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現代数学解説
文献あり

群上のフーリエ変換1:群上の積分

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{B}[0]{\mathscr{B}} \newcommand{bs}[0]{\boldsymbol} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{c}[0]{\cdot} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{D}[0]{\Delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{f}[0]{\hat{f}} \newcommand{F}[4]{{}_2F_1\left(\begin{matrix}#1,#2\\#3\end{matrix};#4\right)} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{FF}[6]{{}_3F_2\left(\begin{matrix}#1,#2,#3\\#4,#5\end{matrix};#6\right)} \newcommand{G}[0]{\widehat{G}} \newcommand{g}[0]{\hat{g}} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{O}[0]{\mathscr{O}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{one}[0]{\boldsymbol{1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{T}[0]{\mathbb{T}} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vol}[0]{\operatorname{vol}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{wh}[0]{\widehat} \newcommand{x}[0]{\chi} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 このシリーズでは局所コンパクトアーベル群$G$上の関数$f$に対するフーリエ変換
\begin{align} \f(\x)&=\int_Gf(x)\ol{\x(x)}dx\\ f(x)&=\int_\G\f(\x)\x(x)d\x \end{align}
に関する話について簡単にまとめていきます。
 なお筆者がまだ今回扱う内容に関する詳しい議論を追えていないのもあって、所々の説明に不正確な部分があるかもしれませんので、ほんの参考程度に眺めてもらえればと思います。

色々なフーリエ変換

 良く知られているように(いい感じの漸近挙動を持つ)$\R$上の関数$f$に対して
$$\f(y)=\int^\infty_{-\infty}f(x)e^{-2\pi ixy}dx$$
と定められる関数$\f$のことを$f$のフーリエ変換と言い、また
$$f(x)=\int^\infty_{-\infty}\f(y)e^{2\pi ixy}dy$$
という逆変換公式(反転公式)が成り立つのでした。
 またこのような現象の類似として次のような変換・逆変換公式が成り立つことが知られています。

  • 周期$1$の関数$f$に対するフーリエ級数展開
    \begin{align} \f(n)&=\int^1_0f(x)e^{-2\pi inx}dx\\ f(x)&=\sum^\infty_{n=-\infty}\f(n)e^{2\pi inx} \end{align}
  • 周期$N$の数列$f(n)$に対する離散フーリエ変換
    \begin{align} \f(m)&=\phantom{\frac1N}\sum^{N-1}_{n=0}f(n)e^{-2\pi imn/N}\\ f(n)&=\frac1N\sum^{N-1}_{m=0}\f(m)e^{2\pi imn/N} \end{align}
  • 多変数版フーリエ変換
    \begin{align} \f(\bs y)&=\int_{\R^n}f(\bs x)e^{-2\pi i\bs x\c\bs y}d\bs x\\ f(\bs x)&=\int_{\R^n}\f(\bs y)e^{2\pi i\bs x\c\bs y}d\bs y \end{align}
    ($\bs x\c\bs y$は内積を表すものとした)

 以下ではこのようなフーリエ変換およびその類似物を統一的に記述できる理論として局所コンパクトアーベル群上のフーリエ変換というものについて簡単に紹介していこうと思います。

今回の内容について

 やりたいこととしては適当な空間$X$上の関数$f$に対し
$$\f(y)=\int_X f(x)e^{2\pi i\c\phi(x,y)}dx$$
という感じの積分変換としてフーリエ変換を定め、その性質について考えていくことになります。
 ただ今回の記事ではまだフーリエ変換の定義には入らず、その前準備として局所コンパクト群$G$上の積分
$$\int_Gf(x)dx$$
というものの定義と性質について簡単にまとめていきます。

局所コンパクト群

 まず積分を考える関数$f$の定義域$X$として次のような良い性質を持つ空間を考えていきます。

局所コンパクト

 位相空間$X$局所コンパクトであるとは、$X$の任意の点がコンパクトな近傍を持つことを言う。

位相群

 群$G$であって写像
\begin{alignat}{3} G\times G&\to G,&\quad(x,y)&\mapsto xy\\ G&\to G,&x&\mapsto x^{-1} \end{alignat}
をそれぞれ連続とするような位相構造を持つものを位相群と言う。

局所コンパクト群

 局所コンパクトかつハウスドルフな位相群のことを局所コンパクト群、その中でも可換なものを局所コンパクトアーベル群と言う。

 しれっとハウスドルフという条件が組み込まれていることに注意しましょう。
 以下では$f$の定義域として局所コンパクト群$G$を考えていきますが、とりあえずはいい感じの位相構造を持った群程度に考えてもらえれば大丈夫だと思います(なお最終的には局所コンパクトアーベル群を考えることになりますが、しばらく$G$の可換性は必要ありません)。

