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√a√b=√(ab)は「当たり前」ではない

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$\sqrt{2}\times\sqrt{3}=\sqrt{2\times 3}=\sqrt{6}$や、$\dfrac{\sqrt{6}}{\sqrt{3}}=\sqrt{\dfrac{6}{3}}=\sqrt{2}$のように、根号(ルート)同士の掛け算割り算は、その中身同士の掛け算割り算で計算できる、という事を中学で学ぶ。しかし実数のみ扱う関係で、根号の中身の数は正の数限定であった。
高校の数学IIでは「虚数単位」や「複素数」が登場し、根号の中身に負の数が入ることも認められるようになった。この時、$\sqrt{-2}\times\sqrt{-3}\neq\sqrt{(-2)\times (-3)}$のように、負の数が入る場合は中身の計算はできない。これに対して疑問を持つ人が少なからずいる。それまで「中身同士の計算」で疑問なく計算できていたものが、なぜこれはできないのか?

まず、そもそも「中身同士の計算ができる」こと自体が当たり前のことなどではなく、根号の定義から導かれた性質なのである。

正の数に対する根号

$a>0$のとき、$a$の平方根は正の数と負の数の2つある。
$\sqrt{\mathstrut a}$$a$の平方根のうち、正の数である。

例えば「$4$の平方根」は$2$$-2$の2つ存在するが、「$\sqrt{4}$」が指す数は、このうち正の数である$2$である。
冒頭の事柄が成立するのは、このことを根拠としている。

根号同士の積と商

$a>0,\,b>0$の時、$\sqrt{\mathstrut a}\sqrt{\mathstrut b}=\sqrt{\mathstrut ab},\,\dfrac{\sqrt{\mathstrut a}}{\sqrt{\mathstrut b}}=\sqrt{\mathstrut\dfrac{a}{b}}$

$$ \left(\sqrt{\mathstrut a}\sqrt{\mathstrut b}\right)^2= \left(\sqrt{\mathstrut a}\right)^2\left(\sqrt{\mathstrut b}\right)^2 = ab\;(>0)\\ \left(\frac{\sqrt{\mathstrut a}}{\sqrt{\mathstrut b}}\right)^2= \frac{\left(\sqrt{\mathstrut a}\right)^2}{\left(\sqrt{\mathstrut b}\right)^2} = \frac{a}{b}\;(>0) $$
$\sqrt{\mathstrut a}>0,\,\sqrt{\mathstrut b}>0$なので、$\sqrt{\mathstrut a}\sqrt{\mathstrut b}$$ab$の正の平方根であり、$\dfrac{\sqrt{\mathstrut a}}{\sqrt{\mathstrut b}}$$\dfrac{a}{b}$の正の平方根である。
すなわち、$\sqrt{\mathstrut a}\sqrt{\mathstrut b}=\sqrt{\mathstrut ab},\,\dfrac{\sqrt{\mathstrut a}}{\sqrt{\mathstrut b}}=\sqrt{\mathstrut \dfrac{a}{b}}$

$\sqrt{\mathstrut a}\sqrt{\mathstrut b}$は2乗して$ab$になる正の数だから$\sqrt{\mathstrut ab}$に等しい、というわけだ。
これが見かけ上、根号内同士で掛け算割り算ができる、という形に見える、というだけの話だったのだ。

では、根号内が負である数が含まれる場合どうなるのか。

虚数単位

$i^2=-1$となる特別な数$i$虚数単位と呼ぶ。

複素数

2つの実数$a,\,b$と虚数単位$i$を使って表される$a+bi$という数を複素数と呼ぶ。
この時$a$実部$b$虚部と呼ぶ。
$b\ne0$である複素数を虚数と呼び、さらに$a=0$である虚数を純虚数と呼ぶ。

虚数には正負や大小はない

$b\ne0$である複素数(虚数)は、正負や他の数との大小関係を定義できない。
$i\ne0$は明白で、$i>0,\,i<0$いずれを仮定しても、$-1>0$という矛盾が導かれるからだ。

この虚数単位$i$を導入すると、負の数の平方根について次のように表現できる。

負の数に対する根号

$a>0$のとき、$-a$の平方根は$\sqrt{\mathstrut a}\,i$$-\sqrt{\mathstrut a}\,i$の2つある。
$\sqrt{\mathstrut -a}$はこのうち、$\sqrt{\mathstrut a}\,i$を指す。つまり$\sqrt{\mathstrut -a}=\sqrt{\mathstrut a}\,i$

負の数の平方根は純虚数で、虚部が正のものと負のものがある。根号で表される数は、そのうち虚部が正のものと定めたのである。

さて、ここで先ほどの証明を、$a<0$だったとして読み返してみよう。このとき$\sqrt{a}$は虚数である。
先ほどの注意にも書いたが、虚数に対して正負や大小といったものを定義することはできない。
すると赤字で書いた、「$\sqrt{a}>0$」が成り立たない。
したがってそれ以降の話も成立しないので、それまでの延長で「根号内の計算」という話はできない、という事になる。

これまでの定義に忠実に行くなら、次のような事柄は示せる。

根号内に負の数がある場合の根号同士の積と商

$a,\,b$の一方が正、他方が負である場合、$\sqrt{\mathstrut a}\sqrt{\mathstrut b}=\sqrt{\mathstrut ab}$

$a<0,\,b>0$である場合、$\dfrac{\sqrt{\mathstrut a}}{\sqrt{\mathstrut b}}=\sqrt{\mathstrut\dfrac{a}{b}}$

$$ \left(\sqrt{\mathstrut a}\sqrt{\mathstrut b}\right)^2= \left(\sqrt{\mathstrut a}\right)^2\left(\sqrt{\mathstrut b}\right)^2 = ab\;(<0) $$
これにより、$\sqrt{\mathstrut a}\sqrt{\mathstrut b}$は、負の数$ab$の平方根である。
$\sqrt{\mathstrut a},\,\sqrt{\mathstrut b}$は、一方が正の実数で、他方が「虚部が正の純虚数」なので、
その積$\sqrt{\mathstrut a}\sqrt{\mathstrut b}$は、虚部が正の純虚数である。
したがって、$\sqrt{\mathstrut a}\sqrt{\mathstrut b}=\sqrt{\mathstrut ab}$である。
また$a<0,\,b>0$である場合、$\dfrac{\sqrt{\mathstrut a}}{\sqrt{\mathstrut b}}=\sqrt{\mathstrut a}\times\dfrac{1}{\sqrt{\mathstrut b}}=\sqrt{\mathstrut a}\times\sqrt{\dfrac{1}{\mathstrut b}}=\sqrt{a\times\dfrac{1}{\mathstrut b}}=\sqrt{\mathstrut\dfrac{a}{b}}$

示せることは示せるが、定義4に従って根号内を正に変えて、複素数の計算を行うのとたいして変わらないことをやっているため、実際に計算する際にはその方法を取ったほうが間違えずに済む。

まとめ

「当たり前」に思えた根号同士の掛け算割り算も、定義の裏付けあっての計算法則であるので、前提である「根号の中身が正」以外の状況では使えないことに注意しよう。

投稿日:20201129

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