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双複素数環における零因子

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双複素解析入門 第4回

前回,$\mathbb{BC}$の中の零因子かつべき等元$e,e^{\dagger}$を用いて双複素数の計算を行いました.今回はこの零因子たちを用いて$\mathbb {BC}$の零因子について考えます.

双複素数環の零因子の集合

0を除く双複素数環の零因子の集合を$\mathfrak{S}$とし,
$$\mathfrak{S}_{0}=\mathfrak{S} \cup\{0\}$$
と定義する.

さて,どんな双複素数が零因子となるでしょうか?いくつか例を見てみましょう.

次の双複素数が零因子であることを確かめよ.
  1. $Z=1+i-j+ij$ $\hspace{10mm}$(2) $W=2+i+j-2ij$
  1. $Z'=1-ij$とすると,$Z' \neq0$であり,
    \begin{align*} ZZ'&=(1+i-j+ij)(1-ij)\\ &=1-ij+i+j-j-i+ij-1\\ &=0 \end{align*}
    となる.

  2. $W'=1+ij$とおくと,$W' \neq 0$であり,
    \begin{align*} WW'&=(2+i+j-2ij)(1+ij)\\ &=2+2ij+i-j+j-i-2ij-2\\ &=0 \end{align*}
    となる.

これらの双複素数にはどんな共通点があるかを考えてみましょう.前回紹介した,べき等元分解表示をしましょう.それぞれべき等元分解をすると,
$$Z=(2+2i)e,W=(4+2i)e^{\dagger}$$
となります.2つの例だけでは気が付きにくいかもしれませんが,$Z,W$はそれぞれ$e$もしくは$e^{\dagger}$の係数が0になっていますね.つまり,べき等元分解を行ったときの$e$の係数と$e^{\dagger}$の係数の積が$0$になるということです.これこそが双複素数環の零因子の特徴です.

双複素数環の零因子の集合は次の等式を満たす:
$$\mathfrak{S}_{0}=\{Z=(z_{1}-iz_{2})e+(z_{1}+iz_{2})e^{\dagger} \in \mathbb{BC}\ |\ (z_{1}-iz_{2})(z_{1}+iz_{2})=0\}.$$

集合の条件を整理すると,次のように書き直すこともできます.
$$\mathfrak{S}_{0}=\{Z=z_{1}+jz_{2} \in \mathbb{BC}\ |\ {z_{1}}^2+{z_{2}}^2=0\}.$$

(i) 任意に$Z \in \mathfrak{S}_{0}$をとる.このとき,$ZW=0$となる$W=w_{1}+jw_{2} \neq 0\in \mathbb{BC}$が存在する.このとき,
$$ZW=(z_{1}w_{1}-z_{2}w_{2})+j(z_{1}w_{2}+z_{2}w_{1})=0,$$
つまり,
\begin{cases} z_{1}w_{1}-z_{2}w_{2}=0\\ z_{1}w_{2}+z_{2}w_{1}=0 \end{cases}
となり,行列表示すると,
$\left[ \begin{array}{ccc} z_{1} & -z_{2}\\ z_{2} & z_{1} \end{array}\right] \left[ \begin{array}{c} w_{1}\\ w_{2} \end{array}\right]=\bf{0}$
が成り立つ.$W \neq 0$より,この連立方程式は非自明な解をもつ.よって係数行列の行列式が$0$になるので,
${z_{1}}^2+{z_{2}}^2=0$
が成り立つ.
(ii)任意に$Z \in \{Z=z_{1}+jz_{2} \in \mathbb{BC}\ |\ {z_{1}}^2+{z_{2}}^2=0\}$をとる.このとき,${z_{1}}^2+{z_{2}}^2=(z_{1}+jz_{2})(z_{1}-jz_{2})=Z(z_{1}-jz_{2})=0$なので,$W=z_{1}-jz_{2} \neq 0$とすれば,$ZW=0$より,$Z \in \mathfrak{S}_{0}$であることがわかる.
以上の(i),(ii)より,主張は成り立つ.

双複素数の零因子の形は$e$もしくは$e^{\dagger}$の複素数倍になっていることから次の定理を得ることができます.

$$\mathbb{C}e=\{ae \in \mathbb{BC}\ |\ a \in \mathbb{C}\},$$
$$\mathbb{C}e^{\dagger}=\{be^{\dagger} \in \mathbb{BC}\ |\ b \in \mathbb{C}\}$$
とすると,次が成り立つ:
$$\mathfrak{S}_{0}=\mathbb{C}e \cup \mathbb{C}e^{\dagger},\mathbb{C}e \cap \mathbb{C}e^{\dagger}=\{0\}.$$

一般の環は零因子の構造が複雑になりますが,双複素数環においては比較的良い構造を持っていると思えますね.

今回はここまでにします.ありがとうございました.

投稿日:2020125

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まい.
まい.
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大学院修士課程まで主に解析数論(素数定理周り)の研究をしていました。今はデータサイエンス関連の仕事をしています。Xでは大学数学入門資料を投稿してます。

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