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Minkowskiの一次形式定理の証明

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 ノイキルヒ『代数的整数論』の§4の練習問題3を解いたのでそれを書きます。学生が一人で考えたものなので間違っていたり回りくどい議論をしていたりするかもしれないということも言っておきます。

Minkowskiの一次形式定理

$A={(a_{ij})}_{i,j} \in \mathrm{GL}_n (\mathbb{R})$$n$次実正則行列とする。各$i=1,…n$に対し、
$$L_i (x_{1},…,x_{n})= \sum_{i=1}^{n}a_{ij} x_i $$
とし、$c_1 ,…,c_n $$c_1 \cdots c_n \gt \left| \mathrm{det}(A) \right|$を満たす正の実数とする。このとき、連立不等式
$$ \left| L_i (x_1, …,x_n) \right| \lt c_i \qquad (i=1,…,n) $$
$x_1 =…= x_n =0$以外の整数解を有する。

 証明には次の定理を用います。

Minkowskiの格子点定理

$\mathbb{R}^n$の部分集合$X$は体積を持ち、原点対称かつ凸であるとする。このとき、
$$ \mathrm{vol}(X) \gt 2^n $$
ならば、$X$は0以外の格子点を必ず含む。

 証明は例えば ミンコフスキーの凸体定理 - INTEGERS を参照してください。それでは定理1を証明します。
 まず、
$$ X=\{(x_1, …,x_n) \in \mathbb{R}^n\mid \forall i=1,…,n \quad\left| L_i (x_1, …,x_n) \right| \lt c_i \} $$
とする(つまり上の連立不等式の実数解すべての集合とする)とき、この$X$が定理2の条件を満たしていればよい。

 点対称なのは明らか。また、
$(x_1, …,x_n),(y_1, …,y_n) \in X$について、この二つの凸結合
$(tx_1 +(1-t)y_1, …,tx_n +(1-t)y_n) \quad (1\geq t \geq 0)$
についても、
$L_i (tx_1 +(1-t)y_1, …,tx_n +(1-t)y_n) = tL_i (x_1, …,x_n)+(1-t)L_i (y_1, …,y_n) \lt tc_i+(1-t)c_i = c_i$
なので満たされ、よって$X$は凸集合でもある。

 ここで、連立方程式
$$ \left| L_i (x_1, …,x_n) \right| = c_i \qquad (i=1,…,n) $$
について、行列$A$は正則だったから、線形代数の理論により必ず解は存在し、しかも絶対値がついているので各$ i=1,…,n$ごとに、$L_i (x_1, …,x_n) = c_i$なのか$L_i (x_1, …,x_n) =-c_i$なのかの場合分けで、解は合計$2^n$個存在する。
 それらの解のうち、全ての$i=1,…,n$について$L_i (z_1, …,z_n) =-c_i$となる$(z_1,…z_n)$を取り、これを成分に持つ列ベクトルを$\boldsymbol{z}$としておく。
 さらに、各$i=1,…,n$に対して、$L_i (y_{i1}, …,y_{in}) = +c_i$だがそれ以外の$j \neq i $なる$j=1,…,n$に対しては$L_j (y_{i1}, …,y_{in}) = -c_j$となるような組$(y_{i1}, …,y_{in})$を取り、これを成分に持つ列ベクトルを各$i$ごとに$\boldsymbol{y}_i$としておく。
 このとき、$n$個のベクトル$\boldsymbol{y}_1,…,\boldsymbol{y}_n$は一次独立である。何故なら、実数$k_1,…,k_n$$k_1\boldsymbol{y}_1+…+k_n\boldsymbol{y}_n=\boldsymbol{0}$と表せたなら、定義より
$$ A \begin{bmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{bmatrix} =\begin{bmatrix} L_1 (x_{1},…,x_{n}) \\ \vdots \\ L_n (x_{1},…,x_{n}) \end{bmatrix} $$
だったから、
$$ \boldsymbol{0}=A \boldsymbol{0}=A \cdot \begin{bmatrix} \boldsymbol{y}_1 &…& \boldsymbol{y}_n \end{bmatrix} \begin{bmatrix} k_1 \\ \vdots \\ k_n \end{bmatrix} =\left( \begin{array}{cc} +c_1 & -c_1 & \dots & -c_1 \\ -c_2 & +c_2 & \dots & -c_2 \\ & & \vdots & \\ -c_n & -c_n & \dots & +c_n \end{array} \right) \begin{bmatrix} k_1 \\ \vdots \\ k_n \end{bmatrix}  = \begin{bmatrix} (+k_1-k_2- \dots -k_n)c_1 \\ (-k_1 +k_2 - \dots -k_n)c_2 \\ \vdots \\ (-k_1-k_2- \dots +k_n)c_n \end{bmatrix} $$
 ゆえに、$k_1=…=k_n=0$となってしまうので、結局これらは一次独立である。なので、先ほどの$\boldsymbol{z}$について、$n$個のベクトル$\boldsymbol{y}_1-\boldsymbol{z},…,\boldsymbol{y}_n-\boldsymbol{z}$も明らかに一次独立である。よって、この$n$次元ベクトル空間上で、$(z_1,…z_n)$を原点として$\boldsymbol{y}_1-\boldsymbol{z},…,\boldsymbol{y}_n-\boldsymbol{z}$によって張られるような基底が取れる(原点の位置が変わっているので、正確にはこれはアフィン変換である)。
 このとき、
$$ L_i( y_{i1}-x_1,…,y_{in}-x_n) =c_i+c_i=2c_i $$
で、$i\neq j$なる$j=1,…n$については、
$$ L_j( y_{i1}-x_1,…,y_{in}-x_n) =c_j-c_j=0 $$
となるから、

