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数論的関数1

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 久しぶりに初等的整数論に触っていたら数論的関数の面白さを思い出したので、これについてまとめてみたいと思います。注意として、今回はほとんど新規性のある話はありません。その代わり、この記事は高校程度の数論と代数のみの知識で読めます。自然数は0を含めないこととします。

数論的関数の性質

まずは数論的関数を定義します。

数論的関数

自然数に対して複素数の値を取る関数のことを数論的関数と呼ぶ。

例えばnに対して、nを返す関数、1を返す関数、nの正の約数の個数を返す関数、nの正の約数の総和を返す関数、n以下のnと互いに素な自然数の個数を返す関数です。これらを$Id(n),1(n),d(n),σ(n),φ(n)$とします。今回はこれらの関数の性質を明らかにすることを一つの目標にします。

次に乗法的関数というのを定義します。これは数論的関数の中でも良い性質を持った関数です。

乗法的関数

数論的関数$f$が乗法的関数であるとは、$f(1)=1,$互いに素な自然数$m,n$に対して$f(mn)=f(m)f(n)$が成り立つことを言う。

実は上に挙げた5つは乗法的関数でもあります。1,2つ目は明らかですが、残りの3つは定理1と2に従います。(簡単な手計算でも分かりますが。)

関数$f$が乗法的ならば自然数$n$の素因数分解を$n={p_1^{e_1}}…p_k^{e_k}$$(p_1,…,p_k$は異なる素数,$e_1,…,e_n$は自然数)とすることで$f(n)=f(p_1^{e_1})…f(p_k^{e_k})$と分解できます。これは乗法的関数の値は素数のべきに関してさえ分かれば全体も分かると言うことです。逆にこのように素数の冪に$f$が分解できるなら$f$は乗法的であることも分かります。

次に数論的関数でよく出てくるシグマ和を定義します。$f$を数論的関数としたとき、$\sum_{k|n}f(k)$$n$の正の約数$k$に対し$f(k)$の総和とします。これは有限和なので数論的関数です。また$f$が乗法的なら$\sum_{k|n}f(k)$も乗法的であることは定理1に従います。

次にDirichlet積というものを定義します。これは今回の記事において最も重要で、これを用いることで数論的関数の有名な定理の大抵は示せるようになります。

Dirichlet積

数論的関数$f,g$に対して、$f*g$を、
$f*g(n)=\sum_{k|n}f(k)g(\frac{n}{k})$
と定義する。

ここで$ε(n)=[\frac{1}{n}]$(つまりn=1の時のみ1,それ以外は0を取る関数)としておきます。

さて、次がこの記事のメインの定理です。

$f,g$を数論的関数とする。
(1)$f*g=g*f$
(2)$f*ε=f$
(3)$f*(g*h)=(f*g)*h$
(4)$f,g$が乗法的なら$f*g$も乗法的である。
(5)$f(1)≠0$を満たす任意の数論的関数$f$に対して、ある数論的関数$g$があって、$f*g=ε$とでき、fが乗法的ならgも乗法的である。

(1)は明らか。(2)は$ε$の定義に従う。
(3)$f*(g*h)(n)=\sum_{a,b,c\in \mathbb{N}, abc=n}f(a)g(b)h(c)$であることが分かり、$(f*g)*h$も同様なので、これらは等しい。
(4)$f,g$を乗法的とする。また$n=p_1^{e_1}…p_k^{e_k}$を定義2の後の議論と同様の素因数分解とする。この時、
$f*g(n)=f*g(p_1^{e_1})…f*g(p_k^{e_k})$を示せば良いが、右辺をシグマの形にして展開すると、任意の$a|n$なる自然数aに対して、$f(a)g(\frac{n}{a})$という形の項が($f,g$の乗法性より)一意に出てくるので、これらは等しい。
(5)まず$g$が存在することを示す。$g(1)=\frac{1}{f(1)}$で、$1≦i≦n-1$$(n≧2)$に対し、$g(i)$が存在するとする。
$0=ε(n)=f*g(n)=\sum_{k|n}f(k)g(\frac{n}{k})$より、
$g(n)=- \frac{1}{f(1)} \sum_{k≠n,k|n}f(k)g(\frac{n}{k})$を得る。
次に$f$を乗法的と仮定する。このとき,$g(1)=\frac{1}{f(1)}=1$であり、$1≦i≦n-1$$(n≧2)$に対して$g(i)$は乗法的とする。ここで$n$の素因数分解$n=p_1^{e_1}…p_k^{e_k}$とし$g=g(p_1^{e_1})…g(p_k^{e_k})$とすれば、
$ \sum_{k≠n,k|n}f(k)g(\frac{n}{k})+f(1)g=0$
であることが、$k,\frac{n}{k}$を素因数分解して考えることで分かり、$\sum_{k|n}f(k)g(\frac{n}{k})=0,f(1)≠0$より$g(n)=g$を得るので$g$も乗法的である。

この命題によって、約数関数$d(n),σ(n)$が乗法的であることも簡単に示すことができます。$f(n)$を数論的関数としたとき、$\sum_{k|n}f(k)$$f*1(n)$と書くことができます。これから$f$が乗法的なら$\sum_{k|n}f(k)$も乗法的であることが従います。これを使うことで、$d(n),σ(n)$$d(n)=\sum_{k|n}1,σ(n)=\sum_{k|n}k$から$d=1*1,σ=Id*1$であり、$1(n),Id(n)$は乗法的関数であるからです。実際に計算する際には,素数の冪の値のみ分かっていれば良く、素数$p$と自然数$e$に対して$d(p^e)=e+1,σ(p^e)=1+p+…+p^e=\frac{p^{e+1}-1}{p-1}$より、
自然数$n$の素因数分解を$n=p_1^{e_1}…p_k^{e_k}$とすれば、
$d(n)=(e_1+1)…(e_n+1),σ(n)=\frac{p_1^{e_1+1}-1}{p_1-1}…\frac{p_k^{e_k+1}-1}{p_k-1}$と分かります。

