はじめに
この記事では進数から進数への関数を対象とした解析学:進解析について、実解析の理論と比較したりしながら解説していきます。
区間と連続関数
進数の区間
実解析や複素解析において関数の定義域はやではなく一般に区間や領域とすることが多いです。また基本的な区間や領域として『ある点からの距離が以下である点の集合』こと円という図形があります。
となると進解析においても同様に円という図形を基本的な領域として考えたくなります。
このような領域のことを進解析において(有界閉)区間と言います。
以下簡単のため進関数についてを改めてとおくことでであるものとします。
呼称について
のことを区間と呼ぶのはこれの体積(的なもの)が一次元的な量を持つことから正当化でき(ると思い)ます。
進数の区間に対して定まる量を体積的なもの(ハール測度)とみなすにはざっくり以下の要件を満たす必要があります。
そしてからわかるように
と直和分解できるのでその体積的なものについて
つまり
が成り立ちます。また一般には同様にして
が成り立ちます。
一般にユークリッド空間や複素数平面においては領域の体積とその定数倍の体積には
という関係が成り立つことを考えるとは一次元的な領域であると捉えられると思います。
連続と一様連続
実解析において関数が区間において連続であるとは、の任意の点において
が成り立つ、あるいは同じことですが
が成り立つことを言い、またにおいて一様連続であるとは
が成り立つことを言いました。これは進解析においても全く同じなので省略します。
実解析においては有界閉区間上連続であることと一様連続であることが同値であることが知られていますが、それは進解析においても同じことを言うことができます。一様連続連続は定義より明らかなので以下の主張を示すことでその同値性を確かめることができます。
これの実解析と進解析における証明は非常に似ているどころか全く同じなので同時に証明していきます。
実数列の場合
仮定のような数列について
とおく。このときの分割
のどちらか一方は無限に項を含んでいるのでそのような一方をとおく。同様にの分割に対して無限に項を含む一方をとしていくとこれはある一点に収束する。
ここでからそれぞれ(添え字の重複の無いよう)任意に項を一つ取りとおくと、の部分列はに収束する数列となる。
進数列の場合
仮定のような数列について簡単のためであるものとすると、の分割
のうちどれか一つは無限に項を含むのでそのような一つをとおく。またの分割
のうちどれか一つは無限に項を含むのでそのような一つをとおく。同様にの分割に対して無限に項を含む一つをとしていくとこれはある一点に収束する。
ここでからそれぞれ(添え字の重複の無いよう)任意に項を一つ取りとおくと、の部分列はに収束する数列となる。
定理1の証明
実数または進数に対してを対応する絶対値とする(つまりが実数なら、が進数なら)。
有界閉区間上の連続関数が一様連続でないと仮定すると一様連続の定義より
となるので、そのようなに対し
なるを取るとボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理から収束部分列が取れ、その収束先をとおくと
なので
となるが、の連続性より
となって矛盾。よって主張を得る。
ちなみに実関数でも進関数でも定理が成り立つのは偶然ではなく、実はハイネ・カントールの定理として一般の距離空間上の関数でも同じことが言えることが知られています(詳しくは
Wikipedia
参照)。
最後に実連続関数と進連続関数に共通する基本的な性質として有界性定理を紹介しておきます。
主張が成り立たないと仮定すると任意のに対し
なるが存在することになる。これの収束部分列を取り
とおくとの連続性より
となるがは有限であることに矛盾。よって主張を得る。
級数の収束と関数の一様収束
ここで次の話に進む前にそこで扱う級数や一様収束の話について触れておきます。知っての通り進数における級数の収束する必要十分条件は以下のように非常に単純なものとなっています。
進数列について、がに収束することと級数が収束することは同値である。
(左)(右)は収束列はコーシー列であることから
とわかる。
(左)(右)は任意のにあるが存在してならばとなるのでにおいて
とコーシー性が成り立つことからわかる。
そして関数項級数が一様収束する必要十分条件についても全く同じことが言えます。
進関数列について、が上に一様収束することと級数が上一様収束することは同値である。
一応一様収束の定義を確認しておくと
