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強いフビニの定理の独立性

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Mathematical Logic Advent Calendar 2020 の14日目の記事です.

強いフビニの定理と呼ばれる命題のZFC独立性を示す.
本稿では積分はすべてルベーグ積分である.また本稿はほとんどの内容を参考文献1によっている.ただし,文献1では任意のn変数関数を扱っているが,ここでは簡略化して2変数関数のみを扱う.

強いフビニの定理

f:[0,1]2[0,1]が非負かつ逐次積分0101f(x,y)dxdy0101f(x,y)dydxがともに存在するとき,両者の値は一致する.

非負性のもとでの主張なので強い「トネリの定理」と言った方が正確かもしれない.通常のトネリの定理との違いはf:[0,1]2[0,1]の可測性を仮定していない点だ.

ただし逐次積分の存在から,次は暗に仮定されている:

  • ほとんどすべてのyについてxf(x,y)は可測
  • ほとんどすべてのxについてyf(x,y)は可測
  • x01f(x,y)dyは可測
  • y01f(x,y)dxは可測

また強いフビニの定理の主張の定義域の[0,1]2と終域の[0,1]はそれぞれR2R0に変えても同値な主張である.これについては最後の節で触れておく.

強いフビニの定理の否定の無矛盾性

連続体仮説を仮定する.このとき,強いフビニの定理は成り立たない.

[0,1]の整列順序で順序型ω1のものとする.

f(x,y)={1(xy)0(otherwise)
とおく.

このときどのyについても,f(x,y)>0となるxは可算個しかないことから,
01f(x,y)dx=0
なので
0101f(x,y)dxdy=0
である.

一方で,どのxについても,f(x,y)1となるyは可算個しかないことから,
01f(x,y)dy=1
なので
0101f(x,y)dydx=1
となる.

強いフビニの定理の無矛盾性

f:[0,1]2[0,1]について
f(x1,x2)dx1dx2,f(x1,x2)dx2dx1
がともに存在し,等しくないとする.
すると,DR2が存在して,
~x1~x2((x1,x2)D),
~x2~x1((x1,x2)D)
となる.
ここに~xは「ほとんど至るところすべてのxRについて」の意味.

補題の証明.

必要なら変数を交換することで,あるγが存在して
0101fdx1dx2<γ<0101fdx2dx1
となる.

I=[0,1]とおく.Iの可算個直積Iωに標準的な確率測度を入れておく.

A={(x¯1,x¯2)(Iω)2:Mω k>M (j=1kf(x1,j,x2,j)kγ)}
とおく.

ここで次の事実を使う.

事実 (大数の法則の1つのバージョン)

f1,f2,:[0,1]R

  1. i (01fi(t)dtが存在) (平均の存在)
  2. Mi (01(fi(t)01fi(u)du)2dt<M) (分散の有界性)
    をみたすならばほとんどすべての列t¯=(t1,t2,)Iωについて
    limn1n(i=1nfi(ti)i=1n01fi(x)dx)=0.

この事実の証明は文献2の364ページ,第4章第3節のTheorem 2を参照せよ.

ほとんどすべてのt[0,1]f(t,x2)dx2は存在する.したがって,ほとんどすべての(t1,t2,)Iωについて
iω (f(ti,x2)dx2は存在する)
が言える.

そのような各(t1,t2,)について大数の法則をfi(u)=f(ti,u)に適用して次の集合は測度1である:
(1){u¯Iω:limm1m(i=1mf(ti,ui)i=1mf(t1,x2)dx2)=0}.

大数の法則をfi(t)=f(t,x2)dx2に適用すると次の集合も測度1と分かる:
(2){t¯Iω:limm1m(i=1mf(ti,x2)dx2)=f(x1,x2)dx2dx1}.

(1), (2)を組み合わせると,
~t¯Iω~u¯Iω(limm1mi=1mf(ti,ui)=fdx2dx1>γ)
である.したがって
~t¯Iω~u¯Iω((t¯,u¯)A)
である.

同様の議論で,
~u¯Iω~t¯Iω((t¯,u¯)A)
も分かる.

したがって,Φ:IωRを測度0集合を保つ全単射として,D=Φ(A)とおけば補題の結論を満たす. (補題の証明終了)

  • non(null)=min{|A|:AR,Aは測度0ではない}
  • cov(null)=min{|F|:FP(R),Fのメンバーはすべて測度0,R=F}

non(null)<cov(null)を仮定する.このとき,強いフビニの定理は成り立つ.

non(null)<cov(null)という仮定はZFCから相対的に無矛盾である.実際,ランダム強制法によりこの仮定を強制することができる.このことは次の節で軽く触れる.

