はじめに
この記事ではDirichlet指標の諸性質について解説していきます。
まずディリクレ指標の定義を確認しておきます。
ディリクレ指標
写像であって、任意のに対し
を満たすもののことを法のディリクレ指標と言う。
特にと互いに素なすべての整数に対してとなる指標を自明な指標といい、基本的にと表されます。
その定義からにおいて法のディリクレ指標を考えることと指標(準同型)を考えることは本質的に同じことになります。具体的にはという関係で結びつけることができます。
指標の性質
先に述べたようにディリクレ指標は普通の指標と結び付けられるので、指標の性質を調べればそれがディリクレ指標にも適用できることになります。
有限アーベル群から以外の複素数がなす乗法群への準同型のことをの指標と言う。またの指標全体のなす集合のことをの指標群と言いと表す。
の指標群は乗法
に関して群をなす。
に対して
が成り立つことに注意すると同型
が得られる。
有限アーベル群の基本定理などの一般論によりは有限個の巡回群の積として表せるので、定理1よりそのそれぞれの巡回群が対応する指標群に同型であることを言えばよい。
いま位数の巡回群に対し
によって定まる指標を考えると
が成り立つ。
実際任意のに対し
となるのであるを用いて表せ、このときが成り立つので
を得る。またの位数はなので同型が成り立つことがわかる。
の部分群について、任意のに対して
なるが丁度個存在する。
またはの部分群とみなせる。
制限写像
の核がと同型であることを示せばよい。
いま任意のに対しが成り立つのでからへの準同型
を考えることができ、これは逆射
を持つので同型を得る。
の位数の元に対して
が成り立つ。特にあるがあってはの原始乗根となる。
の生成する巡回群については
によって定まる個の指標からなっており、定理3より各に対しなる指標はそれぞれ丁度個ずつ存在するので
を得る。
いまつまり任意のにとなるようなものは定理3系より以外ではありえない。よっては単射である。
またよりとの位数は等しいのでは同型写像となる。
に対して
またに対して
が成り立つ。ただしの自明な指標をとおいた。
前者はのときは自明であり、のとき定理3系よりなる指標が取れて
つまり
が成り立つのでより主張を得る。
後者については前者の結果から定理4の同型を考えることでわかる。
原始的ディリクレ指標
さて前節において示した式はディリクレ指標についても(法に対してとおけば)同じことが言えるのでここではディリクレ指標特有の概念についての性質を1つ示そう。
原始指標
法のディリクレ指標について、の約数を法とするディリクレ指標であってを満たすもののうちが最小となるをに付随する原始指標、その法をの導手(conductor)と言い、法と導手が一致するようなを法の原始指標という。
の素因数に対し、ならよりが成り立ち、のとき
はを法として異なる剰余を持つのであるにおいてが成り立つ。
したがって中国剰余定理より任意のに対してとなるようなが存在することがわかる。
法のディリクレ指標がと互いに素なに対し
を満たすとき、ある法のディリクレ指標が一意に存在してが成り立つ。
実用的に、この命題の仮定は任意のに対し
と言い換えた方が便利かもしれない。
なる整数に対し補題6からなる整数を取り、写像を
によって定める(仮定よりこれはの取り方に依らない)。このときは法のディリクレ指標となり、またなる整数に対し
が成り立つのでを得る。
またあるがを満たすとき
が成り立つことがわかるのでの一意性がわかる。
法のディリクレ指標について以下のことはそれぞれ同値である。
- は原始指標である。
- の任意の約数に対してかつとなるが存在する。
- の任意の約数と任意の整数に対して
が成り立つ。
が原始指標であれば補題7よりと互いに素なあるに対しかつが成り立つ。このときなるを取れば主張を得る。
主張のようなについてより、がなるの剰余全体を渡るときもそれら全体を渡るので
となりよりを得る。
とするとを打ち消すようにあるに対してが成り立つのでの導手はではないことがわかる。
ディリクレ指標の偶奇
おまけとして
とある記事
などで用いるちょっとした事実を示しておこう。
ディリクレ指標の偶奇
ディリクレ指標であってなるものを偶指標、なるものを奇指標という。
法のディリクレ指標は自動的に偶指標となるので以下とする。
法の偶なるディリクレ指標全体からなる集合は群をなし、その位数はである。
明らかにが偶指標ならばも偶指標であり、自明な指標も偶指標なので主張の前半はわかる。また定理5から
であったので偶指標と奇指標の個数は一致する。つまりその位数はの半分となるわけである。
(別証明)
の部分群を考えるとが偶指標であることは
が成り立つことと言い換えられるので偶指標のなす群は制限写像
の核に等しいことがわかる(cf 定理3)。
の部分群について、任意のでない指標に対してなる偶指標が
のときはに対してと定めることではについての偶指標であるとしてよい。
このとき定理3よりなるは丁度個存在することがわかる。
と互いに素な整数に対し
なる最小の自然数を取ると
が成り立つ。ただしは法の偶指標全体を渡るものとする。
のときは明らかなので以下とする。
このときおよび
とおくとでないの指標は
によって定まる個の指標によって尽くされることがわかるので定理10より
を得る。