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(n!m!/(n+m)!)²が含まれる級数

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0.目次

1.はじめに
2.ここから本題
3.リーマンゼータ値との関係式
4.積分表示
5.特殊値
6.終わりに

1.はじめに

ζ(3)=30<n,m1nm2(n!m!(n+m)!)2
のように(n!m!(n+m)!)2が含まれる級数について考えたので、いくつかの特殊値とその求め方について書きます。(上は今回の記事で一番きれいな例)


ちょっと前置き(連結和について知ってる人は読み飛ばしてOK)

多重ゼータ値の双対性を示す手法の一つとして、連結和を用いるものがある

多重ゼータ値の連結和

インデックスk=(k1,,ka),l=(l1,lb)C(n,m)=n!m!(n+m)!に対して、連結和Z(k;l)は次のようになる。
Z(k;l)=0<n1<n2<<na0<m1<m2<<mb1n1k1naka1m1l1mblbC(na,mb)
また空インデックスに対しては
Z(k;)=0<n1<n2<<na0=m01n1k1nakaC(na,m0)=ζ(k)
としておく

ここでC(n,m)はコネクターと呼ばれる。
コネクターがもつ良い性質として、次の輸送関係式と呼ばれるものがある。

輸送関係式

1mC(n0,m)=n0<n1nC(n,m)

C(n1,m)C(n,m)=(n1)!m!(n+m1)!n!m!(n+m)!=n!m!(n+m)!(n+mn1)=mnC(n,m)
ここで、両辺n0<nの範囲で和をとることによって
C(n0,m)=n0<nmnC(n,m)
1mC(n0,m)=n0<n1nC(n,m)

これによって多重ゼータ値の双対性は示され、またコネクター付きの級数も同時に求まるのである。
(例)
ζ(1,2)=Z(1,2;)=Z(1,1;1)=Z(1;2)=Z(;3)=ζ(3)
であり、
ζ(1,2)=ζ(3)=Z(1;2)=0<n,m1nm2n!m!(n+m)!

2.ここから本題

次にコネクターの二乗が含まれる級数について考えていく。
記号をいちいち変えているとかえって混乱する恐れがあるので、多重ゼータ値の連結和と同じ記号を使うことにする。

インデックスk=(k1,,ka),l=(l1,lb)C(n,m)=(n!m!(n+m)!)2に対して、Z(k;l)を次のように定める。
Z(k;l)=0<n1<n2<<na0<m1<m2<<mb1n1k1naka1m1l1mblbC(na,mb)

また、k1++ka+l1++lbの値をweightと呼ぶことにする。

通常、インデックスは正整数から構成されるが、次に示すように0<n,m(n!m!(n+m)!)2
が収束するため、
kalb0であっても良いとする。
また、
Z(k):=Z(k;0)
と略記することにしておく。

0<n,m(n!m!(n+m)!)2は収束する

2n,mに対して次が成立する。
(n+mn)(n+m2)=(n2)+(n2)+nm>nm
1(n+mn)=n!m!(n+m)!であることに注意すれば
(n!m!(n+m)!)2<1n2m2となるので
0<n,m(n!m!(n+m)!)2=20<n1(n+1)2+1<n,m(n!m!(n+m)!)2<2(ζ(2)1)+1<n,m1n2m2=2(ζ(2)1)+(ζ(2)1)2<

C(n,m)が満たす関係式

1m2C(n0,m)=n0<n(1n2+2nm)C(n,m)

C(n1,m)C(n,m)=((n1)!m!(n+m1)!)2(n!m!(n+m)!)2=(n!m!(n+m)!)2((n+m)2n21)=C(n,m)(m2n2+2mn)
なので、両辺m2で割り、n0<nの範囲で和をとることによって
1m2C(n0,m)=n0<n(1n2+2nm)C(n,m)

次数下げの公式

1m2+0<n1m2C(n,m)=0<n(1n+2m)C(n,m)

定理3の両辺を0n0の範囲で和をとる
0n01m2C(n0,m)=0n0<n(1n2+2nm)C(n,m)1m2+0<n01m2C(n0,m)=0<nn0=0n1(1n2+2nm)C(n,m)1m2+0<n1m2C(n,m)=0<n(1n+2m)C(n,m)

3.リーマンゼータ値との関係式

weight3までの関係式を列挙する。

ζ(2)+Z(2)=3Z(1)

証明
定理4において、0<mの範囲で和を取れば
0<m1m2+0<n,m1m2C(n,m)=0<n,m(1n+2m)C(n,m)
ζ(2)+0<n,m1m2C(n,m)=30<n,m1nC(n,m)

ζ(2)=Z(2)+2Z(1;1)

証明
定理3において、n0=0とおけば、
1m2=0<n(1n2+2nm)C(n,m)
なので、0<mの範囲で和をとることにより
ζ(2)=0<n,m1n2(n!m!(n+m)!)2+20<n,m1nm(n!m!(n+m)!)2

ζ(3)=3Z(1;2)

証明
定理3において、n0=0とおいて、両辺1mをかければ
1m3=0<n(1n2m+2nm2)C(n,m)
なので、0<mの範囲で和をとることにより
ζ(3)=0<n,m1n2m(n!m!(n+m)!)2+20<n,m1nm2(n!m!(n+m)!)2=30<n,m1nm2(n!m!(n+m)!)2

ζ(3)=3Z(1,2)+6Z(1,1;1)

