こんにちは。東京大学理学部物理学科4(3)年のしぶさわです。留学先の物理に必要な食べ物をアドベントカレンダーで紹介することが伝統になりつつあるのでそれを引き継ぎます。
過去のシリーズはこちらです。
私は去年イギリスに1年交換留学に行っていたので、イギリスを中心に、広くヨーロッパの物理に必要な食べ物を紹介します。
イギリスは正式名称を United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland といい、Fish and Chips に代表される食文化は世界と比べても目を見張るものがありますね。
イギリスへは中国東方航空という会社を使って上海経由で行きました。機内のパネルで地図を開くと、主要都市の簡単な情報が記載されており、食べ物についても言及がありました。以下はロンドンの食べ物の紹介です。
中国東方航空によるロンドンのグルメの紹介
早く食べたいですね!
イギリスにつきました。寮について手続きを済ました後、部屋の整理などをすることはたくさんあるのですが腹が減っては何もできないということで早速初の外食に行きました。せっかくイギリスに来たのですから、もちろん食べるのは
ピッツァ!!
です。10ポンド(2000円)前後だったと記憶しています。やはりイギリスの料理はおいしいですね。
腹を満たしたので色々と準備をするわけですが、空腹の状態って真空と似てますよね。$\ket{\text{空腹}}=\ket{\text{VAC}}$として、食事を摂ることで励起状態に入れるわけですね。
$$a^\dagger(\text{ピッツァ})\ket{\text{空腹}}=\ket{\text{腹八分目}}$$
一般に真空状態に対して以下の作用をするように生成消滅演算子を定義します。
$$a^\dagger(p,\sigma)\ket{\text{VAC}}=\ket{\Psi_{p,\sigma}}$$
$\ket{\Psi_{p,\sigma}}$は運動量$p$、スピン$\sigma$をもつ1粒子状態です。
以下の定理が知られているので、任意の生命活動は生成消滅演算子で表現できます。
どんな演算子$\mathcal{O}$も生成・消滅演算子の積の和で書くことができる。
$$\hat{O}=\sum_{N=0}^\infty\sum_{M=0}^\infty
\int dq'_1\cdots dq'_Ndq_1\cdots dq_M\ a^\dagger(q'_1)\cdots a^\dagger(q'_N)a(q_M)\cdots a(q_1) C_{NM}(q'_1\cdots q'_N q_1 \cdots q_M)$$
帰納的に証明します。まず$N=M=0$のとき、これは真空期待値を考えると、
$$\bra{\Phi_0}\hat{O}\ket{\Phi_0}=C_{00}$$
とすれば良いことがわかります。
同様なことが、$N< L,M\leq K$か$N\leq L,M< K$を満たす$N$粒子状態と$M $粒子状態で挟んだ$\hat{O}$の行列要素についても成立すると仮定します。つまりこれらの行列要素が対応する係数$C_{NM}$を適切に選ぶことにより$\hat{O}$の期待値を再現できているとします。
このとき、それが任意の$L$粒子状態と$K$粒子状態で挟んだ$\hat{O}$の行列要素についても成立することが以下のようにして分かります。
$$\bra{\Phi_{q'_1\cdots q'_L}}\hat{O}\ket{\Phi_{q_1\cdots q_K}}=L!K!C_{LK}(q'_1\cdots q'_Lq_1\cdots q_K)+[C_{NM}\text{を含む項}]$$
となるので、$C_{LK}$を既知の行列要素$\bra{\Phi_{q'_1\cdots q'_L}}\hat{O}\ket{\Phi_{q_1\cdots q_K}}$とすでに定めた$C_{NM}$から、この等式が成立するように設定すれば良いです。
こうして$C_{NM}$をうまく選んで、行列要素を再現できるのです。
話が逸れてしまいました。
外食が日本にくらべて高いのでそこまで食べませんでしたが、たまには休息が必要ですからおいしい料理を食べに行くこともあります。
中華街にある一品天下というお店
ロンドンでおすすめのお店はKing's Cross駅の近くにある
Dishroom
というお店。人気店で予約をしなければ30分以上待つことになります。
Dishroom
特にチーズナンとビリヤニが絶品でした。もしロンドンに旅行に行く場合には、アクセスも良いので行ってみてください。
日本人の魂であるラーメンも何店舗か上陸しています。
金田家の豚骨ラーメン
こちらはロンドンの大英博物館のそばにある
金田家
というお店の豚骨ラーメン。1杯16ポンド(3000円)です。1杯1000円弱で食べられる日本の素晴らしさを実感するのに最適な一品です。日本人の店員さんが在籍していることもあり、味はちゃんと豚骨ラーメンでした!
