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Abelの総和公式とその使用例 (Kroneckerの補題)

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本記事では,Abelの総和公式という,数列の積の和を変形する方法を紹介し,その使用例としてKroneckerの補題を示します.

Abelの総和公式

Abelの総和公式とは,数列の積の和を変形する方法であり,部分積分の和バージョンです.

Abelの総和公式

数列(an)nN(bn)nNについて,An=k=1nak(nN)とすると
k=1nakbk=Anbnk=1n1Ak(bk+1bk)
が成り立つ.

これは部分積分と似ています.

部分積分

連続関数f(x)C1級関数g(x)について,F(x)f(x)の原始関数とすると
αβf(x)g(x)dx=[F(x)g(x)]x=αx=βαβF(x)g(x)dx
が成り立つ.

A0=0とし,数列の差分をΔbn=bn+1bnと書くことにして,Abelの総和公式を

k=1nakbk=[Akbk]k=0k=nk=1n1AkΔbk

と書くと,(添字の対応がやや不自然ですが) 部分積分にそっくりであることがわかります.
関数f(x)の原始関数F(x)が数列anの和Anに,関数g(x)の微分g(x)が数列bnの差分Δbnに対応しています.

Abelの総和公式は簡単な計算で示すことができます.

Abelの総和公式の証明

A0=0とすれば,任意のkNak=AkAk1であるから,
k=1nakbk=k=1n(AkAk1)bk=k=1n(AkbkAk1bk1+Ak1bk1Ak1bk)=k=1n(AkbkAk1bk1)k=1nAk1(bkbk1)=Anbnk=1n1Ak(bk+1bk)
となる.
最後の行ではA0=0であることを用いた.

部分積分が積分の値を求めたり積分の収束性を示すときに何かと役に立つように,Abelの総和公式も和や級数についての命題を示すときに不思議と役に立ちます.

以下では,Abelの総和公式の使用例として,級数についての命題であるKroneckerの補題を示します.

使用例 (Kroneckerの補題)

Kroneckerの補題は,確率論において大数の強法則を示すためによく用いられる命題です.
確率論で用いられる命題とはいっても内容は完全に微分積分の範疇です.

Kroneckerの補題

数列(an)nN(bn)nNがあり,(bn)nNbn>0(nN)で単調非減少かつlimnbn=を満たすとする.
もしlimnk=1nakbkが収束するならば,
limn1bnk=1nak=0である.

結論に出てくる1bnk=1nakは,仮定に出てくるk=1nakbkを見れば1bnk=1nak=1bnk=1nakbkbkと変形したくなるでしょう.
このように積の和に変形すればAbelの総和公式の出番です.

An:=k=1nakbk(nN)A0=0とする.
Abelの総和公式を用いることで,
1bnk=1nak=1bnk=1nakbkbk=1bn(Anbnk=1n1Ak(bk+1bk))=An1bnk=1n1Ak(bk+1bk)
となる.

いまlimnAn=:Aが存在するので,limn1bnk=1nak=0を示すにはlimn1bnk=1n1Ak(bk+1bk)=Aを示せばよい.

数列(bn)nNは単調非減少よりbk+1bk0であるから,
|1bnk=1n1Ak(bk+1bk)A|=|1bnk=1n1Ak(bk+1bk)1bnA(bnb1)b1bn|=|1bnk=1n1Ak(bk+1bk)1bnAk=1n1(bk+1bk)b1bn|=|1bnk=1n1(AkA)(bk+1bk)b1bn|1bnk=1n1|AkA|(bk+1bk)+b1bn
となる.

ϵ>0を任意にとる.
limnAn=Aであるから,NNが存在して,任意のnN|AnA|<ϵとなる.
よって,n>N
1bnk=1n1|AkA|(bk+1bk)=1bn(k=1N1|AkA|(bk+1bk)+k=Nn1|AkA|(bk+1bk))<Cbn+1bnk=Nn1ϵ(bk+1bk)(C:=k=1N1|AkA|(bk+1bk)とおいた)=Cbn+ϵbn(bnbN)=ϵ+Cbn(C:=CϵbNとおいた)
となり,limnbn=であるから,
lim supn|1bnk=1n1Ak(bk+1bk)A|lim supn(ϵ+C+b1bn)=ϵ
となる.
ϵ>0は任意であったからlimn1bnk=1n1Ak(bk+1bk)=Aであることが示され,
したがってlimn1bnk=1nak=0であることが示された.

