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素イデアル分解で遊ぼう!

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{asn}[0]{\hspace{16pt}(\mathrm{as}\ n\to\infty)} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{beq}[0]{\begin{eqnarray*}} \newcommand{c}[2]{{}_{#1}\mathrm{C}_{#2}} \newcommand{c}[0]{\gamma} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{cb}[0]{\binom{2n}{n}} \newcommand{del}[0]{\partial} \newcommand{dhp}[0]{\dfrac{\pi}2} \newcommand{ds}[0]{\displaystyle} \newcommand{eeq}[0]{\end{eqnarray*}} \newcommand{ep}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{Fp}[0]{\mathbb{F}_p} \newcommand{hp}[0]{\frac{\pi}2} \newcommand{l}[0]{\ell} \newcommand{limn}[0]{\lim_{n\to\infty}} \newcommand{limx}[0]{\lim_{x\to\infty}} \newcommand{nck}[0]{\binom{n}{k}} \newcommand{phi}[0]{\varphi} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Res}[1]{\underset{#1}{\mathrm{Res}}} \newcommand{space}[0]{\hspace{12pt}} \newcommand{sumn}[1]{\sum_{n={#1}}^\infty} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

こんにちは.

今回は, $\Z[\sqrt{-5}]$で素イデアル分解をして遊びましょう!

${}$

導入

代数的整数論は知らないが環論の基礎くらいなら知っているという人のために, 簡単な導入を用意しておきます.

${}$

可換環$R$のイデアル$I_1,I_2$の積$I_1I_2$を, $\{ab\mid a\in I_1,b\in I_2\}$が生成する$R$のイデアルとして定義する.

$R$がNoether整閉整域で, 0でない素イデアルが全て極大イデアルであるとき, $R$はDedekind domainであるという.

Dedekind domainでは素イデアル分解の一意性が成り立つ. すなわち, 任意の非零イデアル$I$に対して, 有限個の素イデアルの組$\{\mathfrak{p}_i\}_i$と冪の組$\{e_i\}_i$が一意的に存在して, $I=\prod_i \mathfrak{p}_i^{e_i}$が成り立つ.

$\Q$の有限次拡大を代数体という. 代数体での$\Z$の整閉包を整数環という. これはDedekind domainになる.

$R$を代数体の整数環とし, $\mathfrak{p}$$R$の素イデアルとする. $\mathfrak{p}\cap \Z=(p)$であるとき, $\mathfrak{p}$は素数$p$の上にあるといい, $\mathfrak{p}\mid p$とかく.

$R=\Z[\sqrt{-1}],\ \Z[\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}],\ \Z[\sqrt{-5}]$ はDedekind domainである.

特に$\Z[\sqrt{-5}]$はUFDではないがDedekind domainなので, 素元分解は一意ではないが素イデアル分解は一意ということになる.

${}$

練習問題

$R=\Z[\sqrt{-5}]$において, 次のイデアルを素イデアル分解せよ.

(1) $I_1=(2)$

(2) $I_2=(3)$

(3) $I_3=(6)$

(4) $I_4=(11)$

(5) $I_5=(105)$

${}$

${}$

${}$

以下の定理を知っておくと良いです.

$K$を代数体, $R$をその整数環とする. 素数$p$の上にある素イデアルたちを$\{\mathfrak{p}_i\}_i$とおくと, 整数$e_i$が存在して, $pR=\prod_i \mathfrak{p}_i^{e_i}$が成り立つ.
また, $|R/\mathfrak{p}_i|=p^{f_i}$とおくと, $\sum_i e_if_i=[K:\Q]$が成り立つ.

特に今回は$K=\Q[\sqrt{-5}]$$[K:\Q]=2$なので, かなり形が絞れます.

上にある素イデアルを求めるには次のようにします.

素数$p$の上にある素イデアルは, $(p)=pR$を含む素イデアルである.
$R=\Z[X]/(f(X))$の場合は, イデアルの対応定理より, $R/pR=\Z[X]/(p,f(X))=\Fp[X]/(f(X))$の素イデアルに対応するが, これは$f(X)$$\Fp$で因数分解すれば求められる.

${}$

それでは, 解いていきましょう.

${}$

(1) $I_1=(2)$

$R/I_1=\F_2[X]/(X^2+5)=\F_2[X]/((X+1)^2)$ の素イデアルは$(X+1)$のみなので, $2$の上にある素イデアルは$\mathfrak{p}_2=(2,\sqrt{-5}+1)$のみである. $R/\mathfrak{p}_2=\F_2[X]/(X+1)\cong\F_2$ より$f=1,e=2$なので定理2より$(2)=\mathfrak{p}_2^2=(2,\sqrt{-5}+1)^2$である.