イギリス料理が無いじゃないかと思ったかもしれませんが、大英帝国の繁栄を考慮すれば、英国の食文化とはつまり世界の食文化であるのです。従って全てを包含しており、そこに物理学も当然含まれるわけです。
三苫選手の活躍もあり日本人には馴染み深い名前でしょう。ブライトンは海沿いの都市で従って海産物が有名です。ここでは私はムール貝とフィッシュ&チップス(もどき)を食べました。
ムール貝
Fish & Chipps(ではなく揚げ物の盛り合わせ)
フィッシュ&チップスはイギリスを代表する料理でありますから、イギリスがノーベル物理学賞受賞者を多数輩出していることを考慮すると、(フィッシュ&チップスに限らずイギリス料理全般が)物理学に必要であることは自明です。
ケンブリッジ大学にはFormalというものがあり、学生がフォーマルな格好をして食事を嗜む会が頻繁に開催されています。ケンブリッジの学生は最大3人まで招待できるらしく、参加させてもらいました。値段は15ポンド。
ケンブリッジでのFormalの様子
写真を撮るのを忘れてしまったので、上の画像はWikipediaから引用したものですが、本当にこのような荘厳な部屋の中スーツやアカデミックガウンを着て食事をしました。
ただそんなに緊張感があるわけではなく、皆友人と来て談笑しながら食事をするだけの会のようです。
これが物理学に必要なのは自明ですね。ケンブリッジですから。
エディンバラはイギリス北部にあるスコットランドの首都です。ハリーポッターの撮影地にもなっているエディンバラ城が有名。また食べ物では「ハギス」という羊の内臓をミンチにして、野菜と混ぜて羊の胃袋に詰めて茹でたものです。食べた感じは柔らかいハンバーグのような感じで、スパイスが効いていて美味しかったです。
ハギス(右奥の黒いもの)
スコットランドはイギリスに含まれますから、これが物理学に必要なことは先ほどの議論から従います。
また私がエディンバラにいった8月下旬はEdinburgh Festival Fringeという有名なフェスティバルを開催していました。コメディーや映画・ダンス・音楽など様々な芸術に関わる催しが各地で開催されています。これに合わせて観光客が押し寄せ、町中が活気に溢れているのが印象的でした。私はスタンドアップコメディーに行ってみました。初めての体験で、また訛りがあり半分くらいしか理解できませんでしたが面白い経験でした。その後は一人で昼飯を済ませました。
ソーセージとビール
イギリス(ヨーロッパ)であるあるなのが、一人で入れるレストランが少ないということ。スケジュールの都合などで一人で行動せざるを得ないことなど多々ありますから、これに対処する方法を知らなければなりません。これはつまり1粒子状態の分類を知るということです。特殊相対論と量子力学の公理の元で、1粒子状態$\ket{\Psi_{p,\sigma}}$のローレンツ変換での変換則を考えてみましょう。
ローレンツ変換は
有限質量
$$U(\Lambda)\ket{\Psi_{p,\sigma}}=\sqrt{\frac{(\Lambda p)^0}{p^0}}\sum_{\sigma'}D_{\sigma'\sigma}^{(j)}(W(\Lambda,p))\ket{\Psi_{\Lambda p,\sigma'}}$$
ゼロ質量
$$U(\Lambda)\ket{\Psi_{p,\sigma}}=\sqrt{\frac{(\Lambda p)^0}{p^0}}\exp(i\sigma\theta(\Lambda,p))\ket{\Psi_{\Lambda p,\sigma}}$$
$U(\Lambda)$:並進を除いたローレンツ変換$\Lambda$のユニタリー表現
$D^{(j)}_{\sigma'\sigma}$:3次元回転の$2j+1$次元ユニタリー表現
$W(\Lambda,p)$:ウィグナー回転
まず、
\begin{align}
P^\mu U(\Lambda)\ket{\Psi_{p,\sigma}}&=
U(\Lambda)(U^{-1}(\Lambda)P^\mu U(\Lambda))\ket{\Psi_{p,\sigma}}
=U(\Lambda)\Lambda^\mu\ _\rho P^\rho\ket{\Psi_{ p,\sigma}}\\
&=\Lambda^\mu\ _\rho p^\rho U(\Lambda)\ket{\Psi_{ p,\sigma}}
\end{align}
から、$U(\Lambda)\ket{\Psi_{p,\sigma}}$が$\{\ket{\Psi_{\Lambda p,\sigma'}}\}_{\sigma'}$の線形結合で書けることが分かります。この先の目的は、
