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現代数学解説
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群上のフーリエ変換4:ポアソン和公式

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き局所コンパクトアーベル群上のフーリエ変換
f^(x)=Gf(x)χ(x)dx
の性質について簡単に解説していきます。

ポアソン和公式

 今回の記事ではポアソン和公式
xΓf(x)=χG/Γ^f^(χ)
について解説していきます。
 と言っても証明は通常のポアソン和公式
n=f(n)=n=f^(n)(f^(y)=f(x)e2πixydx)
の場合とほとんど同じなのでさっさと示しちゃいましょう。

格子

 局所コンパクトアーベル群Gの離散部分群ΓであってG/Γをコンパクト群とするようなもののことをG格子と言う。
 またG/Γの完全代表系Dであってボレル可測なものをΓ基本領域と言う。任意の格子Γに対し相対コンパクトな基本領域が存在することが知られている。

ポアソン和公式

 Gを局所コンパクトアーベル群、Γをその格子、vol(G/Γ)Gのハール測度μに関するΓの基本領域Dの測度μ(D)とする。
 このときG上のいい感じの関数fに対しそのG上のフーリエ変換をf^とおくと
gΓf(x)=1vol(G/Γ)χG/Γ^f^(χ)
が成り立つ。

F(x)=γΓf(γx)
とおくと、これは任意のγΓに対しF(γx)=F(x)を満たすのでFG/Γ上の関数とみなせる。特に
F(x)=χG/Γ^cχχ(x)
というフーリエ級数展開が考えられる。
 また全単射π:DG/Γによるμの押し出しν(E)=μ(π1(E))G/Γのハール測度を与えることに注意すると、その係数は
cχ=1μ(D)D(gΓf(gx))χ(x)dx=1μ(D)D(gΓf(gx)χ(gx))dx=1μ(D)gΓgDf(x)χ(x)dx=1μ(D)ggDf(x)χ(x)dx=1μ(D)Gf(g)χ(x)dx=1μ(D)f^(χ)
と求まり、したがって
F(1)=gΓf(g)=1vol(G/Γ)χG/Γ^f^(χ)
を得る。

 なお一応注意しておくとG/Γ^G^の部分群
Γ={χG^χ(g)=1, gΓ}
と同型となります。特にGの指標群G^が既に求まっていれば簡単にG/Γ^=Γを求めることができます。
 ちなみにこの群ΓのことをΓ双対格子と言うことがあります。

具体例

 例えばRnの格子Γ、つまりあるR-線形独立な元a1,a2,,anRnを用いて
Γ=Za1+Za2++Zan
と表せる加法群、あるいは同じことですが正則な正方行列
A=(a1a2an)
を用いてΓ=AZmと表せる加法群を考えてみましょう。
 このときRn/Γの基本領域
D={i=1ntiai | 0ti<1}
の体積は行列式|detA|として求まり、またΓの双対格子は
Γ={χ:xe2πixyyRn, xyZ}=tA1Zn
と表せる(ただしtA1A1の転置とした)ので以下の形のポアソン和公式が得られます。

 Rnの格子Γ=AZnに対し、Γ=tA1Znおよび
f^(y)=f(x)e2πixydx
とおくと
xΓf(x)=1|detA|xΓf^(x)
が成り立つ。

 この公式自体は標準的なポアソン和公式
nZng(n)=nZng^(n)
においてg(x)=f(Ax)とおき
g^(x)=1|detA|f^(tA1x)
を確かめることでも示せますが、そんなまどろっこしいことしなくても直接上の公式が導けるというのは少し楽(?)ですね。

おまけ

 ちなみに代数体Kをある環準同型KRn (n=[K:Q])によってRnに埋め込んだとき、Kの任意の分数イデアルaRnの格子となることが知られています。
 またaの双対格子は共役差積dというものを用いて
a={βKTrK/Q(αβ)Z, αa}=(ad)1
と表せ、これによってあるテータ関数の変換公式
θ(a,1/z)=N(z/i)N(a)θ((ad)1,z)
や完備化された部分デデキントゼータ関数の関数等式
ξ(a,s)=ξ((ad)1,1s)
が得られたりします。
 詳しい話についてはまた気が向いたときに記事にしようと思ってます。

ヴェイユの公式

 以上が局所コンパクトアーベル群上のポアソン和公式の概説となります。
 ただ上で紹介したポアソン和公式の証明はあまり一般的ではありません。具体的には上では
G/Γ(gΓf(gx))dx=Gf(x)dx
という形の等号を示すのに基本領域Dを用いてG/Γ=Dと表す、という方法を取りました。
 これは通常のポアソン和公式の証明の延長として自然な方法だとは思うのですが、そもそも格子の基本領域という対象について詳しく触れられている文献すらあまり見かけませんでした。
 では一般的にはどうしているのかと言うと、 第一回の記事 でもちらっと触れたリース・マルコフ・角谷の表現定理と呼ばれる次の主張を用います。

