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正の数のべき乗根の存在性

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この記事は Math Advent Calender 2020 の $4$ 日目の記事として作成しました。本来は作成の予定ではなかったのですが、記事の連鎖を切らせてしまうのも惜しいと思い飛び入りで記事を作成しています。内容のレベルはいわゆる Tips です。

今回の記事の目標は次の命題を証明することです。この記事では、実数体は連続性公理を満たす順序体とします。また、$\mathbb{N}$ を自然数全体の集合、$\mathbb{R}$ を実数体、$\mathbb{R}_{> 0}$ を正の実数の全体のなす集合とします。

任意の $a \in \mathbb{R}_{>0}, n \in \mathbb{N}$ に対して, $a$$n$ 乗根 $a^{\frac{1}{n}}$ が存在する。ここで, $a$$n$ 乗根とは, $n$ 乗して $a$ となる非負の実数とする。

この定理は例えば連続関数 $y = x ^n$ に対して中間値の定理を適用することで証明できるのですが、今回は連続性公理を使って証明します。

さて、証明の前に、この記事を書こうと思った理由を挟んでおきます。ここでこの話を挟むのは、それが真上で書いた「連続性公理を用いる」という方針を取った動機そのものだからです。
ある時、自分が復習のためにある解析の教科書、その序盤の数列の個所を読んでいて「$n$ 乗根を取る数列 $\{ a^{\frac{1}{n}}\}$ 」に関する記載がありました。ふと「$n$ 乗根ってどういう定義だっけか」と思い調べてみると、次の連続関数の章になって、べき乗根の存在が上記のように中間値の定理を用いて示されていました。しかし、そうなると「$n$ 乗根をとる数列」の存在をいうのに連続関数の章まで待たなければなりません。それは嫌ですし、その気になれば連続性公理から証明できるのではないかとも思えました。そして実際に証明ができたのですが、証明を見直してみると文章量はそれほど大きいものではありませんでした。それで「それならいつかなにかの時にネタにしよう」と思っていたのですが、丁度何かを書く機会が今日あったので今回記事を書いたという次第です。

それでは証明をします。

$\mathbb{R}$ の部分集合 $L, U$ を次のように定義する。
$$L := \{x \in \mathbb{R} \mid x < 0 \ または、 \ x \geq 0 \ でかつ \ x ^{n} < a \}$$
$$U := \{x \in \mathbb{R} \mid x \geq 0 \ でかつ \ x^{n} \geq a \}$$

この時, 組 $(L, U)$$\mathbb{R}$ の切断である。このことを確かめるには次の $3$ つを示せばよい。

  1. $L, U$ はともに空でない

  2. $L, U$ は交わりを持たず、その和は $\mathbb{R}$ となる

  3. 勝手な $x \in L, \ y \in U$ に対して $x < y$ が成り立つ

  1. $L$ については $0 \in L$ からわかる。 $U$ については、もしこれが空であったとすると、集合の定義文から
    $$x \geq 0 \implies x ^{n} < a$$ が成り立つ。よって $a$ は 集合 $A := \{ \nu ^{n} \mid \nu \in \mathbb{N} \}$ の上界である。自然数は $n$ 乗によって自身以上になるので、勝手な自然数 $\nu_{0}$ に対して、 $\nu_{0} \leq y$ を満たす $A$ の元 $y$ が存在する。これから、 $a$$\mathbb{N}$ の上界となるが、 これはアルキメデスの原理(連続性公理から導出できる)に反する。よって $U$ も空でない。

  2. このことは、 $2$ つの集合の命題が両立せず、またこの $2$ つの命題で実数のすべての場合がつくされることからわかる。

  3. $x \in L, y \in U$ とする。$x < 0$ なら $x < 0 \leq y$ から結論が従う。
    $x \geq 0$ なら $x^{n} < a \leq y^{n}$ である。よって $n = 1$ ならこれで証明が終わり、 $n > 1$ 、ここから得られる式
    $$0 < y^{n} - x^{n} = (y - x)(y^{n-1} + y^{n-2}x + \cdots + yx^{n-2} + x^{n-1})$$ において第 $2$ のかっこ内の式が正だから(2. から x = y = 0 は起こりえない。$x, y$ の少なくとも一方は正である)、不等式の両辺をこれで割って同じく結論が従う。