$$
U(\Lambda)\ket{\Psi_{p,\sigma}}=\sum_{\sigma'}C_{\sigma'\sigma}(\Lambda,p)\ket{\Psi_{\Lambda p,\sigma'}}
$$
と書いたときの展開係数$C_{\sigma'\sigma}(\Lambda,p)$を求めることです。
一般の運動量$p$に対して議論するのは少々大変なので、基準となる運動量を考えることにします。
| 基準となる$k^\mu$ | 小群 | |
|---|---|---|
| (a) $p^2=-M^2<0,p^0>0$ | $(M,0,0,0)$ | SO(3) |
| (b) $p^2=-M^2<0,p^0<0$ | $(-M,0,0,0)$ | SO(3) |
| (c) $p^2=0,p^0>0$ | $(\kappa,\kappa,0,0)$ | ISO(2) |
| (d) $p^2=0,p^0<0$ | $(-\kappa,\kappa,0,0)$ | ISO(2) |
| (e) $p^2=N^2>0$ | $(0,N,0,0)$ | SO(2,1) |
| (f) $p^\mu=0$ | $(0,0,0,0)$ | SO(3,1) |
これが基準となる運動量です。これのいずれかにローレンツ変換をすることで任意の運動量を実現できます。計量は$\eta^{\mu\nu}=\text{diag}(-1,1,1,1)$です。このうち(b),(d),(e)は物理的でなく、(f)はtrivialなので考えません。
まず(a)について。
基準ブースト$L(p)$を$p=L(p)k$として定義します。また小群$W$の元を
$$
W(\Lambda,p)=L^{-1}(\Lambda p)\Lambda L(p)$$
として定めます。これは基準運動量$k$を不変に保つローレンツ変換で、小群といいます。小群の元に対して
$$
U(W)\ket{\Psi_{k,\sigma}}=\sum_{\sigma'}D_{\sigma'\sigma}(W)\ket{\Psi_{k,\sigma'}}
$$
と展開したとき、$D$は小群の表現を与えています。ここから、
\begin{align}
U(\Lambda)\ket{\Psi_{p,\sigma}}&=N(p)U(\Lambda L(p))\ket{\Psi_{k,\sigma}}=N(p)U(L(\Lambda p))U(W(\Lambda,p))\ket{\Psi_{k,\sigma}}\\
&=N(p)\sum_{\sigma'}U(L(\Lambda p))D_{\sigma'\sigma}(W(\Lambda,p))\ket{\Psi_{k,\sigma'}}\\
&=N(p)\sum_{\sigma'}D_{\sigma'\sigma}(W(\Lambda,p))\ket{\Psi_{\Lambda p,\sigma'}}
\end{align}
となるので、$C_{\sigma'\sigma}$は小群の表現$D_{\sigma'\sigma}$を求める問題に帰着しました。ただし$N(p)$は規格化定数で、多少面倒な計算をすると
$$ N(p)=\sqrt{\frac{k^0}{p^0}}$$
となることがわかります。
上の表で示した通り、(a)の基準運動量に対応する小群は3次元回転SO(3)なので、そのユニタリー表現は$j=0,1/2,1,\cdots$の$2j+1$次元ユニタリー既約表現$D^{(j)}_{\sigma'\sigma}$の直和に分解できます。こうして有限質量の場合が得られます。
次に(c)のゼロ質量の場合ですが、この場合も小群$W$の表現を求めれば良いです。この場合、小群の元は以下のように分解できます。
$$
W(\theta,\alpha,\beta)=S(\alpha,\beta)R(\theta)$$
ここで
$$ S(\alpha,\beta)=
\mqty(1+ \zeta & \alpha & \beta & -\zeta \\
\alpha & 1 & 0 & -\alpha \\
\beta & 0 & 1 & -\beta\\
\zeta & \alpha & \beta & 1-\zeta
),\quad \zeta = \frac{\alpha^2+\beta^2}{2}
$$
$$
R(\theta)=\mqty(
1 & 0 & 0 & 0\\
0 & \cos\theta & \sin\theta & 0\\
0 & -\sin\theta & \cos\theta & 0\\
