本日は単写像の定義をご紹介します.しばしば単射とも呼ばれます(し,単射の方が一般的に使われているように感じます)が,ぼくの個人的なこだわりについては最後に述べます.
では,まず定義を支える補題から.
写像
(1) 任意の
(2) 任意の
(3) 任意の
写像
しばしば,標語的に単写像を「異なる2点を異なる2点に写す写像」と言います.補題1の条件 (1) ですが,実践的には (1) から (3) のどれもよく使います.
単写像の定義においては,
写像
(1)
(2) 任意の集合
(1)
であり,
(2)
すなわち
定義において重要だった要素の任意性を,集合
条件 (2) は単写像の定義に似ています.実際,次のように定式化すると,単写像であることは写像の集合の間の写像が単写像であると言い換えられることがわかります.
集合
(1)
(2) 任意の集合
は単写像である.
ここまでくると,かえって混迷を深めたような気もします.
しかし,このように書き換えておくことには悪い面ばかりでもないのです.それは圏への一般化が容易な点です.圏では集合とは限らない様々なものを対象として扱います.そしてそれらの間の射を考えます.対象が集合とは限らないのですから,射も写像とは限りません.つまり「単写像の類似物」を定義したいと思っても要素をとることができません.あくまで他の対象と射の関係から「単写像らしきもの」を特徴づけなければならないのです.そして,それが定理2ないし定理3で与えた言い換えによって単射という概念に昇華されているんですね.この違いにこだわりたいので,あえて単写像で通しました.