双複素解析入門 第3回
今回は,前回のべき等元分解の定理を使って双複素数をべき等元分解表示,計算をします.まず,前回で紹介していなかった性質を紹介します.定理の名前から,$e,e^{\dagger}$がべき等元であることはわかりそうですが,改めて紹介することにします.
$$e^2=e,{e^{\dagger}}^2=e^{\dagger}.$$
では,計算していきましょう.
(1)\begin{align*} Z&=(1+2i)+j(-1+3i)\\ &=\{(1+2i)-i(-1+3i)\}e+\{(1+2i)+i(-1+3i)\}e^{\dagger}\\ &=(4+3i)e+(-2+i)e^{\dagger}. \end{align*}
(2)\begin{align*} W&=Z^2\\ &=\{(4+3i)e+(-2+i)e^{\dagger}\}\{(4+3i)e+(-2+i)e^{\dagger}\}\\ &=(4+3i)^2e^2+2(4+3i)(-2+i)ee^{\dagger}+(-2+i)^2{e^{\dagger}}^2\\ &=(4+3i)^2e+(-2+i)^2e^{\dagger}. \end{align*}
例を確認するとわかるかもしれませんが,べき等元分解をすると$e,e^{\dagger}$が非常に良い性質をもっているため,$n$乗の計算が楽になります.
$Z=(z_{1}-iz_{2})e+(z_{1}+iz_{2})e^{\dagger},W=(w_{1}-iw_{2})e+(w_{1}+iw_{2})e^{\dagger}\in \mathbb{BC}$に対して,
\begin{align*}
&Z+W&=&(z_{1}-iz_{2}+w_{1}-iw_{2})e+(z_{1}+iz_{2}+w_{1}+iw_{2})e^{\dagger},\\
&ZW&=&(z_{1}-iz_{2})(w_{1}-iw_{2})e+(z_{1}+iz_{2})(w_{1}+iw_{2})e^{\dagger}.
\end{align*}
となる.さらに,$n \in \mathbb{N}$に対して,
$$Z^n=(z_{1}-iz_{2})^ne+(z_{1}+iz_{2})^ne^{\dagger}$$
が成り立つ.
今回はここまでにします.ありがとうございました。次回は,この$e,e^{\dagger}$を用いて零因子について考察を行います.