0 & 0 & 0 & 1
)$$
です。$\theta,\alpha,\beta$が微小だとして, $W$のユニタリー表現を考えると,
$$ U(W(\theta,\alpha,\beta))=1+i\alpha A+i\beta B+i\theta J_3$$
と展開されます。ただし$A=J_2+K_1,B=-J_1+K_2$です。この$A,B$は可換なエルミート演算子で同時対角化できます。実はこれを$R(\theta)$で変換させることにより、
\begin{align}
U[R(\theta)]AU^{-1}[R(\theta)]&=A\cos\theta-B\sin\theta\\
U[R(\theta)]BU^{-1}[R(\theta)]&=A\sin\theta+B\cos\theta
\end{align}
と混じり合います。これは$A,B$の同時固有状態が$\theta$に関して連続固有値を持つことを示していますが、質量ゼロの粒子で今のところこのような自由度を持っているものは観測されていません。よって$a=b=0$とします。
$J_3$の固有値$\sigma$はヘリシティと呼ばれ、これで粒子を区別することができます。これはローレンツ不変量です。
$$ J_3\ket{\Psi_{k,\sigma}}=\sigma\ket{\Psi_{k,\sigma}}$$
よって小群の表現は単に
$$ D_{\sigma'\sigma}(W)\exp(i\theta \sigma)\delta_{\sigma'\sigma}$$
となり、質量ゼロの変換則が得られました。
イギリスはRyan air, Wizz air, Easy jetなどの格安航空会社がしのぎを削った結果、ヨーロッパへの飛行機が片道5000円〜で出ており、旅行に行かなければなりません。とは言ってもホテル代やそもそもの物価が高いのでより多くの国へ行きたければ行き先は自然と限られてきます。まずはヨーロッパの中でも比較的物価の安い東ヨーロッパの国々の食べ物を紹介して行きます。
スロバキアは首都をブラチスラバに置く国です。1918年のオーストリア=ハンガリー帝国崩壊後、チェコスロバキアの一部となりました。1993年にチェコスロバキアから平和的に分離し、現在のスロバキア共和国として独立を果たしました。
スロバキア料理は、山岳地帯の気候を反映した素朴で滋味深い料理が特徴です。じゃがいもや小麦、乳製品を多用し、羊乳のチーズや団子料理など、家庭的で温かみのある味わいが親しまれています。
では実際にブラチスラバで食べたスロバキア料理を紹介します。
左から(おそらく)、Bryndzové halušky、Bryndzové pirohy、Strapačky。真ん中にある国旗がかわいい
以下の料理の説明は
Wikipedia
からの抜粋です。
"Bryndzové"とはスロバキア語で「チーズを使った」という意味で、その名の通りハルシュキはチーズリゾットのような味でした。それぞれ単体では美味しいのですが、材料を見れば分かるとおり3種盛り合わせで食べるにはisomorphicすぎる料理たちで、結構重かったですね。ただIsomorphismを学ぶにはうってつけの1品ですから、物理学には必要です。
ハンガリーはスロバキアの隣に位置し首都をブタペストに置く共和制国家です。周囲の国家はスラブ語圏やゲルマン語圏であるのに対し、ハンガリー語はウラル語族に属し、フィンランド語やエストニア語と同じ言語グループに属するそうで、言語オタクにはたまらない国となっています。
ここでは首都ブタペストで食べた料理を紹介します。
Marhapörkölt
これは Ildikó Konyhája というお店で食べた"Marhapörkölt"という料理です。これはハンガリーの伝統的な牛肉のシチューで、大量の玉ねぎ、ハンガリー産パプリカ、トマト、ピーマンなどを一緒に煮込んだ料理です。隣にあるのは小麦でできた"Dumpling"で、シチューが少しスパイシーなのでよく合います。
この日お店にはなぜか日本人の観光客が他に4組ほどいました。店員さんもとてもフレンドリーでシチューも美味しかったのでおすすめです。
ポーランドはインドネシアの国旗を$\pi$回転させたような国旗が特徴の国(正確には縦横比が異なるそう)で、こちらもスロバキアに隣接しています。
ポーランドといえば「ピエロギ」が有名です。
pieróg
(写真は
Wikipedia
から) これは皮の分厚い餃子のようなもので、焼いたものや茹でたものなどいくつかの種類があります。スロバキアの隣国ということもあり、ブリンゾベー・ピロヒとにていますね。なのでここでは食べませんでした。