またnon(null),cov(null)はZFCでは大小は決まらない.すなわち,

  1. non(null)=cov(null)
  2. non(null)<cov(null)
  3. non(null)>cov(null)
    のどれもZFCから相対的に無矛盾である.
定理の証明

Aを測度0でない集合で|A|=non(null)なものとする.
結論を否定すると補題よりDR2があり,

  1. ~x1~x2((x1,x2)D),
  2. ~x2~x1((x1,x2)D)
    となる.

さて,tRについて
B1={xR:¬~x2(x,x2)D}B2(t)={{xR:(t,x)D}tB1tB1B1={xR:¬~x1(x1,x)D}B2(t)={{xR:(x,t)D}tB1tB1
と定める.
Dのとり方よりどんなtRについてもB1,B2(t),B1,B2(t)はすべて測度ゼロ集合なことがわかる.

そこでtRについてB(t)=B1B2(t)B1B2(t)とおくとこれも測度ゼロ集合である.

このとき次の主張を示そう.

主張A

: (z1,z2)R2i{1,2} (ziB(z3i))

(z1,z2)Dならばz1B2(z2)またはz2B1なのでOK.
(z1,z2)Dならばz1B1またはz2B2(z1)なのでやはりOK.これで主張Aが示された.

さて,仮定non(null)<cov(null)より
z2RtA1B(t)
をとることができる.またA1が測度ゼロでないことから
z1A1B(z2)
をとることができる.

構成よりziB(z3i)になっている.これは主張Aに反している.

ランダム強制法についてさらっと説明

ランダム強制法によりnon(null)<cov(null)とできることをかなりさらっと説明する.詳しくは参考文献の3を参照.

ランダム強制法はランダム実数を追加する強制法である.V上のランダム実数とはVにある実数によってコードされるボレル集合であって測度ゼロ集合なものをすべて避ける実数である.連続体仮説を仮定し,ω2個のランダム実数を追加して,ジェネリック拡大V[G]を得る.これは20=2のモデルになっている.

このときV[G]では1個の測度ゼロ集合では全体をカバーできない.なぜなら,それぞれの測度ゼロ集合はボレル集合と仮定してもよく,それらはα<ω2個のランダム実数を加えた途中のステージV[Gα]で現れる.よってV[Gα]からV[Gα+1]へ行くときに追加されるランダム実数はそれらを避けている.よってV[G]cov(null)=2となる.

また,各ステージαで追加されるランダム実数をrαと書くとX={rα:α<ω2}の非可算部分集合Yはどれも外測度正である.実際,それにはどんな測度ゼロのボレル集合AについてもYAとなることを言えばよいが,Aのボレルコードは追加したランダム実数のうち可算個にしか依存しない.その可算個に入ってこないYの元はAのコードを含む中間のモデル上ランダムである.よって,その元はAに入らない.したがって,non(null)=1が従う.

[0,1]Rに変更しても同値なこと

f:R2R0について
f(x1,x2)dx1dx2,f(x1,x2)dx2dx1
がともに存在し,等しくないとする.

仮定よりx2を固定したときf(x1,x2)x1について可測.
そこで単調収束定理より
(1)f(x1,x2)dx1=limmmmf(x1,x2)dx1.
また,f(x1,x2)dx1x2について可測なので,単調収束定理より
(f(x1,x2)dx1)dx2=limmmm(f(x1,x2)dx1)dx2.
この右辺に(1)を代入して
(f(x1,x2)dx1)dx2=limmmm(limnnnf(x1,x2)dx1)dx2.
単調収束定理をこの右辺に適用して
(f(x1,x2)dx1)dx2=limmlimnmmnnf(x1,x2)dx1dx2.
limの中身はmnの両方について単調増大な関数だから,
(f(x1,x2)dx1)dx2=limmmmmmf(x1,x2)dx1dx2.
を得る.

同様に
f(x1,x2)dx2dx1=limmmmmmf(x1,x2)dx2dx1.

したがって,fdx1dx2fdx2dx1が異なることからmがとれて
mmmmf(x1,x2)dx1dx2mmmmf(x1,x2)dx2dx1
となる.

また,ここでfn=min{f,n}とおくとfnf(n).よって再び単調収束定理を使うことで
limnmmmmfn(x1,x2)dx1dx2limnmmmmfn(x1,x2)dx2dx1
を得るのであるnがあって,
mmmmfn(x1,x2)dx1dx2mmmmfn(x1,x2)dx2dx1
となる.
したがって定義域と値域の両方で適当なスカラー倍を施すことによりf:[0,1]2[0,1]であって
f(x1,x2)dx1dx2,f(x1,x2)dx2dx1
が一致しないものが存在するとわかる.

参考文献

  1. Shipman, Joseph. "Cardinal conditions for strong Fubini theorems." Transactions of the American Mathematical Society 321.2 (1990): 465-481.
  2. Shiryaev, A.N. "Probability" Springer-Verlag New York (1984)
  3. Kunen, Kenneth. "Random and Cohen reals." Handbook of set-theoretic topology. North-Holland, 1984. 887-911.
投稿日:20201213
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