正整数 $n$ を、正整数たちの和として表す方法を考えます。たとえば、
$$p(5)=7$$
です。ここで $p(n)$ は、$n$ を正整数の和として表す方法のうち、項の順序を区別しないものの個数です。実際、$5$ の分割は
$$5,\quad 4+1,\quad 3+2,\quad 3+1+1,\quad 2+2+1,\quad 2+1+1+1,\quad 1+1+1+1+1$$
の7通りです。
この問題を見ていると、ウェアリング問題で $k=1$ としたものに似ているな、と思います。整数を和に分解する方法の個数を調べるという意味では、両者には共通する発想があります。歴史を調べてみると、分割数の漸近式を求める Hardy–Ramanujan の研究が、後に Hardy–Littlewood のcircle methodと呼ばれる手法の出発点の一つになったことも分かります。
ただし、分割数とウェアリング問題の表現数は、厳密には別の対象です。今回はこの違いを確認しつつ、分割数から始まった解析的なアイデアが、少数個の $k$ 乗数の和を数える問題でどこまで分かっているのかを見ていきます。
分割数の母関数は
$$\sum_{n=0}^{\infty}p(n)q^n=\prod_{m=1}^{\infty}\frac{1}{1-q^m}$$
と書けます。ここでは、何も足さずに $0$ を作る「空分割」を1通りと数え、$p(0)=1$ とする規約を採用しています。右辺の各因子を展開すると
$$\frac{1}{1-q^m}=1+q^m+q^{2m}+\cdots$$
となります。これは、分割の中で $m$ を0個、1個、2個、……使う可能性をまとめていると解釈できます。積を展開したときの $q^n$ の係数が、和が $n$ になる分割の個数になるわけです。
Hardy と Ramanujan は1918年の論文 Asymptotic Formulae in Combinatory Analysis HRで、分割数について次の漸近式を証明しました。
$$p(n)\sim\frac{1}{4n\sqrt{3}}\exp\left(\pi\sqrt{\frac{2n}{3}}\right)$$
$n$ が大きくなると、分割数はおおよそ $\exp(C\sqrt n)$ という速さで増大します。分割数を計算するだけでなく、その増大の仕方を解析的に捉えようとしたことが、この研究の出発点でした。
circle methodの歴史を言うときは、呼び名にも少し注意が必要です。標準的な名称は Hardy–Littlewood のcircle methodですが、その初期の着想には Hardy と Ramanujan による分割数の研究が深く関わっています。その後、Hardy と Littlewood がウェアリング問題などの加法的整数論へ手法を発展させました。
分割に使う数を、$1,2,3,\ldots$ から $1,2^k,3^k,\ldots$ に制限することもできます。$n$ を $k$ 乗数の和に分割する方法の個数を $p_k(n)$ と書くと、母関数は
$$\sum_{n=0}^{\infty}p_k(n)q^n=\prod_{m=1}^{\infty}\frac{1}{1-q^{m^k}}$$
となります。$k=1$ なら普通の分割数 $p(n)$ に戻ります。
この「$k$ 乗数への分割」は、項数を固定するウェアリング問題とは別の方向に発展した研究対象です。Hardy–Ramanujan は1918年の論文HRで、$k$ 乗数への分割数についても漸近的な関係を述べましたが、そこで証明までは与えていません。その後、E. M. Wright が1934年に漸近展開を与えWr、Ayla Gafni も2016年に Hardy–Littlewood のcircle methodを用いて漸近式を証明していますGa。
したがって、$k$ 乗数への分割数の研究自体が、古典的な時代から止まっているわけではありません。一方、使う $k$ 乗数の個数を固定したウェアリング問題では、また別の難しさが現れます。
ここからウェアリング問題に移ります。$n$ をちょうど $s$ 個の正整数の $k$ 乗の和として表す方法の個数を
$$R_{s,k}(n)=\#\left\{(x_1,\ldots,x_s)\in\mathbb Z_{>0}^s:x_1^k+\cdots+x_s^k=n\right\}$$
と書くことにします。ここでは項の順序を区別して数えます。文献によって添字の順序や記号は異なります。
たとえば $R_{8,3}(n)$ は、$n$ を8個の正整数の立方数の和として表す方法の数です。項の順序を区別するので、$1^3+2^3+\cdots$ と $2^3+1^3+\cdots$ は、ほかの項も含めて順番が異なれば別の表現として数えます。
