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三角形の垂心について

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はじめに

 こんにちは!sta_kunです.

 今回は垂心の性質について紹介していきたいと思います.初学者にもわかりやすいように書いたつもりなのでぜひご一読ください!

 なお,この記事では図1のように点を定義します.

三角形ABCについて,垂心をH,外心をO3A,B,Cから対辺に下した垂線の足をそれぞれD,E,F,線分BC,AHの中点をそれぞれM,Nとする.

垂心の基本構図

共円と相似
  • 4A,E,H,FNを中心とする円周上にある.
  • 4B,F,E,CはMを中心とする円周上にある.
  • ABDCHD
  • ABCAEF

 証明は全て簡単な角度追跡から従うのでここでは省略させていただきます.

 次の構図はOMCなのでもよく見かける比較的有名なものです.

垂心の対称移動

 Hを辺BCに関して対称移動させた点をXHを点Mに関して対称移動させた点をYとすると,

  1. XABCの外接円上にある.
  2. YABCの外接円上にあり,特にAYは外接円の直径である.

(1)BXC=BHC=BHD+CHD=ACB+ABC=180°BAC
 より示された.
(2)このとき四角形BHCYは平行四辺形.よってABY=ACY=90°より示された.

定理2から,次の九点円の定理がわかります.

九点円の定理

 線分AC,AB,BH,CHの中点をMB,MC,NB,NCとすると,9D,E,F,M,MB,MC,N,NB,NCは同一円周上にある.特にこの円を九点円と呼ぶ.さらに,この円の中心N9は線分OHの中点である.

 定理2より,図2の9つの赤点は外接円上にある.これらにHを中心とする12倍の相似拡大(半分に縮小するイメージ)を施すことで題意は従う.(円の中心も,Hを中心にOが半分に縮小されるのでOHの中点であることがわかる.)

この定理を使うと,以下の定理が示されます.

垂軸

 EFBCの交点をXCADFの交点をYABDEの交点をZとすると,3X,Y,Zは共線で,この直線を特に垂軸と呼ぶ.さらに,垂軸はオイラー線(後述)と直交する.

 円BFECと外接円の根軸は直線BC,円BFECと九点円の根軸は直線EFより,Xは外接円と九点円の根軸上に位置する.同様にY,Zも根軸上にあるので,示された.また,外接円の中心はO,九点円の中心N9OH上より,垂軸は直線ON9すなわち直線OHと直交する.

次は,symmedianにも絡んでくる重要な性質です.

三接線補題

 Aを通りBCに平行な直線,直線ME,直線MFは全て円AEFに接する.

 円AEF の外心はNで,ANBCからAを通りBCに平行な直線は円AEFに接する.また,MB=MEからMEB=MBE=HAEより,接弦定理の逆から,直線MEは円AEFに接する.直線MFも同様.

定理5を使って以下の性質を示してみましょう.

類似中線(symmedian)

 円ABCB,Cそれぞれにおける接線の交点をXとすれば,BAX=CAMが成り立つ.なお,このとき直線AXは三角形ABC類似中線と呼ぶ.

 定理5より,円AEFE,Fそれぞれにおける接線の交点はMである.これとAEFABCを合わせて,AEMABXを得る.よってBAX=CAMである.

類似中線には他にもたくさんの性質があります.興味のある方はぜひ調べてみてください!

では,練習問題を解いてみましょう.(出典の書いていない問題は,一般的に知られているものか自作のものです.)

 問題1はJMO予選の問題です.セットとして解きたい場合は飛ばすことをお勧めします.  

JMO2021年予選7番

 三角形ABCの辺BC上に点P,Qがあり,三角形ACPの垂心と三角形ABQの垂心は一致している.AB=10,AC=11,BP,5,CQ=6のとき,辺BCの長さを求めよ.

ヒント
 定理2を思い出しましょう.
解答
 AからBCに下した垂線とBC,円ABQの交点をそれぞれX,Yとする.x=PX,y=QXとする.定理2より,A,P,Y,Cは共円.よって,方べきの定理より,
(5+x)y=AXXY=x(y+6)
三平方の定理より,
AX2=100(x+5)2=121(y+6)2
これを解いて,x=521115,y=621116. よって,BC=231である.
sta_kun杯 p1

 鋭角三角形 ABC があり,その垂心を H とする.線分 AH の中点を PCH と三角形 ABC の外接円の交点(C)を Q とすると,円 PQH は直線 BH に接した.このとき,線分 BC の中点を M とすると AB=AM であることを示せ.