ポーランドの首都はワルシャワですが、第二の都市クラクフにも行きました。ここで色々食べ物を調べていた結果、他の日本人の方の
ブログ
に導かれて
ariel
というレストランに辿り着きました。このレストランはヴィスワ川の南岸に位置するカジミエシュ地区にあります。ここは古くからユダヤ人の文化が根付いており、第二次世界大戦で壊滅的な被害を受けたものの、現在もユダヤ人の文化が守られています。そのためarielではユダヤ料理とポーランド料理が融合したものを堪能することができます。
faszerowana gęsia szyja
ここで私は"faszerowana gęsia szyja"という、ガチョウの首の皮に、ガチョウの内臓や玉ねぎ・パン粉などを混ぜたものを詰めて加熱した料理を食べました。レバーのような独特の食感で、臭みを消すためか香辛料が多く使われていました。外はパリパリに仕上げられており、中の内蔵たちとの対比がとても面白い、ユニークな一品でした。
ユダヤ人が物理学に多大な貢献をしてきたことを感じられるこの料理はもちろん物理学に必要です。
次に特にグルメで知られるイタリアの食事を紹介します。ここで一つイタリア語のことわざを紹介します。
$$
\text{E se la mia nonna avesse le ruote sarebbe una carriola.}
$$
直訳すると、「もし私の祖母に車輪が付いていたら、それは手押し車だろう」といういみで、「ありえない仮定を持ち出して議論しても意味がない」という文脈で使われるそうです。
具体例
で学ぶと覚えやすいかもしれません。
首都ローマは様々なことわざにその名を残すほど、歴史のある都市です。イタリアといえばピザ・パスタなどが有名ですが、ローマでは特にローマ4大パスタと呼ばれるパスタがあります。
Cacio e pepe
Cacio e pepe は「チーズと胡椒」という意味で、その名の通りチーズとブラックペッパーのみを使ったとてもシンプルなパスタです。チーズにも制約があり、ペコリーノ・ロマーノ(Pecorino Romano)という、羊の乳から作られるチーズしか許されません。
さらにこれにGuancialeという豚の頬肉を塩漬けしたものと、卵を加えるとカルボナーラになります。
Carbonara
日本ではベーコンを標準的に使いますが、これはイタリア慣性系で観測すると正しくないカルボナーラと判定されてしまうそうです。
カッチョ・エ・ぺぺはこれ以上材料を減らせないという意味で、これは既約パスタであるわけですが、それ以外の三つは実は既約ではありません。実際以下のように分割できます。
\begin{align} \text{Gricia} &= \text{Cacio e pepe}\oplus\text{Guanciale}\\ \text{Carbonara} &= \text{Guanciale}\oplus\text{Uovo}=\text{Cacio e pepe}\oplus\text{Guanciale}\oplus\text{Uovo}\\ \text{Amatriciana} &=\text{Guanciale}\oplus\text{Pomodoro}=\text{Cacio e pepe}\oplus\text{Guanciale}\oplus\text{Pomodoro} \end{align}
Uovoは卵、Pomodoroはトマトです。
これらはまさにローマ人を表現するパスタであり、表現論は場の量子論を理解する上で欠かせないので物理学に必要です。
ではその表現論がどのように場の量子論に関わるのかをみてみましょう。並進$a^\mu$と回転・ローレンツブースト$\Lambda^\mu \ _\nu$からなる座標変換がなす群を一般に非斉次ローレンツ群あるいはポアンカレ群と呼びます。
ポアンカレ群の生成子を調べてみましょう。 $\Lambda^\mu\ _\nu=\delta^\mu\ _\nu+\omega^\mu\ _\nu$, $a^\mu=\epsilon^\mu$と単位元近傍で展開すると、このユニタリー表現は
$$ U(1+\omega,\epsilon)=1+\frac{1}{2}i\omega_{\rho\sigma}J^{\rho\sigma}-i\epsilon_\rho P^\rho+\cdots$$
というふうに展開できます。$P^\rho,J^{\rho\sigma}$が調べたい生成子です。これらの変換則は
$$ U(\Lambda,a)U(1+\omega,\epsilon)^{-1}U(\Lambda,a)$$