普通の分割数では項数に制限を設けず、順序も区別しません。対して、ここで考える表現数では項数 $s$ を固定し、順序を区別します。「分割数は $k=1$ のウェアリング問題」という見方は、整数を和に分解するという発想の類似としては自然ですが、定義がそのまま一致するわけではありません。
ウェアリング問題では、$R_{s,k}(n)$ が大きな $n$ に対してどのくらいの大きさになるかを調べます。circle methodから自然に予想される漸近式は、次の形です。
$$R_{s,k}(n)=\frac{\Gamma(1+1/k)^s}{\Gamma(s/k)}\mathfrak S_{s,k}(n)n^{s/k-1}+o(n^{s/k-1})$$
ここで $\Gamma$ はガンマ関数、$\mathfrak S_{s,k}(n)$ は特異級数と呼ばれる量です。大まかに言えば、ガンマ関数を含む係数は実数上の連続的な近似から現れ、特異級数は合同条件など整数特有の算術的な情報を反映します。
合同条件の影響を、立方数の例で見てみます。立方数は$\mod 9$ で $0,1,-1$ のいずれかにしかなりません。したがって、2つの立方数の和が$\mod 9$ で取り得る剰余は $0,\pm1,\pm2$ だけです。たとえば $n\equiv4\pmod 9$ なら、$n$ は2つの立方数の和にはなりません。
これは簡単な例ですが、表現数を考えるときには、実数上での近似だけでは見えない合同条件も重要になります。特異級数は、各法における解の密度をまとめることで、こうした整数論的な制約を主項に反映します。局所的な合同条件が表現を妨げる場合には、特異級数が消えることもあります。なお、この例は合同条件の仕組みを示すためのもので、$s=2$ について上の漸近公式が成立するという意味ではありません。
主項に現れる $n^{s/k-1}$ という指数には、簡単な直感があります。各変数 $x_i$ は $n^{1/k}$ 程度までの大きさなので、変数の組全体の規模はおおまかに $n^{s/k}$ です。そこから、和が指定した値 $n$ に一致するという条件で自由度が一つ減り、$n^{s/k-1}$ という大きさが現れる、と考えられます。これは主項の形を理解するための目安であり、漸近式の証明そのものではありません。
この漸近式は、変数の個数 $s$ が十分に多い領域では定理として証明されています。ただし、すべての $s,k$ で自動的に成り立つわけではありません。たとえば Wooley は2012年、$k\ge6$ かつ $s\ge2k^2-11$ の範囲で、期待される漸近公式を証明しましたWo。こうした条件は、公式が定理として保証される具体的な範囲の一例です。
circle methodでは、表現数を指数和の積分に直します。$e(\alpha)=e^{2\pi i\alpha}$ とし、$P=\lfloor n^{1/k}\rfloor$ に対して
$$f_k(\alpha)=\sum_{1\le x\le P}e(\alpha x^k)$$
とおきます。このとき
$$R_{s,k}(n)=\int_0^1f_k(\alpha)^s e(-n\alpha)\,d\alpha$$
が成り立ちます。右辺を展開すると、積分の中に $e(\alpha(x_1^k+\cdots+x_s^k-n))$ が現れます。整数 $m$ に対して
$$\int_0^1e(\alpha m)\,d\alpha=\begin{cases}1&(m=0),\\0&(m\ne0)\end{cases}$$
なので、和がちょうど $n$ になる組だけが残る仕組みです。
次に、積分区間を major arcs と minor arcs に分けます。major arcs は分母の小さな有理数に近い点の周辺で、指数和を比較的扱いやすい形に近似できます。ここから期待される主項や特異級数が現れます。それ以外の部分が minor arcs です。
漸近式を証明するには、minor arcs からの寄与が主項に比べて小さいことを示す必要があります。式の形を予想することと、その誤差が十分小さいと証明することは別です。変数が少ない領域では、この minor arcs の評価が特に難しくなります。
具体例として、立方数の和を考えてみます。Vaughan は1986年の論文 On Waring's Problem for Cubes Vaで、8個の立方数の和について期待される漸近公式を証明しました。
$$R_{8,3}(n)=\frac{\Gamma(4/3)^8}{\Gamma(8/3)}\mathfrak S_{8,3}(n)n^{5/3}+o(n^{5/3})$$
立方数8個では、主項の大きさは $n^{8/3-1}=n^{5/3}$ です。では7個に減らすとどうでしょうか。期待される漸近公式は
