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部分和の方法

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Eulerの総和公式とAbelの総和公式

Mathlogでは練習を兼ねて初めての記事作成となる。

さて、与えられた数列 (an) について n=M+1Nan、あるいは n=M+1Nanf(n) のような形の和(たとえば調和級数 n=1N1/n)の大きさを求める上で有効な方法として、Eulerの総和公式とAbelの総和公式がある。これは総和法における、部分積分の公式に相当するものとも言うべきもので、そのため部分和の方法とも呼ばれる。
(なお、日本語で部分和といった場合、単に一部分の和をとるという意味の subsum と部分積分の公式に相当する partial summation の2つの意味があるが、ここで部分和の方法というのは後者をさす)

たとえば、次のような関係が成り立つことが示せる。

f(x)1tx で微分可能ならば
nxf(n)=f(1)(xx)f(x)+1xf(t)dt+1x(tt)f(t)dt
が成り立つ。xnx<n+1 となる整数 n をあらわす。

より一般的には、次のような関係が成り立つ。

A(x)=k=0xak
により A(x) を定義する。
y>x>0 を正の実数とする。f(t)x<t<y で微分可能な関数ならば
x<nyanf(n)=f(y)A(y)f(x)A(x)xyA(t)f(t)dt
が成り立つ。さらに
x<nyf(n)=(xx)f(x)(yy)f(y)+xyf(t)dt+xy(tt)f(t)dt
も成り立つ。

定理2の前段をAbelの総和公式、後段をEulerの総和公式という。Abelの総和公式についてはApostol, Theorem 4.2, Eulerの総和公式についてはApostol, Theorem 3.1も参照。Hardy-Wright, Theorem 421はAbelの総和公式の特殊な場合である。

まず、2つの数列 (an),(bn)(n1) について、
n=M+1Nanbn
の形の和について考えたいとする。ただし、 N>M>0 とする。

A0=0,An=k=1nak
とおくと
An=An1+an(1nN)
つまり
an=AnAn1(1nN)
だから
SN=n=M+1Nbn(AnAn1)
と変形できる。各 An に対する係数を求めると
SN=bM+1AM+(bM+1bM+2)AM+1+(bM+2bM+3)AM+2++(bN1bN)AN1+bNAN=bMAM+(bMbM+1)AM+(bM+1bM+2)AM+1++(bN1bN)AN1+bNAN=bNANbMAMn=MN1An(bn+1bn)  (1)
が成り立つ。

ここで、f(t)M<x<N で微分可能な関数で bn=f(n) となっているとき、先に定義したように
A(x)=0kxak
とおくと
bn+1bn=f(n+1)f(n)=nn+1f(t)dt
かつ
nt<n+1 のとき A(t)=An
なので (1) から
n=M+1Nanf(n)=f(N)A(N)f(M)A(M)MNA(t)f(t)dt
が成り立つ。

左辺は
M<xM+1 となる x に置き換えても変化しない。また
Ny<N+1 となる y に対して
f(y)A(y)f(N)A(N)=(f(y)f(N))A(N)=NyA(t)f(t)dt
である。よって f(t)x<t<y で微分可能な関数ならば
x<nyanf(n)=f(y)A(y)f(x)A(x)xyA(t)f(t)dt
となって、定理2の前段が示された。

M=x,an=1(n=M+1,2,),0(nM) とおくと A(t)=tM で、とくに Mt<x のとき A(t)=0 であるから
x<nyf(n)=(yM)f(y)xy(tM)f(t)dt=yf(y)Mf(x)xytf(t)dt=yf(y)xf(x)xytf(t)dt+xy(tt)f(t)dt
だが
xytf(t)dt=yf(y)xf(x)xyf(t)dt
であるから
x<nyf(n)=(yy)f(y)(xx)f(x)+xyf(t)dt+xy(tt)f(t)dt
が成り立つので、定理2の後段も示される。
とくに 0<x<1 とおくと
nyf(n)=f(1)(yy)f(y)+1yf(t)dt+1y(tt)f(t)dt
となって、yx に置き換えると定理1の関係式となる。

たとえば
1nx1n=logx+xx1xttt2dt,
1nxlognn=log2x+(xx)logxx21x(tt)(logt1)t2dt,
1nxlogn=xlogxx+11xtttdt
が成り立つ。0tt<1 に注意すれば、これらのことから
1nx1n=logx+γ+O(1x),
1nxlognn=log2x+C+O(logxx),
1nxlogn=xlogxx+O(logx)
といった評価が得られる。O記号に関しては、具体的な定数を求めることも難しくはないがやや面倒である。さらに s>1 ならば
x<ny1ns=xxxsyyys+xydttsxys(tt)ts+1dt
であるが、 y+ とすると
n>x1ns=1(s1)xs1+xxxsxs(tt)ts+1dt
となるので
1nx1ns=ζ(s)1(s1)xs1xxxs+xs(tt)ts+1dt=ζ(s)1(s1)xs1+O(1xs)
が成り立つ。

また S を整数の集合で、 x 以下の S の要素の個数を A(x) とすると
A(x)=xlogx+O(xlog2x)
が成り立つとする。このとき R(x)=A(x)x/logx とおくと
nS,nx1n=A(x)x+1xA(t)t2dt=1logx+1log2x+1eA(t)t2dt+exdttlogt+exR(t)dt
となるが
xR(t)dt=O(xdttlog2t)=O(1logx)
なので
C=1eA(t)t2dt+eR(t)dt
とおくと
nS,nx1n=exdttlogt+eR(t)dt+1eA(t)t2dt+1logx+1log2xxR(t)dt=loglogx+C+O(1logx)
となって、S の要素の逆数の和の近似式が得られる。とくに、S が素数全体の集合の場合、素数定理から素数の逆数の和の近似式が得られる。その意味で、上の近似式は素数の逆数の和の近似式(Mertensの第二定理)の一般化である。もちろん、素数の場合には素数定理を使わない、より初等的な証明もある。

参考文献

G. H. Hardy and E. M. Wright, An Introduction to the Theory of Numbers, revised by D.R. Heath-Brown and J.H. Silverman, foreword by Andrew Wiles, 6th ed., Oxford, 2008.

Tom M. Apostol, Introduction to Analytic Number Theory, Undergraduate Texts in Mathematics, Springer, 1976, doi: https://doi.org/10.1007/978-1-4757-5579-4

投稿日:20201128
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