こんにちは,itouです.今回はハイパーグラフ除去補題の証明に用いる正則化補題の解説をしていきます.
気持ちとしては,グラフに含まれるハイパーグラフを除去するためにその個数を数え上げたいので,グラフに上手く分割構造を与えることでランダムグラフのようにします(正則化補題).ランダムグラフなら数えやすいからです.そのように正則化したグラフを数え上げるのが数え上げ補題です.
今回は正則化補題を解説していきます.すべての補題,命題の証明はせず,重要な部分のみ解説します.
正則化補題
定義,補題
まだ新しい言葉が出てくるのかと思いますが,今までの内容の延長にすぎません.
骨格
の部分集合に対して,の骨格を
と定義する.また,集合に対して,を
と定義する.さらに,に対して,をと帰納的に定義する.
今後はに対する加法族を直接考えていくのでなく,の骨格からできる加法族たちを用いて間接的に取り扱っていきます.
食い違い
集合および上の加法族に対し,を
と定義する.ただし,
とし,は上のに関する食い違い距離である.
食い違いが小さいとき,はのほとんどのアトム上で「ランダムな」ように振る舞います.これが求めている状況です.
エネルギーギャップ公式
を上の加法族,をの部分加法族とする.このとき,に対して,
が成り立つ.
(証明略)
正則化補題は反復アルゴリズムによって示されるのですが,エネルギーはそのための量です.
次の命題は食い違いがエネルギーを増加させることを示します.
食い違いはエネルギーを増加させる
を考える.各に対しての部分加法族であるような族があって,
を満たしているとする.このとき,各に対してがを満たす上の加法族であるような族が存在して,任意のに対して,任意のに対して
であり,
が成り立つ.
(証明略)
骨格からできる加法族たちについて,それらを細分すると複雑度は高々1しか増加せず,エネルギーが増加するということです.たちには「良い」分割が取れるのです.これが骨格を考える理由です.
前正則化補題
前正則化補題を示し,それにより正則化補題を示します.前正則化補題の主張は以下の通りです.
前正則化補題
正整数,正の実数,単調増大関数に対して,ある正整数が存在して,以下が成立する.各ごとにを満たすの部分加法族をとる.このとき,あるおよび,各についてであるような上の加法族のペアの族が存在して,以下が成立する.
(1)
(2)任意のに対して,.
(3)任意のに対して,
(4)任意のに対して,
に対する加法族の部分加法族たちをに対する加法族の部分加法族たちによって取り扱います.たちの細分を取っていくとエネルギーが増加するが,食い違いが小さくなってくれるようにできるということです.複雑度の条件はあまり気にしなくてよいです.これを反復アルゴリズムによって示します.
前正則化補題のアルゴリズム
前半
正整数および正の実数に対して,ある正整数が存在して,以下が成立する.を正整数,各に対してをの部分加法族であってを満たすもの,各に対してをの部分加法族であってを満たすものとする.このとき,各に対してに対してがを満たす上の加法族であるような族が存在して,以下のいずれかが成立する.
(状態1)任意のおよびに対して
および
が成り立つ.
(状態2)任意のに対して
であり,あるおよびが存在して
が成り立つ.
(状態1)か(状態2)のどちらかが実現されると停止するアルゴリズムを考えます.
と初期化する.
任意のおよびに対してが成立している場合,アルゴリズムを停止する.
「食い違いが大きい」なら命題2より各に対してがを満たす加法族であるような族が存在して,任意のに対してであり,
が成立.このようなを1つずつとって各に対しと更新する.
あるおよびが存在してが成立している場合,アルゴリズムを停止する.
任意のおよびに対しが成立している場合,へ
以上のアルゴリズムにより,必ず(状態1),(状態2)のいずれかが成立するようにできます.で停止すれば(状態1)です.
後半
前正則化補題
正整数,正の実数,単調増大関数に対して,ある正整数が存在して,以下が成立する.各ごとにを満たすの部分加法族をとる.このとき,あるおよび,各についてであるような上の加法族のペアの族が存在して,以下が成立する.
(1)
(2)任意のに対して,.
(3)任意のに対して,
(4)任意のに対して,
各について,と初期化する.
と代入する.データに対して前半を適用し,(状態1)または(状態2)が成立するを1つとる.
でとったが(状態1)を満たしているならアルゴリズムを停止する.
でとったが(状態2)を満たしているなら,各に対してと代入.へ.
正則化補題
正整数およびを満たす単調増大関数に対して,ある正整数が存在して,以下が成立する.各に対してをの部分加法族であってを満たすようなものとし,とおく.このとき,
を満たす整数列が存在し,さらに各についてであるような上の加法族のペアの族が存在して,全てのに対して
が成り立ち,全てのおよびに対して
および
が成り立つ.
証明
に関する数学的帰納法で証明する.ただし,ごとにある正整数が存在することを示し,最終的にとする.
関数をのときはのとき(における正則化補題の成立が仮定されているとき)は各に対して
と定義する(これは単調増大).データをとして前正則化補題を適用すると,正整数およびについてであるような上の加法族のペアの族が存在して,以下が成立する.
(1).
(2)任意のに対して,.
(3)任意のに対して,
(4)任意のに対して,
これでのときは示された.実際,とすればよい.以下,としてにおける正則化補題の成立を仮定する.
データおよびグラフ型,上のに対して帰納法の仮定を適用して,
を満たす整数列が存在し,さらに各についてであるような上の加法族のペアの族が存在して,全てのに対して
が成り立ち,全てのおよびに対して
および
が成り立つ.
このとき,の定義より
なので,が成立.また,
と定めると,である.したがって,の場合も示された.