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大学数学基礎解説
文献あり

ディリクレ指標の性質

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$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{G}[0]{\widehat{G}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{t}[0]{\tau} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{wh}[1]{\widehat{#1}} \newcommand{x}[0]{\chi} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} $$

はじめに

 この記事ではDirichlet指標$\chi(n)$の諸性質について解説していきます。
 まずディリクレ指標の定義を確認しておきます。

ディリクレ指標

 写像$\x:\Z\to\C$であって、任意の$m,n\in\Z$に対し

  • $\x(mn)=\x(m)\x(n)$
  • $ m\equiv n\pmod{N}\Rightarrow \x(m)=\x(n)$
  • $\gcd(n,N)\neq1\iff \x(n)=0$

を満たすもののことを法$N$ディリクレ指標と言う。

 特に$N$と互いに素なすべての整数$n$に対して$\x(n)=1$となる指標を自明な指標といい、基本的に$\x_0$と表されます。
 その定義から$N\geq2$において法$N$のディリクレ指標$\x$を考えることと指標(準同型)$\x':(\Z/N\Z)^\times\to\C^\times$を考えることは本質的に同じことになります。具体的には$\x(n)\leftrightarrow\x'(n+N\Z)$という関係で結びつけることができます。

指標の性質

 先に述べたようにディリクレ指標は普通の指標と結び付けられるので、指標の性質を調べればそれがディリクレ指標にも適用できることになります。

 有限アーベル群$G$から$0$以外の複素数がなす乗法群$\C^\times$への準同型$\x:G\to\C^\times$のことを$G$指標と言う。また$G$の指標全体のなす集合のことを$G$指標群と言い$\G$と表す。
 $G$の指標群は乗法
$$\x_1\cdot\x_2:a\mapsto\x_1(a)\x_2(a)$$
に関して群をなす。

 $\widehat{G_1{\times} G_2}\simeq \G_1\times\G_2$が成り立つ。

 $\x\in\widehat{G_1{\times} G_2}$に対して
\begin{align} \x(a,b) &=\x\big((a,1)\cdot(1,b)\big)\\ &=\x(a,1)\x(1,b) \end{align}
が成り立つことに注意すると同型
\begin{align} \widehat{G_1{\times} G_2}&\simeq \G_1\times\G_2\\\ \x(a,b)&\rightarrow(\x(a,1),\x(1,b))\\ \x_1(a)\x_2(b)&\leftarrow(\x_1(a),\x_2(b)) \end{align}
が得られる。

 $G\simeq\wh{G}$が成り立つ。

 有限アーベル群の基本定理などの一般論により$G$は有限個の巡回群の積として表せるので、定理1よりそのそれぞれの巡回群が対応する指標群に同型であることを言えばよい。
 いま位数$n$の巡回群$G=\langle a\rangle$に対し
$$\x_a(a)=\z_n=e^{\frac{2\pi i}n}$$
によって定まる指標$\x_a$を考えると
$$\G=\langle\x_a\rangle\simeq\langle a\rangle=G$$
が成り立つ。
 実際任意の$\x\in\G$に対し
$$\x(a)^n=\x(a^n)=\x(1)=1$$
となるのである$k$を用いて$\x(a)=\z_n^k$表せ、このとき$\x=\x_a^k\in\langle\x_a\rangle$が成り立つので
$$\G=\langle\x_a\rangle$$
を得る。また$\x_a$の位数は$n$なので同型$\G\simeq G$が成り立つことがわかる。

 $G$の部分群$H$について、任意の$\x'\in\wh{H}$に対して
$$\x|_H=\x'$$
なる$\x\in\G$が丁度$|G/H|$個存在する。
 また$\wh{G/H}$$\G$の部分群とみなせる。

 制限写像
$$\;\cdot\;|_H:\G\to\wh H\quad\x\mapsto\x|_H$$
の核$\Ker(\;\cdot\;|_H)$$\wh{G/H}$と同型であることを示せばよい。
 いま任意の$\x\in\Ker(\;\cdot\;|_H)$に対し$\Ker\x\supset H$が成り立つので$\Ker(\;\cdot\;|_H)$から$\wh{G/H}$への準同型
$$\x\mapsto(\ol{\x}:xH\mapsto\x(x))$$
を考えることができ、これは逆射
$$\ol\x\mapsto(\x:x\mapsto\ol\x(xH))$$
を持つので同型$\Ker(\;\cdot\;|_H)\simeq\wh{G/H}$を得る。

 $G$の位数$f$の元$a$に対して
$$\prod_{\x\in\G}(1-\x(a)x)=(1-x^f)^{|G|/f}$$
が成り立つ。特にある$\x\in\G$があって$\x(a)$$1$の原始$f$乗根となる。

 $a$の生成する巡回群$\langle a\rangle$について$\wh{\langle a\rangle}$
$$\x'_k(a)=\z_f^k\quad(k=0,1,2,\ldots,f-1)$$
によって定まる$f$個の指標$\x'_k$からなっており、定理3より各$k$に対し$\x(a)=\x'_k(a)$なる指標$\x\in\G$はそれぞれ丁度$|G|/f$個ずつ存在するので
$$\prod_{\x\in\G}(1-\x(a)x)=\prod^{f-1}_{k=0}(1-\z_f^kx)^{|G|/f}=(1-x^f)^{|G|/f}$$
を得る。

