2

ブラウアー指標(Brauer指標)の定義

99
0
$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

はじめに

こんにちは、MakkyoExistsです。だいぶMathlogを放置していました。みなさんいかがお過ごしでしょうか? だいぶ寒くなってきましたね。昼起きるのすらつらい季節になりました。暖房付けて寝ると暑すぎて途中で起きちゃうのでこまったもんですね。まぁどうでもいいやそんな話は…笑

さて本日はタイトルにもある通りBrauer指標を定義したいと思います。最近僕のTwitterでも頻繁に言っているんですが、具体的な群のBrauer指標表を作る練習をしているので、Mathlogを再び稼働させるときはこの辺の話題の方が良いなと思ってこの題材を選んだという背景があります(いやまぁこんな話もどうでも良いね笑)

では、みて行きましょう。

記号の準備と基礎事項の確認

Brauer指標を定義するにあたってまずは基礎事項を確認したいと思います。

$\alpha$を複素数とする。$\alpha$がある整数係数モニック多項式の根になっているとき、つまり
$$ \alpha^n + c_{1}\alpha^{n-1} + \dots + c_{n-2}\alpha^2 + c_{n-1}\alpha^1 + c_n = 0 $$
となる整数$c_1, c_2, \dots, c_n$がとれるとき、$\alpha$代数的整数(algebraic integer)という。

代数的整数のベーシックな事実として代数的整数同士の和と積はまた代数的整数になるというものがあります。$0$$1$は代数的整数になるので、代数的整数全体の集合は環をなすことが分かりますね。ここでは代数的整数全体の集合を$R$とおくことにします。
$$ R:=\{ \alpha \in \C\,\,|\,\,\alphaは代数的整数 \} $$

さて次に$p$をひとつ素数として固定して標数$p$の体を作りたいと思います。まずイデアル$pR$を含む極大イデアルをひとつとり、それを$M$とします。極大イデアルで環を割ったら体になるのでその体を$F$とします。つまり
$$ F := R/M $$
というシチュエーションです。このとき$M$$pR$を含んでいるので$F$の標数は$p$になります。これで晴れて標数$p$の体が作れました。また$R$から$F$への自然な全射準同型写像を$\pi$とします。自然な準同型写像とは$\alpha \in R$に対し$\pi(\alpha)=\alpha + M$という意味です。割ったところに自然に対応させるということですね。

最後に、$1$$m$乗根についてです。($m$$p$で割れない)
$$ U:=\{\,\,\xi \in \C\,\,|\,\,\xi^m = 1\,\,\,\,\,\,(\,m \in \Z,\,\,p \nmid m) \} $$
とします。$1$$m$-乗根$\xi$をとると$\xi^m - 1 = 0$となるので$\xi$は代数的整数となります。したがって$U \subset R$となります。のちにBrauer指標を定義するときこの部分集合が大事になります。定義を先取りするとBrauer指標は$1$$m$-乗根の和になります。

$p'$-rootと$F$の元の対応~changing the characteristic

前節で色々記号を準備しました。ここから自然な準同型$\pi$が標数$0$の体$R$と標数$p$の体$F$の架け橋になっていることを説明します。それは以下で示す補題に集約されています。

以下が成り立つ。
(1) $\pi(\Z) = \Z/p\Z$
(2) $\pi$により$U$$F^{\times}$は同型となる。
(3) $F$$\pi(\Z)$の代数閉包である。

(1) $R$の極大イデアルは$pR$を含むように取ったので$p\Z \subset M \cap \Z$である。
もし$p$の倍数ではない$M \cap \Z$の元$x$が存在したとすると、$x$$p$は互いに素なので
$$ ax + bp = 1 $$
となる整数$a, b$がとれる。$x \in M$なので$ax \in M$であり$bp \in p\Z \subset M$なので、
$$ 1 = ax + bp \in M $$
となる。これは$M$が極大イデアルであることに矛盾するので$p\Z = M \cap \Z$であることが分かった。よって準同型定理より
$$ \pi(\Z) \simeq \Z/M \cap \Z = \Z/p\Z $$

  1. and (3)
    $(1 \ne)\,\, \xi \in U$を任意にとり$m$$\xi$の位数とする($m$$p$で割り切れないことに注意)
    つまり$\xi$$1$の原始$m$乗根なので
    $$ 1 + x + x^2 + \dots + x^{m-1} = \frac{x^m-1}{x-1} = (x-\xi)(x-\xi^{2})\dots(x-\xi^{m-1}) $$
    となる。ここで$x=1$を代入し、
    $$ m = (1-\xi)(1-\xi^{2})\dots(1 - \xi^{m-1}) $$
    つまり$m$は($R$内において)$1-\xi$で割り切れることが分かった。

