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大学数学基礎解説
文献あり

ディリクレ指標の性質

2033
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はじめに

 この記事ではDirichlet指標χ(n)の諸性質について解説していきます。
 まずディリクレ指標の定義を確認しておきます。

ディリクレ指標

 写像χ:ZCであって、任意のm,nZに対し

  • χ(mn)=χ(m)χ(n)
  • mn(modN)χ(m)=χ(n)
  • gcd(n,N)1χ(n)=0

を満たすもののことを法Nディリクレ指標と言う。

 特にNと互いに素なすべての整数nに対してχ(n)=1となる指標を自明な指標といい、基本的にχ0と表されます。
 その定義からN2において法Nのディリクレ指標χを考えることと指標(準同型)χ:(Z/NZ)×C×を考えることは本質的に同じことになります。具体的にはχ(n)χ(n+NZ)という関係で結びつけることができます。

指標の性質

 先に述べたようにディリクレ指標は普通の指標と結び付けられるので、指標の性質を調べればそれがディリクレ指標にも適用できることになります。

 有限アーベル群Gから0以外の複素数がなす乗法群C×への準同型χ:GC×のことをG指標と言う。またGの指標全体のなす集合のことをG指標群と言いG^と表す。
 Gの指標群は乗法
χ1χ2:aχ1(a)χ2(a)
に関して群をなす。

 G1×G2^G^1×G^2が成り立つ。

 χG1×G2^に対して
χ(a,b)=χ((a,1)(1,b))=χ(a,1)χ(1,b)
が成り立つことに注意すると同型
G1×G2^G^1×G^2 χ(a,b)(χ(a,1),χ(1,b))χ1(a)χ2(b)(χ1(a),χ2(b))
が得られる。

 GG^が成り立つ。

 有限アーベル群の基本定理などの一般論によりGは有限個の巡回群の積として表せるので、定理1よりそのそれぞれの巡回群が対応する指標群に同型であることを言えばよい。
 いま位数nの巡回群G=aに対し
χa(a)=ζn=e2πin
によって定まる指標χaを考えると
G^=χaa=G
が成り立つ。
 実際任意のχG^に対し
χ(a)n=χ(an)=χ(1)=1
となるのであるkを用いてχ(a)=ζnk表せ、このときχ=χakχaが成り立つので
G^=χa
を得る。またχaの位数はnなので同型G^Gが成り立つことがわかる。

 Gの部分群Hについて、任意のχH^に対して
χ|H=χ
なるχG^が丁度|G/H|個存在する。
 またG/H^G^の部分群とみなせる。

 制限写像
|H:G^H^χχ|H
の核Ker(|H)G/H^と同型であることを示せばよい。
 いま任意のχKer(|H)に対しKerχHが成り立つのでKer(|H)からG/H^への準同型
χ(χ:xHχ(x))
を考えることができ、これは逆射
χ(χ:xχ(xH))
を持つので同型Ker(|H)G/H^を得る。

 Gの位数fの元aに対して
χG^(1χ(a)x)=(1xf)|G|/f
が成り立つ。特にあるχG^があってχ(a)1の原始f乗根となる。

 aの生成する巡回群aについてa^
χk(a)=ζfk(k=0,1,2,,f1)
によって定まるf個の指標χkからなっており、定理3より各kに対しχ(a)=χk(a)なる指標χG^はそれぞれ丁度|G|/f個ずつ存在するので
χG^(1χ(a)x)=k=0f1(1ζfkx)|G|/f=(1xf)|G|/f
を得る。

 GからG^^への準同型
a(a^:χG^χ(a))
は同型写像となる。

 いまa^=1つまり任意のχG^χ(a)=1となるようなものは定理3系よりa=1以外ではありえない。よってaa^は単射である。
 またGG^G^^よりGG^^の位数は等しいのでaa^は同型写像となる。

 aGに対して
χG^χ(a)={|G|a=10a1
またχG^に対して
aGχ(a)={|G|χ=χ00χχ0
が成り立つ。ただしG^の自明な指標をχ0とおいた。

 前者はa=1のときは自明であり、a1のとき定理3系よりχ(a)1なる指標χG^が取れて
χ(a)χG^χ(a)=χχG^χ(a)=χG^χ(a)
つまり
(χ(a)1)χG^χ(a)=0
が成り立つので(χ(a)1)0より主張を得る。
 後者については前者の結果から定理4の同型を考えることでわかる。

原始的ディリクレ指標

 さて前節において示した式はディリクレ指標についても(法Nに対してG=(Z/NZ)×とおけば)同じことが言えるのでここではディリクレ指標特有の概念についての性質を1つ示そう。

