$r_{A}(a)$
$r_{A}(a)\coloneqq\sup_{\lambda\in\Sp_{A}(a)}|\lambda|\overset{\text{Beurling}}{=}\inf_{n\geqq1}\n{a^n}^{1/n}\overset{\text{Beurling}}{=}\lim_{n\to\infty}\n{a^n}^{1/n}$
と定める.

「Banach環」まで課さないのが普通だけど・・・

上の定義で与えられている元の可逆性,スペクトル,スペクトル半径は本来単位的環に対して定義されるべきものなのだが,Beurlingの定理をスペクトル半径の定義とともに紹介すべく単位的Banach環に対して定義した.命題$2$の注意にてBanachでない環についてスペクトルを考えているがそれには上記の事情があるのであまり気にしないで頂きたい.

スペクトルは行列の固有値の一般化で,より詳しくは点スペクトル(固有値),連続スペクトル,剰余スペクトルに分かれます.近似点スペクトルなるものもあります.
上記の$C(\Omega)$のスペクトルは像$f(\Omega)$です.因みに$\Omega$がコンパクトでないときは像の閉包になります.

単位的Banach環については以下の定理が基本的です.

ノイマン級数

$A$を単位的Banach環とする.
$\forall a\in A,\n{a}<1\Longrightarrow 1-a\in\mathrm{Inv}(A),(1-a)^{-1}=\sum_{n=0}^{\infty}a^n$

$\rm{I\hspace{-.15em}I\hspace{-.15em}I}$の無限級数の和の話が一般に単位的Banach環で成り立つというびっくり事実です.Liouvilleの定理と併用して以下を得ます:

単位的Banach環の任意の元のスペクトルは空でない

条件からBanachを取り除くといやよ

$\mathbb{C}[z]$の商体$\set{\frac{f}{g}|f,g\in\mathbb{C}[z],g\neq0}$は単位的環だが,$z $のスペクトルが空である.

名大命題$2$を認めると以下が得られます:

(Gelfand-Mazur)

$A$を単位的Banach環とする.$\mathrm{Inv}(A)=A\setminus\{0\}$なら$A=\mathbb{C}1_{A}$

$a\in A$をとる.このとき$\Sp_{A}(a)\neq\emptyset$なので$\lambda\in\Sp_{A}(a)$をとると$\lambda1_{A}-a\notin\mathrm{Inv}(A)$なので仮定から$a=\lambda1_{A}\in\mathbb{C}1_{A}$

たまにこのGelfand-Mazurの定理をGelfand-Naimarkの定理(後述)から得られるという人がいますが,ノイマン級数に対して言っているのであればまあまあお察しできるものの,牛刀を振り回している気がします.

またノイマン級数からスペクトルのサイズもわかります:

$A$をBanach環とする.$a\in A$について
$\Sp_{A}(a)\subset\set{\lambda\in\mathbb{C}|\;\;|\lambda|\leqq\n{a}}$

基本事項終了 基本事項終了

さて,可逆性を通して環構造がわかったところで,スペクトルを理解する裏テクを紹介します.裏テクと書いたものの十分有名事項です.

可換Banach環$A$とその元$a$について$\widehat{a}(\Omega)\coloneqq\set{\varphi(a)|\varphi\colon A\to\mathbb{C}\;\text{非零準同型}}$とおく.

$(1)$ $A$が単位的なら$\Sp_{A}(a)=\widehat{a}(\Omega)$
$(2)$ $A$が非単位的なら$\Sp_{A}(a)=\widehat{a}(\Omega)\cup\{0\}$

但し,$(2)$では$A$の単位化$\tilde{A}$と埋め込み$\iota\colon A\to\tilde{A}$を用いて$\Sp_{A}(a)\coloneqq\Sp_{\tilde{A}}(\iota(a))$と定めて考えるのですが,詳細は省きます.
環がそこ上の○○から理解できる,というのは作用素環でまああるものの見方で,この記事でも何度か出てきます.

unital or not unital

命題$4$のように作用素環では環が単位的か否かで区別して考えなければならない状況がありますが,$\Cstar$環では単位的でない場合に単位化して単位的な場合に帰着させることができるのであまり気にしません.因みに環上の写像が単位的か否かについては大体縮小環,つまり環に射影を両側からかけてカットすれば大体単位的な場合に帰着できてあまり気にしなくてよいと思っています.

