三角関数の倍角の公式と三倍角の公式 $$\begin{eqnarray} \cos2\theta&=&2\cos^2\theta\\ \cos3\theta&=&4\cos^3\theta-3\cos\theta\end{eqnarray}$$の右辺はいずれも$\cos\theta$の多項式となっている。
つまり、 $$\begin{eqnarray} T_2(x)&=&2x^2-1\\ T_3(x)&=&4x^3-3x\end{eqnarray}$$とすると $$\begin{eqnarray} T_2(\cos\theta)&=&2\cos^2\theta-1\\ &=&\cos2\theta\\ T_3(\cos\theta)&=&4\cos^3\theta-3\cos\theta\\ &=&\cos3\theta\end{eqnarray}$$となる。 これは一般化できる。
$0$以上の整数$k$に対し、ある多項式$T_k(x)$が存在して $$\begin{eqnarray} T_k(\cos\theta)=\cos k\theta\end{eqnarray}$$ が成立する。
この多項式$T_k(x)$をチェビシェフ多項式と呼ぶ。
この記事では上の事実を証明し、チェビシェフ多項式の漸化式と母関数を導出する。
上の$T_k(x)$は第一種チェビシェフ多項式と呼ばれるもので、$\sin\theta$についても同様の事実が成り立ちそちらは第二種チェビシェフ多項式と呼ばれる。
上の定理を漸化式を用いて証明しよう。
加法定理から $$\begin{eqnarray} \cos(k+1)\theta&=&\cos k\theta\cos\theta-\sin k\theta\sin\theta\\ \cos(k+2)\theta&=&\cos k\theta\cos2\theta-\sin k\theta\sin2\theta\\\end{eqnarray}$$となる。
第一式の両辺を$2\cos\theta$倍して$\sin2\theta=2\sin\theta\cos\theta$を用いると
$$\begin{eqnarray}
2\cos\theta\cos(k+1)\theta&=&2\cos k\theta\cos^2\theta-2\sin k\theta\sin\theta\cos\theta\\
&=&2\cos k\theta\cos^2\theta-\sin k\theta\sin2\theta\end{eqnarray}$$となり、二式の差をとることで $$\begin{eqnarray}
\cos(k+2)\theta-2\cos\theta\cos(k+1)\theta
&=&\cos k\theta\cos2\theta-2\cos k\theta\cos^2\theta\\
&=&\cos k\theta(2\cos^2\theta-1)-2\cos k\theta\cos^2\theta\\
&=&-\cos k\theta\end{eqnarray}$$ となる。 よって、 $$\begin{eqnarray}
\cos(k+2)\theta=2\cos\theta\cos(k+1)\theta-\cos k\theta\end{eqnarray}$$となり、$\cos0\theta=1, \cos1\theta=\cos\theta$であることから$k$について帰納的に$\cos k\theta$が$\cos\theta$の多項式であることが従う。
証明終。
証明で得られた多項式を$T_k(x)$と書くと、上の漸化式は $$\begin{eqnarray}
T_{k+2}(\cos\theta)=2\cos\theta T_{k+1}(\cos\theta)-T_k(\cos\theta)\end{eqnarray}$$であり、これを$x$についての式にすることでチェビシェフ多項式の漸化式
$$\begin{eqnarray}
T_{k+2}(x)=2xT_{k+1}(x)-T_k(x)\end{eqnarray}$$が得られる。
$T_0(x)=1, T_1(x)=x$であるので、 $$\begin{eqnarray} T_2(x)&=&2x\times x-1\\ &=&2x^2-1\\ T_3(x)&=&2x(2x^2-1)-x\\ &=&4x^3-3x\end{eqnarray}$$ となる。
これは冒頭に述べた倍角、三倍角の公式である。
上で導いた漸化式を用いて、チェビシェフ多項式の母関数を求めよう。以下では、$T_k(x)$の$(x)$は省略する。漸化式を整理して
$$\begin{eqnarray}
T_{k+2}-2xT_{k+1}+T_k=0\end{eqnarray}$$と書く。
母関数は$t$を形式的な変数として $$\begin{eqnarray}
F(t)=T_0+T_1t+T_2t^2+T_3t^3+\cdots\end{eqnarray}$$により定義される形式的な冪級数である。これを漸化式を用いてより簡単な形に変形する。
$$\begin{eqnarray}
F(t)&=&T_0&+&T_1t&+&T_2t^2&+&T_3t^3&+&\cdots\\
2xtF(t)&=&~&&2xT_0t&+&2xT_1t^2&+&2xT_2t^3&+&2xT_3t^4&+&\cdots\\
t^2F(t)&=&~&&~&&T_0t^2&+&T_1t^3&+&T_2t^4&+&T_3t^5+\cdots\\\end{eqnarray}$$となるので、第一式から第二式を引いて第三式を足すと
$$\begin{eqnarray}
(1-2xt+t^2)F(t)&=T_0+(T_1-2xT_0)t+(T_2-2xT_1+T_0)t^2+(T_3-2xT_2+T_1)t^3+\cdots\end{eqnarray}$$となる。ここで$T_k$の漸化式を用いることで$t^2$以上の項は全て$0$になり、$$\begin{eqnarray}
(1-2xt+t^2)F(t)&=&T_0+(T_1-2xT_0)t\\
&=&1-tx\end{eqnarray}$$となる。これを整理して
$$\begin{eqnarray} F(t)=\frac{1-tx}{1-2xt+t^2}\end{eqnarray}$$
となることがわかった。
次回はチェビシェフ多項式が満たす微分方程式を導く。