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現代数学解説
文献あり

分数階微分積分学の備忘録

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定義, 表記法

関数f(n)

n>0に対して, f(n)fn次導関数とする.
n=0に対して, f(n)f
n<0に対して, f(n)は積分定数をすべて0としたfn階積分とする.

一般化二項係数

一般化二項係数を次のように定義する.
(αn)=k=1nαk+1k
n,mZ,0mnとするとき, nCm=(nm)が成り立つ.
また(αn)=Γ(α+1)Γ(k+1)Γ(αk+1)と一般化される.

天井関数

は実数xに対して
x=min{nZxn}
と定められ, 性質としてx1<xxを満たす.

ガンマ関数

zC,Re(z)>0とする.
Γ(z)=0tz1etdt
をガンマ関数といい, Γ(z)=zΓ(z1)が成り立つ.
nNに対して, Γ(n)=(n1)!が成り立つ.

ベータ関数

x,yC,Re(x)>0,Re(y)>0とする.
B(x,y)=01tx1(1t)y1dt
をベータ関数という. 性質として
ab(ta)x1(bt)y1dt=Γ(x)Γ(y)Γ(x+y)(ba)x+y1

分数階微分積分学とは

微分方程式ではしばしば計算法として, 演算子D(ddx)を導入してこれを文字のように扱う微分演算子法がある.
Dnn階微分, D1は不定積分を表す.  

伝統的に分数階微分積分学と書いてあるが, 分数だけでなく複素数にも適応可能である.

Grünwald–Letnikovの定義

導入

この定義は微分から始める定義である.

一次導関数

f(x)=limh0f(x+h)f(x)h

二次導関数

f(x)=limh10f(x+h1)f(x)h1=limh1,h20(f(x+h1+h2)f(x+h1))(f(x+h2)f(x))h1h2
ここでh1,h2を同時に収束するとすると
f(x)=limh0f(x+2h)2f(x+h)+f(x)h2

以下, n次導関数f(n)に対して次のように拡張できる.
f(n)(x)=limh01hnk=0n(1)k(nk)f(x+(nk)h)
総和の順を逆に取ると
=limh0(1)nhnk=0n(1)k(nk)f(x+kh)
hhにすると
=limh01hnk=0n(1)k(nk)f(xkh)

nNαRに拡張することで, Grünwald–Letnikovによる定義を得られる. 総和における自然数から実数への一般化では解析的に上限は無限大になる.
f(α)(x)=limh01hαk=0(1)k(αk)f(xkh)

微分の定義

Grünwald–Letnikovの分数階微分

GLDxαf(x)=limh01hαk=0(1)k(αk)f(xkh)

この定義はk0からまで和を取った後h0とするため, khがどのような値になるのか予測しづらく実際の計算にあまり向いていない.

別の定義

別の定義として総和の上限を定めることもある. 今記事では上限をxa|h|(ax)とする. また, hα
h0に対して
xa|h|1<xa|h|<xa|h|+1|xa|h|xa|h||<1|hxa|h|(xa)|<|h|
limh0hxa|h|=xa
よって, k=xa|h|,h0のとき f(xkh)=f(x(xa))=f(a)となるので計算しやすくなる.

aGLDxαf(x)=limh01hαk=0xa|h|(1)k(αk)f(xkh)

Riemann–Liouvilleの定義

導入

Cauchyの反復積分に関する公式

a<x,nNに対して, 次が成り立つ.
1(n1)!ax(xt)n1f(t)dt=f(n)(x)k=1nf(k)(a)(nk)!(xa)nk

1(n1)!ax(xt)n1f(t)dt
微分する関数を(xt)n1, 積分する関数f(t)とした部分積分をn回すると
=1(n1)![k=1n(1)k1{(1)k1(n1)!(nk)!(xt)nk}f(k)(t)]t=at=x+(1)nax0f(n)(t)dt=[k=1n(xt)nk(nk)!f(k)(t)]t=at=x
=[(xt)n1(n1)!f(1)(t)++(xt)11!f(n+1)(t)+(xt)00!f(n)(t)]t=at=x
=f(n)(x)k=1nf(k)(a)(nk)!(xa)nk

この公式の階乗をガンマ関数に拡張することで複素数階積分に一般化できる.

積分の定義

Riemann–Liouvilleの分数階積分

f: 区間[a,x]上可積分, αC,Re(α)>0
aRLIxαf(x)=1Γ(α)ax(xt)α1f(t)dt

RL型の分数階積分の性質

α,βC,Re(α)>0,Re(β)>0に対して

  • 線形性
    aRLIxα(kf(x)+lg(x))=kaRLIxαf(x)+laRLIxαg(x)
  • 結合法則
    aRLIxα+βf(x)=aRLIxβ(aRLIxαf(x))=aRLIxα(aRLIxβf(x))
  • 線形性
    aRLIxα(kf(x)+lg(x))=1Γ(α)ax(xt)α1(kf(t)+lg(t))dt
    積分の線形性から
    =kΓ(α)ax(xt)α1f(t)dt+lΓ(α)ax(xt)α1g(t)dt=kaRLIxαf(x)+laRLIxαg(x)
    となる.

