高校数学の定積分において「6分の1公式」と呼ばれる公式があり、知っているひとが多いと思います。教科書にもコラム的な場所に掲載してあったと思います。
実数$\alpha$, $\beta$に対して,
$$\int_\alpha^\beta(x-\alpha)(x-\beta)dx=-\frac{(\beta-\alpha)^3}{6}$$
証明は、次に一段階拡張したものを紹介するのでそれと同じ、またはそれを証明して変数に値を代入して証明したことにします。
この公式は、直線と放物線、または放物線ともうひとつの放物線に囲まれた面積を求める際に計算が楽になるというものです。
6分の1公式以外にも、30分の1公式とかがありますが、それも後の公式の特殊なケースとして割愛します。
あの公式を一段階拡張します。場合によって「ベータ関数の公式」と呼ばれます。
実数$\alpha$, $\beta$と$0$以上の整数$m$, $n$に対して,
$$\int_\alpha^\beta(x-\alpha)^m(\beta-x)^ndx=\frac{m!n!}{(m+n+1)!}(\beta-\alpha)^{m+n+1}$$
■ 証明
$\alpha\neq\beta$のとき
$$(\textrm{左辺})=\int_\alpha^\beta(x-\alpha)^m(\beta-x)^ndx$$
$x\longmapsto (\beta-\alpha)x+\alpha$とすると
$$=(\beta-\alpha)^{m+n+1}\int_0^1x^m(1-x)^ndx$$
ここで, ベータ関数の性質
$0$以上の整数$m$, $n$に対して,
$$\int_0^1x^m(1-x)^ndx=\frac{m!n!}{(m+n+1)!}$$
より,
$$=\frac{m!n!}{(m+n+1)!}(\beta-\alpha)^{m+n+1}=(\textrm{右辺})$$
$\alpha=\beta$のとき
$$(\textrm{左辺})=\int_\alpha^\alpha(x-\alpha)^m(\beta-x)^ndx=0$$
$$(\textrm{右辺})=0$$
よって示された.
高校数学範囲内でも、$m$回(または$n$回)部分積分を施せばベータ関数を知らなくとも示すことができます。
そしてわたしは、あの形よりもこっちの形の方が好きです。
実数$\alpha$, $\beta$と$0$以上の整数$m$, $n$に対して,
$$\int_\alpha^\beta(x-\alpha)^m(x-\beta)^ndx=\frac{(-1)^nm!n!}{(m+n+1)!}(\beta-\alpha)^{m+n+1}$$
こっちの形ならば、6分の1公式と$x$の「向き」が揃っているので6分の1公式と比較しやすいと思います。実際に、$m=1$, $n=1$としてみましょう。
$$\frac{(-1)^1(\beta-\alpha)^{1+1+1}1!1!}{(1+1+1)!}=-\frac{(\beta-\alpha)^3}{6}$$
たしかに、示すことができました。
一段階拡張したこの公式は、教科書にも恐らく載っておらず6分の1公式よりは無名ですが、知っているひとは知っているといった感じだと思います。実際、覚えておいて得になったかと言われたら微妙ですからね。
実際に計算していてオシイということがあったので、もう一段階拡張しました。
まず「オシ」かった計算とは、次のような積分です:
$$\int_0^2x(x-1)(x-2)dx$$
これは例が雑なので$(x-1)$を展開して公式を使えばいいんですが、このように「余計な因数」がついてしまうと先程の公式が使えなくなってしまいます。そこで作った公式がこちらです。
$0$でない実数$\alpha$, $\beta$と$0$以上の整数$p$, $q$, $r$に対して,
$$\int_0^\alpha x^p(x-\alpha)^q(x-\beta)^rdx=\frac{(-1)^q\alpha^{p+q+r+1}}{q+1}\sum_{k=0}^r\frac{(-1)^k\,_rC_k}{\,_{q+1}H_{p+r-k+1}}\left(\frac{\beta}{\alpha}\right)^k$$
$\alpha$または$\beta$が$0$ならばわざわざこの公式を使う必要はありませんよね。
■証明
二項定理より,
\begin{align}
(\textrm{左辺})&=\int_0^\alpha x^p(x-\alpha)^q\sum_{k=0}^r\binom{r}{k}x^{r-k}(-\beta)^kdx\\&=\sum_{k=0}^r\binom{r}{k}(-\beta)^k\int_0^\alpha x^{p+r-k}(x-\alpha)^q\sum_{k=0}^rdx
\end{align}
先程のベータ関数の公式より,
$$=\sum_{k=0}^r\binom{r}{k}(-\beta)^k\cdot\frac{(-1)^q(p+q-k)!q!}{(p+q+r-k+1)!}\alpha^{p+q+r-k+1}$$
整理すると,
$$=(-1)^q\alpha^{p+q+r+1}\sum_{k=0}^r\frac{(-1)^k\,_rC_k}{(q+1)\,_{p+r-k+1}C_{q+1}}\left(\frac{\beta}{\alpha}\right)^k$$
$$=\frac{(-1)^q\alpha^{p+q+r+1}}{q+1}\sum_{k=0}^r\frac{(-1)^k\,_rC_k}{\,_{q+1}H_{p+r-k+1}}\left(\frac{\beta}{\alpha}\right)^k=(\textrm{右辺})$$
よって示された.
