この記事では円分体$K=\Q(\z)$の最大実部分体こと実円分体$\k=K\cap\R=\Q(\z+\z^{-1})$の整数環と判別式を導出する。
ここで$\z$は$1$の原始$n$乗根$\z_n$としたいが、一般の自然数$n$については色々と煩雑になるのでこの記事では$n=p$ (奇素数)とする。また簡単のため$\dis m=\frac{p-1}{2}$とおく。
いま$\k$の整数環$\O_\k=\k\cap\ol\Z$について
$\O_\k=\Z[\z+\z^{-1}]$
が成り立ち、またその判別式$D_\k$については
$D_\k=p^{\frac{p-3}{2}}$
が成り立つ。
定義から直接導出する。(またはゴリ押すともいう。)
$\z^k+\z^{-k}\;(k=1,2,\ldots,m)$は$\OK$の整数底となる。
$\O\kk=\k\cap\ol\Z=(K\cap\R)\cap\ol\Z=(K\cap\ol\Z)\cap\R=\Z[\z]\cap\R$なので$\Z[\z]$の元が実数となる条件を調べる。
($K\cap\ol\Z=\Z[\z]$については
この記事
参照)
任意の$\a\in\Z[\z]$に対して$\a=\sum^{p-1}_{k=1}a_k\z^k$なる整数$a_k$が取れて、このとき$\a$が実数であるためには$\a-\ol\a=0$、$\z^{-(p-k)}=\z^{k}$に注意するとつまり$\sum^{p-1}_{k=1}(a_k-a_{p-k})\z^k=0$であればよい。
よって$a_{p-k}=a_k$であり$\a=\sum^{(p-1)/2}_{k=0}a_k(\z^k+\z^{p-k})=\sum^{(p-1)/2}_{k=0}a_k(\z^k+\z^{-k})$と表せれるので主張を得る。
さて最終的には$(\z+\z^{-1})^k\;(k=1,2,\ldots,m)$が$\OK$の整数底となることを示したい。
つまり$\z^k+\z^{-k}$から$(\z+\z\em)^k$への変換行列、ひいてはその逆(逆行列)が行列式の絶対値が$1$の整数行列となることを確かめればよい。
$\z^k+\z^{-k}$は$(\z+\z\em)$の$k$次整数係数多項式として表せれ、特に$(\z+\z\em)^k$の係数は$1$である。
$\z^k+\z^{-k}=(\zcos)(\z^{k-1}+\z^{-(k-1)})-(\z^{k-2}+\z^{-(k-2)})$
に注意すると数学的帰納法から示せる。
いま補題3から
$\begin{pmatrix}\z+\z^{-1}\\\z^2+\z^{-2}\\\vdots\\\z^m+\z^{-m}\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}1&&&\huge{*}\\&1&&\\&&\ddots&\\0&&&1\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}\zcos\\(\zcos)^2\\\vdots\\(\zcos)^m\end{pmatrix}$
と対角成分が全て$1$の上三角整数行列が得られたので定理1を得る。
多少の行間に以下の事実を用いたことを一応触れておく。
$\zcos$は$\OK$の単数である。
$\dis\frac{1}{\zcos}=\frac{\z-\z^{-1}}{\z^2-\z^{-2}}=\frac{\z^{p+1}-\z^{-(p+1)}}{\z^2-\z^{-2}}=\sum^{m}_{k=0}\z^{2k}\z^{-2(m-k)}\in\O_K\cap\R=\k$
より主張を得る。(ここでやっていることは
この記事
の補題4と同じである。)
さて$\OK=\Z[\zcos]$の整数底は$(\zcos)^k\;(k=0,1,2,\ldots,m-1)$であり、$\zcos$の共役元は$K$の共役写像から$\z^{k}+\z^{-k}\;(k=1,2,\ldots,m)$であることがわかるので$\k$の判別式$D_\k$は
$D_\k=\det(\big((\z^j+\z^{-j})^{i-1}\big)_{i,j\leq m})^2$と表せれる。
$\dis\Big|\det((\z^j+\z^{-j})^{i-1})\Big|=2^{m(m-1)}\prod^m_{k=1}\sin^{m-1}(\frac{\pi k}{p})$
以下簡単のため$\theta=\frac{\pi}{p}$とおく。
$\zcos=2\cos(2\t)$に注意するとVandermondeの行列式から
$\dis\Big|\det((\z^j+\z^{-j})^{i-1})\Big|
=\prod_{1\leq i< j\leq m}2(\cos(2i\t)-\cos(2j\t))
\\\dis=\prod_{1\leq i< j\leq m}4\sin((j-i)\t)\sin((j+i)\t)$
