以下の数列の極限と,関数の極限の関係についての命題をご紹介します.
$f:\mathbb{R} \to \mathbb{R}$を連続関数とする.
任意の$x > 0$に対して,数列$\{f(x),f(2x),f(3x),...\}$が$0$に収束するとき,
$$ \lim_{x \to \infty} f(x) = 0$$
となる.
以下,'数列$\{f(x),f(2x),f(3x),...\}$が$0$に収束'することを$\displaystyle \lim_{n \to \infty} f(n x) = 0$と略記します.
この主張は一見当たり前のように見えますが,自明ではありません.
例えば$f$の連続性が無ければ命題は成り立ちません.実際に次のような反例があります.
\begin{equation} f(x):= \begin{cases} 1 & {}^{\exists}n \in \mathbb{N}, x= e^n \\ 0 & \text{otherwise.} \end{cases} \end{equation}
とすると,任意の$x > 0$に対して,$\displaystyle \lim_{n \to \infty} f(n x) = 0$となるが,$\displaystyle \lim_{x \to \infty} f(x) = 0$は成立しない.
$x > 0$をとる.ある$k_1, k_2 \in \mathbb{N}$があり,$k_1 \neq k_2$かつ$f(k_1 x) = f(k_2 x) = 1$が成立すると仮定する.
すると,ある$n_1, n_2 \in \mathbb{N}$があり,$k_1 x = e^{n_1}$, $k_2 x = e^{n_2}$より,
$ e^{n_1 - n_2} = \frac{k_1}{k_2}$となるが, $n_1 \neq n_2$から,$e$の超越性に反する.
したがって,$f(k x) = 1$となる自然数$k$は高々一つ.
よって,$\displaystyle \lim_{n \to \infty} f(n x) = 0$であるが,$f(x)$は$x \to \infty$で明らかに収束しない.
命題1の証明のカギとなるのは以下の有名な位相空間論の定理を用いることです.
$X$を空でない完備距離空間とする.$\{F_n\}_{n \in \mathbb{N}}$を$X$上の閉集合族で,$\displaystyle \bigcup_{n \in \mathbb{N}} ~F_n = X$を満たすものとする.
このとき,ある$N \in \mathbb{N}$が存在して,$F_N$は内点を持つ.
こちらの定理は,関数解析の重要定理である一様有界性原理や開写像定理などを証明するときに用いられる強力な定理です.
それでは,この定理を認めた上で,最初に紹介した命題を証明しましょう.
連続関数$f : \mathbb{R} \to \mathbb{R}$を,任意の$x >0$に対して$\displaystyle \lim_{n \to \infty} f(n x) = 0$が成立するものとする.$\varepsilon > 0$を任意に取る.
ここで,自然数$n$に対して,連続関数$g: \mathbb{R} \to \mathbb{R}$を$g(x) := |f(n x)| ~(x \in \mathbb{R})$と定める.
$A_n := \left\{x \geq 0 \mid |f(nx)| \leq \varepsilon \right\} = g^{-1}([0,\varepsilon]) \cap[0,\infty) $は閉区間$[0,\varepsilon]$の連続関数$g$による引き戻しと閉集合$[0,\infty)$との交叉より閉集合.よって,
$\displaystyle B_n:=\left\{x \geq 0 \mid {}^{\forall}k\in\mathbb{N}, ~k \geq n \Rightarrow |f(kx)| \leq \varepsilon \right\} = \bigcap_{k = n}^{\infty} A_k$も閉集合.
$f$の仮定から,$\displaystyle \{0\} \cup \bigcup_{n \in \mathbb{N}} B_n = [0,\infty)$となる.完備距離空間の閉部分集合は,部分距離空間として完備となるため,$[0,\infty)$も完備.よってBaireのカテゴリー定理より,ある$N \in \mathbb{N}$が存在して,$B_N$の(部分距離空間$[0,\infty)$の意味での)内点が存在する.よって,ある$0 < a < b$があり,$(a,b) \subset B_N$となる.
($0 \in [0,\infty)$が内点の場合でも,ある$c>0$が存在して,$[0,c) \subset B_N$となるため,$(a,b) \subset [0,c) \subset B_N$となる$0 < a < b$が取れる.)
したがって,任意の$\displaystyle x \in \bigcup_{k=N}^{\infty} (k a,kb)$に対して,$|f(x)| \leq \varepsilon$となる.
($\displaystyle \because x \in \bigcup_{k=N}^{\infty} (k a,kb) \Rightarrow {}^{\exists} k \geq N, ~x \in (ka,kb) \Rightarrow {}^{\exists} y \in (a,b), ~ x = ky$ $ \Rightarrow |f(x)| = |f(ky)| \leq \varepsilon.$ )
また,$b-a >0$より,アルキメデスの性質から,$a < m_0(b-a)$となる自然数$m_0$が存在する.よって,$ (m_0+1)a < m_0b$ より, $m \geq m_0$なる自然数$m$に対して,$ (ma,mb) \cap \big((m+1)a,(m+1)b\big) \neq \emptyset$となる.したがって,$\displaystyle (\max\{m_0 a, Na\}, \infty) \subset \bigcup_{k=N}^{\infty} (k a,kb)$となり,$x > \max\{m_0 a, Na\}$なる任意の実数$x$に対して,$|f(x)| \leq \varepsilon$が成り立つ.よって$\displaystyle \lim_{x \to \infty} f(x) = 0$となる.