導入
可換環論で、可換アルティン環についての次のような定理はよく知られています:
主定理
を可換アルティン環とすると、ある有限個の可換アルティン局所環が存在してはと環として同型である。
アティマクなどでも出てきますが、よくある証明はイデアル論的で分かって気になれません。が加群の直既約分解の言葉を使えばすぐに証明できるるので、それを紹介することが目的です。
もったいぶらずに証明を書いて、後で用語や準備を説明することにします。
を左加群として直既約分解するとと冪等元を用いて書け、は直既約かつ長さ有限加群なので、Fittingの補題によりその自己準同型環は局所環だが、今が可換なのでであり、しかも上の直和分解はと環の直積分解を与えている。よってはアルティン局所環の有限直積である。
素イデアルや次元論など何も使う必要がなくて簡単ですね。
準備
まず加群論から準備をします。
Fittingの補題と局所環
Fittingの補題
を環(非可換でもよい)、を長さ有限加群とする。このとき、が直既約ならば、自己準同型環は局所環である。
任意に自己準同型があると、という上昇列とという下降列があり、長さ有限性からこれが有限でとまることを使うと、「が非同型であることと冪零であることが同値」がすぐに従う。
よっては可逆元の集合と冪零元の集合との和集合になる。このことと次の補題からは局所環である。
環が可逆元の集合と冪零元の集合との和集合になるとき、は局所環である、つまり極大左イデアルが一つしか存在しない。
局所環の特徴づけの一つ「任意の元に対して、とのいずれかは可逆元である」ことを示す(
局所環の特徴づけの記事
参照、暇があればこの部分だけ証明を後で書きます)。
実際、が非可逆とする。すると仮定によりあるが存在してとなる。このとき、がの逆元なことが容易に示される。
環の加群としての直和分解と冪等元
実は「環の加群としての直和分解を考えることと、の冪等元分解を与えることは同値」という重要な事実があります。今回に使う形に述べると次のようになります。
環の左加群としての(内部)直和分解が与えられていたとする。このとき、あるの冪等元を用いてとかけ、とくにという直和分解が存在する。さらにが可換環の場合は、はの部分環であり(ただし単位元は保たれない)、上の直和分解は環の直積分解を与えている。
について、直和分解によりでとなるような元が取れる。このとき、
という計算ができるが、は左部分加群なことからであり、よって直和になっていることから、と、についてはが成り立つ。特には冪等元である。
このとき実はが成り立つ。実際右辺は左辺に明らかに含まれるが、左辺の元を取ると、
となるが、となことから、直和分解なことよりが成り立つ。よってである。
以上のことからであり、という直和分解が存在することが分かった。さらにここでが可換だと仮定する。このときはの積で閉じている。実際、任意のについて
となる。この積は上の演算を定めるが、がこの単位元であることも同じように計算して分かる。またがもともと結合的・分配的だったことを思い出せば、は単位元を持つ環になっている。
最後に直和分解が実は環の直積分解を与えていることを示す。このことは、の元とについて、
という計算から分かる(可換性と、との積がでとなり、ではゼロになることを使った)。
さてあと一歩です。次は上で出てきたという形の自己準同型環についての次の命題が重要です。
可換環の冪等元について、写像をを「を右から掛ける」という左加群の自己準同型で定義すると、は環同型を与える。
容易に確かめられる(圏論を知っている人は米田の補題である)。
上の命題では簡単のためを可換としましたが、上の命題は非可換でも成立し、とという環が反同型になります。
主定理の証明
ほとんど証明は終わっていますが、もう一度主定理とその証明をきちんと書くことにします。
を可換アルティン環とすると、ある有限個の可換アルティン局所環が存在してはと環として同型である。
「アルティン環はネーター環である」という有名な定理を認める。とは左加群とみて長さ有限である。よって、長さの有限性(アルティン性やネーター性だけでも十分)から、左加群としての直和分解
であって各が直既約左加群であるようなものが存在する。ここで命題4により、対応する冪等元が存在し
と分解され、しかもこの分解は環の直積分解
である。
一方、補題2によりは局所環だった。しかし命題5を使うとは環としてと同型なので、上の各は局所環である。
最後にがアルティン環なことを観察して証明を終わる。いまは加群としては(アルティン加群の部分加群なので)アルティン加群である。一方、の部分加群は部分加群に自動的になる。実際、をとると、の任意の元に対して、
が成り立つ。よっては加群とみてもアルティンなことが分かる。よってはアルティン環である。
まとめ・感想
- 「環の直和分解と冪等元分解が対応している」ことは加群を扱うときに非常に重要で基本的であり、それとFittingを使えばほとんどすぐに主定理が証明できる。
- 可換環やってる人も非可換環を使うと便利なので非可換の枠組みでやってみましょう(可換環だけ考えているときでも、とくに加群の自己準同型環を取ると自然に非可換環が出てきます)。