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グリーン・タオの定理7 ハイパーグラフ除去補題の証明③ ~正則化補題~

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こんにちは,itouです.今回はハイパーグラフ除去補題の証明に用いる正則化補題の解説をしていきます.

気持ちとしては,グラフに含まれるハイパーグラフを除去するためにその個数を数え上げたいので,グラフに上手く分割構造を与えることでランダムグラフのようにします(正則化補題).ランダムグラフなら数えやすいからです.そのように正則化したグラフを数え上げるのが数え上げ補題です.

今回は正則化補題を解説していきます.すべての補題,命題の証明はせず,重要な部分のみ解説します.

正則化補題

定義,補題

まだ新しい言葉が出てくるのかと思いますが,今までの内容の延長にすぎません.

骨格

Jの部分集合eJに対して,eの骨格e
e={fB(e):f=e1}
と定義する.また,集合RB(J){}に対して,R
R=eRe
と定義する.さらに,j[0,r]に対して,jEE0=E,j+1E=(jE),(j[0,r1])と帰納的に定義する.

骨格

J={1,2,3,4}とする.

e={1,2}とすると
e={{1},{2}}

e={2,3}とすると
e={{2},{3}}

e={1,2,3}とすると
e={{1,2},{2,3},{1,3}}
R={{1,2},{2,3},{1,2,3}}とすると,
R={{1},{2},{3},{1,2},{2,3},{1,3}}

今後はeに対する加法族を直接考えていくのでなく,eの骨格からできる加法族たちを用いて間接的に取り扱っていきます.

食い違い

集合eJ(e),AVJおよびVJ上の加法族Bに対し,e(A|B)
e(A|B)=dF(1A,E(1A)|B)
と定義する.ただし,
F={feEf:fe,EfA}
とし,dFL2(VJ,R)上のFeに関する食い違い距離である.

食い違いe(A|B)が小さいとき,ABのほとんどのアトム上で「ランダムな」ように振る舞います.これが求めている状況です.

エネルギー

AVJVJ上の加法族Bに対し,BAのエネルギーEA(B)
EA(B)=E(1A|B)2
と定義する.

エネルギーギャップ公式

BV上の加法族,BBの部分加法族とする.このとき,AVJに対して,
EA(B)=EA(B)+E(1A|B)E(1A|B)
が成り立つ.

(証明略)
正則化補題は反復アルゴリズムによって示されるのですが,エネルギーはそのための量です.
次の命題は食い違いがエネルギーを増加させることを示します.

食い違いはエネルギーを増加させる

eJ(e),EeAe,ε>0を考える.各feに対してAfの部分加法族であるような族(Bf)feがあって,

e(Ee|feBf)ε
を満たしているとする.このとき,各feに対してBfBfBfAfを満たすVJ上の加法族であるような族(Bf)feが存在して,任意のfeに対して,任意のfeに対して
cpx(Bf)cpx(Bf)+1
であり,
EEe(feBf)EEe(feBf)+ε2
が成り立つ.

(証明略)
骨格からできる加法族たちについて,それらを細分すると複雑度は高々1しか増加せず,エネルギーが増加するということです.Bfたちには「良い」分割が取れるのです.これが骨格を考える理由です.

前正則化補題

前正則化補題を示し,それにより正則化補題を示します.前正則化補題の主張は以下の通りです.

前正則化補題

正整数m,正の実数ε,単調増大関数F:Z>0Z>0に対して,ある正整数C=CPRL(k,m,ε,F)が存在して,以下が成立する.各eEごとにcpx(Be)mを満たすAeの部分加法族Beをとる.このとき,あるM[C]および,各fEについてBfBfAfであるようなVJ上の加法族のペアの族((Bf,Bf))fEが存在して,以下が成立する.

(1)F(m)M
(2)任意のfEに対して,cpx(Bf)M.
(3)任意のeE,EeBeに対して,
EEe(feBf)EEe(feBf)ε2
(4)任意のeE,EeBeに対して,
e(Ee|feBf)1F(M).

eに対する加法族Aeの部分加法族たちをfEに対する加法族Afの部分加法族たちによって取り扱います.Bfたちの細分を取っていくとエネルギーが増加するが,食い違いが小さくなってくれるようにできるということです.複雑度の条件はあまり気にしなくてよいです.これを反復アルゴリズムによって示します.

前正則化補題のアルゴリズム

前半

正整数mおよび正の実数ε,δ>0に対して,ある正整数C=CRS(k,m,ε,δ)が存在して,以下が成立する.Mを正整数,各eEに対してBeAeの部分加法族であってcpx(Bf)mを満たすもの,各feに対してBfAfの部分加法族であってcpx(BfM)を満たすものとする.このとき,各fEに対してBfに対してBfBfBfAfを満たすVJ上の加法族であるような族(Bf)fEが存在して,以下のいずれかが成立する.
(状態1)任意のeEおよびEeBeに対して
EEe(feBf)EEe(feBf)+ε2
および
e(Ee|feBf)δ

が成り立つ.

(状態2)任意のfEに対して
cpx(Bf)M+C
であり,あるeEおよびEeBeが存在して
EEe(feBf)EEe(feBf)+ε2
が成り立つ.

(状態1)か(状態2)のどちらかが実現されると停止するアルゴリズムを考えます.

(i)
Bf=Bfと初期化する.

(ii)
任意のeEおよびEeBeに対してが成立している場合,アルゴリズムを停止する.

