1
現代数学解説
文献あり

群上のフーリエ変換2:定義と反転公式

32
0

はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き局所コンパクトアーベル群G上のフーリエ変換
f^(χ)=Gf(x)χ(x)dxf(x)=G^f^(χ)χ(x)dχ
について簡単に簡単に解説していきます。

フーリエ変換

 さて 前回の記事 によって局所コンパクト群G上の積分が定義できたので、いよいよフーリエ変換の定義に入っていきましょう。
 前回の記事でもちらっと触れたようにG上のフーリエ変換を
f^(y)=Gf(x)e2πiϕ(x,y)dμ
という感じの積分変換として定めたいわけですが、そのための最後のピースとしてこの核関数Ky(x)=e2πiϕ(x,y)とは何者であるかを考える必要があります。
 結論から言うとこの積分核Ky(x)は次のような特徴付け

  • 絶対値が1である
  • 連続関数である
  • Ky(x1+x2)=Ky(x1)Ky(x2)が成り立つ

を満たすようなもの、つまりGのユニタリ指標として取ってくることになります。

指標

 位相群Gから円周群
T={zC|z|=1}
への連続な準同型χ:GTのことをG(ユニタリ)指標と言う。
 Gの指標全体G^は積について群をなし、これをG指標群と言う(あるいは双対群ポントリャーギン双対とも)。

 そしてG上の関数fに対し、そのフーリエ変換f^G^上の関数として次のように定められます。

フーリエ変換

 局所コンパクト群G上の関数fL1(G)に対し、そのフーリエ変換f^:G^C
f^(χ)=Gf(x)χ(x)dμ
によって定める。

 この定義だけだとあまりピンと来ないかもしれませんが百聞は一見に如かずということで、実際にこの特徴付けから冒頭で紹介したフーリエ変換たちが出てくることを確かめてみましょう。

R^={χ:xe2πixyyR}R
が成り立つ。特にR上のフーリエ変換は
f^(y)=f(x)e2πixydx
と表せる。

証明

 χ(x)は連続、特に積分可能であることとχ(0)=1に注意すると
A=0aχ(t)dt0
となるようなaRが存在し、このとき
Aχ(x)=0aχ(t+x)dt=xx+aχ(t)dt
の右辺が微分可能であることからχ(x)も微分可能であり
Aχ(x)=χ(x+a)χ(x)=χ(x)(χ(a)1)
が成り立つ。
 特にc=(χ(a)1)/Aとおくとχ(x)は微分方程式
χ(x)=cχ(x)(χ(0)=1)
を満たすことになるのでχ(x)=ecxと表せ、これがRTに写すためにはc=2πiyなるyRが存在することが必要十分となる。

R/Z^={χ:xe2πinxnZ}Z
が成り立つ。特にR/Z上のフーリエ変換は
f^(n)=01f(x)e2πinxdx
と表せる。

証明

 R/Zの指標χは自然にRの指標とみなせるので、あるyRが存在して
χ(x)=e2πixy
と表せる。また
χ(1)=e2πiy=χ(0)=1
に注意すると主張を得る。

Z^={χ:ne2πinxxR/Z}R/Z
が成り立つ。特にZ上のフーリエ変換は
f^(x)=n=f(n)e2πinx
と表せる。

証明

 χ(1)=zとおいたとき
χ(n)=χ(1+1++1)=χ(1)n=zn
が成り立つことからわかる。

Z/NZ^={χ:ne2πimn/NmZ/NZ}Z/NZ
が成り立つ。特にZ/NZ上のフーリエ変換は
f^(m)=n=0N1f(n)e2πimn/N
と表せる。

証明

 Z/NZの指標χは自然にZの指標とみなせるので、あるxRが存在して
χ(n)=e2πinx
と表せる。また
χ(N)=e2πiNx=χ(0)=1
に注意すると主張を得る。

 次の例に行く前にちょっとした補題を示しておく。

(G1×G2××Gn)^G^1×G^2××G^n

証明

 G^1,G^2,,G^nの指標χ1,χ2,,χnに対し
χ(x1,x2,,xn)=χ1(x1)χ2(x2)χn(xn)
とおくとこれはG1×G2××Gnの指標を定める。
 またG1×G2××Gnの指標χに対し
χi(xi)=χ(1,,1,xi,1,,1)
とおくとこれはG^iの指標を定める。
 またこの対応
χ(χ1,χ2,,χn)
は互いに逆対応を定めているので同型
(G1×G2××Gn)^G^1×G^2××G^n
を得る。

Rn^={χ:xe2πixyyRn}Rn
が成り立つ。特にRn上のフーリエ変換は
f^(y)=Rnf(x)e2πixydx
と表せる。

証明

 上の補題の証明からRnの指標χRの指標χ1,χ2,,χnを用いて
χ(x1,x2,,xn)=χ1(x1)χ2(x2)χn(xn)
と表せるので
χj(xj)=e2πixjyj
なるy1,y2,,ynRを取ると
χ(x1,x2,,xn)=e2πi(x1y1+x2y2++xnyn)=e2πixy
が成り立つ。

 xQpp進展開
x=n=vp(x)cnpn(cn{0,1,2,,p1})
に対しQpの指標χy (yQp)
χ1(x)=exp(2πin<0cnpn)χy(x)=χ1(xy)
によって定めると
Q^p={χyyQp}Qp
が成り立ち、また
Z^p={χyyQp/Zp}Qp/ZpQp/Zp^={χyyZp}Zp
とかも成り立つことが知られている。