  • 結合法則
    aRLIxβ(aRLIxαf(x))=1Γ(β)ax(xt)β1{1Γ(α)at(ts)α1f(s)ds}dt=1Γ(α)Γ(β)axat(xt)β1(ts)α1f(s)dsdt
    積分順序を入れ替えて
    =1Γ(α)Γ(β)axsx(xt)β1(ts)α1f(s)dtds
    ベータ関数の性質より
    =1Γ(α)Γ(β)axΓ(α)Γ(β)Γ(α+β)(xs)α+β1f(s)ds=1Γ(α+β)ax(xs)α+β1f(s)ds=aRLIxα+βf(x)
    となる. 逆も同様に示せる.

ラプラス変換

F(s)=L{f(t)}とする. このとき, 0t<におけるラプラス変換は
L{0RLItαf(t)}=sαF(s)
である.

L{0RLItαf(t)}=L{1Γ(α)0t(tx)α1f(x)dx}
畳み込みのラプラス変換より
=1Γ(α)L{tα1f(t)}=1Γ(α)L{tα1}L{f(t)}=sαF(s)

微分の定義

Riemann–Liouvilleの分数階微分

f: 区間[a,x]上可積分, αR,n=max{0,α}
aRLDxαf(x)=1Γ(nα)dndxnax(xt)nα1f(t)dt

max関数が入って分かりにくいが場合分けをすると次のようになる.
aRLDxαf(x)={dαdxαaRLIxααf(x)if α>0,f(x)if α=0,aRLIxαf(x)if α<0.

ここでは省略するが, この演算子は線形性と結合法則を満たす.

Caputoの定義

微分の定義

積分の定義はRL分数階積分と同じである.

Caputoの分数階微分

f: 区間[a,x]上可積分, αR,n=max{0,α}
aCDxαf(x)=1Γ(nα)ax(xt)nα1f(n)(t)dt

Riemann–LiouvilleとCaputoの違いは微分を先にするか後にするかであるが, 微分方程式を解く上では必要な初期値が異なる.

RLの定義はnα階積分をした関数を微分する.
初期値:RLInαf(t)t=0,ddtRLInαf(t)t=0,,dn1dtn1RLInαf(t)t=0
Caputoの定義は関数を微分した後で積分する.
初期値:f(0),f(0),f(n)(0)
このように必要な初期値に違いがあり, 整数階の初期値を使うCaputoの定義がよく好まれる.

RLの定義とCaputoの定義の関係式

aCDxαf(x)=aRLDxαf(x)k=0n1xkαΓ(kα+1)f(k)(a)
α0(n0)のとき総和は空和とする.

Cauchyの反復積分に関する公式より
aRLIxnf(n)(x)=f(x)k=0n1f(k)(a)k!(xa)k
f(x)=k=0n1f(k)(a)k!(xa)k+aRLIxnf(n)(x)
これよりfの点a周りのテイラー展開を得られた. aRLDxαを作用させて
aRLDxαf(x)=1Γ(nα)dndxnax(xt)αα1k=0α1f(k)(a)k!(ta)kdt+aRLDxαaRLIxnf(n)(x)
和の各項にベータ関数を適応して
=dαdxαk=0n1f(k)(a)Γ(k+αα+1)(xa)k+αα+aRLIxnαf(n)(x)
aRLIxnαf(n)(x)=aCDxαf(x)より, 総和の各項をそれぞれxn階微分して
=k=0n1f(k)(a)Γ(kα+1)(xa)kα+aCDxαf(x)
よって
aCDxαf(x)=aRLDxαf(x)k=0n1xkαΓ(kα+1)f(k)(a)
となる.

ラプラス変換
  1. RLの定義の場合
    L{aRLDtαf(t)}=sαf~(s)k=0n1sα1k[dkdtkaRLItnαf(t)]t=a
  2. Caputoの定義の場合
    L{aCDtαf(t)}=sαf~(s)k=0n1sα1kf(k)(a)
ライプニッツの定理

RL微分の意味で分数階微分を定義する. n=max{0,α}とする.
(fg)(α)(x)=k=0(αn+k1k)f(k)(x)g(αk)(x)

aRLDxα(fg)(x)=1Γ(nα)dndxnax(xt)nα1f(t)g(t)dt
積分についてf(t)x周りでテイラー展開すると
ax(xt)nα1f(t)g(t)dt=ax(xt)nα1(k=0f(k)(x)k!(tx)k)g(t)dt=k=0(1)kf(k)(x)k!ax(xt)n+kα1g(t)dt
aRLDxα(fg)(x)=k=0(1)kf(k)(x)k!dndxn1Γ(nα)ax(xt)n+kα1g(t)dt
=k=0(1)kf(k)(x)Γ(k+1)Γ(nα+k)Γ(nα)dndxnaRLIxnα+kg(x)
=k=0(αn+k1k)f(k)(x)g(αk)(x)

αZとすると, 和は途中から0になるので有限和となり, α: 正の整数ならば通常のライプニッツの定理に一致し, α: 負の整数ならば部分積分の繰り返しになります.

