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カタラン予想(ミハイレスクの定理)の特別な場合の証明

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この記事は Math Advent Calender 2020 の 10 日目の記事として作成しました。飛び入りその 2 です。内容のレベルはいわゆる Tips です。数学のレベルとしては高校数学です。

カタラン予想(2012 年にミハイレスクさん(Preda Mihăilescu、ルーマニア)という数学者によって解決)という予想がありました。まずその予想(定理)の紹介から始めます。

方程式
xmyn=1 (x,y,m,n>1)
を満たす自然数の組は (x,y,m,n)=(3,2,2,3) に限る。

つまり、3223=98=1 が唯一の解ということです。自然数のべき乗としてあらわされる 2 つの数の差が 1 になるのはどういう場合か、という問題への解答がこの定理です。 1 より真に大きいという条件がなければ自明に無数の解が取れます(例えば m=n=1 として差が 1 になる自然数すべてがこれの解になる)。

さて、この元の問題自体はミハイレスクの解決まで未解決だったのですが、カタランによる問題の提出以前にいくつかの特殊化が確認・証明されています。例えば指数を m=2,n=3 と固定した方程式 x2y3=1 の自然数解が (x,y)=(3,2) のみであることはオイラーによって証明がなされています。

今回は、この問題の「底を固定した特殊化」を考え、その解答を与えます。つまり、以下の命題を証明します。

方程式
3m2n=1
の自然数解は (m,n)=(1,1),(2,3) に限る。

解に (1,1) を含めているので厳密には元の問題の特殊化ではありませんが、なるべく命題として自然になることを優先しました。

それでは証明をします。

まず、 mn の場合を検討する。
この時、
1=3m2n3n2n1 なので, 3n=2n+1 である。もし n2 であれば、(ni):=n!(ni)! i! を二項係数として、
3n=(2+1)n=i=0n(ni)2i>2n+1 なので、この場合ではありえない。
一方、 n=1 であれば、この時 3m2n=1 から m=1 であり、実際 3121=1 なので、これは解である。
よって、この場合は解 (m,n)=(1,1) が得られる。

次に、m<n の場合を検討する。(m,n)=(2,3)3223=1 なので求める解である。これ以外の解が存在しないことを背理法を用いて示す。以降、(m,n)(2,3) でない解とする。m=1,2 ではありえないので, m>2 、よって n>3 である。

さて、 3m2n=3223 から、 32(3m21)=23(2n31) である。よってある有理数 k を用いて、以下のように書ける。

  1. 3m2=8k+1
  2. 2n3=9k+1

式 2. から式 1. を引いて k=2n33m2 である。m>2,n>3 なので、これより k は整数である。もし k=0 であれば式 1. より、m=2 となり不合理である。k<0 であれば、同じく 式 1. より 3m2<0 となり不合理である。よって k は自然数である。

今、式 1. から、m が偶数であることがわかる。
実際、この式の両辺の 4 での剰余を見ると、右辺は常に 1 である。一方、左辺は (1)m2=(1)m に合同である。よって m は偶数である。

また、式 2. から n3 の倍数であることもわかる。
まず、両辺の 3 での剰余を見ると、先ほどと同様に、右辺は常に 1 であるが、左辺は (1)n3=(1)n+1 に合同であるから、n は奇数である。n>3 と合わせて、n32 が従う。
次に、両辺の 9 での剰余を見る。すると、右辺は常に 1 である。一方左辺は n が奇数であることと、(n32 だから)展開項が 3 つ以上現れることを心にとめると
2n3=(3+(1))n3=i=0n3(n3i)3i(1)(n3)ii=01(n3i)(3)i に合同である。最後の展開項は、計算すると、(3)(n3)+1 であり、これが 1 に合同であるのは n3 の倍数であるときそのときに限る。

さて、よってこれから、 m,n は適当な自然数 μ,ν を用いて m=2μ,n=3ν とそれぞれかける。これを始めの式に当てはめると、
3m2n=9μ8ν=1 という表示が得られる。この最後の等号から、μ が奇数であることがわかる。実際、μ が偶数だったとして、 等式 9μ=8ν+1 において、10 での剰余を考える。すると、左辺は常に 1 になるが、右辺がこの値に合同になることはない(8 のべきの 10 による剰余は 0 にならない)。よって μ は奇数である。

ここで、再度式 3m2n=1 に返る。m=3 は解になりえないので、m>3 としてよい。
3m を以下のように変形する。m>3 なので展開項は少なくとも 5 つ現れる。
3m=(2+1)m=i=0m(mi)2i=1+m2+m(m1)222+(m3)23+16K=1+2m2+8(m3)+16K

変形の最後に現れた Ki=4m(mi)2i24=16 で割ったものである。
今、3m=2n+1 なので、
2n=2m2+8(m3)+16K つまり
2n3=μ2+(m3)+2K となる。(m3) が偶数であることに注意せよ。実際、
(m3)=m(m1)(m2)6 であり、m は偶数なので分子は少なくとも 2 つ素因数 2 を持つが、分母は 1 つしか素因数 2 を持っていない。
今、等式 2n3=μ2+(m3)+2K をみると、左辺は n>3 より偶数である。一方右辺は上記の (m3) に関する注意と μ が奇数であることから奇数である。これは不合理であり、それゆえこの場合については (m,n)=(2,3) が唯一の解である。

以上によってこの方程式の解は (m,n)=(1,1),(2,3) のみであることが示された。

最後に、せっかくなのでこの問題に自分が取り組むに至った経緯を書いておきます。
中学の2年生くらいの時に「本格的な数学の本を読んでみたい」と思い、大きめの本屋に足を運びました。その際に選んだのは「オイラー博士の素敵な数式」という本でした。非常に面白い本で、何度も見返して読んでいたのですが、その巻末の脚注の 1 つに記載されていたのがこの命題でした。カタラン予想の本題の方は手も足も出なかったので、「指数固定版」と「底固定版(今日のメインの命題)」に取り組んでいました。
指数固定版はしばらく考えていたのですが、結局中学・高校のうちには解決できませんでした。最終的に大学に入って、この命題に a+b3 の形の整数を使うことで証明が与えられることを何かの本で読んで、指数固定版への挑戦は終わりました。証明を読んだときに自分では全く思いつかない方針にショックを受けたのを覚えています。
今回の底固定版についても、指数固定版同様挑戦してはさじを投げというのを繰り返していたのですが、高校のある時におもむろに証明ができました。以来記録だけ取ってほっておいたのですが、今回また記事を書く機会があり、蔵出しと称して書き記しておくことにしました。人目に触れる機会があろうとは思いませんでした。書いたことで、よりよい証明の仕方や、ひょっとしたら証明の間違いが見つかるかもしれないなと思っています。

誤植やご意見等ございましたらぜひお寄せください。

(2023.02.11追記)
その後、ゆーのさんという方から、コメントにてより良い証明の方針及び一般化をご教示いただきました。
こちらもぜひご覧ください。
ゆーのさん、どうもありがとうございました。

投稿日:2020129
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