久々のMathlog投稿です.
この記事は
Wathematicaのアドカレ
をきっかけに書かれたものです.
僕は作用素環周りの関数解析を専門に勉強しているのですが,今回は作用素環論のわかりやすい記事を作ろうと思います.書生只今修行中でして至らぬ点があれば(優しく)コメントして頂ければ幸いです.
この記事を書くにあたり大変お世話になった戸松玲治先生,ゼミとお酒を通して交流してくれた先輩方と友人たちにこの場を借りて感謝致します.
目的:高校数学をきっかけに作用素環の雰囲気を導入・紹介し,参考図書など自分の知っている範囲内で出せる「その後」に繋がりそうな情報を提供する
示される順よりも,優先度と照らし合わせた上で読んでわかりやすい順で事項を紹介したつもりです.
皆さんは受験生の時に「文字定数の分離」という技術に出くわしたことがあると思います.
これには代数的アプローチと解析的アプローチがあると思います.
代数的にやるには,解を形式的に
ここで出てくるのが文字定数の分離.
文字定数の分離の裏には可換環(代数的)と連続関数環(解析的・位相的)が同一視できるという事実が隠れている
ということなのです.この上枠事実(Gelfand-Naimarkの定理と言います)の説明がこの記事の前半でやることです.より詳しく書くと
という順番です.
上の
巷でよく見る作用素環についてのpdf
には
PUFFYの曲 ではありません.
で結合則
が定義される空間とする.部分集合
任意の
任意の
となるときをいう.このとき
ノルム環
をみたすものをBanach
ノルム
コンパクト集合
この場合は正規化=ノルム
となるときをいう.
と定める.
と定める.
上の定義で与えられている元の可逆性,スペクトル,スペクトル半径は本来単位的環に対して定義されるべきものなのだが,Beurlingの定理をスペクトル半径の定義とともに紹介すべく単位的Banach環に対して定義した.命題
スペクトルは行列の固有値の一般化で,より詳しくは点スペクトル(固有値),連続スペクトル,剰余スペクトルに分かれます.近似点スペクトルなるものもあります.
上記の
単位的Banach環については以下の定理が基本的です.
数
単位的Banach環の任意の元のスペクトルは空でない
名大命題
たまにこのGelfand-Mazurの定理をGelfand-Naimarkの定理(後述)から得られるという人がいますが,ノイマン級数に対して言っているのであればまあまあお察しできるものの,牛刀を振り回している気がします.
またノイマン級数からスペクトルのサイズもわかります:
基本事項終了
さて,可逆性を通して環構造がわかったところで,スペクトルを理解する裏テクを紹介します.裏テクと書いたものの十分有名事項です.
可換Banach環
但し,
環がそこ上の○○から理解できる,というのは作用素環でまああるものの見方で,この記事でも何度か出てきます.
命題
環上の非零準同型についてもう少し見つめてみることにします.
非零準同型はnon-zero homomorphismの訳で「恒等的に
作用素環の表現を学び始めたとき,表現と指標を混同寸前になったことがありました.(ヒルベルト空間
Gelfandスペクトラムは位相空間になります.
このとき
★だけ補足します.
命題
このとき
よって各
また
したがって
このとき各
が定まる.
Gelfand変換の例にフーリエ変換があります.Gelfand変換は準同型です.
蛇足.初学者の人は読み飛ばしても構いません.
指標に関連した双対性にPontrjagin双対性があります.
可換な局所コンパクト群
で定めます.
Gelfand変換までやりました
僕は今,
Neshveyev Tuset
にあるWoronowiczの淡中 Krein双対性を学んでいます.ええそうですかって感じがするのでそれは何か説明しますと,お気持ちは「良い群・圏がそこ上の表現から理解できる」ということです.
より正確には・・・
古典的な淡中 Krein双対性とは,コンパクト群をとったとき,その上の表現圏からベクトル空間の圏への忘却関手がありますが,それの間の自然変換全体のなす位相群のとある(閉)部分群と元のコンパクト群とが同型ということです.私は今それのWoronowiczによる
ここで話は変わりますが,先日
サントリー1万人の第九
に参加してきました.田中圭とEXILE TAKAHIROを見ました.いいでしょ.
ここで合唱しました
僕は合唱初心者で17分もある第九がうまく歌えるか微妙だったのですが,何とかなりました.
がしかし本番は緊張もするわ歌詞も忘れかけているわでギリギリ歌えるといった状態でした.しかも事前に第九をよく聴いていなかったので第四部のどこから合唱パートが始まるかすら把握していない.合唱パートになったらすぐ1万人全員で立たなければならないのですがその合図がわかっていなかったのです.
そこで僕は考えて自分なりに合図を作ることにしました.具体的にはホール中央のカメラの動きを覚えたり特徴的な音を覚えたりしてその場で合図を作ることに成功し,無事音に合わせて起立することができました.
また,帰宅時に予期できる後悔を想定して防ぎたい失敗を明白にし,頭に入りにくい箇所を「これは『さくら~ さくら~』のさくらと同じ音だ」と思ったりミスりそうなポイントを5つに絞り絶対に外さないよう心に誓ったり,直立不動で横に置いている手を下でこっそり指揮者の佐渡さんの動きに合わせてリズムを掴んだりして合唱を乗り切ることに成功したのです.
合唱を真正面から取り組むのではなく,自分なりの解釈というか裏技をたくさん作ってやり過ごす.これは,合唱の歌の節々を自分なりの裏テク,つまり自分なりの「表現」と同一視しているという意味で淡中 Krein双対性そのものと言えるのではないでしょうか!
