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単写像の特徴づけ

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定義

本日は単写像の定義をご紹介します.しばしば単射とも呼ばれます(し,単射の方が一般的に使われているように感じます)が,ぼくの個人的なこだわりについては最後に述べます.

では,まず定義を支える補題から.

写像 f:XY に対し,以下の3条件は同値である:
(1) 任意の x1,x2X に対し,x1x2 ならば f(x1)f(x2)
(2) 任意の x1,x2X に対し,f(x1)=f(x2) ならば x1=x2
(3) 任意の yY に対し #f1(y)1,ここで f1(y)={xXf(x)=y}.

単写像

写像 f:XY単写像とは,f が補題1の同値な条件の1つ(したがって全部)を充たすことをいう.

しばしば,標語的に単写像を「異なる2点を異なる2点に写す写像」と言います.補題1の条件 (1) ですが,実践的には (1) から (3) のどれもよく使います.

写像による言い換え

単写像の定義においては,XY が集合であること,すなわちその''要素''がとれることを利用していました.それで何の不満もありませんが,単写像であることを要素を取らずに表現する方法も与えてみましょう.

単写像の写像による言い換え

写像 f:XY に対し,以下は同値である:
(1) f は単写像である;
(2) 任意の集合 Z と写像 gt:ZXt=1,2)に対し,fg1=fg2 ならば g1=g2

(1)(2).任意の zZ に対し,仮定 fg1=fg2 から
f(g1(z))=(fg1)(z)=(fg2)(z)=f(g2(z))
であり,f は単写像なので g1(z)=g2(z).特に g1=g2 である.
(2)(1).背理法による.f が単写像でないとすれば,#f1(y)2 なる yY が存在する.x1,x2f1(y) を相異なるようにとり,1点集合 Z={z} から X への写像 g1, g2:ZXg1(z)=x1, g2(z)=x2 と定めれば,
(fg1)(z)=f(x1)=y=f(x2)=(fg2)(z),
すなわち fg1=fg2.一方 g1g2 なので,(2) に反する.

定義において重要だった要素の任意性を,集合 Z と写像 gt の任意性で置き換えることで,集合と写像のみを用いて単写像という性質が表現できました.

条件 (2) は単写像の定義に似ています.実際,次のように定式化すると,単写像であることは写像の集合の間の写像が単写像であると言い換えられることがわかります.

写像の集合による単写像の言い換え

集合 A から B への写像 AB の全体を Map(A,B) で表す.写像 f:XY に対し,以下は同値である:
(1) f は単写像である;
(2) 任意の集合 Z に対し,f を合成することで得られる写像
Map(Z,X)Map(Z,Y)  ;  gfg
は単写像である.

単写像と単射

ここまでくると,かえって混迷を深めたような気もします.f が単写像であることを述べるのに Map(A,B) なる集合を用意して,その間に誘導される写像が単写像であるなどと言い換えているのですから.素直に f だけ見ていればいいようにも思えます.

しかし,このように書き換えておくことには悪い面ばかりでもないのです.それはへの一般化が容易な点です.圏では集合とは限らない様々なものを対象として扱います.そしてそれらの間の射を考えます.対象が集合とは限らないのですから,射も写像とは限りません.つまり「単写像の類似物」を定義したいと思っても要素をとることができません.あくまで他の対象と射の関係から「単写像らしきもの」を特徴づけなければならないのです.そして,それが定理2ないし定理3で与えた言い換えによって単射という概念に昇華されているんですね.この違いにこだわりたいので,あえて単写像で通しました.

投稿日:20201128
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龍孫江
龍孫江
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代数学(群論・環論・体論)の問題を解説するYouTubeチャンネル「龍孫江の数学日誌」を運営しております(リンクからどうぞ).YouTubeでは扱いきれないまとまった記事を書いていきたいと思います.どうぞご贔屓に.

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