さて、$(L, U)$$\mathbb{R}$ は実数の切断である。よって連続性公理から $L$ の最大値か, $U$ の最小値が存在する。

今、まず $L$ に最大値が存在しないことを示す。つまり、任意の $x \in L$ に対して、適当な $y \in L$ が存在して $x < y$ となることを示す。$0$ があるので負の数は検討する必要はない。

まず、$L$ の元 $x_{0} \geq 0$ をとり、数列 $\{c_{m}\}$$c_{m} := (x_{0} + \frac{1}{m})^{n} - x_{0}^{n}$ とする。この $c_{m}$$0$ に収束し、またすべての番号について正の値をとる。よってこれから、ある自然数 $N$ があって、勝手な $i \geq N$ に対して
$$0 < c_{i} = |c_{i} - 0| < a - x_{0}^{n}$$
が成り立つ。特に $i = N$ として
$$0 < (x_{0} + \frac{1}{N})^{n} - x_{0}^{n} < a - x_{0}^{n}$$ が成り立つ。よって $y = x_{0} + \frac{1}{N}$ と置けば、この $y$$x_{0}^{n} < y^{n} < a$ を満たす元、つまり求める元である。

よって、$L$ に最大値が存在しないので $U$ の最小値が存在する。これを $\alpha$ とおく。今この $\alpha$$a < \alpha^{n}$ とはなりえないことを示す。$\alpha$ が仮にそのようになったとして矛盾を導く。

論証は先ほどとほとんど同じである。数列 $\{d_{m}\}$$d_{m} := \alpha^{n} - (\alpha - \frac{1}{m})^{n}$ とおく。すると、この数列は $0$ に収束し、十分大きな番号について正の値をとる。実際、アルキメデスの原理より、$\frac{1}{\alpha}$ を超える自然数が存在するので、その自然数より大きい勝手な自然数 $m$ について、不等式 $0 < \alpha - \frac{1}{m} < \alpha$ が成り立つ。よって両辺 $n$ 乗しても不等式が変わらず、このような $m$ について $d_{m} > 0$ が従う。

さて、これよりある自然数 $N$ があって、勝手な $i \geq N$ に対して
$$0 < d_{i} = |d_{i} - 0| < \alpha^{n} - a$$ が成り立つ。特に $i = N$ として
$$0 < \alpha^{n} - (\alpha - \frac{1}{N})^{n} < \alpha^{n} - a$$ が成り立つ。よって $z := \alpha - \frac{1}{N}$ とおけば、この $z$$a < z^{n} < \alpha^{n}$ となり、最小値とした $\alpha$ より小さい。これは不合理である。

よって最小値 $\alpha$$\alpha^{n} = a$ を満たす。これは $U$ の元なので非負であることもよい。よって主張が言えた。

最後にいくつか補足をしておきます。証明で存在を示した $\alpha$ は非負としましたが、 $0$ は何乗しても正にはならないので、実際には $\alpha > 0$ です。また、$n$ 乗根は一意です。$\alpha$, $\beta$$a$$n$ 乗根だったとして、
$$0 = \alpha^{n} - \beta^{n} = (\beta - \alpha)(\beta^{n-1} + \beta^{n-2}\alpha + \cdots + \beta\alpha^{n-2} + \alpha^{n-1})$$
なので、証明中にやったように積の第二因子でわることで $\alpha = \beta$ が導出できます。

以上でこの記事を終わります。誤植やコメント等ありましたらぜひお寄せください。

投稿日:2020124
更新日:721
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