$$R_{7,3}(n)=\frac{\Gamma(4/3)^7}{\Gamma(7/3)}\mathfrak S_{7,3}(n)n^{4/3}+o(n^{4/3})$$
という形になりますが、この公式をすべての十分大きな整数 $n$ に対して証明することは、現在も未解決です。
ここで、表現可能性そのものと、表現数の漸近式を区別しておきます。Linnik は1943年、十分に大きな整数は7個の正の立方数の和として表せることを証明しましたLi。したがって、十分大きな $n$ については $R_{7,3}(n)\ge1$ です。つまり、未解決なのは「7個の立方数で表せるかどうか」ではありません。表現数 $R_{7,3}(n)$ が、特異級数を含む上の漸近公式に従うことを、すべての十分大きな $n$ について証明できるかどうかが問題なのです。
ただし、7個の場合に何も分かっていないわけではありません。Kawada と Wooley は2010年、$N$ 以下の整数のうち高々 $O(N^{1/3+\varepsilon})$ 個の例外を除いて、7個の立方数和について期待される漸近公式が成立することを示しましたKW。ここで $\varepsilon>0$ は任意の固定した正数です。例外の個数は $N$ 自体に比べてずっと少ないので、ほとんどすべての整数について漸近公式が成立することになります。
ここが重要な違いです。「ほとんどすべての整数」と「すべての十分大きな整数」は別の主張です。例外が十分少ないと分かっても、例外が有限個なのか無限個なのかは、それだけでは分かりません。Linnik の定理で表現の存在が保証されていても、その個数が期待される主項に従うことまで自動的に分かるわけではないのです。
8個なら漸近公式を証明できて、7個ではまだ難しい。この差は、単に指数が一つ変わったというだけではありません。circle methodでは $f_k(\alpha)$ の $s$ 乗を積分します。変数の個数が減ると、既存の指数和評価を組み合わせて minor arcs の寄与を小さくするための余裕も変わり、証明が急に難しくなることがあります。
一方で、少数の変数に関する問題が難しいからといって、ウェアリング問題の研究全体が止まっているわけではありません。たとえば Wooley は2012年、Vinogradov の平均値定理を用いて、$k\ge6$ かつ $s\ge2k^2-11$ の範囲で期待される漸近公式を証明しましたWo。これは少数の変数の問題を一挙に解決する結果ではありませんが、circle methodで必要になる評価を改善し、漸近式が証明できる領域を広げた結果です。
つまり、現在も研究されているのは、漸近式の主項を予想することだけではなく、何個の変数があれば誤差を十分小さくできるのか、そしてその個数をどこまで減らせるのか、という部分です。4乗数やさらに高い冪についても、変数の個数などの条件に応じて、分かっていることと未解決のことが分かれています。
分割数 $p(n)$ は、$n$ を正整数の和に分割する方法の数です。その母関数は $\prod_{m\ge1}(1-q^m)^{-1}$ で与えられ、Hardy と Ramanujan は1918年にその漸近式を証明しましたHR。この研究はcircle methodの初期の発展につながり、その後 Hardy と Littlewood が加法的整数論へ手法を発展させました。
$k$ 乗数への分割数 $p_k(n)$ も研究されており、Wright や Gafni らによる漸近式があります。一方、ウェアリング問題の表現数 $R_{s,k}(n)$ は、項数を固定して $k$ 乗数の和の表し方を数えるもので、通常は項の順序を区別します。
立方数の場合、8個の和については Vaughan が漸近公式を証明していますVa。7個についても、Linnik によって十分大きな整数が表現できることは知られておりLi、Kawada–Wooley によってほとんどすべての整数で漸近公式が成立することも示されていますKW。しかし、すべての十分大きな整数に対する漸近公式は未解決です。
表せること、表し方がたくさんあること、そして表し方の個数が具体的な漸近式に従うことは、それぞれ別の主張である。
分割数とウェアリング問題は、整数を和に分解するという入口こそ似ていますが、数えたいものを少し変えるだけで、母関数や表現数、指数和といった別々の道具が前面に出てきます。
分割数の漸近式を求めるところから発展したcircle methodが、今も少数個の冪の和を数える問題で使われているのはおもしろいですね。特に、7個の立方数については「表せる」こと自体は古典的な定理で分かっているのに、表し方の個数に関する漸近公式では未解決の部分が残っています。
問題文だけを見ると、存在を示すことと個数を数えることは近い作業にも思えます。しかし、存在を保証することと、主項・誤差項まで含めて表現数を捉えることの間には、大きな壁があるのですね。