この記事では
$$\begin{eqnarray}
\int_0^{\pi/2}\frac{x}{\sin x}~dx=2\sum_{0\leq n}\frac{(-1)^n}{(2n+1)^2}
\end{eqnarray}$$
という等式を証明したいと思います. まず,
$$\begin{eqnarray}
\lim_{x\to 0}\frac{x}{\sin x}=1
\end{eqnarray}$$
で, 被積分関数は区間$[0,\pi/2]$上で有界なので, 積分はちゃんと絶対収束しています. しかし, 見た目的に$\sin x$が逆数にあると厄介そうですね, そこで, 次のように考えます.
$$\begin{eqnarray}
\frac{1}{\sin x}=2i\frac{1}{e^{ix}-e^{-ix}}
\end{eqnarray}$$
これはよく知られた三角関数を指数関数で表すものです, これをどう使うのかというと, 次のように等比級数のように変形します.
$$\begin{eqnarray}
\frac{1}{e^{ix}-e^{-ix}}&=&\frac{e^{-ix}}{1-e^{2ix}}\\
&=&\sum_{0\leq k}e^{-i(2k+1)x}
\end{eqnarray}$$
これで, あとは項別に部分積分で,
$$\begin{eqnarray}
\int_0^{\pi/2}xe^{-i(2k+1)x}~dx=\frac{\pi}2\frac{(-1)^k}{2k+1}-\frac{1}{(2k+1)^2}-i\frac{(-1)^k}{(2k+1)^2}
\end{eqnarray}$$
と計算すればヨシ!と思ったかもしれません, しかし上の変形には問題があります.それは実数$x$に対し,
$$\begin{eqnarray}
\sum_{0\leq k}e^{-i(2k+1)x}
\end{eqnarray}$$
が収束していないということです.どうやら等比級数が収束するのは絶対値が$1$より小さいことが必要である, ということを見落としていたようですね.しかし,この方法で計算してみると,
$$\begin{eqnarray}
\int_0^{\pi/2}\frac{x}{\sin x}~dx&=&2i\sum_{0\leq k}\left(\frac{\pi}2\frac{(-1)^k}{2k+1}-\frac{1}{(2k+1)^2}-i\frac{(-1)^k}{(2k+1)^2}\right)\\
&=&2\sum_{0\leq n}\frac{(-1)^n}{(2n+1)^2}+i\left(\pi\sum_{0\leq n}\frac{(-1)^n}{2n+1}-2\sum_{0\leq n}\frac{1}{(2n+1)^2}\right)
\end{eqnarray}$$
となって, この実部を考えれば, 示すべき結果が得られます.
なぜ発散する級数を用いてもうまくいっているのでしょうか,その理由を考えるために,次の有限和を考えます.
$$\begin{eqnarray}
2i\sum_{k=0}^{n-1}e^{-i(2k+1)x}&=&2i\frac{e^{-ix}(1-e^{-2inx})}{1-e^{-2ix}}\\
&=&\frac{1-e^{-2inx}}{\sin x}
\end{eqnarray}$$
これに$x$をかけてから項別積分して,
$$\begin{eqnarray}
\int_0^{\pi/2}\frac{x(1-e^{-2inx})}{\sin x}~dx&=&2i\sum_{k=0}^{n-1}\int_0^{\pi/2}xe^{-i(2k+1)x}~dx\\
&=&2\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^k}{(2k+1)^2}+i\left(\pi\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(-1)^k}{2k+1}-2\sum_{k=0}^{n-1}\frac{1}{(2k+1)^2}\right)
\end{eqnarray}$$
ここから$n\to\infty$とすると, 右辺はさきほどの計算に一致します.
$$\begin{eqnarray}
\int_0^{\pi/2}\frac{x(1-e^{-2inx})}{\sin x}~dx&=&\int_0^{\pi/2}\frac{x}{\sin x}~dx-\int_0^{\pi/2}\frac{xe^{-2inx}}{\sin x}~dx
\end{eqnarray}$$
この第2項が$n\to\infty$で$0$に収束すれば, さきほどの収束性を無視した計算が正当化されることがわかります.つまり,
$$\begin{eqnarray}
\lim_{n\to\infty}\int_0^{\pi/2}\frac{xe^{-2inx}}{\sin x}~dx=0
\end{eqnarray}$$
となることが示せればよいのですが,これは性質が良い関数なら成り立ちます. それが次の定理です.
$f$が有界閉区間$[a,b]$上で滑らかな関数であるとき,
$$\begin{eqnarray}
\lim_{z\to\pm \infty}\int_a^bf(x)e^{-izx}~dx=0
\end{eqnarray}$$
実際にはもっと一般的な形で定理が成り立ちますが,ここでは上の条件の場合について証明しておきます.
部分積分により,
$$\begin{eqnarray}
\lim_{z\to\pm\infty}\left|\int_a^bf(x)e^{-izx}~dx\right|&\leq &\lim_{z\to\pm\infty}\frac 1{|z|}\left|f(a)e^{-iza}-f(b)e^{-izb}\right|+\lim_{z\to\pm\infty}\frac 1{|z|}\left|\int_a^bf'(x)e^{-izx}~dx\right|\\
&\leq&\lim_{z\to\pm\infty}\frac 1{|z|}\int_a^b|f'(x)e^{-izx}|~dx\\
&=&\lim_{z\to\pm\infty}\frac 1{|z|}\int_a^b|f'(x)|~dx=0
\end{eqnarray}$$
さて, これを用いれば,
$$\begin{eqnarray}
f(x):=\frac{\sin x}{x}=\sum_{0\leq n}\frac{(-1)^nx^{2n}}{(2n+1)!}
\end{eqnarray}$$
として, $f$は滑らかで, $[0,\pi/2]$上に零点を持たないから,$1/f$は$[0,\pi/2]$上で滑らかである.(これは商の微分公式よりわかる)よって,
$$\begin{eqnarray}
\lim_{n\to\infty}\int_0^{\pi/2}\frac{xe^{-2inx}}{\sin x}~dx=0
\end{eqnarray}$$
であることが分かり, 示したい式の証明が完了しました.ついでに
$$\begin{eqnarray}
\int_0^{\pi/2}\frac{x}{\sin x}~dx&=&2\sum_{0\leq n}\frac{(-1)^n}{(2n+1)^2}+i\left(\pi\sum_{0\leq n}\frac{(-1)^n}{2n+1}-2\sum_{0\leq n}\frac{1}{(2n+1)^2}\right)
\end{eqnarray}$$
の虚部を考えることにより,
$$\begin{eqnarray}
\sum_{0\leq n}\frac 1{(2n+1)^2}=\frac{\pi}2\sum_{0\leq n}\frac{(-1)^n}{2n+1}
\end{eqnarray}$$
であることが分かり, 有名な級数,
$$\begin{eqnarray}
\sum_{0\leq n}\frac{(-1)^n}{2n+1}=\frac{\pi}{4}
\end{eqnarray}$$
をもちいることによって,
$$\begin{eqnarray}
\sum_{0\leq n}\frac 1{(2n+1)^2}=\frac{\pi^2}{8}
\end{eqnarray}$$
を得ることもできます.