数年前に原始根に関する記事をごち数に書きましたが, その時に一緒にジグモンディの定理の証明を整理しなおしていました. ただ, なんやかんやでなんか公開し忘れていたので公開します. 負のケースまで含めて統一的な方法で証明しているのが偉いポイントです.
大枠はzigをなぞっており, 不等式評価の手法に関してはstaをもとにしています. 位数関連についてわからないことはgotを参照してください(いろいろ断らずに用います).
$\{a_n\}_{n\in \mathbb N}$を整数列とし, $m$を正整数とする.
$a_m$の素因数$p$で, 任意の$m$未満の正整数$k$に対して$a_k$が$p$で割り切れないとき, $p$を$a_m$の原始的素因数と呼ぶ.
$x,y$を$0$でない互いに素な整数とする.
$|x|\neq|y|$のとき$a_n=x^n-y^n$とすれば以下の場合を除いて$a_n$は原始的素因数を持つ.
原始的素因数の候補は円分多項式$\Phi_n(x,y)$の素因数である. 逆に$\Phi_n(x,y)$の素因数の多くは原始的素因数になることをいえば, あとは$\Phi_n(x,y)$が原始的素因数を持つために十分大きいことを示せばよい.
定理を示すとどめとなる不等式を先に示しておく. この不等式は定理の証明に必要な不等式評価やコーナーケースなどから試行錯誤して用意した技術的な補題です(がここがこの記事の新規性?だったり).
$\Phi_n(x,y)=\prod_{d\mid n}(x^d-y^d)^{\mu(\frac nd)}$
$\displaystyle x^n-y^n=\prod_{d\mid n}\Phi_d(x,y)$
をメビウス変換すればよい.
$n$と$p$を互いに素とすると, $$\Phi_{p^kn}(x,y)=\dfrac{\Phi_n(x^{p^k},y^{p^k})}{\Phi_n(x^{p^{k-1}},y^{p^{k-1}})}$$
$n$を$3$以上の整数とする.
$\Phi_n(x,y)$を$n$次円分多項式とする. $a, b$を$0$でない整数とし, $|a|\neq|b|$が成立するとき$$3^{\frac{\varphi(n)}2}\leq|\Phi_n(a,b)|$$
が成立する. 等号は
\begin{align*}
\log|\Phi_n(a,b)|&=\frac12\sum_{(n,k)=1,\ 1\leq k\leq n}\log(|a-\zeta_n^kb|^2)\\
&=\frac12\sum_{(n,k)=1,\ 1\leq k\leq n}\log(a^2+b^2-2ab\cos\dfrac{2k\pi}n)\\
&=\frac12\sum_{(n,k)=1,\ 1\leq k\leq n}\log\left(\frac{1-\cos\frac{2k\pi}n}2(a+b)^2+\frac{1+\cos\frac{2k\pi}n}2(a-b)^2\right)
\end{align*}
$n$ は $3$ 以上なので, $|a+b|, |a-b|$ の組が最小となるときを考えればよく, $|a+b|, |a-b|$ の偶奇は一致し, 共に $0$ ではなく, 相異なるので $(|a+b|,|a-b|)=(1,3),(3,1)$ のとき最小となる.
よって 対称性などを考えると $3^{\frac{\varphi(n)}2}\leq\Phi_n(2,1), 3^{\frac{\varphi(n)}2}\leq\Phi_n(2,-1)$ を示せばよい. さらに, $\Phi_{4n}(2,1)=\Phi_{4n}(2,-1), \Phi_{4n+2}(2,1)=\Phi_{2n+1}(2,-1), \Phi_{4n+2}(2,-1)=\Phi_{2n+1}(2,1)$ より前者のみ示せばよい.
$n$ は $3$ 以上なので, $p^{v_p(n)}\geq3$ なる $p$ が取れる. $q=p^{v_p(n)-1}, m=\dfrac nq$ とすると, $p\geq2$ で $p=2$ ならば $q\geq2$ となり,
$|\Phi_n(2,1)|=\dfrac{|\Phi_m(2^{pq},1)|}{|\Phi_m(2^q,1)|}$ となる.
ここで $x>1$ のとき, $$\dfrac{\Phi_m(x,1)}{(x+1)^{\varphi(m)}}=\prod_{(m,k)=1,\ 1\leq k\leq m}\sqrt{\dfrac{x^2-2x\cos\frac{2k\pi}m+1}{x^2+2x+1}}=\prod_{(m,k)=1,\ 1\leq k\leq m}\sqrt{1-2(1+\cos\frac{2k\pi}m)\dfrac{1}{x+2+1/x}}$$
は単調増加なので, $\dfrac{\Phi_m(2^{pq},1)}{(2^{pq}+1)^{\varphi(m)}}\geq\dfrac{\Phi_m(2^{q},1)}{(2^{q}+1)^{\varphi(m)}}$ となる.
