この記事では
前回の記事
に引き続き局所コンパクトアーベル群上のフーリエ変換
$$\f(x)=\int_Gf(x)\ol{\x(x)}dx$$
の性質について簡単に解説していきます。
今回の記事ではポアソン和公式
$$\sum_{x\in\G}f(x)=\sum_{\x\in\wh{G/\G}}\f(\x)$$
について解説していきます。
と言っても証明は通常のポアソン和公式
$$\sum^\infty_{n=-\infty}f(n)=\sum^\infty_{n=-\infty}\f(n)
\qquad\l(\f(y)=\int^\infty_{-\infty}f(x)e^{-2\pi ixy}dx\r)$$
の場合とほとんど同じなのでさっさと示しちゃいましょう。
局所コンパクトアーベル群$G$の離散部分群$\G$であって$G/\G$をコンパクト群とするようなもののことを$G$の格子と言う。
また$G/\G$の完全代表系$D$であってボレル可測なものを$\G$の基本領域と言う。任意の格子$\G$に対し相対コンパクトな基本領域が存在することが知られている。
$G$を局所コンパクトアーベル群、$\G$をその格子、$\vol(G/\G)$を$G$のハール測度$\mu$に関する$\G$の基本領域$D$の測度$\mu(D)$とする。
このとき$G$上のいい感じの関数$f$に対しその$G$上のフーリエ変換を$\f$とおくと
$$\sum_{g\in\G}f(x)=\frac1{\vol(G/\G)}\sum_{\x\in\wh{G/\G}}\f(\x)$$
が成り立つ。
$$F(x)=\sum_{\g\in\G}f(\g x)$$
とおくと、これは任意の$\g\in\G$に対し$F(\g x)=F(x)$を満たすので$F$は$G/\G$上の関数とみなせる。特に
$$F(x)=\sum_{\x\in\wh{G/\G}}c_\x \x(x)$$
というフーリエ級数展開が考えられる。
また全単射$\pi:D\to G/\G$による$\mu$の押し出し$\nu(E)=\mu(\pi^{-1}(E))$は$G/\G$のハール測度を与えることに注意すると、その係数は
\begin{align}
c_\x
&=\frac1{\mu(D)}\int_D\l(\sum_{g\in\G}f(gx)\r)\ol{\x(x)}dx\\
&=\frac1{\mu(D)}\int_D\l(\sum_{g\in\G}f(gx)\ol{\x(gx)}\r)dx\\
&=\frac1{\mu(D)}\sum_{g\in\G}\int_{gD}f(x)\ol{\x(x)}dx\\
&=\frac1{\mu(D)}\int_{\bigcup_ggD}f(x)\ol{\x(x)}dx\\
&=\frac1{\mu(D)}\int_Gf(g)\ol{\x(x)}dx\\
&=\frac1{\mu(D)}\f(\x)
\end{align}
と求まり、したがって
$$F(1)=\sum_{g\in\G}f(g)=\frac1{\vol(G/\G)}\sum_{\x\in\wh{G/\G}}\f(\x)$$
を得る。
なお一応注意しておくと$\wh{G/\G}$は$\wh G$の部分群
$$\G^\perp=\{\x\in\wh G\mid\x(g)=1,\ \forall g\in\G\}$$
と同型となります。特に$G$の指標群$\wh G$が既に求まっていれば簡単に$\wh{G/\G}=\G^\perp$を求めることができます。
ちなみにこの群$\G^\perp$のことを$\G$の双対格子と言うことがあります。
例えば$\R^n$の格子$\G$、つまりある$\R$-線形独立な元$\bs a_1,\bs a_2,\ldots,\bs a_n\in\R^n$を用いて
$$\G=\Z\bs a_1+\Z\bs a_2+\cdots+\Z\bs a_n$$
と表せる加法群、あるいは同じことですが正則な正方行列
$$A=\begin{pmatrix}
\bs a_1&\bs a_2&\cdots&\bs a_n
\end{pmatrix}$$
を用いて$\G=A\Z^m$と表せる加法群を考えてみましょう。
このとき$\R^n/\G$の基本領域