${}$

(2) $I_2=(3)$

$R/I_2=\F_3[X]/(X^2+5)=\F_3[X]/((X+1)(X-1))$より, $3$の上にある素イデアルは$\mathfrak{p}_3=(3,\sqrt{-5}+1), \mathfrak{q}_3=(3,\sqrt{-5}-1)$の2つなので, 定理2より$(3)=\mathfrak{p}_3\mathfrak{q}_3=(3,\sqrt{-5}+1)(3,\sqrt{-5}-1)$である.

${}$

(3) $I_3=(6)$

$(6)=(2)(3)=\mathfrak{p}_2^2\,\mathfrak{p}_3\mathfrak{q}_3$である.

有名な$6=2\cdot 3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})$という2通りの素元分解は, 実は

$(2)=\mathfrak{p}_2^2,\ (3)=\mathfrak{p}_3\mathfrak{q}_3,\ (1+\sqrt{-5})=\mathfrak{p}_2\mathfrak{p}_3,\ (1-\sqrt{-5})=\mathfrak{p}_2\mathfrak{q}_3$

とさらに分解できるので, 素イデアルの積としては同じものになるのです!

${}$

(4) $I_4=(11)$

$R/I_4=\F_{11}[X]/(X^2+5)\cong \F_{11^2}$である($X^2+5$$\F_{11}$で既約)ので, (11)はすでに素イデアルである.

${}$

(5) $I_5=(105)$

$(3),(5),(7)$の素イデアル分解がわかればよい. 同様に計算すれば $\mathfrak{p}_5=(\sqrt{-5})$として$(5)=\mathfrak{p}_5^2$, $\mathfrak{p}_7=(7,\sqrt{-5}+3),\ \mathfrak{q}_7=(7,\sqrt{-5}-3)$として$(7)=\mathfrak{p}_7\mathfrak{q}_7$となるので, $(105)=\mathfrak{p}_3\mathfrak{q}_3\mathfrak{p}_5^2\,\mathfrak{p}_7\mathfrak{q}_7$である.

${}$

本番問題

今見たように$(n)$という形のイデアルならば定理2を使うことで簡単に分解ができることになりますが, そうでない場合はどうでしょう.

$R=\Z[\sqrt{-5}]$において, 次のイデアルを素イデアル分解せよ.

(1) $I_1=(\sqrt{-5}+2)$

(2) $I_2=(\sqrt{-5}+10)$

(3) $I_3=(18,\sqrt{-5}+7)$

(4) $I_4=(4\sqrt{-5}-2,\ 3\sqrt{-5}+9)$

(5) $I_5=(120\sqrt{-5}-276,\ 198\sqrt{-5}+162)$

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二次体の整数環に限れば, 以下のような手順により解くことができます.

$I\cap\Z=(n)$となる$n$を求め, $I=(n,x)$と表示する.

一般に$a,b$が互いに素なら$(ab,x)=(a,x)(b,x)$なので, $(n,x)=\prod_p (p^{a_p},x)$とかける. 各$(p^a,x)$の素イデアル分解には$p$の上にある素イデアルのみが現れるので, その冪を求めればよい.

ここで$I\cap \Z$の計算には次の補題が便利です.

$x\in R$が任意の$m\geq2$に対して$x\notin mR$を満たすならば, $(x)\cap \Z=(N(x))$である.

${}$

二次体の場合は, $(p)$の分解は$\mathfrak{p}^2$(分岐という), $\mathfrak{p}$(惰性という), $\mathfrak{p}\mathfrak{q}$(分解という)の3パターンのみなことに注意します.

また, $p$倍を手前に出すことで$x$$p$の倍数でないとしておきます.

以上の整理のもとで, ($n$を上述のようにとれば$(p^a,x)\cap\Z=(p^a)$となるので)

$p$が分岐するとき:$(p^a,x)=R$または$\mathfrak{p}$(後者は$x\in\mathfrak{p}$のとき)

$p$が惰性するとき:$(p^a,x)=R$

$p$が分解するとき:$(p^a,x)=\mathfrak{p}^a,\ \mathfrak{p}\mid p$

上述のように素イデアルの積がすぐ$(p)$になるので, $p$倍を前に出した後の形はかなり限られるということです. $\Z$との共通部分を見れば簡単に証明できます.