さて、残ったのは$φ(n)$のみです。ここで$φ(n)$は次のような性質を持ちます。

$φ*1=Id$である。つまり、$\sum_{k|n}φ(k)=n$である。

$1≦i≦n$を取り、$g$$i$$n$の最大公約数とする。この時、$\frac{i}{g},\frac{n}{g}$は互いに素であることから、最大公約数$g$を固定した時の$i$の個数は$φ(\frac{n}{g})$と分かり、$g$としてあり得るのは$n$の約数のみなので、$\sum_{k|n}φ(k)=\sum_{k|n}φ(n/k)=n$を得る。

よって$1(n)$は命題1より乗法的な逆元を持つので、それを$μ(n)$とすれば、$φ=φ*ε=φ*(1*μ)=(φ*1)*μ=Id*μ$が分かるので$φ$は乗法的と分かります。また、素数$p$と自然数$e$に対して$φ(p^e)$$1$から$p^e$までで、$p$の倍数を除いた個数であるから$φ(p^e)=p^e-p^{e-1}=p^e(1-\frac{1}{p})$を得ます。よって$n$の素因数分解を$n=p_1^{e_1}…p_k^{e_k}$とすれば、$φ(n)=n(1-\frac{1}{p_1})…(1-\frac{1}{p_k})$を得ます。

さて、$μ$という関数がでてきましたが、これはメビウス関数という名前がついています。$μ(1)=1$であり、素数pに対して$0=1(1)μ(p)+1(p)μ(1)$より、$μ(p)=-1$、また$μ(p^2)=0$であることが分かり、自然数$e≧2$に対して、$μ(p^e)=0$と仮定すると、$μ(p^{e+1})=0$と分かるので、
$μ(n)$$n$$1$以外の平方数で割り切れないなら$0$$n$が相異なる$e$個の素因数に分解されるなら$μ(n)=(-1)^e$であると分かります。

メビウス関数が明示的に書けることが分かったので、今の$φ$を求める手順を一般化します。これはメビウスの反転公式と呼ばれます。

メビウスの反転公式

$f$を数論的関数、$μ$をメビウス関数とする。
$g(n)=\sum_{k|n}f(k)$ならば、$f(n)=\sum_{k|n}g(k)μ(\frac{n}{k})$である。
また$f$が乗法的$\Longleftrightarrow$$g$が乗法的

$g=f*1$から$f=f*ε=f*1*μ=g*μ$に従う。$1(n),μ(n)$ は乗法的なので$f$が乗法的なら$g=f*1$も乗法的であり、$g$が乗法的なら$f=g*μ$も乗法的である。

最後に本筋とは関係ないですが、数論的関数の中で私の好きな定理を証明することにします。

偶数の完全数

$2^k-1$が素数となるような自然数$k$を用いて、$2^{k-1}(2^k-1)$と書かれる自然数は完全数であり、また偶数の完全数は全てこのように書かれる。

完全数とは$σ(n)=2n$となる自然数$n$であることに注意する。
まず$2^k-1$が素数なら$2^{k-1}(2^k-1)$が完全数であることを示す。
$2^{k-1},2^k-1$は互いに素で$2^k-1$が素数だから、
$σ(2^{k-1}(2^k-1))=(1+…+2^{k-1})×2^k=2×2^{k-1}(2^k-1)$である。
また$n$を偶数の完全数とすると、$n=2^{s}m$と自然数$k$と奇数$m$を用いて書ける。
よって$σ(n)=2n,σ(n)=σ(2^s)σ(m)=(2^{s+1})σ(m)$ より、
$(2^{s+1}-1)σ(m)=2^{s+1}m$であり$2^{s+1},2^{s+1}-1$は互いに素だから$m=(2^{s+1}-1)l$と自然数$l$を用いて書けるので代入すると、$σ((2^{s+1}-1)l)=2^{s+1}l$を得る。ここで$l>1$なら、$(2^{s+1}-1)l$$1,l,(2^{s+1}-1)l$を約数に持つので、$σ((2^{s+1}-1)l)≧2^{s+1}l+1$となり矛盾する。よって$l=1$であり、この時、$σ(2^{s+1}-1)=2^{s+1}$より$2^{s+1}$は素数であることが分かる。よって$s+1→k$に置き換えることで、偶数の完全数は素数$2^k-1$を用いて$n=2^{k-1}(2^k-1)$と書けるものに限ることが分かった。

$2^k-1$の形をした素数はメルセンヌ素数と呼ばれ、これは今のところ52個しか見つかっておらず、無数にあるかどうかは未解決問題です。また奇数の完全数が存在するかどうかも未解決問題です。

終わりに

Dirichlet積を導入したことによって一見関係の無いような数論的関数たちが実は繋がっていたということが分かっていただけたと思います。最後の偶数の完全数の命題は僕が昔から大好きな命題で、もっと皆に知ってもらいたいと思っていたので書けて嬉しいです。メビウスの反転公式などはもっと色んな応用もあると思いますので、ぜひ皆さん探してみてください。

投稿日:721
更新日:87
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投稿者

高三。代数好き

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