証明
定理3の両辺に1n0をかけ、0<n0,0<mの範囲で和をとる。
0<n00<m1n0m2C(n0,m)=0<n0<n0<m(1n0n2+2n0nm)C(n,m)
Z(1;2)=Z(1,2)+2Z(1,1;1)
1つ前の等式から
Z(1;2)=13ζ(3)なので
ζ(3)=3Z(1,2)+6Z(1,1;1)

ζ(3)=Z(1,0;2)+2Z(1,1;1)

証明
定理3でn0=0とすると
1m2=0<n(1n2+2nm)C(n,m)
なので、両辺に1m0をかけて、1からm1まで和をとる。
1m2m0=1m11m0=m0=1m11m00<n(1n2+2nm)C(n,m)
m=21m2m0=1m11m0=m=2m0=1m11m00<n(1n2+2nm)C(n,m)
ζ(1,2)=0<n0<m0<m(1m0n2+2nm0m)C(n,m)=Z(1,0;2)+2Z(1,1;1)
多重ゼータ値の双対性から
ζ(3)=Z(1,0;2)+2Z(1,1;1)

ζ(3)+Z(3)=2Z(2)+Z(1;1)

証明
定理3の両辺に1mをかけ、0n0,0<mの範囲で和をとる。
0n00<m1m3C(n0,m)=0n0<n0<m(1n2m+2nm2)C(n,m)
ζ(3)+0<n00<m1m3C(n0,m)=0<n0<mn(1n2m+2nm2)C(n,m)=0<n0<m(1nm+2m2)C(n,m)=2Z(2)+Z(1;1)

4.積分表示

たとえばベータ関数を用いた表示
1m2(n!m!(n+m)!)2=0101(xy)n((1x)(1y))m1dxdy
1nm(n!m!(n+m)!)2=0101(xy)nx((1x)(1y))m1ydxdy
(1m+1n)2(n!m!(n+m)!)2=0101(xy)n1((1x)(1y))m1dxdy
などから、次のことが分かる。

Z(k;l(2))=0101Lik((1x)(1y))Lil(xy)xydxdy
Z(k;l)=0101Lik((1x)(1y))Lil(xy)x(1y)dxdy
Z(k(2);l)+2Z(k;l)+Z(k;l(2))=0101Lik((1x)(1y))Lil(xy)xy(1x)(1y)dxdy

記号の意味についてはそれぞれ
Lik(x):=0<n1<<naxnan1k1n2k2naka
k:=(k1,,ka1,ka+1)
k(2):=(k)=(k1,,ka1,ka+2)
である。

さて、定理5の一番下の等式においてk=(0),l=(0)とすると
2Z(2)+2Z(1;1)=0101dxdy(1(1x)(1y))(1xy)
のようになり、 KBHM氏のツイート によると、
0101dxdy(1(1x)(1y))(1xy)=43n=1sin(πn3)n2
となるようである(数値的にも確からしい)。よって、
Z(2)+Z(1;1)=23n=1sin(πn3)n2
が得られる。

また、これとは別で
Z(0)=0101x(1y)(1(1x)(1y))2(1xy)2dxdy
となるのだが、Lineのオープンチャットの「積分,級数の部屋」にこの積分を投げたところ、どうやら
0101x(1y)(1(1x)(1y))2(1xy)2dxdy=13+433n=1sin(πn3)n2
となるらしい(これも数値的に確からしい)。よって
Z(0)=13+433n=1sin(πn3)n2
が得られる。

余余余には積分が分からぬ、、

5.特殊値

今までの結果から、(n!m!(n+m)!)2がついた級数の特殊値をいろいろ求めることができる。
weight3までの分かっている特殊値を列挙していく。

(証明を見る人は最初にweight2の所から見てください)

A=433n=1sin(πn3)n2とおく

weight0

0<n,m(n!m!(n+m)!)2=13+A

証明
§4から
Z(0)=0101x(1y)(1(1x)(1y))2(1xy)2dxdy=13+433n=1sin(πn3)n2
積分の解き方については僕は分かっていません。

weight1

0<n,m1n(n!m!(n+m)!)2=A

証明
§3から
ζ(2)+Z(2)=3Z(1)
となるのでZ(2)の値を用いれば求まる。

weight2

0<n,m1n2(n!m!(n+m)!)2=ζ(2)+3A
0<n,m1nm(n!m!(n+m)!)2=ζ(2)32A

証明
§3§4から
Z(2)+2Z(1;1)=ζ(2)
Z(2)+Z(1;1)=32A
となるので、これらを連立させる。

weight3

0<n,m1n3(n!m!(n+m)!)2=92Aζ(2)ζ(3)
0<n,m1nm2(n!m!(n+m)!)2=13ζ(3)

証明
上の等式については§3
ζ(3)+Z(3)=2Z(2)+Z(1;1)
とweight2の特殊値から求まる。

下の等式は§3ですでに示した。

6.終わりに

今回は差分や積分を用いて(n!m!(n+m)!)2が含まれる級数の特殊値を求めてみたが、積分の難易度がとても高いため、なるべく積分を経由せずに級数変形で求めることができないか考えていきたい。また、Z(0)=13+Z(1)という関係式が成り立つが、これについては今のところ"具体値を求めたらこうなった"くらいしか分かっていないのでこれについても考えたい。

参考文献

  1. Multivariable connected sums and multiple polylogarithms(Proposition2.1のproof)
投稿日:2024312
更新日:2024312
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