原始指標

 法Nのディリクレ指標χについて、Nの約数Mを法とするディリクレ指標ψであってχ=χ0ψを満たすもののうちMが最小となるψχ付随する原始指標、その法Mχ導手(conductor)と言い、法Nと導手が一致するようなχを法N原始指標という。

 gcd(a,b,c)=1なる整数a,b,cに対しあるkが存在してgcd(ak+b,c)=1が成り立つ。

 cの素因数pに対し、paならpbよりp(ak+b)が成り立ち、paのとき
ak+b(k=0,1,,p1)
pを法として異なる剰余を持つのであるkにおいてp(ak+b)が成り立つ。
 したがって中国剰余定理より任意のpcに対してp(ak+b)となるようなkが存在することがわかる。

 法Nのディリクレ指標χNと互いに素なm,nに対し
mn(modM)χ(m)=χ(n)
を満たすとき、ある法Mのディリクレ指標ψが一意に存在してχ=χ0ψが成り立つ。

 実用的に、この命題の仮定は任意のm,nに対し
mn(modM)χ(m)χ(n)=0,1
と言い換えた方が便利かもしれない。

 gcd(n,M)=1なる整数nに対し補題6からgcd(n+kM,N)=1なる整数kを取り、写像ψ:(Z/MZ)×C×
ψ(n)=χ(n+kM)
によって定める(仮定よりこれはkの取り方に依らない)。このときψは法Mのディリクレ指標となり、またgcd(n,N)なる整数nに対し
ψ(n)=χ(n)
が成り立つのでχ=χ0ψを得る。
 またあるψχ=χ0ψを満たすとき
ψ(n)=χ(n+kM)=ψ(n)
が成り立つことがわかるのでψの一意性がわかる。

 法Nのディリクレ指標χについて以下のことはそれぞれ同値である。

  1. χは原始指標である。
  2. Nの任意の約数MNに対してc1(modM)かつχ(c)0,1となるcが存在する。
  3. Nの任意の約数MNと任意の整数aに対して
    n=1na(modM)Nχ(n)=0
    が成り立つ。

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 χが原始指標であれば補題7よりNと互いに素なあるm,nに対しmn(modM)かつχ(m)χ(n)が成り立つ。このときcnm1(modN)なるcを取れば主張を得る。

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 主張のようなcについてc1(modM)より、nna(modM)なるNの剰余全体を渡るときcnもそれら全体を渡るので
χ(c)n=1,naNχ(n)=n=1,naNχ(cn)=n=1,naNχ(n)
となりχ(c)1より3を得る。

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 a=1とするとχ(1)=1を打ち消すようにあるc1(modM)に対してχ(c)0,1が成り立つのでχの導手はMではないことがわかる。

ディリクレ指標の偶奇

 おまけとして とある記事 などで用いるちょっとした事実を示しておこう。

ディリクレ指標の偶奇

 ディリクレ指標χであってχ(1)=1なるものを偶指標χ(1)=1なるものを奇指標という。

 法N=1,2のディリクレ指標は自動的に偶指標となるので以下N3とする。

 法Nの偶なるディリクレ指標全体からなる集合は群をなし、その位数はφ(N)/2である。

 明らかにχ,χが偶指標ならばχχ,χ1も偶指標であり、自明な指標も偶指標なので主張の前半はわかる。また定理5から
χχ(1)=0
であったので偶指標と奇指標の個数は一致する。つまりその位数は|(Z/NZ)×|=φ(N)の半分となるわけである。

(別証明)

 G=(Z/NZ)×の部分群H={±1}を考えるとχが偶指標であることは
χ|H=χ0
が成り立つことと言い換えられるので偶指標のなす群は制限写像
|H:G^H^χχ|H
の核Ker(|H)G/H^に等しいことがわかる(cf 定理3)。

 G=(Z/NZ)×の部分群Hについて、任意のχ(1)=1でない指標χH^に対してχ|H=χなる偶指標χG^

  • 1Hのとき丁度φ(N)/2|H|個存在する。
  • 1Hのとき丁度φ(N)/|H|個存在する。

 1HのときはaHに対してχ(a)=χ(a)と定めることでχH=H(H)についての偶指標であるとしてよい。
 このとき定理3よりχ|H=χなるχG^は丁度|G/H|=φ(N)/|H|個存在することがわかる。

 Nと互いに素な整数aに対し
af1(modN)
なる最小の自然数fを取ると
χ:even(1χ(a)x)={(1x)(N=1)(1xf)φ(N)/2f(2fまたはaf/21(modN))(1xf2)φ(N)/f(2fかつaf/21(modN))
が成り立つ。ただしχ:evenは法Nの偶指標全体を渡るものとする。

 N=1のときは明らかなので以下N1とする。
 このときH=amodNおよび
f={f(1H)f/2(1H)={f(2fまたはaf/21(modN))f/2(2fかつaf/21(modN))
とおくとχ(1)=1でないHの指標は
χk(a)=ζfk(k=0,1,2,,f1)
によって定まるf個の指標χkによって尽くされることがわかるので定理10より
χ:even(1χ(a)x)=k=0f1(1ζfkx)φ(N)/2f=(1xf)φ(N)/2f
を得る。

参考文献

投稿日:20201211
更新日:2024629
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  2. 指標の性質
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