を計算するとわかります。ローレンツ変換が群をなすことからこれは$U(\Lambda(1+\omega)\Lambda^{-1},\Lambda\epsilon-\Lambda\omega\Lambda^{-1}a)$と等しいはずで、これと先ほどの展開を比較して
\begin{align} U(\Lambda,a)J^{\rho\sigma}U^{-1}(\Lambda,a)&=\Lambda_\mu\ ^\rho\Lambda_\nu\ ^\sigma(J^{\mu\nu}-a^\mu P^\nu+a^\nu P^\mu)\\ U(\Lambda,a)P^{\rho}U^{-1}(\Lambda,a)&=\Lambda_\mu\ ^\rho P^\mu \end{align}
となることがわかります。また交換関係を調べると、
\begin{align} i[J^{\mu\nu},J^{\rho\sigma}]&= \eta^{\nu\rho}J^{\mu\sigma} -\eta^{\mu\rho}J^{\nu\sigma} -\eta^{\sigma\mu}J^{\rho\nu} +\eta^{\sigma\nu}J^{\rho\mu}\\ i[P^\mu,J^{\rho\sigma}]&=\eta^{\mu\rho}P^\sigma-\eta^{\mu\sigma}P^\rho\\ [P^\mu,P^\rho]&=0 \end{align}
となります。これがポアンカレ群のリー代数です。この代数関係から、すでに述べたとおり、ローレンツ変換の生成子がそれぞれ
\begin{align}
\text{運動量演算子:}&\vb{P}=\{P^1,P^2,P^3\}\\
\text{角運動量演算子:}&\vb{J}=\{J^{23},J^{31},J^{12}\}\\
\text{ブースト演算子:}&\vb{K}=\{J^{10},J^{20},J^{30}\}\\
\end{align}
であることがわかります。(それぞれの交換関係を調べると良いです。)
$$ $$
$$ $$
ちょっとサブリミナルに物理学を感じるのでスイーツで休憩をしましょう。
Maritozzo
一時期日本でも流行っていた記憶がありますね。シンプルに大量のクリームが脳に染み渡り、物理学で重たい計算をする時には最適のスイーツです。
チェルビニアはイタリア北部に位置するスキーリゾート地です。スイスとイタリアを隔てるアルプス山脈の麓に位置し、特に有名なマッターホルンを拝むことができます。マッターホルンといえばスイス側のツェルマットが有名ですが、こちらはスイスに比べて費用を抑えることができるのでおすすめです。(ただしアクセスが悪いので注意)
マッターホルン
この日は最終日で、それまでずっと曇っていたのが雲ひとつない晴天に恵まれました。おかげで綺麗にマッターホルンを見ることができました。マッターホルンの標高は4478m で、流石に山頂までの登って滑ることはできませんが、それでも最高で4000mを超える高さまでゴンドラで登ることができます。最大高低差が2000m超の広大なスキー場でした。さすがアルプス山脈という感じです。
スキー場でも飯を食わずには一日を終えることができませんので、当然栄養補給をします。私が昼食をとった休憩所ではビュッフェのような形式でいくつかの料理の盛り合わせを頼める形式でした。
鶏肉のソテー?
ここでは鶏肉のソテー(のようなもの)と野菜をいくつか頼みました。スキーの相乗効果もあってか大変美味。
またスキー場自体は17時ほどで閉まってしまうので、夜ごはんは周辺で探す必要があります。スキー場周辺のレストランは観光客で賑わっており、予約がないとなかなか入れないところが多いようでした。運良く入れたお店で「ラザニア」を食べました。
Lasagna
窪みは食欲に負けて、写真を撮るのを忘れてナイフを先に入れてしまったことによるものです。これが本場のラザニアかと、感動しました。ラザニアの何層にもなった美しい断面を作ることにシェフは命をかけるのです。
そしてまた我々物理学徒も散乱断面積を求めるのに躍起になるわけですが、それは$S$行列を定義するところから始まります。$S$行列は散乱前のin状態$\ket{\Psi_{\alpha}^\text{in}}$と散乱後のout状態$|\Psi_{\beta}^\text{out}\rangle$の内積
$$S_{\beta\alpha}=\langle\Psi_{\beta}^\text{out}|\Psi_{\alpha}^\text{in}\rangle$$
