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現代数学解説
文献あり

Murahara-Sakataの和公式

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x,yからなる非可換多項式環をH:=Qx,y,H0:=Q+yHxとする. Hoffman代数による多重ゼータ値の定式化
ζ(yxk11yxkr1):=ζ(k1,,kr):=0<n1<<nr1n1k1nrkr
を用いる. dep(k)でインデックスkの深さとする. 導分関係式は以下のように表される.

導分関係式; Ihara-Kaneko-Zagier(2006)

H[[u]]上の同型写像Δ
Δ(x):=11yux,Δ(y):=y1yu(1(x+y)u)
によって定義するとき, 任意のwH0に対して,
ζ(Δ(w))=ζ(w)
が成り立つ.

この記事では, 導分関係式を用いることによって, 以下の定理を示す.

Murahara-Sakata(2018)

正整数rnとインデックスk=(k1,,kr)に対して,
0<e1,,ere1++er=nζ({1}e11,k1+1,,{1}er1,kr+1)=kl(1)dep(l)r0<e1,,edep(l)e1++edep(l)=nζ(l1+e1,,ldep(l)+edep(l))
が成り立つ. ただし, klkを縮約インデックスに持つインデックスl全体の和を表す.

準同型写像β:HH[[u]]
β(x):=xyxu1xu,β(y):=yxu1xu
とすると,
(Δβ)(x)=x,(Δβ)(y)=yu1yux

よって, 導分関係式よりw=yxk11yxkr1として, ζ((Δβ)(w))=ζ(β(w))であり,
ζ((Δβ)(w))=ζ(yu1yuxk1yu1yuxkr)ζ(β(w))=ζ(yxu1xu(xyxu1xu)k11yxu1xu(xyxu1xu)kr1)=kl(1)dep(l)rζ(yxu1xuxl11yxu1xuxldep(l)1)
であるから,
ζ(yu1yuxk1yu1yuxkr)=kl(1)dep(l)rζ(yxu1xuxl11yxu1xuxldep(l)1)
の両辺のunの係数を比較して定理を得る.

Murahara-Sakataの和公式における右辺に現れるインデックスは全ての成分が2以上である. このようなインデックスは高さ最大のインデックスと呼ばれている. Murahara-Sakataの論文においては, 同様の方針で有限(対称)多重ゼータ値における類似も示されている.

特にr=1とすることによって, 以下のKaneko-Sakataによる和公式を得る.

正整数a,bに対して,
ζ({1}a1,b+1)=0<r(1)r10<a1,,ar,a1++ar=a0<b1,,br,b1++br=bζ(a1+b1,,ar+br)
が成り立つ.

インデックスにおける2以上の成分の個数を高さというが, Kaneko-Sakataの和公式は高さ1の多重ゼータ値を高さ最大の多重ゼータ値で明示的に表す公式を与えている.

参考文献

[1]
H. Murahara, M. Sakata, On multiple zeta values and finite multiple zeta values of maximal height, Int. J. Number Theory, 2018, 975-987
[2]
K. Ihara, M. Kaneko, D. Zagier, Derivation and double shuffle relations for multiple zeta values, Compos. Math., 2006, 307-338
[3]
M. Kaneko, M. Sakata, On multiple zeta values of extremal height, Bull. Aust. Math. Soc., 2016, 186-193
投稿日:33
更新日:33
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Wataru
Wataru
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超幾何関数, 直交関数, 多重ゼータ値などに興味があります

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