ポントリャーギン双対性

 もちろんG上のフーリエ変換にも反転公式が存在するわけですが、それについて語るためにはまずf^の定義域であるG^の性質について触れておく必要があります。
 まずG^には以下のような位相を考えることができます。

コンパクト開位相

 X,Yを位相空間、C(X,Y)XからYへの連続写像全体とする。
 またX,Yの部分集合A,Bに対し
W(A,B)={fC(X,Y)f(A)B}
とおいたとき
{W(K,U)K:X のコンパクト集合, U:Y の開集合}
を準開基として生成されるC(X,Y)の位相をコンパクト開位相と言う。

 ちなみにコンパクト開位相はXが局所コンパクトハウスドルフであれば
C(X,Y)×XY,(f,x)f(x)
という写像を連続とするような位相であって最弱なものとして特徴付けられるため、G^にこのような位相を考えるのは自然だと言えます。
 そしてこのような位相を入れたときG^は位相群となることが知られています。

 位相群Gに対し、その指標群G^はコンパクト開位相に関してハウスドルフなアーベル群となる。

 特にGが局所コンパクトであればG^も局所コンパクトとなり、したがって以下が成り立ちます。

 局所コンパクト群Gに対し、その指標群G^は局所コンパクトアーベル群となる。

 となるとG^上でも適当なハール測度νを持ってきてフーリエ変換
g^(ξ)=G^g(χ)ξ(χ)dν(ξG^^)
を考えることができるわけですが、ここでこの二重双対群G^^

  • 局所コンパクトアーベル群である
  • 自然な(連続)準同型GG^^,x(χχ(x))がある

という点からGとよく似た群となることが期待されます。
 そして実際Gが局所コンパクトアーベル群であるときG^^Gと同型になるという非常に興味深い事実:ポントリャーギン双対性が成り立ちます。なおこれまでは特にGの可換性を仮定してきませんでしたが、ここからはGが可換である必要があります

ポントリャーギン双対性

 局所コンパクトアーベル群Gに対し準同型
GG^^,x(χχ(x))
は位相群の同型GG^^を与える。

 例えば上で紹介したG=R, Z/NZ, Qpの場合はその双対が自分自身と同型であり、またZR/ZZpQp/Zpは互いに双対の関係にあったので、これらの群の二重双対は確かに自分自身と同型となっていることがわかります。

反転公式

 いまポントリャーギン双対性からG^上のフーリエ変換はG上の関数として
g^(x)=G^g(χ)χ(x)dν
と表せることになります。
 そして通常のフーリエ変換に関する結果からも期待されるように、G^上のフーリエ変換はG上のフーリエ変換の逆変換を与えることになります。

反転公式

 局所コンパクトアーベル群G上の関数fL1(G)に対し、そのフーリエ変換
f^(χ)=Gf(x)χ(x)dμ(x)
f^L1(G^)を満たすとき、適当に正規化されたG^のハール測度νに関して
f(x)=G^f^(χ)χ(x)dν(χ)
が成り立つ。
 またこれによって定まる測度νのことをμ双対測度プランシュレル測度と言うことがある。

 なおG,G^のハール測度μ,νを任意に持ってきただけだと、ある定数C>0が存在して
f(x)=CG^f^(χ)χ(x)dν
が成り立つことまでしか言えないことに注意しましょう。
 さてこれによって例えば冒頭で紹介したG=R, R/Z, Z/NZ, Rnにおけるフーリエ変換の反転公式が出てくることになりますが、これらの例は既に散々紹介してきたのでここでは味変にメリン変換の反転公式でも導出してみましょう(双対測度の決定については特に触れません)。

メリン変換

 非負整数からなる乗法群R+を考えたとき、同型
R+R,xlogx
があることに注意するとその指標群は
R+^={χ:xe2πi(logx)yyR}={χ:xxssiR}
と求まり、またR+のハール測度は
dμ=d(logx)=dxx
と表せるので、R+上のフーリエ変換は
f^(s)=0f(x)xsdxx(siR)
と定まる。これをfメリン変換と言う。
 またその反転公式は
f(x)=iif^(s)xsds2πi
と求まる。

 本質的には通常のフーリエ変換に適当な変数変換を施しただけですが、このようにメリン変換もフーリエ変換そのものとして扱えるのは少し面白いのではないでしょうか。
 メリン変換の話題が出たついでにQp上のメリン変換についてもちょこっとだけ紹介しておきましょう。

