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現代数学解説
文献あり

群上のフーリエ変換3:フーリエ変換のL2理論

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き局所コンパクトアーベル群上のフーリエ変換
f^(χ)=Gf(x)χ(x)dx
の性質について簡単に解説していきます。
 今回の記事ではフーリエ変換のL2理論として有名なプランシュレルの定理を中心に、パーセバルの等式
Gf(x)g(x)dx=G^f^(χ)g^(χ)dχ
やコンパクトアーベル群上のフーリエ級数展開
f(x)=χG^f,χχ(x)
について解説していきます。

語句の定義

 まずプランシュレルの定理の主張を記述するのに必要な語句等を定めておきましょう。
 以下、特に断りがなければGは局所コンパクトアーベル群、dx,dχG,G^の双対なハール測度、つまり反転公式
f(x)=G^f^(χ)χ(x)dχ
が成り立つものとします。

ヒルベルト空間

 RまたはC上の線形空間Xに対し、写像,:X×XCであって

  1. y,x=x,y
  2. ax1+bx2,y=ax1,y+bx2,y(a,bC)
  3. x,x0
  4. x,x=0x=0

を満たすようなものをX内積と言い、内積を備えた空間Xのことを内積空間と言う。
 また内積が定めるノルム(が定める距離d)
x=x,x12(d(x,y)=xy)
について完備な内積空間Xのことをヒルベルト空間と言う。

 なお調和解析の文脈ではしばしばペアリング
G×G^T,(x,χ)x,χ=χ(x)
としてx,χという記号が用いられるので、内積の記号と混同しないよう注意しましょう。

L2の内積

 f,gL2(G)に対し内積f,g
f,g=Gf(x)g(x)dx
によって定める(ヘルダーの不等式fgL1fL2gL2からこの積分は収束する)。
 このときL2(G)はヒルベルト空間となる。

 ちなみに一般の測度空間X1pに対しp乗可積分な関数全体Lp(X)Lpノルムに関して完備であることが知られています。

等長作用素

 ヒルベルト空間XからYへの線形作用素Tが任意のx,yXに対し
Tx,TyY=x,yX
を満たすことと、任意のxXに対し
TxY=xX
を満たすことは同値である。
 またこの条件を満たすときT等長であると言う。

 複素内積空間においては
4x,y=x+yxy+i(x+iyxiy)
が、実内積空間においては
4x,y=x+yxy
が成り立つことに注意するとわかる。

ユニタリ作用素

 ヒルベルト空間XからYへの線形作用素であって、等長かつ定義域・値域がX,Yに等しいもののことをユニタリ作用素と言う。またXからYへのユニタリ作用素が存在するとき、XYヒルベルト空間として同型であると言う。

パーセバルの等式

 ではまず
G|f(x)|2dx=G^|f^(χ)|2dχ
という形のパーセバルの等式を示していきましょう。

畳み込み

 局所コンパクト群G上の関数f,gL1(G)に対し、その畳み込みfgL1(G)
fg(x)=Gf(y)g(y1x)dx
によって定める(ただし積分は左ハール測度で考える)。

 特にGがアーベル群であれば(その演算を加法で表すと)
fg(x)=Gf(y)g(xy)dμ
と見慣れた形に表せます。

 fg^=f^g^が成り立つ。

fg^(χ)=G(Gf(y)g(y1x)dy)χ(x)dx=G(Gf(y)g(y1x)dy)χ(y)χ(y1x)dx=Gf(y)χ(y)(Gg(y1x)χ(y1x)dx)dy=(Gf(y)χ(y)dy)(Gg(x)χ(x)dx)=f^(χ)g^(χ)
とわかる。

 上の補題においてGの可換性は仮定しませんでしたが、以下Gは可換であるものとします。

パーセバルの等式

 fL1(G)L2(G)に対し
G|f(x)|2dx=G^|f^(χ)|2dχ
が成り立つ。特にf^L2(G^)となる。

 fL1(G)L2(G)に対しf(x)=f(x1)とおく。
 このときff^L1(G)が成り立つことが知られている。つまり反転公式によって
ff(1)=G^ff^(χ)dχ
が成り立つことに注意する。
 またfのフーリエ変換は
f^(χ)=Gf(x1)χ(x)dx=Gf(x)χ(x1)dx=Gf(x)χ(x)dx=f^(χ)
と求まるので
ff(1)=Gf(x)f(x1)dx=G|f(x)|2dx=G^ff^(χ)dχ=G^f^(χ)f^(χ)dχ=G^|f^(χ)|2dχ
を得る。