ヒント
 条件より,PQHACBがわかります.さらに,定理2から何がわかるでしょうか?
解答
 B,Cから対辺に下した垂線の足をそれぞれE,Fとする.接弦定理より,
PQH=PHE=ACB
これと,ABC=PHQHF=FQBM=MC と合わせて,(A,B,C,M)と(P,H,Q,F)は相似である.このとき,Pが円AFHEの中心であることに留意して,PF=PHを得る.よってAB=AMで,題意は示された.

 AHEFの交点をPとする.このとき,点Pは三角形NBCの垂心であることを示せ.

ヒント
 角度追跡では難しそうです.方べきの定理で長さを追うことを考えましょう.また、Brocardの定理を用いれば瞬殺です.
解答
 BCに関してHと対称な点をXとすると,BXA=BHD=ACB=AFEより4P,F,B,Xは共円.このとき方べきの定理から
APAX=AFAB=AHAD
また,
DPDN=(ADAP)AX2=AD2(AXAH)=ADDX=BDDC
より,DP:DC=DB:DN がわかり,BDNPDC より示された.
別解
 内接四角形AEHFに対しBrocardの定理を適用することでただちに従う.
HKA杯 p8

 AB<AC である鋭角三角形 ABC について,BC の中点を MAM,BM,CM の中点をそれぞれ N,X,Y とする.また,M から AC に下した垂線の足を DX を通り DY に平行な直線と直線 DN の交点を P,三角形 PNX の外接円と AB の交点のうち A に近い方を Q,三角形 PNX の外接円と BCX でない交点が存在したので R とする.ここで,三角形 PNX の外接円と DR の交点を S とするとき,3Q,S,M は同一直線上にあることを示せ.

ヒント
 九点円っぽい見た目をしていますね。aminoの補題も有効です.
解答
 三角形AMCの九点円とBCの交点のうちBに近い方をRとする.RAからBCに下した垂線の足である.このとき,
NRX=NPX=180°YDN=NRX
から,RRは一致する.すなわち,円PNXは三角形ABMの九点円である.
ここで,AMBMと仮定すると,ABMBAMACMCAM よりBACが鋭角とならず矛盾.よってAM>BMで,点QABの中点である.このときQMACである.
ここで,円PNXABの交点(Q)をTとする. ATM=ARM=ADM=90°よりA,T,R,M,Dは共円で,
BAC=180°TRS=TQS
よりACQSである.
QMACと合わせて,Q,S,Mは共線で,示された.

他の五心との関係

垂心と傍心の双対性

双対性

 Hは三角形DEFの内心であり,A,B,Cは三角形DEFの傍心である.

 FDH=FBH=FCE=EDHよりHは三角形DEFの内心である.また,HFA=HEA=90°よりAは三角形DEFの傍心.同様にB,Cも傍心で,示された.

オイラー線

オイラー線

 三角形ABCの重心をGとすると,O,G,Hは同一直線上にあり,さらにOG:GH=1:2である.なお,この直線をオイラー線と呼ぶ.

オイラー線にはたくさんの証明法があります.ここでは相似拡大を用いたものを紹介します.

 BC,CA,ABの中点をそれぞれMA,MB,MCとする.三角形ABCGを中心とする12倍の相似拡大を施すことで,三角形ABCは三角形MAMBMCに移る.このとき,この三角形の垂心を考えると,各辺の垂直二等分線の交点となりOと一致する.つまり,この相似拡大によってHOに移っており,題意は示される.

外心との関係

等角共役

 BAH=CAOが成り立つ.このような関係のことを等角共役と呼ぶ.

 CAO=90°12AOC=90°ABC=BAHより示された.

それでは,練習問題です.

AH=6,BC=8 のとき,EFを求めよ.

ヒント
 三角形ABCと三角形AFEの相似比がわかればいいと考えて…
解答
 定理8より,OM=AH2=3MC=4よりOC=5.一方,三角形AEFの外接円の半径は AH2=3.よって相似比は5:3で,EF=245

 AHEFの交点をP,線分EFの中点をQEFBCの交点をRとし,三角形ABCの外接円とEFの交点をS,Tとするとき,以下を示せ.