環上の非零準同型についてもう少し見つめてみることにします.

指標,Gelfandスペクトラム

$A$を環とする.$A$指標とは非零準同型$A\to\mathbb{C}$のことをいう.$A$の指標全体を$\Omega(A)$と書き,これを$A$Gelfandスペクトラムという.

非零準同型はnon-zero homomorphismの訳で「恒等的に$0$を返す」ことのない準同型です.

作用素環の表現を学び始めたとき,表現と指標を混同寸前になったことがありました.(ヒルベルト空間$H_\pi$を用いて)$*$$A$の表現とは,$*$準同型(後述)$\pi\colon A\to B(H)$,つまり準同型で$*$を保つものです.このとき$H_\pi$$\pi$の表現空間といいます.$(\pi,H_\pi)$の組で扱うのが標準的です.

Gelfandスペクトラムは位相空間になります.

$A$を単位的可換Banach環とする.
このとき$\Omega(A)\overset{\text{★}}{\subset}\mathrm{Ball}(A^*)$は汎弱コンパクトHausdorff空間.

★だけ補足します.
命題$6$の設定で$\tau\in\Omega(A)$をとる.
このとき$\mathrm{Inv}(\mathbb{C})=\mathbb{C}\setminus\{0\}$より$\tau(\mathrm{Inv}(A))\subset\mathrm{Inv}(\mathbb{C})$
よって各$a\in A$について$\tau(a)\in\Sp_{A}(a)$より$|\tau(a)|\overset{\text{補題}4}{\leqq}\n{a}$が成り立ち,$\n{\tau}\leqq1$を得る.
また$\tau(1_A)=\tau(1_A)^2\neq0$から$\n{\tau(1_A)}=1$$\n{\tau}=1$
したがって$\tau\in\mathrm{Ball}(A^*)$

Gelfand変換

$A$を可換Banach環とする.
このとき各$a\in A$に対し$\Omega(A)$から$\mathbb{C}$への対応$\varphi\mapsto\varphi(a)$$C_0(\Omega(A))$の元でこれを$\widehat{a}$と書くことにする.このとき写像
$\Gamma\colon A\to C_0(\Omega(A)),\;a\mapsto\widehat{a}$
が定まる.$\Gamma$Gelfand変換という.

Gelfand変換の例にフーリエ変換があります.Gelfand変換は準同型です.

蛇足.初学者の人は読み飛ばしても構いません.
指標に関連した双対性にPontrjagin双対性があります.

可換な局所コンパクト群$G$に対して$G$のPontrjagin双対$\Omega(G)$
$\Omega(G)\coloneqq\set{\chi\colon G\to\mathbb{T}|\chi\text{は群準同型}}$
で定めます.$\Omega(-)\colon(\text{可換な局所コンパクト群})\to(\text{そのPontrjagin双対})$という対応を踏まえると,$G\cong\Omega(\Omega(G))$となる,これがPontrjagin双対性です.Pontrjagin双対性の非可換化が淡中 Krein双対性です.

Gelfand変換までやりました Gelfand変換までやりました

コラム・合唱と淡中 Krein双対性

僕は今, Neshveyev Tuset にあるWoronowiczの淡中 Krein双対性を学んでいます.ええそうですかって感じがするのでそれは何か説明しますと,お気持ちは「良い群・圏がそこ上の表現から理解できる」ということです.
より正確には・・・
古典的な淡中 Krein双対性とは,コンパクト群をとったとき,その上の表現圏からベクトル空間の圏への忘却関手がありますが,それの間の自然変換全体のなす位相群のとある(閉)部分群と元のコンパクト群とが同型ということです.私は今それのWoronowiczによる$\Cstar$テンソル圏版を学んでいます.