 例えば上で紹介したフーリエ変換たちにおいて$f$はそれぞれ加法群
$$G=\R,\quad\R/\Z,\quad\Z/N\Z,\quad\R^n$$
上の関数とみなせるが、これらは通常の位相($\Z/N\Z$は離散位相)に関する局所コンパクトアーベル群となっている。

 ところで以下では局所コンパクト群上の積分を考えていくわけですが、となると微分もセットで考えたくなります。しかし関数の微分を考えるには位相構造だけでなく微分構造、つまり実または複素多様体としての構造が必要になります。実際そのような構造を持つ群のことをリー群と言い、リー群上の積分やフーリエ変換にもいろいろ面白そうな話があるようです。が、このシリーズではそこら辺の話は特に扱いません。

ハール測度

 次に$G$上の積分を定義するために$G$の適当な部分集合$E$たちに対し、体積的なもの$\mu(E)$を与える写像:ハール測度というものを定義しましょう。

ボレル集合

 位相空間$X$に対し開集合族$\O$によって生成される$\s$-加法族、つまり

  • $\O$を含む
  • 各元の差、可算個の合併、可算個の共通部分を取る操作について閉じている
  • 上の二条件を満たすようなものの中で最小

を満たすような$X$の部分集合族$\B$のことをボレル集合族と言う。

 特にハウスドルフ空間において、そのコンパクト集合$K$は閉集合、つまり$K\in\B$となることに注意しましょう。

ラドン測度

 局所コンパクトハウスドルフ空間$X$とそのボレル集合族$\B$に対し、写像$\mu:\B\to[0:\infty]$であって

  • $\mu(\emptyset)=0,\quad\mu(G)>0,\quad\mu(K)<\infty\quad(K:\text{コンパクト集合})$
  • 可算加法性:互いに素な集合列$E_n\in\B$に対し$\mu(\bigcup_nE_n)=\sum_n\mu(E_n)$
  • 内部正則性:$U\in\O$に対し$\mu(U)=\sup\{\mu(K)\mid K:K\subseteq U\ \text{なるコンパクト集合}\}$
  • 外部正則性:$E\in\B$に対し$\mu(E)=\inf\{\mu(U)\mid U:E\subseteq U\ \text{なる開集合}\}$

を満たすものを$X$上のラドン測度と言う。

ハール測度

 局所コンパクト群$G$上のラドン測度$\mu$であって

  • 左不変性:$E\in\B,\ g\in G$に対し$\mu(gE)=\mu(E)$

を満たすものを$G$上の(左)ハール測度と言う。

 まあ何かごちゃごちゃとした条件を書き連ねましたが、ハール測度とは要するに

  • $G$の開集合や閉集合などに対して定まる体積的なもの
  • コンパクト集合に対し有限値を取る
  • 平行移動$E\mapsto x+E$に対し不変(群の演算を加法で表した)

を満たすもの、くらいの理解をしておけば十分だと思います。

ルベーグ測度

 ユークリッド空間$\R^n$において、領域$D\subseteq\R^n$の体積を与える写像$m(D)=\vol(D)$(を完備化したもの)は$\R^n$のハール測度となる。

 $\R/\Z$の測度$\mu$を全単射
$$[0,1)\to\R/\Z,\quad x\mapsto\ol x$$
によるルベーグ測度$m$の押し出し、つまり$\mu(E)=m(f^{-1}(E))$によって定めると、これは$\R/\Z$のハール測度となる。

数え上げ測度

 離散群(離散位相の入った群)$G$の部分集合$E$に対しその元の個数を与える写像$\mu(E)=|E|$$G$のハール測度となる。

 $p$進数体$\Q_p$において、$p$進整数環$\Z_p$はコンパクト集合であることに注意すると$\mu(\Z_p)=1$なるハール測度が存在する(後述)。そしてそれは いつぞやの記事 において考えた$\mu(a+p^n\Z_p)=p^{-n}$によって定まる写像となる。

 またラドン測度には「線形汎関数とラドン測度が一対一に対応する」という偉い定理(リース・マルコフ・角谷の表現定理)があり、左不変な線形汎関数を頑張って作ってその定理を使ったりなんだりすることで、ハール測度には存在と一意性が成り立つことがわかります。

存在と一意性

 局所コンパクト群$G$は必ず(左)ハール測度を持ち、また$G$上の(左)ハール測度は定数倍の違いを除いて一意に定まる。

 一般に集合$X$の測度の数だけ$X$上の積分が定義できるわけですが、この事実により局所コンパクト群$G$上ではハール測度によって特徴付けられる積分が、そして以下で議論していくようなフーリエ変換が常に(定数倍の違いを除いて)ただ一つだけ定まることになります。

