ここでは東大数理の修士課程の院試の2018B01の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
素数$p$及び自然な全射
$$
f:\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z}/p^2\mathbb{Z})\twoheadrightarrow \mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_p)
$$
を考える。このとき以下の条件を満たす素数$p$を全て求めなさい。
(i) $\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_p)$の位数$p$の任意の元$g$について、$f(g')=g$なる位数$p$の$g'\in\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z}/p^2\mathbb{Z})$が存在する。
初めに任意の$p>3$はこの条件を満たさないことを示す。まず
$$
g=\begin{pmatrix}
1&1\\
0&1
\end{pmatrix}
$$
とおく。これは位数$p$である。ここで上記の条件を満たす$g'$が存在すると仮定する。このとき
$$
g'=\begin{pmatrix}
1&1\\
0&1
\end{pmatrix}+p\begin{pmatrix}
x&y\\
z&w
\end{pmatrix}
$$
の形で書ける。これを$p$乗したとき、
$$
\begin{split}
g'^p&=\begin{pmatrix}
1&p\\
0&1
\end{pmatrix}+p\left(\sum_{i=0}^{p-1}\begin{pmatrix}
1&1\\
0&1
\end{pmatrix}^i\begin{pmatrix}
x&y\\
z&w
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
1&1\\
0&1
\end{pmatrix}^{p-1-i}
\right)\\
&=\begin{pmatrix}
1&p\\
0&1
\end{pmatrix}+p\sum_{i=0}^{p-1}\left(
\begin{pmatrix}
1&i\\
0&1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x&y\\
z&w
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
1&p-1-i\\
0&1
\end{pmatrix}\right)\\
&=\begin{pmatrix}
1&p\\
0&1
\end{pmatrix}+p\sum_{i=0}^{p-1}\begin{pmatrix}
x+iz&(p-1-i)(x+iz)+y\\
z&(p-1-i)z+w
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
1&p\\
0&1
\end{pmatrix}+p\sum_{i=0}^{p-1}\begin{pmatrix}
x+iz&(p-1-i)x+piz-iz-i^2z+y\\
z&(p-1-i)z+w
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
1&p\\
0&1
\end{pmatrix}+p\sum_{i=0}^{p-1}\begin{pmatrix}
iz&(p-i)x-i^2z-iz\\
0&(p-1-i)z
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
1&p\\
0&1
\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}
\frac{p^2(p-1)}{2}z&\frac{p^2(p+1)}{2}x-\frac{p^2(p-1)}{2}z-\frac{p^2(p-1)(2p-1)}{6}z\\
0&\frac{p^2(p-1)}{2}z
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
1+\frac{p^2(p-1)}{2}z&p(1+\frac{p(p+1)}{2}x-\frac{p(p-1)}{2}z-\frac{p(p-1)(2p-1)}{6}z)\\
0&1+\frac{p^2(p-1)}{2}z
\end{pmatrix}
\end{split}
$$
である。もしここで$p>3$であったとすると$g'^p$の右上の成分は$x,y,z,w$の値に関わらず$p^2$で割り切れない。よって条件を満たす$g'$は存在しえない。
$g$の位数が$p$であったとき、その固有値は$1$であるから、$\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_p)$の全ての位数$p$の非自明な元は
$$
\begin{pmatrix}
1&1\\
0&1
\end{pmatrix}$$
に共役である。よって条件(i)を満たすかどうか見るにはこの行列に関してのみ$g'$が存在するかどうか確かめれば充分。まず$p=2$のときは上記の式に$p=2$を代入して
$$
g'^p=\begin{pmatrix}
1+2z&2(1+x)\\
0&1+2z
\end{pmatrix}
$$
がわかる。よって$(x,y,z,w)=(1,0,0,0)$、つまり
$$
g'=\begin{pmatrix}
3&1\\
0&1
\end{pmatrix}
$$
とすれば良い。次に$p=3$のときは上記の式に$p=3$を代入して
$$
g'^p=\begin{pmatrix}
1&3(1+4z)\\
0&1
\end{pmatrix}
$$
がわかる。よって$(x,y,w,z)=(0,0,0,2)$、つまり
$$
g'=\begin{pmatrix}
1&1\\
6&1
\end{pmatrix}
$$
とすれば良い。
以上から${\color{red}p=2,3}$のときのみ(i)が成り立つ。