ちなみに,この命題は積分についても全く同じものが成り立ちます.

積分版のKroneckerの補題

x0で定義された関数f(x)φ(x)があり,f(x)は連続,φ(x)C1級で,φ(x)>0(x0)で単調非減少かつlimxφ(x)=であるとする.
もしlimx0xf(t)φ(t)dtが収束するならば,
limx1φ(x)0xf(t)dt=0である.

定義域や積分の下端が0であることに特に意味はなく,任意の実数で置き換えてよいです.
また,f(x)φ(x)についての仮定はもっと落とせるかもしれませんが,議論を簡単にするためにこのように置いています.

この命題は,級数のときの証明においてAbelの総和公式を使うところを部分積分に置き換えることで,級数のときと全く同じようにして示すことができます.

F(x)=0xf(t)φ(t)dt(x0)とおく.
部分積分を用いることで,
1φ(x)0xf(t)dt=1φ(x)0xf(t)φ(t)φ(t)dt=1φ(x)([F(t)φ(t)]0x0xF(t)φ(t)dt)=F(x)1φ(x)0xF(t)φ(t)dt
となる.
いまlimxF(x)=:Aが存在するので,limx1φ(x)0xf(t)dt=0を示すには
limx1φ(x)0xF(t)φ(t)dt=Aを示せばよい.

φ(x)は単調非減少よりφ(x)0であるから,

|1φ(x)0xF(t)φ(t)dtA|=|1φ(x)0xF(t)φ(t)dt1φ(x)A(φ(x)φ(0))φ(0)φ(x)|=|1φ(x)0xF(t)φ(t)dt1φ(x)A0xφ(t)dtφ(0)φ(x)|=|1φ(x)0x(F(t)A)φ(t)dtφ(0)φ(x)|1φ(x)0x|F(t)A|φ(t)dt+φ(0)φ(x)
となる.

ϵ>0を任意にとる.
limxF(x)=Aであるから,R>0が存在して,任意のxR|F(x)A|<ϵとなる.
よって,xRで,
1φ(x)0x|F(t)A|φ(t)dt=1φ(x)(0R|F(x)A|φ(t)dt+Rx|F(t)A|φ(t)dt)<Cφ(x)+1φ(x)Rxϵφ(t)dt(C:=0R|F(x)A|φ(t)dtとおいた)=Cφ(x)+ϵφ(x)(φ(x)φ(R))=ϵ+Cφ(x)(C:=Cϵφ(R)とおいた)
となり,limxφ(x)=であるから
lim supx|1φ(x)0xF(t)φ(t)dtA|lim supx(ϵ+C+φ(0)φ(x))=ϵ
となる.
ϵ>0は任意であったからlimx1φ(x)0xF(t)φ(t)dt=Aであることが示され,
したがってlimx1φ(x)0xf(t)dt=0であることが示された.

級数と積分の証明を比べると,級数では添字の範囲がややこしかったりしますが,積分では積分範囲が変わらなかったりφ(x)を積分してφ(x)に戻ることが一目でわかったりと,積分の方が少しわかりやすいのではないでしょうか (慣れの問題かもしれませんが).
そのため,Abelの総和公式が使えそうな命題を示すときには,まずわかりやすい積分の方で方針を立ててから級数の方で示す,という方法が使えるかもしれません.

おわりに

Abelの総和公式を紹介し,それが部分積分と似ていることを示し,その使用例としてKroneckerの補題を示しました.

なお,本記事ではAbelの総和公式を極限や積分と絡めて紹介しましたが,
高校数学の美しい物語 さんでは,Abelの総和公式を用いた,純粋な和についての面白い不等式がいくつか紹介されています.

投稿日:2020122
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fumyuu
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数学見習い。解析がすき。

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