となる。
いま
なので$\dis\prod_{1\leq i< j\leq m}\sin((j+i)\t)=\prod^m_{k=1}\sin^{k-1}(k\t)$を示したい。
また$\dis\prod_{1\leq i< j\leq m}\sin((j+i)\t)=\prod^{m-1}_{i=1}\prod^{m+i}_{k=2i+1}\sin(k\t)$および$\sin(k\t)=\sin(\pi-k\t)=\sin((p-k)\t)$に注意すると、
$1\leq k\leq m$に対して不等式
または
の自然数解$i$がちょうど$k-1$個あることを示せばよい。
不等式$(1)$は$k-m\leq i\leq \frac{k-1}{2}$と変形でき、
$k$の取り方に注意するとその解は$i=1,2,\ldots,\big\lfloor\frac{k-1}{2}\big\rfloor$の$\big\lfloor\frac{k-1}{2}\big\rfloor$個ある。
($k=1,2$において不等式に解はないが結局個数としては一致する。)
不等式$(2)$は$m-k+1\leq i\leq m-\frac{k}{2}$と変形でき、
$\big\lfloor m-\frac{k}{2}\big\rfloor=m-\big\lfloor\frac{k+1}{2}\big\rfloor=m-\big\lfloor\frac{k-1}{2}\big\rfloor-1$に注意するとその解は
$(m-\big\lfloor\frac{k-1}{2}\big\rfloor-1)-(m-k+1)+1=k-\big\lfloor\frac{k-1}{2}\big\rfloor-1$個ある。
(これも$k=1$において不等式に解はないが結局個数としては一致する。)
以上より不等式$(1)$または$(2)$を満たす解の個数は
$\big\lfloor\frac{k-1}{2}\big\rfloor+(k-\big\lfloor\frac{k-1}{2}\big\rfloor-1)=k-1$個であることがわかり主張を得る。
任意の奇数$n=2l+1$について$\dis\prod^{l}_{k=1}\sin(\frac{\pi k}{n})=\frac{\sqrt{n}}{2^l}$
$\dis\prod^{l}_{k=1}\sin(\frac{\pi k}{n})=\prod^l_{k=1}\sin(\farc{\pi(n-k)}{n})=\prod^{n-1}_{k=l+1}\sin(\frac{\pi k}{n})$より
$\dis\left(\prod^{l}_{k=1}\sin(\frac{\pi k}{n})\right)^2=\prod^{n-1}_{k=1}\sin(\frac{\pi k}{n})$なのでこれが$\dis\frac{n}{2^{n-1}}$になることを示せばよい。
いま
$\dis\prod^{n-1}_{k=1}\sin(\frac{\pi k}{n})=\prod^{n-1}_{k=1}\frac{e^{\farc{i\pi k}{n}}-e^{-\farc{i\pi k}{n}}}{2i}=(-\frac{1}{2i})^{n-1}e^{-\frac{i\pi}{n}\sum^{n-1}_{k=1}k}\prod^{n-1}_{k=1}(1-\z_n^k)
\\\dis=(\frac{ie^{-\frac{i\pi}{2}}}{2})^{n-1}(x^n-1)'|_{x=1}=\frac{n}{2^{n-1}}$
なので主張を得る。
補題5,6より
$\dis D_\k=\Big|\det((\z^j+\z^{-j})^{i-1})\Big|^2=2^{2m(m-1)}\left(\prod^m_{k=1}\sin(\frac{\pi k}{p})\right)^{2(m-1)}
\\\dis=2^{2m(m-1)}(\frac{\sqrt{p}}{2^m})^{2(m-1)}=p^{m-1}=p^{\frac{p-3}{2}}$
を得る。
ちなみに一般の自然数$n$についての実円分体の判別式は次のようになるらしい。
$D_\k=\left\{ \begin{array}{ll}2^{(m-1)2^{m-2}-1}&(n=2^m\geq8のとき) \\p^{\frac12(mp^m-(m+1)p^{m-1}-1)}&(n=p^m,2p^mのとき) \\\dis\frac{n^{\frac{\varphi(n)}{2}}}{\prod_{p|n}p^{\frac{\varphi(n)}{2(p-1)}}}&(それ以外のとき) \end{array}\right.$
出典: 円分体の最大実部分体の整数環について - 山縣幸司 (命題 12)
これは全て私が自力で導出した証明法であって、実際にはもっとスマートな解決策があるのだと思います。もしそういったものを知っている人がいれば教えて下さるとありがたいです。