リース・マルコフ・角谷の表現定理

 Xを局所コンパクトハウスドルフ空間、Cc(X)をコンパクト台を持つ連続関数f:XC全体とする。
 このときCc(X)上の正なる線形汎関数ψ、つまり線形写像ψ:Cc(X)Cであってf0に対しψ(f)0を満たすものに対し
ψ(f)=Xf(x)dμ
を満たすようなラドン測度μが一意に存在する。

 特にX=Gが局所コンパクト群であるときは次のような主張が成り立ちます。

 Gを局所コンパクト群、μをその左ハール測度とする。
 このときCc(G)上の正なる線形汎関数ψ0であって左不変、つまり任意のgGに対し
ψ(f(gx))=ψ(f(x))
を満たすようなものに対しある定数C>0が存在し
ψ(f)=CGf(x)dμ
が成り立つ。

 これを用いるといま考えている等式
G/Γ(gΓf(gx))dx=Gf(x)dx
の一般化であるヴェイユの公式が得られます。

ヴェイユの公式

 Gを局所コンパクトアーベル群、Hをその閉部分群とする。
 このとき任意のfL1(G)に対し
F([x])=Hf(xy)dy([x]=xHG/H)
とおくと、G/Hのあるハール測度d[x]に関して
Gf(x)dx=G/HF([x])d[x]=G/H(Hf(xy)dy)d[x]
が成り立つ(ただし[x]xの同値類とした)。
 またこれが成り立つようなG/Hのハール測度のことをG/H商測度(quotient measure)と言う。

 ちなみに以下の証明はHG/Hが共に局所コンパクトハウスドルフであれば成り立ちますが

  • 局所コンパクトハウスドルフ空間の閉集合は局所コンパクトである。
  • 局所コンパクト群Gとその部分群Hに対し、Hが閉であることと商空間G/Hが局所コンパクトハウスドルフであることは同値である。

という事実からそれはHが閉部分群であるという条件に集約されることとなります。

 G/Hのハール測度を任意に取り
I:L1(G)C,fG/H(Hf(xy)dy)d[x]
という写像を考えると、これはCc(G)上の左不変かつ正なる線形汎関数を定めるのである定数C>0が存在して
I(f)=CGf(x)dx
が成り立つ。したがってG/Hのハール測度を適当に正規化することで
G/H(Hf(xy)dy)d[x]=Gf(x)dx
とできる。

 いまヴェイユの公式を用いると次のようなポアソン和公式の一般化が得られます。

 上の条件下において、いい感じの関数fに対し
Hf(x)dx=G/H^f^(χ)dχ
が成り立つ。

G/Γの商測度について

 いま、一般にハウスドルフ位相群の離散部分群は閉であることが知られているので、局所コンパクトアーベル群Gの格子ΓGの閉部分群となります。
 したがってヴェイユの公式から
Gf(x)dx=G/Γ(gΓf(gx))d[x]
が成り立っていたわけですが、ここでG/Γの商測度νが具体的にどのように定まるかを考えてみましょう。
 と言っても話は簡単で、Γの基本領域Dに対し
fD(x)={1(xD)0(xD)
とおくと任意のxΓに対し
gΓfD(gx)=1
となることから
μ(D)=GfD(x)dx=G/Γd[x]=ν(G/Γ)
が成り立つので、この等式ν(G/Γ)=μ(D)によってG/Γの商測度が定まることになります。
 特にこれは定理1の証明で用いた押し出し測度ν(E)=μ(π1(E))に合致していることがわかります。

おわりに

 以上がポアソン和公式に関する概説でした。
 ちなみにポアソン和公式の非可換群への一般化としてセルバーグの跡公式
γvol(ΓγGγ)GγGf(x1γx)dx=πm(π)trace(π(f))
というものがあるようですが、詳しいことは各々で調べてみてください。
 
 またこれを以ってこのシリーズは一旦終わりとなります。
 まだ上のセルバーグの跡公式とか 第二回の記事 でも言及した表現論とかスペクトル理論とかのように深堀りしたい話題はいくらでもあるのですが、このシリーズを書き始めた当初の目標であったポアソン和公式の話はできたので一先ずここで区切りとし、そこら辺の発展的な話題についてはまた気が向いたときに調べていきたいと思います。
 とりあえず今回の記事はこんなところで。では

参考文献

[1]
Gerald B. Folland, A Course in Abstract Harmonic Analysis - 2nd Edition, CRC Press, 2015
投稿日:425
更新日:425
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. ポアソン和公式
  3. 具体例
  4. ヴェイユの公式
  5. G/Γの商測度について
  6. おわりに
  7. 参考文献