本記事では,Abelの総和公式という,数列の積の和を変形する方法を紹介し,その使用例としてKroneckerの補題を示します.
Abelの総和公式とは,数列の積の和を変形する方法であり,部分積分の和バージョンです.
数列
が成り立つ.
これは部分積分と似ています.
連続関数
が成り立つ.
と書くと,(添字の対応がやや不自然ですが) 部分積分にそっくりであることがわかります.
関数
Abelの総和公式は簡単な計算で示すことができます.
となる.
最後の行では
部分積分が積分の値を求めたり積分の収束性を示すときに何かと役に立つように,Abelの総和公式も和や級数についての命題を示すときに不思議と役に立ちます.
以下では,Abelの総和公式の使用例として,級数についての命題であるKroneckerの補題を示します.
Kroneckerの補題は,確率論において大数の強法則を示すためによく用いられる命題です.
確率論で用いられる命題とはいっても内容は完全に微分積分の範疇です.
数列
もし
結論に出てくる
このように積の和に変形すればAbelの総和公式の出番です.
Abelの総和公式を用いることで,
となる.
いま
数列
となる.
よって,
となり,
となる.
したがって
ちなみに,この命題は積分についても全く同じものが成り立ちます.
もし
定義域や積分の下端が
また,
この命題は,級数のときの証明においてAbelの総和公式を使うところを部分積分に置き換えることで,級数のときと全く同じようにして示すことができます.
部分積分を用いることで,
となる.
いま
となる.
よって,
となり,
となる.
したがって
級数と積分の証明を比べると,級数では添字の範囲がややこしかったりしますが,積分では積分範囲が変わらなかったり
そのため,Abelの総和公式が使えそうな命題を示すときには,まずわかりやすい積分の方で方針を立ててから級数の方で示す,という方法が使えるかもしれません.
Abelの総和公式を紹介し,それが部分積分と似ていることを示し,その使用例としてKroneckerの補題を示しました.
なお,本記事ではAbelの総和公式を極限や積分と絡めて紹介しましたが,
高校数学の美しい物語
さんでは,Abelの総和公式を用いた,純粋な和についての面白い不等式がいくつか紹介されています.