これを踏まえて、まず$\pi$$U$に制限した写像$\pi_U$が単射であることを示す。つまり$ker\,\pi_U = 1$であることを言えばよいのであるが、もし$\pi(\xi) = 1$だとすると$\pi(1-\xi)=0$となり、$m$$R$内にて$1-\xi$で割り切れるので$m + M = \pi(m)=0$となる。つまり$m \in M$ということになるが、(1)より$m \in M \cap \Z = p\Z$となり、これは$m$$p$で割り切れないことに矛盾する。以上よりまず$\pi_U$が単射であることがわかった。

あとは$\pi_U$が全射であることと$F$が閉包であることを言えばよいが、$f \in F^{\times}$を任意にとり$f = \pi(r)$をとると、$r$は代数的整数なので
$$ r^n + a_{1}r^{n-1} + \dots + a_{n-1}r + a_n = 0 $$
となる整数$a_i$がとれる。これに$\pi$を施して、
$$ f^n + \pi(a_{1})f^{n-1} + \dots + \pi(a_{n-1})f + \pi(a_n) = 0 $$
よって$f$$\pi(\Z)$上整であることがわかった。ここで$K/F$を代数拡大とする。以下最後に$K^{\times} \subset \pi(U)$であることを示す。これが示せれば$F^{times} \subset K^{\times} \subset \pi(U)$となり、$\pi_U$が全射であることと$F$が閉包であることが言える
(ニュアンス的には$K$をとっても上に"膨らまない"といった感じでしょうか)

任意に$k \in K^{times}$をとる。今$K^{times} \subset F \subset K$が代数拡大なので$k$$\pi(\Z)$上整である。よって$\Z/p\Z[k]$は有限集合となり$k$$0$ではないので$k^{|\Z/p\Z[k]|-1} = 1$となる。ここで$|\Z/p\Z[k]|-1$$p$で割り切れないことに注意すると$x^{|\Z/p\Z[k]|-1}-1$$\pi(U)$内の根は$\pi(\xi), \pi(\xi)^2, \dots, \pi(\xi)^{|\Z/p\Z[k]|-1}$のどれかとなるので$k$$\pi(\xi)^n$と表せる。よって$k \in \pi(U)$となる。

意外と長かったですね。お疲れさまでした…笑

Brauer指標の定義

前章までで色々準備したのでやっとBrauer指標が定義できます。まず
$$ G^{\circ}:=\{\,\,x \in G\,\,|\,\,p\,\nmid \,o(x) \} $$
とします。つまり$G^{\circ}$$G$の元で位数が$p$で割れないもの全体です。そして$\rho$$G$から$GL(n,\,F)$への準同型写像、つまり$G$$F$上表現とします。$G^{\circ}$の任意の元$x$をとる。前節の補題から$F$は代数閉包なので$\rho(x)$の固有値はすべて$F^{\times}$の中に属することがわかります。(ちなみに、この固有値たちを足したものは普通の意味での$F$上指標になります。)
この固有値たちを$\varepsilon_1, \varepsilon_2, \dots, \varepsilon_n$としておきます。

また$x$の位数は$p$で割れないので、前節の補題より
$$ \varepsilon_1 = \pi(\xi_1),\,\, \varepsilon_2 = \pi(\xi_2),\,\, \dots,\,\, \varepsilon_n = \pi(\xi_n), $$
となる$\xi_i \in U$がとれる。このようにして拾ってきた$\xi_i$をすべて足したものを$\varphi$とします。このように定義した$G^{\circ}$から$\C$への写像$\varphi$$\rho$に付随する$G$ブラウアー指標(Brauer character of $G$ afforded by $\rho$)、またはモジュラー指標(modular character)といいます。通常の指標と同じように、表現$\rho$が既約であれば、それに対応するBrauer指標も既約と言います。既約なBrauer指標全体の集合を$IBr(G)$と表記することが多いです。

さいごに

今回は定義するだけだったのですがTeXに起こすとまぁ大変ですね…笑 あんまり眠れなくて4時位に起きちゃったのでそこから書いているのですが目が痛くなりました。ひと仕事した気持ちでいっぱいなので眠れるかもです笑

ちなみに、一応Brauer指標の定義はしたのですが、本当は極大イデアル$M$の取り方によらず定義できることを言わなければいけません。この辺は割愛しました。あと今回は定義するだけだったので全然内容に入っていないのですが、既約Brauer指標が$G^{\circ}$の類関数の基底になっていることや、通常の指標を$G^{\circ}$に制限したものは(既約とは限らない)Brauer指標になることなど、大事な性質はたくさんあります。この辺も気力があったら紹介したいと思います。

よし終わり!
最後まで読んで頂きありがとうございました。今回もザっと見直したのですが如何せん眠気の中読み直したので書きミス誤字脱字があるかもしれません。もし見つけた方いらっしゃいましたら教えて下さい。

また良いねやコメント、読んだ感想などめっっっっちゃ待ってます笑

では、また!('-'*)

投稿日:20201212
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

音楽してます。数学科です。エースバーンが好きです。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中