以下の定理, 係数比較法の主張を見ると「ならば」の前後で同じことを言っているじゃないか, と思う人が多いだろう。今回はこの「ならば」の前後は別のことであることを解説しよう。
$n$次多項式$f(X)=a_{n}X^{n}+\cdots+a_{0}, g(X)=b_{n}X^{n}+\cdots+b_{0}$を考える。
\begin{align*}
任意の複素数xに対し, f(x)=g(x)
\end{align*}
ならば
\begin{align*}
f(X)=g(X),
\end{align*}
すなわち
\begin{align*}
a_{0}=b_{0}, かつa_{1}=b_{1}, かつ\cdots,a_{n+1}=b_{n+1}
\end{align*}
が成り立つ。
この解説は高校生向けなので, 正確性のために多項式環の概念を持ち出して, 解説を複雑にすることはしない。それと1変数多項式についてのみ考える。
$n$を0以上の整数とする。$X$を複素数とは何の関係のない単なる文字とする。これを不定元という。$X$の1変数多項式とは$X^{0}=1$として
\begin{align*}
f(x)=a_{n}X^{n}+a_{n-1}X^{n-1}+\cdots+a_{0}
\end{align*}
の形の式のことである。ただし, $a_{0}, \cdots. a_{n}$はすべて複素数である。
この$X$は「数」ではないということが大事である。何か$X$という任意の複素数が固定されているのではないことに注意せよ。
$n$を任意の非負整数として
\begin{align*}
f(X)=a_{n}X^{n}+a_{n-1}X^{n-1}+\cdots+a_{0}
\end{align*}
と
\begin{align*}
g(X)=b_{n}X^{n}+b_{n-1}X^{n-1}+\cdots+b_{0}
\end{align*}
に対し
\begin{align*}
f(X)=g(X)
\end{align*}
を
\begin{align*}
a_{0}=b_{0}, かつ\cdots,かつa_{n}=b_{n}
\end{align*}
が成り立つことと定義する。
$f(x)=a_{n}X^{n}+a_{n-1}X^{n-1}+\cdots+a_{0}, g(x)=b_{n}X^{n}+b_{n-1}X^{n-1}+\cdots+b_{0}$としたとき, $f(X)+g(X), f(X)g(X)$を
\begin{align*}
f(X)+g(X)=(a_{n}+b_{n})X^{n}+(a_{n-1}+b_{n-1})X^{n-1}+\cdots+(a_{0}+b_{0}),
\end{align*}
\begin{align*}
f(X)g(X)=\sum_{k=0}^{2n}\sum_{i+j=k}a_{i}b_{j}X^{k}
\end{align*}
で定める。
$\alpha$を複素数とする。$f(x)=a_{n}X^{n}+a_{n-1}X^{n-1}+\cdots+a_{0}$に対し, $f(\alpha)$を
\begin{align*}
f(\alpha)=a_{n}\alpha^{n}+a_{n-1}\alpha^{n-1}+\cdots+a_{0}
\end{align*}
で定め, これを$f(X)$に$X=\alpha$を代入して得られる複素数という。
用語の定義から分かるように, 係数比較法の「ならば」の前は多項式$f(X), g(X)$に何か複素数$x$を代入すると, それらが必ず等しい値をとるという主張で, 一方「ならば」の後は$f(X)=g(X), $つまり多項式として等しいという主張である。