最後に, 分解する場合の$\mathfrak{p}$は2通りあるうちのどちらなのかを判定する方法を述べます.

$p$は分解するとし, 上にある素イデアルを$\mathfrak{p},\mathfrak{q}$とおく. $I=\mathfrak{p}^a$または$\mathfrak{q}^a$のどちらであるか判定するには, $R/pR\cong R/\mathfrak{p}\times R/\mathfrak{q}\cong\Fp\times\Fp$による$I$の像でどちらが0になるかを調べればよい.

${}$

${}$

それでは, 解いていきましょう.

$$ \begin{align*} \mathfrak{p}_2&=(2,\sqrt{-5}+1)\\ \mathfrak{p}_3&=(3,\sqrt{-5}+1)\\ \mathfrak{q}_3&=(3,\sqrt{-5}-1)\\ \mathfrak{p}_5&=(\sqrt{-5})\\ \mathfrak{p}_7&=(7,\sqrt{-5}+3)\\ \mathfrak{q}_7&=(7,\sqrt{-5}-3) \end{align*}$$
とおきます.

${}$

(1) $I_1=(\sqrt{-5}+2)$

補題4より$I_1\cap\Z=(9)$で, $I_1=(3^2,\sqrt{-5}+2)$とかける. 命題5より$I_1=\mathfrak{p}_3^2$ or $ \mathfrak{q}_3^2$である.
補題6を使うと $R/(3)\cong R/\mathfrak{p}_3\times R/\mathfrak{q}_3$$\sqrt{-5}\mapsto(-1,1)$なので, $I_1=\mathfrak{q}_3^2$である.

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(2) $I_2=(\sqrt{-5}+10)$

$I_2\cap \Z=(105)$である. $I_2=(3,\sqrt{-5}+10)(5,\sqrt{-5}+10)(7,\sqrt{-5}+10)$とかく.

$(3,\sqrt{-5}+10)=\mathfrak{p}_3$, $(5,\sqrt{-5}+10)=(\sqrt{-5})=\mathfrak{p}_5 $, $(7,\sqrt{-5}+10)=\mathfrak{p}_7$がすぐにわかるので, $I_2=\mathfrak{p}_3\mathfrak{p}_5\mathfrak{p}_7$である.

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(3) $I_3=(18,\sqrt{-5}+7)$

補題4を用いて, $I_3\cap \Z=(18,N(\sqrt{-5}+7))=(18)$である. $I_3=(2,\sqrt{-5}+7)(3^2,\sqrt{-5}+7)=$$\mathfrak{p}_2\mathfrak{p}_3^2$である.

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(4) $I_4=(4\sqrt{-5}-2,\ 3\sqrt{-5}+9)$

$-3(4\sqrt{-5}-2)+4(3\sqrt{-5}+9)=42$であり, $I_4=(42,\sqrt{-5}-11)$などとかける. ($\Z$加群とみて基底変換をした.) $I_4\cap \Z=(42)$である.

$(2,\sqrt{-5}-11)=\mathfrak{p}_2$, $(3,\sqrt{-5}-11)=\mathfrak{p}_3$,$(7,\sqrt{-5}-11)=\mathfrak{p}_7$より, $I_4=\mathfrak{p}_2\,\mathfrak{p}_3\mathfrak{p}_7$である.

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(5) $I_5=(120\sqrt{-5}-276,\ 198\sqrt{-5}+162)$

まず$I_5=6\,(20\sqrt{-5}-46,\ 33\sqrt{-5}+27)$である. 上と同様に生成元に整数を含むように基底変換すると, $I_5=6\,(2058,\ \sqrt{-5}-311)$などとかける.

$2058=2\cdot3\cdot7^3$と補題6より, $I_5=6\mathfrak{p}_2\mathfrak{p}_3\mathfrak{q}_7^3=$$\mathfrak{p}_2^3\,\mathfrak{p}_3^2\,\mathfrak{q}_3\mathfrak{q}_7^3$である.

${}$

まとめ

二次より大きい整数環になるとかなり難しくなりますが, 一般にDedekind domainのイデアルは必ず$I=(n,x)$という表示を持つことが知られているので, 同じ戦略は使えるでしょう(が, この$n,x$を求めるのが難しいです).

みなさんも$\Z[\sqrt{-5}]$で遊びましょう!

それでは, ここまで読んでくださった方, ありがとうございました.
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投稿日:1日前
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すい
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