 $G$から$\wh{\wh{G}}$への準同型
$$a\mapsto(\hat a:\x\in\G\mapsto\x(a))$$
は同型写像となる。

 いま$\hat{a}=1$つまり任意の$\x\in\G$$\x(a)=1$となるようなものは定理3系より$a=1$以外ではありえない。よって$a\mapsto\hat{a}$は単射である。
 また$G\simeq\G\simeq\wh{\G}$より$G$$\wh{\G}$の位数は等しいので$a\mapsto\hat{a}$は同型写像となる。

 $a\in G$に対して
$$\sum_{\x\in\G}\x(a)=\left\{\begin{array}{cl}|G|&a=1のとき\\0&a\neq1のとき\end{array}\right.$$
また$\x\in\G$に対して
$$\sum_{a\in G}\x(a)=\left\{\begin{array}{cl}|G|&\x=\x_0のとき\\0&\x\neq\x_0のとき\end{array}\right.$$
が成り立つ。ただし$\G$の自明な指標を$\x_0$とおいた。

 前者は$a=1$のときは自明であり、$a\neq1$のとき定理3系より$\x'(a)\neq1$なる指標$\x'\in\G$が取れて
$$\x'(a)\sum_{\x\in\G}\x(a)=\sum_{\x\in\x'\G}\x(a)=\sum_{\x\in\G}\x(a)$$
つまり
$$(\x'(a)-1)\sum_{\x\in\G}\x(a)=0$$
が成り立つので$(\x'(a)-1)\neq0$より主張を得る。
 後者については前者の結果から定理4の同型を考えることでわかる。

原始的ディリクレ指標

 さて前節において示した式はディリクレ指標についても(法$N$に対して$G=(\Z/N\Z)^\times$とおけば)同じことが言えるのでここではディリクレ指標特有の概念についての性質を1つ示そう。

原始指標

 法$N$のディリクレ指標$\x$について、$N$の約数$M$を法とするディリクレ指標$\psi$であって$\x=\x_0\psi$を満たすもののうち$M$が最小となる$\psi$$\x$付随する原始指標、その法$M$$\x$導手(conductor)と言い、法$N$と導手が一致するような$\x$を法$N$原始指標という。

 $\gcd(a,b,c)=1$なる整数$a,b,c$に対しある$k$が存在して$\gcd(ak+b,c)=1$が成り立つ。

 $c$の素因数$p$に対し、$p\mid a$なら$p\nmid b$より$p\nmid(ak+b)$が成り立ち、$p\nmid a$のとき
$$ak+b\quad(k=0,1,\ldots,p-1)$$
$p$を法として異なる剰余を持つのである$k$において$p\nmid(ak+b)$が成り立つ。
 したがって中国剰余定理より任意の$p\mid c$に対して$p\nmid(ak+b)$となるような$k$が存在することがわかる。

 法$N$のディリクレ指標$\chi$$N$と互いに素な$m,n$に対し
$$m\equiv n\pmod M\Rightarrow \x(m)=\x(n)$$
を満たすとき、ある法$M$のディリクレ指標$\psi$が一意に存在して$\x=\x_0\psi$が成り立つ。

 実用的に、この命題の仮定は任意の$m,n$に対し
$$m\equiv n\pmod M\Rightarrow\x(m)\x(n)=0,1$$
と言い換えた方が便利かもしれない。

 $\gcd(n,M)=1$なる整数$n$に対し補題6から$\gcd(n+kM,N)=1$なる整数$k$を取り、写像$\psi:(\Z/M\Z)^\times\to\C^\times$
$$\psi(n)=\x(n+kM)$$
によって定める(仮定よりこれは$k$の取り方に依らない)。このとき$\psi$は法$M$のディリクレ指標となり、また$\gcd(n,N)$なる整数$n$に対し
$$\psi(n)=\x(n)$$
が成り立つので$\x=\x_0\psi$を得る。
 またある$\psi'$$\x=\x_0\psi$を満たすとき
$$\psi'(n)=\x(n+kM)=\psi(n)$$
が成り立つことがわかるので$\psi$の一意性がわかる。

 法$N$のディリクレ指標$\x$について以下のことはそれぞれ同値である。

  1. $\x$は原始指標である。
  2. $N$の任意の約数$M\neq N$に対して$c\equiv1\pmod{M}$かつ$\x(c)\neq0,1$となる$c$が存在する。
  3. $N$の任意の約数$M\neq N$と任意の整数$a$に対して
    $$\sum^N_{\substack{n=1\\n\equiv a\pmod{M}}}\x(n)=0$$
    が成り立つ。