ここで話は変わりますが,先日 サントリー1万人の第九 に参加してきました.田中圭とEXILE TAKAHIROを見ました.いいでしょ.
ここで合唱しました ここで合唱しました

僕は合唱初心者で17分もある第九がうまく歌えるか微妙だったのですが,何とかなりました.
がしかし本番は緊張もするわ歌詞も忘れかけているわでギリギリ歌えるといった状態でした.しかも事前に第九をよく聴いていなかったので第四部のどこから合唱パートが始まるかすら把握していない.合唱パートになったらすぐ1万人全員で立たなければならないのですがその合図がわかっていなかったのです.
そこで僕は考えて自分なりに合図を作ることにしました.具体的にはホール中央のカメラの動きを覚えたり特徴的な音を覚えたりしてその場で合図を作ることに成功し,無事音に合わせて起立することができました.
また,帰宅時に予期できる後悔を想定して防ぎたい失敗を明白にし,頭に入りにくい箇所を「これは『さくら~ さくら~』のさくらと同じ音だ」と思ったりミスりそうなポイントを5つに絞り絶対に外さないよう心に誓ったり,直立不動で横に置いている手を下でこっそり指揮者の佐渡さんの動きに合わせてリズムを掴んだりして合唱を乗り切ることに成功したのです.

合唱を真正面から取り組むのではなく,自分なりの解釈というか裏技をたくさん作ってやり過ごす.これは,合唱の歌の節々を自分なりの裏テク,つまり自分なりの「表現」と同一視しているという意味で淡中 Krein双対性そのものと言えるのではないでしょうか!

こうなると世の中の見方が変わってきます.例えば最近流行りのほいけんたさんも,音程バーに声を合わせるという操作に対して体ぐぅと発声するという自分なりの裏テクを駆使してやり過ごす,とみれば淡中 Kreinを実践されていると思うこともあながち間違いではない気がしてきます.
あと僕は最近ラーメン屋でのバイトを始めたのですが,注文通りにラーメンの提供するというそうさに対して味噌,醤油で区別してマグネットを貼ったりルーティンを作ったりと自分なりの表現方法を体現するというのも淡中 Kreinの実践だなあとバイト中にふと思いました.
この話を先日友人にしたら少し引かれました.

お鍋の中からボワッと$\Cstar$環登場

$\Cstar$

$A$を劣乗法的ノルム$\n{\cdot}$をもつノルム$*$環とする.$A$$\Cstar$であるとは
$\n{a}^2=\n{a^*a}\;(a\in A)$$\Cstar$恒等式)
をみたし,ノルムが完備ノルムなものをいう.

ここで$*$環の$*$準同型を定めます.

$*$準同型

$A,B$$*$環とする.$\pi\colon A\to B$$*$準同型であるとは準同型で$\pi(a)^*=\pi(a^*)\;(a\in A)$を満たすものをいう.

任意の$A$の指標は$*$準同型です.$A$が非零可換$\Cstar$環のとき,$\Omega(A)\neq\emptyset$である.
$\Cstar$環はBanach$*$環なので上にあるBanach環の事項も使えます.例えば$\Cstar$$A$の元$a$
$a^*a=a^*a$・・・☆
のとき(このとき$a\in A$正規であるといいます.行列のときと同じですね)
$\n{a^2}^2\overset{\Cstar\;\text{恒等式}}{=}\n{(a^2)^*a^2}\overset{\text{☆}}{=}\n{(a^*a)^2}=\n{(a^*a)^*(a^*a)}\overset{\Cstar\;\text{恒等式}}{=}\n{a^*a}^2\overset{\Cstar\;\text{恒等式}}{=}\n{a}^4$
よって$\n{a^2}=\n{a}^2$で,帰納的に$\n{a^{2^n}}=\n{a}^{2^n}\;(n\in\mathbb{N})$が成り立つので
$r_{A}(a)\overset{\text{Beurling}}{=}\lim_{n\to\infty}\n{a^{2^n}}^{\frac{1}{2^n}}=\n{a}$
を得ることができます.正規元のスペクトル半径は具体的に計算できるんですね.