$$D=\l\{\sum^n_{i=1}t_i\bs a_i\ \bigg|\ 0\leq t_i<1\r\}$$
の体積は行列式$|\det A|$として求まり、また$\G$の双対格子は
\begin{align}
\G^\perp
&=\{\x:\bs x\mapsto e^{2\pi i\bs x\c\bs y}\mid\bs y\in\R^n,\ \bs x\c\bs y\in\Z\}\\
&=\A\Z^n
\end{align}
と表せる(ただし$\A$は$A^{-1}$の転置とした)ので以下の形のポアソン和公式が得られます。
$\R^n$の格子$\G=A\Z^n$に対し、$\G^\perp=\A\Z^n$および
$$\f(\bs y)=\int^\infty_{-\infty}f(\bs x)e^{-2\pi i\bs x\c\bs y}d\bs x$$
とおくと
$$\sum_{\bs x\in\G}f(\bs x)=\frac1{|\det A|}\sum_{\bs x\in\G^\perp}\f(\bs x)$$
が成り立つ。
この公式自体は標準的なポアソン和公式
$$\sum_{\bs n\in\Z^n}g(\bs n)=\sum_{\bs n\in\Z^n}\hat g(\bs n)$$
において$g(\bs x)=f(A\bs x)$とおき
$$\hat g(\bs x)=\frac1{|\det A|}\f(\A\bs x)$$
を確かめることでも示せますが、そんなまどろっこしいことしなくても直接上の公式が導けるというのは少し楽(?)ですね。
ちなみに代数体$K$をある環準同型$K\to\R^n\ (n=[K:\Q])$によって$\R^n$に埋め込んだとき、$K$の任意の分数イデアル$\mf a$は$\R^n$の格子となることが知られています。
また$\mf a$の双対格子は共役差積$\mf d$というものを用いて
\begin{align}
\mf a^\perp
&=\{\b\in K\mid\Tr_{K/\Q}(\a\ol\b)\in\Z,\ \a\in\mf a\}\\
&=\ol{(\mf a\mf d)^{-1}}
\end{align}
と表せ、これによってあるテータ関数の変換公式
$$\t(\mf a,-1/\bs z)=\frac{\sqrt{N(\bs z/i)}}{N(\mf a)}\t((\mf a\mf d)^{-1},\bs z)$$
や完備化された部分デデキントゼータ関数の関数等式
$$\xi(\mf a,s)=\xi((\mf a\mf d)^{-1},1-s)$$
が得られたりします。
詳しい話についてはまた気が向いたときに記事にしようと思ってます。
以上が局所コンパクトアーベル群上のポアソン和公式の概説となります。
ただ上で紹介したポアソン和公式の証明はあまり一般的ではありません。具体的には上では
$$\int_{G/\G}\l(\sum_{g\in\G}f(gx)\r)dx=\int_Gf(x)dx$$
という形の等号を示すのに基本領域$D$を用いて$\int_{G/\G}=\int_D$と表す、という方法を取りました。
これは通常のポアソン和公式の証明の延長として自然な方法だとは思うのですが、そもそも格子の基本領域という対象について詳しく触れられている文献すらあまり見かけませんでした。
では一般的にはどうしているのかと言うと、
第一回の記事
でもちらっと触れたリース・マルコフ・角谷の表現定理と呼ばれる次の主張を用います。
$X$を局所コンパクトハウスドルフ空間、$C_c(X)$をコンパクト台を持つ連続関数$f:X\to\C$全体とする。
このとき$C_c(X)$上の正なる線形汎関数$\psi$、つまり線形写像$\psi:C_c(X)\to\C$であって$f\geq0$に対し$\psi(f)\geq0$を満たすものに対し
$$\psi(f)=\int_Xf(x)d\mu$$
を満たすようなラドン測度$\mu$が一意に存在する。
特に$X=G$が局所コンパクト群であるときは次のような主張が成り立ちます。
$G$を局所コンパクト群、$\mu$をその左ハール測度とする。
このとき$C_c(G)$上の正なる線形汎関数$\psi\neq0$であって左不変、つまり任意の$g\in G$に対し
$$\psi(f(gx))=\psi(f(x))$$