使い方

Mittag-Leffler関数

非整数階微分方程式を解くときに現れる関数を導入する.

2変数Mittag-Leffler関数

|arg(α)|<π/2とする.
Eα,β(x)=n=0xnΓ(αn+β)

Mittag-Lefflerのラプラス変換 ([4] 式4.9.1)

Re(s)>0,λC,|λsα|<1とする.
L{tβ1Eα,β(tα)}=sαβsαλ

L{tβ1Eα,β(tα)}=0tβ1Eα,β(λtα)estdt=0n=01Γ(αn+β)λntαn+β1estdt
=n=0λnΓ(αn+β)0tαn+β1estdt=1sβn=0(λsα)n
|λ/sα|<1のとき
=1sβ11λ/sα=sαβsαλ

問題

xp(p>1)をRLの定義でα階微分をせよ.

αが非負整数であるとき, RL分数階微分は適応できない.
α=0,1,2,のとき
dαdxαxp=Γ(p+1)Γ(pα+1)xpα=p!(pα)!xpα

α0,1,2,のとき n=max{0,α}とする.

  1. α<0のとき, n=0であるから
    0RLDxαxp=1Γ(α)0x(xt)α1tpdt=Γ(p+1)Γ(pα+1)xpα
  2. α>0のとき, n=α
    0RLDxαxp=1Γ(nα)dndxn0x(xt)nα1tpdt
    nα>0,p+1>0よりベータ関数を用いて
    =1Γ(nα)dndxnΓ(nα)Γ(p+1)Γ(nα+p+1)xnα+p=Γ(p+1)Γ(nα+p+1)dndxnxnα+p
    pαが整数のとき, どこかで定数を微分する可能性がある.
    pα=1,2,のとき
    0RLDxαxp=0
    pα1,2,のとき
    0RLDxαxp=Γ(p+1)Γ(pα+1)xpα

一応, 場合分けをしたが解答の式にpα=1,2,を代入すると
Γ(p+1)Γ(pα+1)xpαΓ(p+1)±xpα=0
となる.

exの分数階微分

α>0のとき, 次の式を示せ.
CDxαeλx=λαeλx

Caputoの定義で解く.
1Γ(αα)x(xt)αα1dαdtαeλtdt=1Γ(αα)x(xt)αα1λαeλtdt
s=xtとおくと, s:0,ds=dtより
=λαΓ(αα)0sαα1eλ(xs)ds=eλxλαΓ(αα)0sαα1eλsds
u=λsとおくと
=eλxλα+(αα)Γ(αα)0uαα1eudu
ガンマ関数を用いて
=exλαΓ(αα)Γ(αα)=λαeλx

この結果よりsin,cosの複素数を用いた表示から
CDxαsinx=CDxαeixeix2=iαeix(i)αeix2=sin(x+απ2)
CDxαcosx=CDxαeix+eix2=iαeix+(i)αeix2=cos(x+απ2)
を得られる.

分数階微分方程式

次の微分方程式を解け.(0t<)
d1/2dx1/2y=y

Caputoの定義で解く. ラプラス変換を取ると
L{d1/2dx1/2y}=L{0CDt1/2y}=s1/2y~s1/2y~(0),L{y}=y~
s1/2y~s1/2y~(0)=y~y~(s1/21)=s1/2y~(0)y~=y~(0)ss1/2=y~(0)s1/2s1/21
1<sのとき L{tβ1Eα,β(tα)}=sαβsαλよりα=1/2,β=1,λ=1として
y=y(0)E1/2,1(t1/2)=n=0tn/2Γ(n/2+1)=et(1+erft)y(0)

後書き

物理学の微分方程式のモデルとして稀に使われることがある分数階微積分学の導入を個人的にまとめた. 活用先は特にないが, なんでも複素数に拡張しておくといざというときに便利と思う.

参考文献

投稿日:22日前
更新日:10日前
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  2. 分数階微分積分学とは
  3. Grünwald–Letnikovの定義
  4. 導入
  5. 微分の定義
  6. Riemann–Liouvilleの定義
  7. 導入
  8. 積分の定義
  9. 微分の定義
  10. Caputoの定義
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  14. 問題
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