!FORMULA[191][390533223][0]環の基礎事項はミニマリストでいきます $\Cstar$環の基礎事項はミニマリストでいきます
さてこれでオゼンダテは終わりです.

(Gelfand-Naimark)

$A$を(単位的)可換$\Cstar$環とする.このときGelfand変換
$\Gamma\colon A\to C_0(\Omega(A)),\;a\mapsto\widehat{a}$
は等長$*$同型である.

これは「代数の元を関数と思ってよい」ということです.

$A$$\Cstar$環とする.
$a\in A$であるとは$a=a^*$(自己共役)かつ,$\Sp_{A}(a)\subset\mathbb{R}_{+}$のときをいう.$A$で自己共役な元の集まりを$A_{sa}$$A$の正元の集まりを$A_+$と書く.
$A_{sa}$上に関係$\leq$
$a\leq b\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}b-a\in A_{+}\;(a,b\in A_{sa})$
と定めるとこれは順序関係になる.

$A$が可換なとき,$x\in A_{sa}$について$-\n{x}1_{A}\leq x\leq\n{x}1_{A}$の成立を示せ.

これは「Gelfand-Naimarkより一発」です.代数の元を関数と思うことの強み,伝わっていますか?
GN双対性にある等長が効いている! GN双対性にある等長が効いている!

大体のものの流れ

学部生の内に充実した作用素環ライフを過ごすための理想的なライフスタイルを念頭にしたざっくりまとめです.確かにBanach環の具体例として$L^p$空間の完備性をする場面があるなどありますが,定義の理解に必要不可欠でない限り前提知識のコメントは省きました.
今まで環,$*$環,ノルム環,Banach環,Banach$*$環,$\Cstar$環を紹介しましたが,これ以外にvon Neumann環(ここでは略してvN環と書くことにする)というものがあり,作用素環で扱われる主な対象は$\Cstar$環とvN環です.その$2$つについて学ぶ時の大体の流れは以下の通りだと僕は思っています.

第1部 基礎事項
Step1.Banach空間・Banach環
Step2.$\mathrm{C}^*\!$
Step3.$\mathrm{C}^*\!$環の表現&vN環のための準備
Step4.CP,UCP
第2部 $\mathrm{C}^*\!$環を学ぶ
Step5.$\mathrm{C}^*\!$環の具体例
Step6-1.K理論
Step6-2.Extensionを通してホモトピーに馴染む
Step7.核型$\mathrm{C}^*\!$
第3部 vN環を学ぶ
Step5.基礎を叩き込む
Step6.富田竹崎
Step7.vN環の分類

第1部は数字通り流れを崩さず学ぶのが無難だと思います.そこからは第2部と第3部は好きな方を選んでやるという分岐ルートです(全てやるに越したことはないですが).

今回の記事で紹介したのはStep2の中盤までです.
Step3で$\mathrm{C}^*\!$環関連では正元,近似単位元などやりつつGNS表現,純粋状態とかやって,vN環関連では二重可換子定理(double commutant theorem)やKaplanskyの稠密性定理などをやります.
$\mathrm{C}^*\!$環の表現論をやる前に有限群の表現論を(Frobenius reciprocityまででいいと思います)やっておくと吉.極分解が出てきたら行列で手を動かしてやって,作用素環での具体例確認のやり方に馴染みましょう.
また,いろんな弱い位相にも出くわして,ペアリングと仲良しになります.

第2部Step5ではAF環,UAF環,群環(この際amenabilityに触れてもよいかも),無理数回転環とCuntz環に代表される普遍$\mathrm{C}^*\!$環とかを学びます.Step6-1と6-2も分岐ルートです.Step7に行く前に完全列やホモトピーなどに慣れた方が心の余裕ができると思うからです.