  1. AOEF
  2. MQEF
  3. AS=AT
  4. 4C,Q,P,Bは同一円周上
(1) 解答
 定理9より,BAD=CAO.三角形AEFの外心はNより,三角形AEFにもう一度定理9を適用することで,三角形AEFの垂心がAO上ににあることがわかり,示された.
(2) 解答
 AOと円ABCの交点をXとする.定理2よりHM=MXで,AN=NHと合わせてAXNM,すなわちEFMNNは三角形AEFの外心より,NQEF.以上より,N,Q,Mは共線で,特にMQEFである.
(2) 別解
 EFNを中心とする円AEFMを中心とする円BFECの根軸より,MNEF.後は同様.
(3) 解答
 STAOから示された.
(3) 別解
 Aを中心とする半径ADAHの円で反転(後述)してもS,Tは不変.よってAS=AT=ADAHで,示された.
(4) 解答
 (2)より,M,Q,P,Dは共円.円ABC,BFEC,MQPD,MDFEについて方べきの定理より,
QRPR=MRDR=ERFR=CRBR
から,示された.

反転

 ここでは,垂心の絡む反転について紹介したいと思います.
まず,以下のように点を新しく定義します.

BCEFの交点をX,円ABCと円AEFの交点をYとする.

この図を少し観察すると,以下のことが分かります.

  • A,Y,Xは共線
  • M,H,Yは共線

ABC,AEF,BFECの根心はXより,A,Y,Xは共線.また,AOに関して対称移動させた点をZとすると,ZYA=90°AYH=90°と合わせて,Y,H,Zの共線が従うが,定理2よりH,M,Zは共線なので,M,H,Yは同一直線上にある.

Yが内接四角形BFECのミケル点となっていることを考えれば自然かと思います.

A中心の反転

 B,F,H,Dの共円とC,E,H,Dの共円から以下が従います.
AFAB=AHAD=AEAC
このことから,次のことが分かります.

A中心の反転

 Aを中心とする半径ADAHの円で反転することで,BFDHCE,(XY) はそれぞれ移りあう.

 では,こちらの問題を解いてみましょう.

 JJMO2017本選5

 鋭角三角形ABCがあり,その垂心をHとする.3点A,B,Cから対辺に下した垂線の足をそれぞれD,E,Fとする.三角形ACDの外接円と線分BEの交点をP,三角形ABDの外接円と線分CFの交点をQとする.また、三角形ABHの外接円と線分DFの交点をS,三角形ACHの外接円と線分DEの交点をTとする.このとき,4点P,Q,S,Tは同一円周上にあることを示せ.

解答
 P,Q,S,Tはこの反転により不変である.よって,すべて基準円上にあり,示された.

M中心の反転

 線分BCを直径とする円で反転すると,九点円(定理3)が直線EFに移ります.このことから,以下のことがわかります.

M中心の反転

 線分BCを直径とする円で反転することで,B,C,E,Fは不変で,DXHYはそれぞれ移りあう.

HYが移りあうことは内接四角形のミケル点の性質から従います.

 では,こちらの問題を解いてみましょう.

XHAMを示せ.

解答
 Aがこの反転によって移った先をAとすると,ADM=90°より,XAM=90°.また,Aは円BFMCMEの交点なので,簡単な角度追跡よりAは円AEF上にある,すなわちHAM=90°がわかる.よって,X,H,Aは同一直線上にあり,特にXHAMである.

 最後に,反転を用いる練習問題を紹介します.少し難しいかもしれませんが,ぜひ考えてみてください.

HKA杯p11

 AB<AC である鋭角三角形 ABC があり,その垂心を H とする.3A,B,C からそれぞれ対辺に下した垂線の足をそれぞれ D,E,F とする.また,AHEF の交点を GBC の中点を MBAC の内角の二等分線と BC との交点を PB を点 D に関して対称移動させた点を Q とする .ここで,M を通り AP に垂直な直線と,P を通り AM に垂直な直線は三角形 ABC の外接円上で交わった.このとき,三角形 AGE の外接円は直線 QH に接することを示せ.

解答はこちら

終わりに

 拙い記事でしたが,ここまで読んでくださってありがとうございました!!これを機に皆さんが少しでも垂心と仲良くなっていただけたら幸いです!疑問点や誤植,ミス等ありましたら教えて下さい.

参考文献

  1. Evan Chen『数学オリンピック幾何への挑戦:ユークリッド幾何学をめぐる船旅』日本評論社
投稿日:20241223
更新日:20241223
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  1. はじめに
  2. 垂心の基本構図
  3. 他の五心との関係
  4. 垂心と傍心の双対性
  5. オイラー線
  6. 外心との関係
  7. 反転
  8. A中心の反転
  9. M中心の反転
  10. 終わりに
  11. 参考文献