ルベーグ積分

 そしてその$G$上の積分とはハール測度$\mu$を用いて次のように定義されます。

ルベーグ積分のお気持ち

 複素値関数$f:G\to\C$に対し、$f$に各点収束する単関数列
$$f_n(x)=\sum^{I_n}_{i=1}a_i^{(n)}\one_{E_i^{(n)}}(x)\qquad \l(\one_E(x)=\l\{\begin{array}{ll} 1&x\in E\\ 0&x\notin E \end{array}\r.\ \r)$$
を任意に取ったとき、$f$の積分を
$$\int_G f(x)d\mu=\lim_{n\to\infty}\int_G f_n(x)d\mu =\lim_{n\to\infty}\sum^{I_n}_{i=1}a_i^{(n)}\mu(E_i^{(n)})$$
によって定める。

 より正確には$f_n$の取り方とか極限の取り方とかに決まりがありますが、詳しくは適当なルベーグ積分の参考書とかを参照して下さい。
 ついでに可積分な関数の集合$L^p(G)$というものも定めておきましょう。

$L^p$空間

 $p$乗可積分な関数、つまり
$$\int_G|f|^pd\mu<\infty$$
を満たす関数全体$L^p(G)$のことを$L^p$空間と言う。

 なお正確にはノルム空間としての構造が入るように
$$f\sim g\overset{\mathrm{def}}\iff f=g\quad\mu\text{-a.e.}\quad(\iff\|f-g\|_{L^p}=0)$$
という同値関係で割ってたりしますが、説明上便利な記号くらいにしか使わないのであまり気にしないこととします。

 $\R^n$のルベーグ測度に関する積分は、概ね通常の積分(リーマン積分)
$$\int_{\R^n}f(\bs x)d\bs x$$
に等しい。
 正確にはルベーグ積分の方がより多くの関数を扱えるが、あまり気にしないこととする。

 $\R/\Z$上の関数$f$を区間$[0,1)$上の関数とみなしたとき、その積分は
$$\int_{\R/\Z}f(x)d\mu=\int^1_0f(x)dx$$
と表せる。

 離散群$G$の数え上げ測度による積分は和
$$\int_Gf(x)d\mu=\sum_{x\in G}f(x)$$
として表せる。また$f$が可積分、つまり$f\in L^1(G)$であるとは、高々可算な集合$E$以外の点で$f(x)=0$であり、また
$$\sum_{x\in E}|f(x)|<\infty$$
が成り立つことを意味する。

 $\Q_p$のハール測度$\mu(a+p^n\Z_p)=p^{-n}$による積分は、...何かいい感じに表示できたりするのでしょうか(無知)。ただ局所ゼータ関数とかの話で出てくる概念ではあるので、興味があればそこらへんの話を調べてみてはいかがでしょうか。

メモ

 以上が局所コンパクト群上の積分に関する概説となります。 次回の記事 では今回定義した積分を用いてフーリエ変換を定義していきます。
 また今回の記事はこれで終わりですが、以下に何かの役に立つかもしれないメモを置いておきます。

位相空間について

 コンパクトでない局所コンパクトハウスドルフ空間は一点コンパクト化可能である。

 離散かつコンパクトな空間は有限集合である。

ハール測度について

 局所コンパクト群$G$とそのハール測度$\mu$について、空でない開集合$U$の測度$\mu(U)$は正となる。

 $G$を局所コンパクト群、$\mu$をそのハール測度とする。
 このとき$G$がコンパクトであることと$\mu(G)<\infty$であることは同値である。

積分について

モジュラー関数

 局所コンパクト群$G$とそのハール測度$\mu$に対し
$$\nu_g(E)=\mu(Ex)$$
によって定まる写像$\nu_g$$G$上の左ハール測度となるので、ハール測度の一意性からある定数$\D(x)>0$が存在して
$$\mu(Ex)=\D(x)\mu(E)$$
が成り立つ。
 これによって定まる$G$から乗法群$\R_{>0}$への(連続)準同型$\D:G\to\R_{>0}$のことを$G$モジュラー関数と言う。

 ハール測度による積分について
\begin{align} \int_Gf(yx)dx&=\int_Gf(x)dx\\ \int_Gf(xy)dx&=\int_Gf(x)\D(y^{-1})dx\\ \int_Gf(x^{-1})dx&=\int_Gf(x)\D(x^{-1})dx \end{align}
が成り立つ。

参考文献

投稿日:17日前
更新日:17日前
OptHub AI Competition

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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