19

アイゼンシュタインによる平方剰余相互法則の証明について

1995
2

はじめに

この文章では、平方剰余の相互法則について、アイゼンシュタインによる三角関数を用いた方法を紹介する。また、この証明中に出てくる特徴的な等式と、ドミノタイリングの総数を表示する公式との奇妙な類似について触れる。この文章は 日曜数学のアドベントカレンダー の10日目の記事です。昨日はキグロさんの ネジの山の形について でした。

平方剰余の相互法則について

平方剰余記号について

平方剰余記号

奇素数ppで割れない整数aに対して、平方剰余記号(あるいはルジャンドル記号)と呼ばれる記号(ap)を次のように定める:
(ap)={1   (x2a(modp) が解を持つ)1   (x2a(modp) が解を持たない)
が成り立つ。

平方剰余の相互法則について

平方剰余の相互法則

p,lを奇素数とする。このとき
(lp)=(1)p12l12(pl)
が成り立つ。

証明の前に

ここから相互法則の証明を行なっていくが、その前に特に強調したい等式について書いておく。それは次のようなものである:

目標とする数式

(lp)=4(p1)(l1)4i=1l12j=1p12(cos22πipcos22πjl)

この式は平方剰余の値が三角関数の特殊値によって決まるという点で興味深いが、ひとたびこの等式が証明されれば平方剰余の相互法則はほぼ自明である。実際この等式でplを入れ替えれば、左辺は(pl)となるが、右辺は(lp)(1)p12l12倍に他ならない。したがって証明の目標はこの等式を導くことである。

奇妙な類似

この等式は平方剰余とは無関係に思えるドミノタイリングの総数に関する公式と奇妙な類似がある。正の偶数m,nに対しm×nの長方形にドミノ(1×2の長方形)をmn/2個使って敷き詰める場合の数をDm,nとした時、 Dm,nに関して次の公式が知られている。

Dm,n=4mn4i=1m2j=1n2(cos2πim+1+cos2πjn+1)

この2つの等式は、右辺が整数値を取ること自体が非常に非自明で興味深い上に、cosの偏角の分子に2πが乗るかπが乗るか、および符号を除いてほとんど同じといっても良いものである。
これらの類似については11月下旬のトポスで取り上げたが、単なる偶然なのか、何かしらの数学的背景があるものなのか現時点では不明である。

証明

証明の概略を紹介する(参考:J.-P.セール「数論講義」)

n=2nの時
sin(n+1)tsint=4nk=1n(cos2tcos22kπn+1)
が成り立つ。

第2種チェビシェフ多項式Un(x)n次の多項式であり、定義より
Un(cost)=sin(n+1)tsint
を満たす。また、この表示より、n=2nの時には、k=1,2,,nに対して
Un(±cos2kπn+1)=0
である。また、Unの最高次の係数が4nであることも数学的帰納法で確かめられる。従ってUn(x)
Un(x)=4nk=1n(x2cos22kπn+1)
と因数分解できる。この式でx=costとすれば
sin(n+1)tsint=4nk=1n(cos2tcos22kπn+1)
となる。

平方剰余記号に関する次の補題を示し、それと補題2を用いて相互法則の証明を導く。
まず、平方剰余に関する次の表示がある。S={1,2,,p12}とすると、aFp×,sSに対してasSまたはSのどちらか一方に入る。対応するSの元をsaと書き、ϵa(s)=±1
as=ϵa(s)sa
を満たす符号として定める。対応ssaS上の全単射を定める。これより次の補題が成り立つ。

(ap)=sSϵa(s)

Fp×において
ap12sSs=sSas=sSϵa(s)sa=sSϵa(s)sSs
より
ap12=sSϵa(s).
ここでEulerの基準
(ap)=ap12
より求める等式が導かれた。

相互法則の証明

sinに関する等式
sin2πasp=sin2πϵa(s)sap=ϵa(s)sin2πsap
と補題3より、
(lp)=sSϵl(s)=sSsin2πlspsin2πslp=sSsin2πlspsin2πsp
となるが、補題2の三角関数についての等式より
sSsin2πlspsin2πsp=sS(4(l1)/2k=1(l1)/2(cos22πkpcos22πsl))=j=1(p1)/2(4(l1)/2k=1(l1)/2(cos22πkpcos22πjl))=4(p1)(l1)/4j=1(p1)/2k=1(l1)/2(cos22πkpcos22πjl)
であるから、平方剰余に関する目的の式が得られた。したがってこれで平方剰余の相互法則の証明も完了した。

remark

なお、アイゼンシュタインはこの方法と類似の方法で楕円関数を用いて三次剰余の相互律を証明したという(参考文献3. 参照)。平方剰余の相互律はガウス以後240余りの証明が与えられているらしく、アイゼンシュタインも5通りの方法で証明したようだ。ここにそのリストがある。
http://www.rzuser.uni-heidelberg.de/~hb3/fchrono.html

参考文献

  1. J.-P.セール「数論講義」
  2. 植田一石「ドミノによるタイル張り」
  3. F. Lemmermeyer, Reciprocity laws. From Euler to Eisenstein.
投稿日:20201210
更新日:20231121
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

triprod
triprod
55
2937

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 平方剰余の相互法則について
  3. 証明の前に
  4. 証明
  5. remark
  6. 参考文献