(iii)
「食い違いが大きい」なら命題2より各feに対してBfBfBfAfを満たす加法族であるような族(Bf)が存在して,任意のfeに対してcpx(Bfcpx(Bf)+1)であり,
EEe(feBf)EEe(feBf)+δ2

が成立.このようなe,Ee,(Bf)feを1つずつとって各feに対しBf=Bfと更新する.

(iv)
あるeEおよびEeBeが存在してが成立している場合,アルゴリズムを停止する.
(v)
任意のeEおよびEeBeに対しが成立している場合,(i)

以上のアルゴリズムにより,必ず(状態1),(状態2)のいずれかが成立するようにできます.(ii)で停止すれば(状態1)です.

後半

前正則化補題

正整数m,正の実数ε,単調増大関数F:Z>0Z>0に対して,ある正整数C=CPRL(k,m,ε,F)が存在して,以下が成立する.各eEごとにcpx(Be)mを満たすAeの部分加法族Beをとる.このとき,あるM[C]および,各fEについてBfBfAfであるようなVJ上の加法族のペアの族((Bf,Bf))fEが存在して,以下が成立する.

(1)F(m)M
(2)任意のfEに対して,cpx(Bf)M.
(3)任意のeE,EeBeに対して,
EEe(feBf)EEe(feBf)ε2
(4)任意のeE,EeBeに対して,
e(Ee|feBf)1F(M).

(i)
fEについて,Bf={,VJ}と初期化する.

(ii)
M=max{F(m),maxfEcpx(Bf)},δ=1/F(M)と代入する.データ(m.ε,δ,(Be)eE,(Bf)fE)に対して前半を適用し,(状態1)または(状態2)が成立する(Bf)fEを1つとる.

(iii)
(ii)でとった(Bf)fEが(状態1)を満たしているならアルゴリズムを停止する.
(iv)
(ii)でとった(Bf)fEが(状態2)を満たしているなら,各fEに対してBf=Bfと代入.(ii)へ.

正則化補題

正整数MおよびF(n)n(nZ>0)を満たす単調増大関数F:Z>0Z>0に対して,ある正整数C=CRL(k,M,F)が存在して,以下が成立する.各eEに対してBeAeの部分加法族であってcpx(Be)Mを満たすようなものとし,M0=Mとおく.このとき,
M0F(M0)M1F(M1)MrF(Mr)C
を満たす整数列(Mj)j[r]が存在し,さらに各fj[r]jEについてBfBfAfであるようなVJ上の加法族のペアの族((Bf,Bf))fj[r]jEが存在して,全てのj[r],fjEに対して
cpx(Bf)Mj
が成り立ち,全てのj[0,r1],ejEおよびEeBeに対して
EEe(feBf)EEe(feBf)1F(Mj)2
および
e(Ee|feBf)1F(Mr)
が成り立つ.

証明
r[k]に関する数学的帰納法で証明する.ただし,rごとにある正整数CRL(r)(k,M,F)が存在することを示し,最終的にCRL(r)(k,M,F)=maxr[k]CRLr(k,M,F)とする.

関数F=F(k,r,F):Z>0Z>0r=1のときはF,r2のとき(r1における正則化補題の成立が仮定されているとき)は各nZ>0に対して
F(n)=max{F(n),maxl[n]CRLr1(k,l,m)}
と定義する(これは単調増大).データ(m,ε,F)(M0,F(M0)1,F)として前正則化補題を適用すると,正整数M1およびfEについてBfBfAfであるようなVJ上の加法族のペアの族((Bf,Bf))fEが存在して,以下が成立する.

(1)F(M0)F(M0)M1CPRL(k,M0,F(M0)1,F).

(2)任意のfEに対して,cpx(Bf) M1.
(3)任意のeE,EeBeに対して,
EEe(feBf)EEe(feBf)1F(M0)2
(4)任意のeE,EeBeに対して,
e(Ee|feBf)1F(M1)

これでr=1のときは示された.実際,C(1)RL(k,m,F)=F(CPRL(k,M,F(M)1,F))とすればよい.以下,r2としてr1における正則化補題の成立を仮定する.

データ(k,M1,F)および(r1)グラフ型((J,E);(Vj)jJ),上の(Bf)fEに対して帰納法の仮定を適用して,
M1F(M1)M2F(M2)MrF(Mr)CRL(r1)(k,M1,F)
を満たす整数列(Mj)j[2,r]が存在し,さらに各fj[2,r]jEについてBfBfAfであるようなVJ上の加法族のペアの族((Bf,Bf))fj[2,r]jEが存在して,全てのj[2,r],fjEに対して
cpx(Bf)Mj
が成り立ち,全てのj[r1],ejEおよびEeBeに対して
EEe(feBf)EEe(feBf)1F(Mj)2
および
e(Ee|feBf)1F(Mr)
が成り立つ.

このとき,Fの定義より
F(Mr)CRL(r1)(k,M1,F)F(M1)
なので,F(M1)1F(Mr)1が成立.また,

CRL(r)(k,M,F)=maxn[CPRL(k,M,F(M)1,F(k,r,F))]CRL(r1)(k,n,F)

と定めると,CRL(r1)(k,M1,F)CRL(r)(k,M0,F)である.したがって,rの場合も示された.

投稿日:2024528
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itou
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数学勉強中. https://twitter.com/G7UOMb0Zd8V7LdP

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