プランシュレルの定理

 いまfL1(G)に対しそのフーリエ変換f^を対応させる作用素F:ff^を考えたとき、パーセバルの等式はFL1(G)L2(G)からL2(G^)への等長作用素となることを意味しています。
 そしてこの作用素の拡張に関する次の主張のことをプランシュレルの定理と言います。

プランシュレルの定理

 L1(G)L2(G)上の作用素
F:L1(G)L2(G)L2(G^),ff^
L2(G)からL2(G^)へのユニタリ作用素に一意に拡張される。
 特にL2(G)L2(G^)はヒルベルト空間として同型である。

 これは次の2つの主張(この記事では証明しません)

  • L1(G)L2(G)L2(G)において稠密である
  • F(L1(G)L2(G))L2(G^)において稠密である

を示すことで確かめられます。実際これが成り立てば次の補題によって所望の拡張を得ることができます。

 ヒルベルト空間XからYへの等長線形作用素Tについて、その定義域Dと値域RがそれぞれX,Yにおいて稠密であるとき、TXからYへのユニタリ作用素に一意に拡張される。

 任意のxXに対し、稠密性からxに収束するD内の列{xn}が取れ、このとき
TxmTxnY=xmxnX0(m,n)
より{Txn}Y内のコーシー列、つまり収束列となるので
Tx=limnTxn
と定めることでTの拡張Tが得られる。
 またTの連続性からその拡張はこのようなものしか存在しないことがわかり、
TxY=limnTxnY=limnxnX=xX
よりこれは等長作用素となる。
 そして先と同様にTの等長性からyYに収束するR内の列{yn}={Txn}に対しX内の列{xn}はあるxXに収束することがわかり、このときTx=yが成り立つのでTの値域はYとなる。

 つまるところfL2(G)L2収束するL1(G)L2(G)内の列{fn}に対し、L2収束の意味で
(Ff)(χ)=limn(Ffn)(χ)=limnGfn(x)χ(x)dx
と定めることでFの定義域をL2(G)に拡張できるというわけです。
 ただしこの極限は各点の値に関して
|(Ff)(χ)(Ffn)(χ)|0
が成り立つことを意味しているのではなく、L2ノルムに関して
FfFfnL2=(G^|FfFfn|2dχ)120
が成り立つことを意味していることに注意しましょう。

極限の取り方について

 ちなみにGσ-有限、つまりあるボレル可測集合の増大列Enがあってμ(En)<およびG=nEnが成り立つときは
(Ff)(χ)=limnEnf(x)χ(x)dx
とも表せます。
 実際そのことは
fn(x)={f(x)(xEn)0(xEn)
とおいたとき、ヘルダーの不等式から
fnL1fL21EnL2=fL2μ(En)12<
つまりfnL1(G)L2(G)が成り立ち、また単調収束定理とかから
limnffnL22=limnG|ffn|2dx=Glimn|ffn|2dx=0
が成り立つことからわかります。

反転公式

 またgL1(G^)L2(G^)に対し逆フーリエ変換を対応させる作用素
F~:L1(G^)L2(G^)L2(G),g(χ)G^g(χ)χ(x)dχ
を考えたとき、L2(G)のある稠密集合Bにおいて反転公式
F~Ff=f
が成り立つ、つまりL2(G^)の稠密集合F(B)において
F~g=F1g
が成り立つことが知られているので、プランシュレルの定理によるF~の拡張はFの逆作用素となることがわかります。
 つまり次のような反転公式が得られるというわけです。

反転公式

 任意のfL2(G)に対しFfL2収束するL1(G^)L2(G^)内の列{gn}を取ると、L2収束の意味で
f(x)=limnG^gn(χ)χ(x)dχ
が成り立つ。