で定まります。$\ket{\Psi_{\alpha}^\text{in}}$が直交完全系をなしていれば$S$行列がユニタリーであることが直ちにわかります。
一方で$S$行列は散乱の確率振幅を与えるものですから、ローレンツ不変であっても欲しいですね。つまり
\begin{align}
S_{p_1',\sigma_1';p_2',\sigma_2';\cdots,\ p_1,\sigma_1;p_2,\sigma_2;\cdots}
&=\exp(ia_\mu(p_1^\mu+p_2^\mu+\cdots-p_1'^{\mu}-p_2'^\mu-\cdots))
\sqrt{\frac{(\Lambda p_1)^0(\Lambda p_2)^0\cdots(\Lambda p'_1)^0(\Lambda p'_2)^0\cdots}{p^0_1p_2^0\cdots p'^0_1p'^0_2\cdots }}\\
&\times \sum_{\bar{\sigma}_1\bar{\sigma}_2\cdots}D_{\bar{\sigma}_1\sigma_1}^{(j_1)}(W(\Lambda,p_1))D_{\bar{\sigma}_2\sigma_2}^{(j_2)}(W(\Lambda,p_2))\cdots
\sum_{\bar{\sigma}'_1\bar{\sigma}'_2\cdots}D_{\bar{\sigma}'_1\sigma'_1}^{(j'_1)\ast}(W(\Lambda,p'_1))D_{\bar{\sigma}'_2\sigma'_2}^{(j'_2)\ast}(W(\Lambda,p'_2))\cdots\\
&\times S_{\Lambda p_1',\bar{\sigma}_1';\Lambda p_2',\bar{\sigma}_2';\cdots,\ \Lambda p_1,\bar{\sigma}_1;\Lambda p_2,\bar{\sigma}_2;\cdots}
\end{align}
が成り立って欲しいです。これは先ほどの1粒子状態の分類から要求される式ですが、ユニタリー性ほど自明ではなく、ハミルトニアンに対して条件を課します。
摂動論による議論から、相互作用ハミルトニアン$V(t)$が
\begin{align}
V(t)=\int d^3x\ \mathcal{H}(\mathbf{x},t)
\end{align}
とかけるとする。そうすれば
\begin{align}
S = 1+ \sum_{n=1}^\infty\frac{(-i)^n}{n!}\int d^4x_1\cdots d^4x_n\ T\qty{\mathcal{H}(x_1)\cdots\mathcal{H}(x_n)}
\end{align}
というふうに時間順序積を使って展開できます。$\mathcal{H}$がローレンツ変換で
\begin{align}
U_0(\Lambda,a)\mathcal{H}(x)U_0^{-1}(\Lambda,a)=\mathcal{H}(\Lambda x+a)
\end{align}
と変換し、空間的に離れている二点で可換
\begin{align}
[\mathcal{H}(x),\mathcal{H}(y)]=0\quad \text{for}\quad (x-y)
^2\geq0
\end{align}
であれば$S$はローレンツ不変となることが分かります。
最後にドルチェの代表格である「ティラミス」を食べました。
Tiramisù
ティラミス(Tiramisù)はイタリア語でイタリア語の「tira(引っ張って)」、「mi(私を)」、「su(上に)」という意味です。つまり「私を励起して」ということですから、これが物理学を学ぶ上で我々にエネルギーを与えてくれるものであることが分かりますね。つまりこれは物理学に必要です。
スイスといえば物価が高いことで知られています。びっくりしますよほんと。
タルタル
これは昼ごはんに食べた旬の魚のタルタル+野菜ですが、40スイスフラン(8000円)ぐらいしました。量もあまり多くなくお腹いっぱいにはならないです。そもそもこれ1皿で完結することを想定していないとも思いますが。
という感じなので、当然長居するつもりもなく、目的は一つです。
そう、スイスといえばCERNです!CERNまたの名を欧州原子核研究機構といい、スイスとフランスにまたがる巨大な加速器がある研究施設です。ロンドンで知り合ったInperial College Londonで教員をされている東大理物OBの方が、たまたまCERNで夏の間実験をしているとのことで、CERNの内部を案内していただきました!