おまけ

 乗法群Qp×を考えたとき、p進ノルム
Qp×R+,x|x|p=pvp(x)
R+の指標の合成によって得られるQpの指標
χ:QpT,x|x|ps(siR)
におけるフーリエ変換は
f^(χ)=Qp×f(x)|x|psdμ|x|p
と表せる(ただしμは加法群Qpのハール測度とした)。
 なお
Qp×Z×Z/(p1)Z×Zp
という同型があるのでその指標群は
Qp^(R/Z)×Z/(p1)Z×(Qp/Zp)
という構造を持つことになる。

コンパクト-離散双対性

 一般に与えられたハール測度μに対しその双対測度を明示的に求める公式のようなものは(自分が知る限り)なさそうですが、Gがコンパクト群または離散群であるときはコンパクト-離散双対性と呼ばれる双対関係によって具体的な双対測度を与えることができます。

コンパクト-離散双対性

 コンパクト群Gに対しG^は離散群となり、離散群Gに対しG^はコンパクト群となる。

 例えば
Z^R/Z,R/Z^ZZp^Qp/Zp,Qp/Zp^Zp
という双対関係において離散群Z, Qp/Zpとコンパクト群R/Z, Zpが対応し合っていることがわかります。
 いまコンパクト群と離散群には次のようなハール測度が備わっていることに注意しましょう。

  • コンパクト群Gとそのハール測度μについて、Gのコンパクト性とハール測度の定義からμ(G)<が成り立つ。特に定数関数f(x)=1に対し
    G1dμ=μ(G)<
    つまりfL1(G)が成り立つ。
  • 離散群Gのハール測度として数え上げ測度が取れる。特にG上の積分は和
    Gf(x)dμ=xGf(x)
    として表せる。

 そしてこれらのことから以下のように双対測度を求めることができます。

 コンパクトアーベル群Gμ(G)=1なるハール測度に対し、その双対測度は数え上げ測度となる。
 また離散アーベル群Gの数え上げ測度に対し、その双対測度はμ(G)=1なるハール測度となる。

証明

 コンパクトアーベル群Gに対し定数関数f=1L1(G)のフーリエ変換は
f^(χ)={1(χ=χ0)0(χχ0)
と求まる(ただしχ0は自明な指標とした)。実際χ=χ0のときは
f^(χ0)=G1dx=μ(G)=1
求まり、χχ0のときはχ(a)1なるaGを取ると
χ(a)f^(χ)=Gχ(ax)dx=Gχ(x)dx=f^(χ)
が成り立つことからf^(χ)=0と求まる。
 したがって反転公式
f(x)=χ0(x)=χG^f^(χ)χ(x)
が成り立つので、数え上げ測度が双対測度となっていることがわかる。
 またGが離散アーベル群であるときも同様に
f(x)={1(x=1)0(x1)
のフーリエ変換が
f^(χ)=xGf(x)χ(x)=χ(1)=1
と求まることから
f(x)=Gχ(x)dχ
を得る。

 つまり以下の反転公式が成り立つというわけです。

 コンパクトアーベル群Gに対しそのハール測度μを任意に取り、G上のフーリエ変換を
f^(χ)=1μ(G)Gf(x)χ(x)dμ
によって定めると、その反転公式は
f(x)=χGf^(χ)χ(x)
となる。

フーリエ級数展開

 コンパクト群R/TZ上のフーリエ変換を
f^(n)=1T0Tf(x)e2πinx/Tdx
によって定めると、その反転公式は
f(x)=n=f^(n)e2πinx/T
となる。

離散フーリエ変換

 有限アーベル群G上のフーリエ変換を
f^(χ)=1|G|xGf(x)χ(x)
によって定めると、その反転公式は
f(x)=χG^f^(χ)χ(x)
となる。
 ちなみに有限アーベル群Gに対しては同型GG^が成り立つことが知られている(詳しくは こちら )。

ローラン展開

 円周群T上のフーリエ変換を
f^(n)=12πi|z|=1f(z)zndzz
によって定めると、その反転公式は
f(z)=n=f^(n)zn
となる。

 これも通常のフーリエ級数展開に適当な変数変換を施しただけではありますが、複素関数のローラン展開がフーリエ変換の一種とみなせるのは、やはり面白いものがありますね。

おわりに

 以上が群上のフーリエ変換とその反転公式に関する概説でした。
 また次回次々回の記事では群上のフーリエ変換の一般論・応用としてプランシュレルの定理とポアソン和公式について紹介していくので、そちらも併せてご覧ください。
 
 なおこの記事では説明の都合上あまり触れて来ませんでしたが、群上のフーリエ変換の構成には表現論やバナッハ環(C-環)のスペクトル理論などの興味深い理論が関わっているようなので、いつかそこら辺の話もちゃんと読んでおきたいですね。
 またそこら辺の話に興味がある人は群上の調和解析とか抽象調和解析とかのワードで色々調べてみてはいかがでしょうか。

参考文献

投稿日:425
更新日:425
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

子葉
子葉
1111
278783
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. フーリエ変換
  3. ポントリャーギン双対性
  4. 反転公式
  5. コンパクト-離散双対性
  6. おわりに
  7. 参考文献