を満たすようなものに対しある定数$C>0$が存在し
$$\psi(f)=C\int_Gf(x)d\mu$$
が成り立つ。
これを用いるといま考えている等式
$$\int_{G/\G}\l(\sum_{g\in\G}f(gx)\r)dx=\int_Gf(x)dx$$
の一般化であるヴェイユの公式が得られます。
$G$を局所コンパクトアーベル群、$H$をその閉部分群とする。
このとき任意の$f\in L^1(G)$に対し
$$F([x])=\int_Hf(xy)dy\qquad([x]=xH\in G/H)$$
とおくと、$G/H$のあるハール測度$d[x]$に関して
$$\int_Gf(x)dx=\int_{G/H}F([x])d[x]=\int_{G/H}\l(\int_Hf(xy)dy\r)d[x]$$
が成り立つ(ただし$[x]$は$x$の同値類とした)。
またこれが成り立つような$G/H$のハール測度のことを$G/H$の商測度(quotient measure)と言う。
ちなみに以下の証明は$H$と$G/H$が共に局所コンパクトハウスドルフであれば成り立ちますが
という事実からそれは$H$が閉部分群であるという条件に集約されることとなります。
$G/H$のハール測度を任意に取り
$$I:L^1(G)\to\C,\quad f\mapsto\int_{G/H}\l(\int_Hf(xy)dy\r)d[x]$$
という写像を考えると、これは$C_c(G)$上の左不変かつ正なる線形汎関数を定めるのである定数$C>0$が存在して
$$I(f)=C\int_Gf(x)dx$$
が成り立つ。したがって$G/H$のハール測度を適当に正規化することで
$$\int_{G/H}\l(\int_Hf(xy)dy\r)d[x]=\int_Gf(x)dx$$
とできる。
いまヴェイユの公式を用いると次のようなポアソン和公式の一般化が得られます。
上の条件下において、いい感じの関数$f$に対し
$$\int_Hf(x)dx=\int_{\widehat{G/H}}\f(\x)d\x$$
が成り立つ。
いま、一般にハウスドルフ位相群の離散部分群は閉であることが知られているので、局所コンパクトアーベル群$G$の格子$\G$は$G$の閉部分群となります。
したがってヴェイユの公式から
$$\int_Gf(x)dx=\int_{G/\G}\l(\sum_{g\in\G}f(gx)\r)d[x]$$
が成り立っていたわけですが、ここで$G/\G$の商測度$\nu$が具体的にどのように定まるかを考えてみましょう。
と言っても話は簡単で、$\G$の基本領域$D$に対し
$$f_D(x)=\l\{\begin{array}{ll}
1&(x\in D)\\0&(x\notin D)
\end{array}\r.$$
とおくと任意の$x\in\G$に対し
$$\sum_{g\in\G}f_D(gx)=1$$
となることから
$$\mu(D)
=\int_Gf_D(x)dx
=\int_{G/\G}d[x]
=\nu(G/\G)$$
が成り立つので、この等式$\nu(G/\G)=\mu(D)$によって$G/\G$の商測度が定まることになります。
特にこれは定理1の証明で用いた押し出し測度$\nu(E)=\mu(\pi^{-1}(E))$に合致していることがわかります。
以上がポアソン和公式に関する概説でした。
ちなみにポアソン和公式の非可換群への一般化としてセルバーグの跡公式
$$\sum_\g\vol(\G_\g\backslash G_\g)\int_{G_\g\backslash G}f(x^{-1}\g x)dx=\sum_\pi m(\pi)\operatorname{trace}(\pi(f))$$
というものがあるようですが、詳しいことは各々で調べてみてください。
またこれを以ってこのシリーズは一旦終わりとなります。
まだ上のセルバーグの跡公式とか
第二回の記事
でも言及した表現論とかスペクトル理論とかのように深堀りしたい話題はいくらでもあるのですが、このシリーズを書き始めた当初の目標であったポアソン和公式の話はできたので一先ずここで区切りとし、そこら辺の発展的な話題についてはまた気が向いたときに調べていきたいと思います。
とりあえず今回の記事はこんなところで。では