はじめに
こんにちは!sta_kunです.
今回は垂心の性質について紹介していきたいと思います.初学者にもわかりやすいように書いたつもりなのでぜひご一読ください!
なお,この記事では図1のように点を定義します.
三角形について,垂心を,外心を,点から対辺に下した垂線の足をそれぞれ,線分の中点をそれぞれとする.
垂心の基本構図
共円と相似
- 点はを中心とする円周上にある.
- 点はMを中心とする円周上にある.
証明は全て簡単な角度追跡から従うのでここでは省略させていただきます.
次の構図はOMCなのでもよく見かける比較的有名なものです.
垂心の対称移動
を辺に関して対称移動させた点を,を点に関して対称移動させた点をとすると,
- はの外接円上にある.
- はの外接円上にあり,特には外接円の直径である.
(1)
より示された.
(2)このとき四角形は平行四辺形.よってより示された.
定理2から,次の九点円の定理がわかります.
九点円の定理
線分の中点をとすると,点は同一円周上にある.特にこの円を九点円と呼ぶ.さらに,この円の中心は線分の中点である.
定理2より,図2のつの赤点は外接円上にある.これらにを中心とする倍の相似拡大(半分に縮小するイメージ)を施すことで題意は従う.(円の中心も,を中心にが半分に縮小されるのでの中点であることがわかる.)
この定理を使うと,以下の定理が示されます.
垂軸
との交点を,との交点を,との交点をとすると,点は共線で,この直線を特に垂軸と呼ぶ.さらに,垂軸はオイラー線(後述)と直交する.
円と外接円の根軸は直線,円と九点円の根軸は直線より,は外接円と九点円の根軸上に位置する.同様にも根軸上にあるので,示された.また,外接円の中心は,九点円の中心は上より,垂軸は直線すなわち直線と直交する.
次は,symmedianにも絡んでくる重要な性質です.
円 の外心はで,からを通りに平行な直線は円に接する.また,からより,接弦定理の逆から,直線は円に接する.直線も同様.
定理5を使って以下の性質を示してみましょう.
類似中線(symmedian)
円のそれぞれにおける接線の交点をとすれば,が成り立つ.なお,このとき直線は三角形の類似中線と呼ぶ.
定理5より,円のそれぞれにおける接線の交点はである.これとを合わせて,を得る.よってである.
類似中線には他にもたくさんの性質があります.興味のある方はぜひ調べてみてください!
では,練習問題を解いてみましょう.(出典の書いていない問題は,一般的に知られているものか自作のものです.)
問題1はJMO予選の問題です.セットとして解きたい場合は飛ばすことをお勧めします.
JMO2021年予選7番
三角形の辺上に点があり,三角形の垂心と三角形の垂心は一致している.のとき,辺の長さを求めよ.
ヒント
定理2を思い出しましょう.
解答
からに下した垂線と,円の交点をそれぞれとする.とする.定理2より,は共円.よって,方べきの定理より,
三平方の定理より,
これを解いて,. よって,である.
sta_kun杯 p1
鋭角三角形 があり,その垂心を とする.線分 の中点を , と三角形 の外接円の交点()を とすると,円 は直線 に接した.このとき,線分 の中点を とすると であることを示せ.
ヒント
条件より,がわかります.さらに,定理から何がわかるでしょうか?
解答
から対辺に下した垂線の足をそれぞれとする.接弦定理より,
これと,,, と合わせて,()と()は相似である.このとき,が円の中心であることに留意して,を得る.よってで,題意は示された.
との交点をとする.このとき,点は三角形の垂心であることを示せ.
ヒント
角度追跡では難しそうです.方べきの定理で長さを追うことを考えましょう.また、Brocardの定理を用いれば瞬殺です.
解答
に関してと対称な点をとすると,より点は共円.このとき方べきの定理から
また,
より, がわかり, より示された.
別解
内接四角形に対しBrocardの定理を適用することでただちに従う.
HKA杯 p8
である鋭角三角形 について, の中点を , の中点をそれぞれ とする.また, から に下した垂線の足を , を通り に平行な直線と直線 の交点を ,三角形 の外接円と の交点のうち に近い方を ,三角形 の外接円と の でない交点が存在したので とする.ここで,三角形 の外接円と の交点を とするとき, 点 は同一直線上にあることを示せ.
ヒント
九点円っぽい見た目をしていますね。aminoの補題も有効です.
解答
三角形の九点円との交点のうちに近い方をとする.はからに下した垂線の足である.このとき,
から,とは一致する.すなわち,円は三角形の九点円である.