よって $|\Phi_n(2,1)|=\dfrac{|\Phi_m(2^{pq},1)|}{|\Phi_m(2^q,1)|}\geq\left(\dfrac{2^{pq}+1}{2^q+1}\right)^{\varphi(m)}$ である.
$3^{\frac{(p-1)q}2\varphi(m)}=3^{\frac{\varphi(n)}2}$ より, $\dfrac{2^{pq}+1}{2^q+1}\geq3^{\frac{(p-1)q}2}$ を示せばよい.
(1) $p=2$ のとき
$\dfrac{2^{2q}+1}{2^q+1}>2^q-1\geq3^{\frac{q}2}$ より, $q\geq2$ に注意すれば主張は正しい.
(2) $p\geq3$ のとき
両辺 $\log$ を取って移項した式 $\log(2^{pq}+1)-\log(2^q+1)-\dfrac{(p-1)q\log3}2$ が $p$ について単調増加であることを示す.
微分したいので $p$ が素数であるという条件は忘れて $3$ 以上の実数を動くものとし, 微分すると, $pq\geq3$ より
$\dfrac{q\log2\cdot2^{pq}}{2^{pq}+1}-\dfrac{q\log3}2\geq\dfrac{8q\log2}{9}-\dfrac{q\log3}2=\dfrac{16\log2-9\log3}{18}q>0$ より, 元の式は $p$ に関して単調増加.
よって $p=3$ のときを示せばよく, $\dfrac{2^{3q}+1}{2^q+1}=2^{2q}-2^q+1\geq2^{2q-1}+1\geq3^q$ (最後の不等号は差分を取るとわかる)となるので, 主張は正しい. 等号成立条件も $q=1,p=3$ となり, 正しい.
よって補題は示された.
$n=1,2$ のときは容易にわかる.
$n\geq3$ のときを考える.
$\Phi_n(x,y)$ の素因数 $p$ のうち, 原始的でないものをとる.
$k=v_p(x^{n}-y^{n})$ として $\bmod p^k$ で考えると, 仮定は $\dfrac{x}{y}\bmod p^k$ の位数は $n$ で $\dfrac{x}y\bmod p$ の位数 $d$ は $n$ 未満であることである.
$d\mid n$ であり, LTEの補題 (もしくは原始根を用いた議論) を考えると $n=dp^s$ なる正整数 $s$ が存在することがわかる.
ここで $q$ を$\Phi_n(x,y)$ の素因数のうち, 原始的でないものの中で最小なものとすると $n=dp^s=d'q^{s'}$ となり, $p>q$ とすると $d'< q< p$ より右辺は $p$ を素因数に持たないので矛盾.
よって $\Phi_n(x,y)$ の素因数 $p$ のうち, 原始的でないものは高々一つであり, もし存在するなら $n=dp^s$ が成立する.
$\Phi_n(x,y)$ の素因数 $p$ のうち, 原始的でないものを $p$ とする.
$n\geq3$ より $p=2$ のときも $n$ は $4$ の倍数となるので $v_p(x^{\frac np}-y^{\frac np})>\dfrac1{p-1}$ が成立するのでLTEの補題から $\dfrac{x^n-y^n}{x^{\frac np}-y^{\frac np}}$ は $p$ で一回しか割り切れないので $\Phi_n(x,y)\mid \dfrac{x^n-y^n}{x^{\frac np}-y^{\frac np}}$ から $v_p(\Phi_n(x,y))=1$.
よって, 以下のように場合分けをする.
(1) $\Phi_n(x,y)$ の素因数 $p$ のうち, 原始的でないものが存在しないとき
$|\Phi_n(x,y)|>1$ を示せばよいがこれは補題から明らかである.
(2) $\Phi_n(x,y)$ の素因数 $p$ のうち, 原始的でないもの $p$ が存在するとき
$|\Phi_n(x,y)|>p$ を示せばよいが補題より, $3^{\frac{\varphi(n)}2}>p$ か否かを考える.
$p\geq5$ のときは $3^{\frac{\varphi(n)}2}\geq3^{\frac{p-1}2}>p$ が成立する.
$p=3$ のときは $3^{\frac{\varphi(n)}2}\geq3^{\frac{2}2}=3$ となるので例外となりうるのは等号が成立しているときである. この条件は補題の条件によって与えられており, このときを確かめると定理が成立していることがわかる.
最後に $p=2$ のとき $n>2$ より $n$ は $4$ の倍数であるため $3^{\frac{\varphi(n)}2}\geq3^{\frac{\varphi(4)}2}=3>2$ となり, 定理は成立する.
以上によって定理は示された.
最後に少しだけコメント. ジグモンディの定理を一般の代数体とかに一般化しようとするときにネックになるのは位数関係の議論というより円分多項式に関する不等式評価(つまり補題の方)です. あんまり詳しくないのでわかりませんが超越数論的な方法で円分多項式を評価する必要が出てくるのかなぁ?いつか二次体への一般化の証明も追ってみたいですね.