$1\Rightarrow2$

 $\x$が原始指標であれば補題7より$N$と互いに素なある$m,n$に対し$m\equiv n\pmod{M}$かつ$\x(m)\neq\x(n)$が成り立つ。このとき$c\equiv nm^{-1}\pmod{N}$なる$c$を取れば主張を得る。

$2\Rightarrow3$

 主張のような$c$について$c\equiv1\pmod{M}$より、$n$$n\equiv a\pmod{M}$なる$N$の剰余全体を渡るとき$cn$もそれら全体を渡るので
$$\x(c)\sum^N_{\substack{n=1,\,n\equiv a}}\x(n) =\sum^N_{\substack{n=1,\,n\equiv a}}\x(cn) =\sum^N_{\substack{n=1,\,n\equiv a}}\x(n)$$
となり$\x(c)\neq1$より$3$を得る。

$3\Rightarrow1$

 $a=1$とすると$\x(1)=1$を打ち消すようにある$c\equiv1\pmod{M}$に対して$\x(c)\neq0,1$が成り立つので$\x$の導手は$M$ではないことがわかる。

ディリクレ指標の偶奇

 おまけとして とある記事 などで用いるちょっとした事実を示しておこう。

ディリクレ指標の偶奇

 ディリクレ指標$\x$であって$\x(-1)=1$なるものを偶指標$\x(-1)=-1$なるものを奇指標という。

 法$N=1,2$のディリクレ指標は自動的に偶指標となるので以下$N\geq3$とする。

 法$N$の偶なるディリクレ指標全体からなる集合は群をなし、その位数は$\varphi(N)/2$である。

 明らかに$\x,\x'$が偶指標ならば$\x\x',\x^{-1}$も偶指標であり、自明な指標も偶指標なので主張の前半はわかる。また定理5から
$$\sum_{\x}\x(-1)=0$$
であったので偶指標と奇指標の個数は一致する。つまりその位数は$|(\Z/N\Z)^\times|=\varphi(N)$の半分となるわけである。

(別証明)

 $G=(\Z/N\Z)^\times$の部分群$H=\{\pm1\}$を考えると$\x$が偶指標であることは
$$\x|_H=\x_0$$
が成り立つことと言い換えられるので偶指標のなす群は制限写像
$$\;\cdot\;|_H:\G\to\wh H\quad\x\mapsto\x|_H$$
の核$\Ker(\;\cdot\;|_H)\simeq\wh{G/H}$に等しいことがわかる(cf 定理3)。

 $G=(\Z/N\Z)^\times$の部分群$H$について、任意の$\x'(-1)=-1$でない指標$\x'\in\wh{H}$に対して$\x|_H=\x'$なる偶指標$\x\in\G$

  • $-1\not\in H$のとき丁度$\vp(N)/2|H|$個存在する。
  • $-1\in H$のとき丁度$\vp(N)/|H|$個存在する。

 $-1\not\in H$のときは$a\in H$に対して$\x'(-a)=\x'(a)$と定めることで$\x'$$H'=H\cup(-H)$についての偶指標であるとしてよい。
 このとき定理3より$\x|_{H'}=\x'$なる$\x\in\G$は丁度$|G/H'|=\vp(N)/|H'|$個存在することがわかる。

 $N$と互いに素な整数$a$に対し
$$a^f\equiv1\pmod{N}$$
なる最小の自然数$f$を取ると
$$\prod_{\x:\mathrm{even}}(1-\x(a)x) =\left\{\begin{array}{ll} (1-x)&(N=1)\\ (1-x^f)^{\varphi(N)/2f} &(2\nmid f\quad\mbox{または}\quad a^{f/2}\not\equiv-1\pmod N)\\ (1-x^{\frac f2})^{\varphi(N)/f} &(2\mid f\quad\mbox{かつ}\phantom{は}\quad a^{f/2}\equiv-1\pmod N) \end{array}\right.$$
が成り立つ。ただし$\x:\mathrm{even}$は法$N$の偶指標全体を渡るものとする。

 $N=1$のときは明らかなので以下$N\neq1$とする。
 このとき$H=\langle a\bmod N\rangle$および
\begin{align} f'&=\left\{\begin{array}{ll} f&(-1\not\in H)\\ f/2&(-1\in H) \end{array}\right.\\ &=\left\{\begin{array}{ll} f&(2\nmid f\quad\mbox{または}\quad a^{f/2}\not\equiv-1\pmod N)\\ f/2&(2\mid f\quad\mbox{かつ}\phantom{は}\quad a^{f/2}\equiv-1\pmod N) \end{array}\right. \end{align}
とおくと$\x'(-1)=-1$でない$H$の指標は
$$\x'_k(a)=\z_{f'}^k\qquad(k=0,1,2,\ldots,f'-1)$$
によって定まる$f'$個の指標$\x'_k$によって尽くされることがわかるので定理10より
$$\prod_{\x:\mathrm{even}}(1-\x(a)x) =\prod^{f'-1}_{k=0}(1-\z_{f'}^kx)^{\vp(N)/2f'} =(1-x^{f'})^{\varphi(N)/2f'}$$
を得る。

参考文献

投稿日:20201211
更新日:629

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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