入口付近にあったモニュメント
反物質の研究に使われている実験器具
具体的には反物質の研究をしていたそうです。また最近ではパイオンの質量を正確に測る実験をしていたそうです。
CERNで行われている実験はフェルミ研究所(アメリカ)で行われている実験と相関が無いはずですね。これをクラスター分解原理と言います。もしあったとするならば、宇宙のすべてのことを知らなければ何も予言できなくなってしまいます。
クラスター分解原理は$S$行列の言葉では、空間的に十分離れている粒子どうしの行列要素は積になる
$\alpha=\alpha_1+\alpha_2$, $\beta=\beta_1+\beta_2$で$\alpha_1,\alpha_2$と$\beta_1,\beta_2$がそれぞれ空間的に十分離れているとき、
\begin{align}
S_{\beta\alpha}\to S_{\beta_1\alpha_1}S_{\beta_2\alpha_2}
\end{align}
となるということです。$S$行列はハミルトニアンから定まるので、この条件はハミルトニアンにさらに制約を与えます。$S$行列がクラスター分解を満たすための十分条件は以下で与えられます。
クラスター分解原理を満たす十分条件としてハミルトニアンを生成・消滅演算子で展開したときに
\begin{align}
H=\sum_{N=0}^\infty\sum_{M=0}^\infty
\int dq_1'\cdots dq_N'dq_1\cdots dq_M
a^\dagger(q'_1)\cdots a^\dagger(q'_N)a(q_M)\cdots a(q_1) h_{NM}(q_1'\cdots q_N',q_1\cdots q_M)
\end{align}
として係数関数$h_{NM}$が3次元運動量保存のデルタ関数を1つだけ含めば良い
まず$S$行列の連結成分$S^C$が単一の運動量保存のデルタ関数を含むことが、クラスター分解原理を意味することを(大雑把に)見ましょう。
そもそも$S$行列の連結成分$S^C$とは、以下のように再帰的に定義されます。
$$
S_{\beta\alpha}=S^C_{\beta\alpha}+\sum_{\text{PART}}'(\pm)S^C_{\beta_1\alpha_1}S^C_{\beta_2\alpha_2}\cdots$$
PARTは$\alpha$と$\beta$の部分集合族$\{\alpha_i\}_i,\{\beta_i\}_i$で$\cup_i\alpha_i=\alpha,\ \cup_i\beta_i=\beta$となるような任意の族について取ります。また1粒子状態については
$$
S^C_{q'q}=S_{q'q}=\delta(q'-q)$$
です。これをフーリエ変換すると
$$
S^C_{\{\vb{x}_\text{out}\},\{\vb{x}_\text{in}\}}:=\int d\vb{p}_\text{in}d\vb{p}_\text{out}S^C_{\{\vb{p}_\text{out}\},\{\vb{p}_\text{in}\}}e^{i\vb{p}_\text{out}\cdot\vb{x}_\text{out}}e^{-i\vb{p}_\text{in}\cdot\vb{x}_\text{in}}
$$
これは座標の差のみに依存します(並進不変性)。これは運動量表示では$S^C$がデルタ関数を含むことを意味します。
$$
S^C_{\{\vb{p}_\text{out}\},\{\vb{p}_\text{in}\}}
=\delta^3(\vb{p}_\text{out}-\vb{p}_\text{in})\delta(E_\text{out}-E_\text{in})C_{\{\vb{p}_\text{out}\},\{\vb{p}_\text{in}\}}
$$
この展開係数$C$にデルタ関数が含まれているとクラスター分解原理は満たされません。実際たとえばある粒子の部分集合について$\vb{p}'_i\in\{\vb{p}_\text{out}\}$と$\vb{p}_j\in\{\vb{p}_\text{in}\}$の和がゼロとなるようなデルタ関数が含まれているとします。そうするとこの部分集合すべての$\vb{x}'_i$と$\vb{x}_j$の差を一定に保ったまま他の$\vb{x},\vb{x}'$から離していけば、$S^C_{\{\vb{p}_\text{out}\},\{\vb{p}_\text{in}\}}$は不変です。これは$\vb{x}_i$と$\vb{x}'_i$の差のいくつかが大きくなるときに$S^C_{\{\vb{p}_\text{out}\},\{\vb{p}_\text{in}\}}$がゼロになることを要請するクラスター分解原理に反します。
次にデルタ関数の個数についてです。$S^C$は連結なファインマンダイアグラム、つまり全ての外線・内線が繋がっているものに相当するので、外線が運ぶ運動量に対して運動量保存則が成り立たなければならないです。よってこれは運動量のデルタ関数$\delta^3(\vb{p}_\beta-\vb{p}_\alpha)$を含みます。さらにこれ以外のデルタ関数を含まないことを示す必要があります。
ダイアグラムの頂点は1つのデルタ関数を寄与します。これらのデルタ関数は内線の運動量を決定します。ここでまだ決定されない運動量は内線のループに対応するものです。
考えたい連結成分$S^C$に対応するダイアグラムについて
ここでグラフに対するトポロジカルな恒等式
$$
V-I+L=C$$
が成り立つことと、今考えている$S^C$が連結、つまり$C=1$であることから$S^C$がデルタ関数を一つしか持たないことがわかります。
CERNを案内していただいた後に、晩御飯もご馳走していただきました!本当にありがとうございます🙇
うまい肉とワイン(左上)
連れて行ってもらったのは
Bistrot du Bœuf Rouge
というお店。ビブグルマンも取得しており素晴らしく美味しいです。このお店は行きつけだそうで、この料理を食べることによって反物質の研究が捗ることを考えれば、物理をやる上で必須でしょう。
さてこれで量子場を導入する動機付けに必要な事柄がすべて出揃いました。続きはWeinberg QFTを読みましょう。