 元々の座標系で $(x_1, …,x_n)$で表される点がこの新たな座標系で$(e_1,…e_n)$となるとき、各$i=1,…n$について、
$$ L_i(x_1, …,x_n)=2e_ic_i -c_i $$
である。すなわち、全ての$i=1,…n$について$0 \lt e_i \lt 1$が成り立っていることと、$(x_1, …,x_n)$が連立不等式$\left| L_i (x_1, …,x_n) \right| \lt c_i $の解であることは同値である。
 
 よって、この集合$X$は、$n$個のベクトル
$$\boldsymbol{y}_1-\boldsymbol{z},…,\boldsymbol{y}_n-\boldsymbol{z}$$
$(z_1,…z_n)$を原点として張られる基本平行体に等しい。

 ゆえに、
$$ \mathrm{vol}(X) = \mathrm{det} (y_{ji}-x _i) =2^n \det( \frac{y_{ji}-x_i}{2} ) $$
であり、ここで、
$$ L_j( \frac{y_{j1}-x_1}{2},…,\frac{y_{jn}-x_n}{2}) =\frac{c_j +c_j}{2} =c_j $$
だが、$k \neq j$なる$k=1,…n$については、
$$ L_k( \frac{y_{j1}-x_1}{2},…,\frac{y_{jn}-x_n}{2}) =\frac{-c_k +c_k}{2} =0 $$
再び定義より
$$ A \begin{bmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{bmatrix} =\begin{bmatrix} L_1 (x_{1},…,x_{n}) \\ \vdots \\ L_n (x_{1},…,x_{n}) \end{bmatrix} $$
だったから、
$$ A \cdot \left( \begin{array}{cc} \frac{y_{11}-x_1}{2} & \dots & \frac{y_{n1}-x_1}{2} \\ & \vdots & \\ \frac{y_{1n}-x_n}{2} & \dots & \frac{y_{nn}-x_n}{2} \end{array} \right) = \left( \begin{array}{cc} c_1 & 0 & \dots & 0 \\ 0& c_2 & \dots & 0 \\ & & \vdots & \\ 0 & 0 & \dots & c_n \end{array} \right) $$
となる。よって、行列式をとって
$$ \left| \det A \right| \cdot \frac{\mathrm{vol}(X)}{2^n} = c_1 \dots c_n $$
仮定$c_1 \cdots c_n \gt \left| \mathrm{det} A \right|$より、$\mathrm{vol}(X) \gt 2^n$がわかるから、Minkowskiの格子点定理により答えが導かれる。$ \blacksquare $

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