が成り立つとき関数列は上一様収束すると言います。また級数が一様収束するとは
が上一様収束するをことを言います。
(左)(右)は一様収束の定義からにおいて任意のに
が成り立つことからわかる。
(左)(右)はならば任意のにとなるのでにおいて
が成り立つことからわかる。
ついでに思い付きで書くと
と表せることから次のような主張が成り立ちます。
定理4,5
進数列が収束することとが成り立つことは同値である。
進関数列が上一様収束することとが上に一様収束することは同値である。
最後に関数列が一様収束することの嬉しさを一つ紹介しておきます。
連続関数列が上一様収束するとき、その収束先も上連続である。
これも実解析と進解析において本質的に同じなので統一的に証明します。
任意にを取ったとき、の一様収束性から任意のに対し
なる自然数が取れ、またの連続性からならば
となるようなが取れる。
このときにおいて
が成り立つのでは上連続であることが示された。
ニュートン級数展開
マーラーの定理
良く知られているように任意の進数は非負整数列の極限として表すことができます。
したがって進連続関数についての値がわかっていれば
として任意の進数における値も定まることになります。
そして実際の値から明示的にの値を求める公式が存在しており、それをMahlerの定理と言います。
Mahlerの定理
進関数が連続であることと
となることは同値であり、そのとき
が成り立つ。ここでは一般化二項係数
とした。
実解析との比較
この公式は差分作用素
を用いると
と表せ(この左辺のことをニュートン級数と言う)、実解析におけるテイラー展開
に類似になっていることがわかります(は微分作用素とした)。
ついでに言うと
という類似が成り立ちます。
なお複素解析においてニュートン級数展開が成立するには
カールソンの定理
のような強い仮定が必要らしいですが、Mahlerの定理は進関数においては連続であるという弱い仮定で十分であることを主張しています。
二項変換
ちなみにのときは
と有限和になり、これは
湧水さんの記事
でも紹介されているような有名な変換公式
に他なりません。
証明のあらすじ
まずに収束する進数列に対し
は上一様収束する、特に連続であることを示す。
次に進連続関数に対し
はに収束することを示す。これにより
は連続関数を定めることがわかる。
また上で言及したようににおいてであったことから
つまり
が得られる。といった具合になります。
証明
上のあらすじで紹介したように、示すべき事実は以下の二つとなります。
に収束する進数列に対し
は上一様収束する。特に連続である。
進整数に対してに収束する非負整数列を取ると、は整数の極限として表せるので進整数である。特にが成り立つ。よってに依らず
とに一様収束するので定理6よりも一様収束する。
また部分和は多項式関数なので連続であり、定理7よりも連続となる。
の定義
有界性定理より任意のに対し
なる整数が存在するので、を改めてと置くことで
としてよい。このときであることに注意する。
また任意に非負整数を取って固定しの進展開
に対して進関数を
と定める。このときであることに注意する。
定理1よりは上一様連続であったので
なる整数が存在し、このときならば
となるが、定義よりであったのででなければならないことがわかる。
特にとすると
つまりは周期の関数ということになる。
の収束性
さてが周期の関数ということはを用いて
と離散フーリエ展開することができる。このときのニュートン級数展開の係数をとおくと
となるので
(最後の式については
この記事
の補題4辺りを参照)つまり
に注意すると
がわかる。特に十分大きい任意のに対しが成り立つ(具体的にはであればよい)。
結論
最後につまりに注意すると
が成り立つので十分大きい任意のに対して
と評価でき、は任意であったことから
を得る。
おわりに
いやあ(連続関数なら)非負整数点における値さえわかれば任意の点における値が明示的にわかるなんて面白いですね、進解析。というか定理9の証明で離散フーリエ展開を出してきた先人の閃きに驚かされました。また前半部分は実解析と進解析の類似性を探りながら書いたのですが、思ったより実解析と同じことをやっているんだなということがわかって、割ととっつきやすい導入にできたんじゃないかなと思います。
本当は微分や積分などの話もしたかったのですが思いのほか長くなってしまったのと単純に勉強時間が確保できてないのとで一旦「連続関数編」として区切って次回の記事(来週あたり?)で進関数の微積分について紹介していきたいなと思います。