こうなると世の中の見方が変わってきます.例えば最近流行りのほいけんたさんも,音程バーに声を合わせるという操作に対して体ぐぅと発声するという自分なりの裏テクを駆使してやり過ごす,とみれば淡中 Kreinを実践されていると思うこともあながち間違いではない気がしてきます.
あと僕は最近ラーメン屋でのバイトを始めたのですが,注文通りにラーメンの提供するというそうさに対して味噌,醤油で区別してマグネットを貼ったりルーティンを作ったりと自分なりの表現方法を体現するというのも淡中 Kreinの実践だなあとバイト中にふと思いました.
この話を先日友人にしたら少し引かれました.
をみたし,ノルムが完備ノルムなものをいう.
ここで
任意の
のとき(このとき
よって
を得ることができます.正規元のスペクトル半径は具体的に計算できるんですね.
さてこれでオゼンダテは終わりです.
は等長
これは「代数の元を関数と思ってよい」ということです.
元
と定めるとこれは順序関係になる.
これは「Gelfand-Naimarkより一発」です.代数の元を関数と思うことの強み,伝わっていますか?
GN双対性にある等長が効いている!
学部生の内に充実した作用素環ライフを過ごすための理想的なライフスタイルを念頭にしたざっくりまとめです.確かにBanach環の具体例として
今まで環,
第1部 基礎事項
Step1.Banach空間・Banach環
Step2.
Step3.
Step4.CP,UCP
第2部
Step5.
Step6-1.K理論
Step6-2.Extensionを通してホモトピーに馴染む
Step7.核型
第3部 vN環を学ぶ
Step5.基礎を叩き込む
Step6.富田竹崎
Step7.vN環の分類
第1部は数字通り流れを崩さず学ぶのが無難だと思います.そこからは第2部と第3部は好きな方を選んでやるという分岐ルートです(全てやるに越したことはないですが).
今回の記事で紹介したのはStep2の中盤までです.
Step3で
また,いろんな弱い位相にも出くわして,ペアリングと仲良しになります.
第2部Step5ではAF環,UAF環,群環(この際amenabilityに触れてもよいかも),無理数回転環とCuntz環に代表される普遍
第3部Step5では前双対,ペアリングへの理解を深めてから射影とか条件付き期待値とかを学びます.正規性のところは「完全可約性」という表現論で出てくる言葉が顔を出して個人的には面白かったです.
作用素環を学ぶ際のヒントは界隈特有のやり方に慣れていくことかなと思います.出てくる武器全てに親しくなろうと思うに越したことはないのですが,それよりかは具体例を線形代数で試すなどしてよく出てくるテクニック・folkloreに慣れ親しむのを優先した方が良いと思います.
「では,読む本の数を絞るのでなくたくさんの本に触れた方が良いということか?」という質問については人によって学び方のスタイルが異なるので一概には言えませんが,まずは大前提として線形代数(行列解析,ジョルダン標準形その後など線形代数を軸に解析に出てくるような話題に触れるのが良いかと思います)によく親しみ,有名な本(後述)を軸に気になる箇所の演習問題を定期的に解き続けるのが理想的な気がします.
まずは,さほどゴリゴリやりたくないけど,先生方による記事などをよく読んでいて関心は持っているという方向けに.物理への応用が気になるようであれば 量子力学の数学的構造 を読むとよいらしいです(僕は全部読んでいませんが).また 泉先生の教科書 は薄さの割に濃密でコスパ良く一通り有名事項を学べると思います.ここに挙げた2冊はちゃんと勉強したい人も目を通しておくと良いと思います.
さて以下は比較的真面目に作用素環やりたい人向けに書いたつもりです.
まずはルベーグ積分に詳しくなりましょう.個人的なおすすめは 吉田伸生先生のルベーグ積分入門 です.こちらの本は(文字がチカチカするという人たちが一部いるようですが)初心者からでもよく学べる良い本だと思います.これを読んだ僕は強く影響を受けて ルベーグ積分の講演 をしてしまいました.ただ良書すぎて初読では消化しきれないかもしれませんがその時は Folland を読むと吉田ルベーグの味わいが増すと思います.
次に作用素環を見据えた関数解析についてですが,僕のおすすめ(泉本と
こちらの三部作
,
Yoshida関数解析
,
宮寺関数解析
で大体の基礎の基礎を勉強した)なんかよりは専門の先生のおすすめを信じて有名な本を読み進めるのが良いかと思います.
河東先生のセミナー用の本まとめ
や,河東先生の門下生の先生方のページを検索しまくると良いでしょう.大体
日合柳
,
Analysis Now
,
Conway
,
Murphy
,
Davidson
あたりがよく出てくると思いますが.因みにヒルベルト空間周りなら
Folland
にもあります.
もうなんでも
Folland
に載っている気がしてきますね!
Folland
いつもありがとう.
そして風の噂で聞いた話ですが,来年に作用素環をよくまとめた和書が出版されるとのことです.程よい行間埋めを経験しながら作用素環の基本事項にざっと触れられるとのこと.これは要チェックですね!
また,より専門的にいくのであれば
Rørdam
,
Brown Ozawa
,
Higson Roe
,
竹崎先生の教科書
などが有名だと思います.
Jones
といった有名な先生のlecture noteを読むのもよいと思いますが,この際数学でなく英語に詰まる危険性に要注意.
John RoeのK理論
のセミナー中に構文解釈タイムが始まったのを僕は未だに忘れられません.その後K理論ゼミは自然消滅しました.lecture noteを読むとこうなりがちだと思います.
がしかし良さげな資料にたくさん出会えて移動中にたしなめるのはlecture noteの利点です.先ほど「lean
最後まで読んでいただきありがとうございました.この記事が悪くないなと思ったら是非高評価をして頂きたいです.