これからは単位円$(|z|=1)$について書こうと思います.単位円の何がよいかというと円周上の点$A(a)$において$\overline{a}=\displaystyle \frac{1}{a}$が成り立つので全体的に計算が複雑になりにくいことが挙げられます.単位円でなかったら$a$と$\overline{a}$は区別しなければなりませんからね.また,以後,先ほどの関係式$\overline{a}=\displaystyle \frac{1}{a}$は断りなく使い,単位円$|z|=1$を$\omega$とします.
よく使う定理を使う頻度順(主観)に挙げます.証明も書きますがさらっと流すよりは完全に理解してから次に進んだほうがいいと思います.では行きましょう.
$\omega$上の異なる2点$A,B$において直線$AB$の方程式は$z+ab\overline{z}=a+b$
$a+b\ne0$のとき
直線$AB$の方程式を$pz+q\overline{z}=1$として$z=a,b$を代入して
$pa+\displaystyle \frac{q}{a}=1,pb+\displaystyle \frac{q}{b}=1$
を得る.この2式より$p=\displaystyle \frac{1}{a+b},q=\displaystyle \frac{ab}{a+b}$だからこれらをもとの方程式に代入して分母を払うと $z+ab\overline{z}=a+b$ が得られる.
これは$a+b=0$のときも成り立っている.証明終了.
$\omega$上の点$A$における接線の方程式は$z+a^2\overline{z}=2a$
$\omega$上の2点$a,-a$を通る直線の方程式は定理1より$z-a^2\overline{z}=0$である.
$\omega$上の点$A$における接線はこれに垂直だからその方程式は$z+a^2\overline{z}=p$とおける.
$z=a$を代入して$p=2a$が得られるから求める方程式は
$z+a^2\overline{z}=2a$ である.証明終了.
$\omega$に内接する三角形$ABC$について$C$から$AB$への垂線の方程式は$z-ab\overline{z}=c-\displaystyle \frac{ab}{c}$
$AB$の方程式は定理1より$z+ab\overline{z}=a+b$だからそれに垂直な直線の方程式は
$z-ab\overline{z}=p$とおける.この式に$z=c$を代入して$p=c-\displaystyle \frac{ab}{c}$が得られるから,求める方程式は
$z-ab\overline{z}=c-\displaystyle \frac{ab}{c}$ である.証明終了.
$\omega$に内接する三角形$ABC$について$C$から$AB$へ下した垂線の足の座標は$\displaystyle \frac{1}{2}(a+b+c-\displaystyle \frac{ab}{c})$
定理1,3の式を連立して$z$を求めると得られる.証明終了.
$\omega$上の点$A$と$\omega$上にない点$P$について
直線$AP$と$\omega$の交点のうち$A$でないほうの座標は$\displaystyle \frac{a-p}{a\overline{p}-1}$
直線$AP$と$\omega$の交点のうち$A$でないほうを$X$とすると,直線$AX$の方程式は定理1より$z+ax\overline{z}=a+x$であり,$z=p$はこれを満たすから,$p+ax\overline{p}=a+x$
$x$について解いて$x=\displaystyle \frac{a-p}{a\overline{p}-1}$ これが求める座標である.証明終了.
点$P$は$\omega$上にないので$\overline{p}=\displaystyle \frac{1}{p}$とはなりません.$\overline{p}$のままです.
$\omega$に内接する三角形$ABC$の垂心の座標は$a+b+c$
$B$から$AC$への垂線の方程式は定理3より$z-ac\overline{z}=b-\displaystyle \frac{ac}{b}$
同様に$c$から$AB$への垂線の方程式は $z-ab\overline{z}=c-\displaystyle \frac{ab}{c}$
2式より$z=a+b+c$を得る.証明終了.
$\omega$に内接する三角形$ABC$の重心の座標は$\displaystyle \frac{1}{3}(a+b+c)$
重心は外心と垂心を結ぶ線分を$1:2$に内分するという有名な事実より明らかである.
こいつらは複素座標で問題を解くうえで最もベーシックな道具になります.
では,練習問題といきましょう.
円に内接する六角形$ABCDEF$がある.辺$AB$と辺$DE$が平行であり,辺$BC$と辺$EF$が平行であるとき,辺$CD$と辺$FA$も平行であることを示せ.$(JJMO2011 1)$
円に内接する五角形$A_1,A_2,A_3,A_4,A_5$があり,辺$A_3A_4,A_4A_5,A_5A_1,A_1A_2,A_2A_3$の中点をそれぞれ$M_1,M_2,M_3,M_4,M_5$とし,三角形$A_5A_1A_2,A_1A_2A_3,A_2A_3A_4,A_3A_4A_5,A_4A_5A_1$の垂心をそれぞれ$H_1,H_2,H_3,H_4,H_5$とする.このとき,五角形$M_1M_2M_3M_4M_5$と五角形$H_1H_2H_3H_4H_5$は相似であることを示せ.
四角形$ABCD$に点$O$を中心とする円が内接している.対角線$AC,BD$の中点をそれぞれ
$M,N$としたとき,$OM:ON=OA\cdot OC:OB\cdot OD$を示せ.($JMO2011$予選$ 11$改題)
鋭角三角形$ABC$において,外心を$O$,垂心を$H$とする.また,$O$を通り直線$BC$に平行な直線と辺$AB,AC$との交点をそれぞれ$P,Q$とし,線分$AH$の中点を$M$とする.このとき,$\angle BMP=\angle CMQ$を示せ.$(JJMO2016 4)$
鋭角三角形$ABC$があり,その外心を$O$とする.3点$A,B,C$から対辺に下ろした垂線の足をそれぞれ$D,E,F$とし,さらに辺$BC$の中点を$M$とする.直線$AD$と直線$EF$の交点を$X$,直線$AO$と直線$BC$の交点を$Y$とし,線分$XY$の中点を$Z$とする.このとき3点$A,Z,M$が同一直線上にあることを示せ.$(JMO2017 3)$
三角形$ABC$の外心を$O$,垂心を$H$とし,直線$AB,BC$上に点$D,E$を,$BC=BE=CD$を満たすようにとる.直線$BE,CD$の交点を$K$とするとき,直線$AK,OH$は直線$BC$上で交わることを示せ.$(peppers 5/7)$
$ABCD$は円$\omega$に内接する四角形であり,$P$は直線$AC$上の点であって,直線$PB$および直線$PD$は$\omega$に接する.$\omega$の点$C$での接線は直線$PD$と点$Q$で交わり,$AD$と点$R$で交わる.直線$AQ$と$\omega$の交点のうち$A$でない方を$E$とする.このとき,3点$B,E,R$は同一直線上にあることを示せ.$(APMO2013 5)$
鋭角三角形$ABC$がある.$A$から$BC$におろした垂線の足を$D$,$BC$の中点を$M$,三角形$ABC$の垂心を$H$とする.三角形$ABC$の外接円$\Gamma$と半直線$MH$の交点を$E$とし,直線$ED$と円$\Gamma$の交点のうち$E$でない方を$F$とする.このとき$\displaystyle\frac{BF}{CF}=\frac{AB}{AC}$が成り立つことを示せ.$(APMO2012 4)$
今回は実践多めでした.peppersが複素で解けるのは楽しいですね.今後もpeppersはちょいちょい登場する予定です.次回は残された五心である内心,傍心,また円周角の定理を複素数で表現する方法を書きます.
それでは,お疲れさまでした.