もちろんこの公式を使って拡張する前の公式を示すこともできます。
$$\int_\alpha^\beta(x-\alpha)^m(\beta-x)^ndx=\frac{m!n!}{(m+n+1)!}(\beta-\alpha)^{m+n+1}$$
$x-\alpha\longmapsto t$とすれば,
$$=\int_0^{\beta-\alpha}t^m(t+\alpha-\beta)^n$$
公式において$p\longmapsto m$, $q\longmapsto n$, $r\longmapsto 0$, $\alpha\longmapsto\beta-\alpha$, $\beta\longmapsto B$とすると$(\alpha\neq\beta,\,B<0,\,\beta-\alpha< B)$,
$$=\frac{(-1)^n(\beta-\alpha)^{m+n+0+1}}{n+1}\cdot\frac{(-1)^0\,_0C_0}{\,_{m+0-0+1}H_{n+1}}\left(\frac{B}{\beta-\alpha}\right)^0$$
$$=\frac{(-1)^n(\beta-\alpha)^{m+n+1}}{n+1}\cdot\frac{m!(n+1)!}{(m+n+1)!}$$
$$=\frac{m!n!}{(m+n+1)!}(\beta-\alpha)^{m+n+1}$$
あまり拡張という感じはしませんが、こうして示せてしまうので拡張であるということにしてあります。
最後に、実際に使ってみましょう。
$y=x^3-x$の正の部分と$x$軸に囲まれた面積を、$x$軸を軸に回転してできる立体の体積を求めよ.
■解答
$$\pi\int_0^1(x^3-x)^2dx=\pi\int_0^1x^2(x-1)^2(x+1)^2dx$$
$$=\pi\cdot\frac{(-1)^2\cdot 1^{2+2+2+1}}{2+1}\sum_{k=0}^2\frac{(-1)^k\,_2C_k}{\,_{2+2-k+1}H_{2+1}}\left(\frac{-1}{1}\right)^k$$
$$=\frac{\pi}{3}\sum_{k=0}^2\frac{\,_2C_k}{\,_{5-k}H_3}=4\pi\sum_{k=0}^2\frac{(4-k)!}{k!(2-k)!(7-k)!}$$
$$=4\pi\left(\frac{4!}{0!2!7!}+\frac{3!}{1!1!6!}+\frac{2!}{2!0!5!}\right)=\frac{8\pi}{105}$$
最後の計算は約分でたくさん消えるのでそんなに苦ではないですが、何より計算ミスの多発が免れないです。──そういう意味ではあの公式に実用性があるとは言いづらいでしょう。
一般化はロマンです。一般化の式のツイートにいいねがよくつく理由がより実感できたと思います。今回は目立つ収穫はありませんが、実用的でなくとも、一般化したときにその式が何を意味していたのかがより分かりやすくなって現れることがあります。そもそも、実用性にこだわっていたら真に数学が楽しめないですからね。