ここで,と仮定すると,, よりが鋭角とならず矛盾.よってで,点はの中点である.このときである.
ここで,円との交点()をとする. よりは共円で,
よりである.
と合わせて,は共線で,示された.
他の五心との関係
垂心と傍心の双対性
よりは三角形の内心である.また,よりは三角形の傍心.同様にも傍心で,示された.
オイラー線
オイラー線
三角形の重心をとすると,は同一直線上にあり,さらにである.なお,この直線をオイラー線と呼ぶ.
オイラー線にはたくさんの証明法があります.ここでは相似拡大を用いたものを紹介します.
の中点をそれぞれとする.三角形にを中心とする倍の相似拡大を施すことで,三角形は三角形に移る.このとき,この三角形の垂心を考えると,各辺の垂直二等分線の交点となりと一致する.つまり,この相似拡大によってがに移っており,題意は示される.
外心との関係
等角共役
が成り立つ.このような関係のことを等角共役と呼ぶ.
それでは,練習問題です.
ヒント
三角形と三角形の相似比がわかればいいと考えて…
解答
定理8より,.より.一方,三角形の外接円の半径は .よって相似比はで,.
との交点を,線分の中点を,との交点をとし,三角形の外接円との交点をとするとき,以下を示せ.
- 点は同一円周上
(1) 解答
定理9より,.三角形の外心はより,三角形にもう一度定理9を適用することで,三角形の垂心が上ににあることがわかり,示された.
(2) 解答
と円の交点をとする.定理2よりで,と合わせて,すなわち.は三角形の外心より,.以上より,は共線で,特にである.
(2) 別解
はを中心とする円とを中心とする円の根軸より,.後は同様.
(3) 解答
から示された.
(3) 別解
を中心とする半径の円で反転(後述)してもは不変.よってで,示された.
(4) 解答
(2)より,は共円.円について方べきの定理より,
から,示された.
反転
ここでは,垂心の絡む反転について紹介したいと思います.
まず,以下のように点を新しく定義します.
との交点を,円と円の交点をとする.
この図を少し観察すると,以下のことが分かります.
円の根心はより,は共線.また,をに関して対称移動させた点をとすると,.と合わせて,の共線が従うが,定理2よりは共線なので,は同一直線上にある.
点が内接四角形のミケル点となっていることを考えれば自然かと思います.
中心の反転
の共円との共円から以下が従います.
このことから,次のことが分かります.
中心の反転
を中心とする半径の円で反転することで,と,と,と,(と) はそれぞれ移りあう.
では,こちらの問題を解いてみましょう.
JJMO2017本選5
鋭角三角形があり,その垂心をとする.3点から対辺に下した垂線の足をそれぞれとする.三角形の外接円と線分の交点を,三角形の外接円と線分の交点をとする.また、三角形の外接円と線分の交点を,三角形の外接円と線分の交点をとする.このとき,4点は同一円周上にあることを示せ.
解答
はこの反転により不変である.よって,すべて基準円上にあり,示された.
中心の反転
線分を直径とする円で反転すると,九点円(定理3)が直線に移ります.このことから,以下のことがわかります.
中心の反転
線分を直径とする円で反転することで,は不変で,と,とはそれぞれ移りあう.
とが移りあうことは内接四角形のミケル点の性質から従います.
では,こちらの問題を解いてみましょう.
解答
がこの反転によって移った先をとすると,より,.また,は円との交点なので,簡単な角度追跡よりは円上にある,すなわちがわかる.よって,は同一直線上にあり,特にである.
最後に,反転を用いる練習問題を紹介します.少し難しいかもしれませんが,ぜひ考えてみてください.
HKA杯p11
である鋭角三角形 があり,その垂心を とする. 点 からそれぞれ対辺に下した垂線の足をそれぞれ とする.また, と の交点を , の中点を , の内角の二等分線と との交点を , を点 に関して対称移動させた点を とする .ここで, を通り に垂直な直線と, を通り に垂直な直線は三角形 の外接円上で交わった.このとき,三角形 の外接円は直線 に接することを示せ.
解答はこちら
終わりに
拙い記事でしたが,ここまで読んでくださってありがとうございました!!これを機に皆さんが少しでも垂心と仲良くなっていただけたら幸いです!疑問点や誤植,ミス等ありましたら教えて下さい.
参考文献
- Evan Chen『数学オリンピック幾何への挑戦:ユークリッド幾何学をめぐる船旅』日本評論社