第3部Step5では前双対,ペアリングへの理解を深めてから射影とか条件付き期待値とかを学びます.正規性のところは「完全可約性」という表現論で出てくる言葉が顔を出して個人的には面白かったです.

より深く学ぶには

作用素環を学ぶ際のヒントは界隈特有のやり方に慣れていくことかなと思います.出てくる武器全てに親しくなろうと思うに越したことはないのですが,それよりかは具体例を線形代数で試すなどしてよく出てくるテクニック・folkloreに慣れ親しむのを優先した方が良いと思います.
「では,読む本の数を絞るのでなくたくさんの本に触れた方が良いということか?」という質問については人によって学び方のスタイルが異なるので一概には言えませんが,まずは大前提として線形代数(行列解析,ジョルダン標準形その後など線形代数を軸に解析に出てくるような話題に触れるのが良いかと思います)によく親しみ,有名な本(後述)を軸に気になる箇所の演習問題を定期的に解き続けるのが理想的な気がします.

まずは,さほどゴリゴリやりたくないけど,先生方による記事などをよく読んでいて関心は持っているという方向けに.物理への応用が気になるようであれば 量子力学の数学的構造 を読むとよいらしいです(僕は全部読んでいませんが).また 泉先生の教科書 は薄さの割に濃密でコスパ良く一通り有名事項を学べると思います.ここに挙げた2冊はちゃんと勉強したい人も目を通しておくと良いと思います.

さて以下は比較的真面目に作用素環やりたい人向けに書いたつもりです.

まずはルベーグ積分に詳しくなりましょう.個人的なおすすめは 吉田伸生先生のルベーグ積分入門 です.こちらの本は(文字がチカチカするという人たちが一部いるようですが)初心者からでもよく学べる良い本だと思います.これを読んだ僕は強く影響を受けて ルベーグ積分の講演 をしてしまいました.ただ良書すぎて初読では消化しきれないかもしれませんがその時は Folland を読むと吉田ルベーグの味わいが増すと思います.

次に作用素環を見据えた関数解析についてですが,僕のおすすめ(泉本と こちらの三部作 Yoshida関数解析 宮寺関数解析 で大体の基礎の基礎を勉強した)なんかよりは専門の先生のおすすめを信じて有名な本を読み進めるのが良いかと思います. 河東先生のセミナー用の本まとめ や,河東先生の門下生の先生方のページを検索しまくると良いでしょう.大体 日合柳 Analysis Now Conway Murphy Davidson あたりがよく出てくると思いますが.因みにヒルベルト空間周りなら Folland にもあります.
もうなんでも Folland に載っている気がしてきますね! Folland いつもありがとう.
そして風の噂で聞いた話ですが,来年に作用素環をよくまとめた和書が出版されるとのことです.程よい行間埋めを経験しながら作用素環の基本事項にざっと触れられるとのこと.これは要チェックですね!

また,より専門的にいくのであれば Rørdam Brown Ozawa Higson Roe 竹崎先生の教科書 などが有名だと思います.
Jones といった有名な先生のlecture noteを読むのもよいと思いますが,この際数学でなく英語に詰まる危険性に要注意. John RoeのK理論 のセミナー中に構文解釈タイムが始まったのを僕は未だに忘れられません.その後K理論ゼミは自然消滅しました.lecture noteを読むとこうなりがちだと思います.
がしかし良さげな資料にたくさん出会えて移動中にたしなめるのはlecture noteの利点です.先ほど「lean$4$ operator algebra」と検索したのですが何故か よさげなlecture note の発掘に成功しました.どういう繋がりかは不明ですが後で読んでみようと思います.

さいごに

最後まで読んでいただきありがとうございました.この記事が悪くないなと思ったら是非高評価をして頂きたいです.

参考文献

投稿日:20231211
更新日:113

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