 例えばRZσ-有限であることから次のような反転公式が得られます。

 fL2(R)に対し、そのフーリエ変換をL2収束の意味で
f^(y)=limR|x|Rf(x)e2πixydx
によって定めると、L2収束の意味で
f(x)=limR|y|Rf^(y)e2πixydy
が成り立つ。

 fL2(R/Z)に対し
f^(n)=01f(x)e2πinxdx
とおくと、L2収束の意味で
f(x)=limNn=NNf^(n)e2πinx
が成り立つ。

パーセバルの等式

 ところでFは等長作用素ということだったので以下の公式が成り立ちます。

 f,gL2(G)に対し
Gf(x)g(x)dx=G^(Ff)(χ)(Fg)(χ)dχ
が成り立つ。

 この公式のことをパーセバルの等式、あるいはパーセバル・プランシュレルの等式と言います。

指標の完全正規直交性

 最後にコンパクトアーベル群上のフーリエ変換、いわゆるフーリエ級数に関するL2理論について解説していきましょう。
 いまGをコンパクトアーベル群とすると、その指標χに対し
G|χ(x)|2dx=Gdx=μ(G)<
つまりχL2(G)が成り立つので、任意のfL2(G)に対しフーリエ変換
f^(χ)=Gf(x)χ(x)dx
の右辺は収束し、特にこれは内積f,χとして表せることになります。
 となるとG上の反転公式は
f(x)=χG^f,χχ(x)
と表せることになりますが、実際これはL2収束の意味で任意のfL2(G)に対し成り立ち、特に{χ}χG^はヒルベルト空間L2(G)の完全正規直交系をなすことがわかります。
 以下でそのことについて簡単に見ていきましょう。

完全正規直交系

 ヒルベルト空間Xの点からなる族{eλ}λΛ正規直交系であるとは
eλ,eλ={1(λ=λ)0(λλ)
が成り立つことを言う。
 また正規直交系{eλ}完全であるとは、任意のxXに対し
x=λΛx,eλeλ
が成り立つことを言う。またこのような表示のことをxフーリエ展開と言う。

 ただしこの右辺の和は次のような意味での収束を考えています(冗長なので折り畳み)。

和の収束性について
非可算和の収束

 ヒルベルト空間Xの点列{xn}n=0に対し和
n=0xn
無条件収束するとは、任意の全単射σ:Z0Z0に対しn=0xσ(n)が同じ値に収束することを言う。
 またXの点からなる族{xλ}λΛに対し和
λΛxλ
が収束するとは、高々可算な集合Λ以外の点でxλ=0であり、また和λΛxλが無条件収束することを言う。

 ちなみにX=Cにおいては
(絶対収束)(無条件収束)
が成り立ちますが(cf. リーマンの再配列定理)、一般の空間においては
(絶対収束)(無条件収束)
までしか言えません。

 ヒルベルト空間Xの正規直交系{eλ}について、任意のxXに対し
x=λΛ|x,eλ|2
が成り立っていれば{eλ}は完全である。

 仮定より和λ|x,eλ|2は収束するので、ある高々可算な集合Λ以外の点ではx,eλ=0となり、また{eλ}の正規直交性に注意すると任意の有限集合LΛに対し
xλLx,eλeλ2=x22Rex,λLx,eλeλ+λLx,eλeλ2=x22λL|x,eλ|2+λL|x,eλ|2=x2λL|x,eλ|20(LΛ)
と評価できるので
x=λΛx,eλeλ
を得る。

 コンパクトアーベル群Gに対しそのハール測度μμ(G)=1を満たすように取ったとき、Gの指標群G^L2(G)の完全正規直交系をなす。
 特に任意のfL2(G)に対し、L2収束の意味で
f(x)=χG^f,χχ(x)
が成り立つ。

正規性

χ,χ=G|χ(x)|2dx=Gdx=μ(G)=1
とわかる。

直交性

 χχなるχ,χG^に対し、χ(a)χ(a)なるaXを取ると
χ(a)χ,χ=Gχ(ax)χ(x)dx=Gχ(x)χ(a1x)dx=χ(a)χ,χ
が成り立つのでχ,χ=0でなければならないことがわかる。

完全性

 パーセバルの等式から任意のfL2(G)に対し
G|f(x)|2dx=χG^|f^(χ)|2=χG^|f,χ|2
が成り立っていたことと上の補題からわかる。

参考文献

[1]
Gerald B. Folland, A Course in Abstract Harmonic Analysis - 2nd Edition, CRC Press, 2015
[2]
黒田 成俊, 関数解析, 共立出版, 1980
投稿日:425
更新日:425
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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 語句の定義
  3. パーセバルの等式
  4. プランシュレルの定理
  5. 極限の取り方について
  6. 反転公式
  7. パーセバルの等式
  8. 指標の完全正規直交性
  9. 参考文献