Mathematical Logic Advent Calendar 2020
の14日目の記事です.
強いフビニの定理と呼ばれる命題のZFC独立性を示す.
本稿では積分はすべてルベーグ積分である.また本稿はほとんどの内容を参考文献1によっている.ただし,文献1では任意の変数関数を扱っているが,ここでは簡略化して変数関数のみを扱う.
強いフビニの定理が非負かつ逐次積分とがともに存在するとき,両者の値は一致する.
非負性のもとでの主張なので強い「トネリの定理」と言った方が正確かもしれない.通常のトネリの定理との違いはの可測性を仮定していない点だ.
ただし逐次積分の存在から,次は暗に仮定されている:
- ほとんどすべてのについては可測
- ほとんどすべてのについては可測
- は可測
- は可測
また強いフビニの定理の主張の定義域のと終域のはそれぞれとに変えても同値な主張である.これについては最後の節で触れておく.
強いフビニの定理の否定の無矛盾性
連続体仮説を仮定する.このとき,強いフビニの定理は成り立たない.
をの整列順序で順序型のものとする.
とおく.
このときどのについても,となるは可算個しかないことから,
なので
である.
一方で,どのについても,となるは可算個しかないことから,
なので
となる.
強いフビニの定理の無矛盾性
について
がともに存在し,等しくないとする.
すると,が存在して,
,
となる.
ここには「ほとんど至るところすべてのについて」の意味.
補題の証明.必要なら変数を交換することで,あるが存在して
となる.
とおく.の可算個直積に標準的な確率測度を入れておく.
とおく.
ここで次の事実を使う.
事実 (大数の法則の1つのバージョン)が
- (平均の存在)
- (分散の有界性)
をみたすならばほとんどすべての列について
この事実の証明は文献2の364ページ,第4章第3節のTheorem 2を参照せよ.
ほとんどすべてのでは存在する.したがって,ほとんどすべてのについて
が言える.
そのような各について大数の法則をに適用して次の集合は測度である:
大数の法則をに適用すると次の集合も測度と分かる:
(1), (2)を組み合わせると,
である.したがって
である.
同様の議論で,
も分かる.
したがって,を測度集合を保つ全単射として,とおけば補題の結論を満たす. (補題の証明終了)
を仮定する.このとき,強いフビニの定理は成り立つ.
という仮定はZFCから相対的に無矛盾である.実際,ランダム強制法によりこの仮定を強制することができる.このことは次の節で軽く触れる.
またはZFCでは大小は決まらない.すなわち,
のどれもZFCから相対的に無矛盾である.
定理の証明
を測度でない集合でなものとする.
結論を否定すると補題よりがあり,
- ,
となる.
さて,について
と定める.
のとり方よりどんなについてもはすべて測度ゼロ集合なことがわかる.
そこでについてとおくとこれも測度ゼロ集合である.
このとき次の主張を示そう.
主張A:
ならばまたはなのでOK.
ならばまたはなのでやはりOK.これで主張Aが示された.
さて,仮定より
をとることができる.またが測度ゼロでないことから
をとることができる.
構成よりになっている.これは主張Aに反している.
ランダム強制法についてさらっと説明
ランダム強制法によりとできることをかなりさらっと説明する.詳しくは参考文献の3を参照.
ランダム強制法はランダム実数を追加する強制法である.上のランダム実数とはにある実数によってコードされるボレル集合であって測度ゼロ集合なものをすべて避ける実数である.連続体仮説を仮定し,個のランダム実数を追加して,ジェネリック拡大を得る.これはのモデルになっている.
このときでは個の測度ゼロ集合では全体をカバーできない.なぜなら,それぞれの測度ゼロ集合はボレル集合と仮定してもよく,それらは個のランダム実数を加えた途中のステージで現れる.よってからへ行くときに追加されるランダム実数はそれらを避けている.よってでとなる.
また,各ステージで追加されるランダム実数をと書くとの非可算部分集合はどれも外測度正である.実際,それにはどんな測度ゼロのボレル集合についてもとなることを言えばよいが,のボレルコードは追加したランダム実数のうち可算個にしか依存しない.その可算個に入ってこないの元はのコードを含む中間のモデル上ランダムである.よって,その元はに入らない.したがって,が従う.
をに変更しても同値なこと
について
がともに存在し,等しくないとする.
仮定よりを固定したときはについて可測.
そこで単調収束定理より
また,はについて可測なので,単調収束定理より
この右辺に(1)を代入して
単調収束定理をこの右辺に適用して
の中身はとの両方について単調増大な関数だから,
を得る.
同様に
したがって,とが異なることからがとれて
となる.
また,ここでとおくと.よって再び単調収束定理を使うことで
を得るのであるがあって,
となる.
したがって定義域と値域の両方で適当なスカラー倍を施すことによりであって
が一致しないものが存在するとわかる.
参考文献
- Shipman, Joseph. "Cardinal conditions for strong Fubini theorems." Transactions of the American Mathematical Society 321.2 (1990): 465-481.
- Shiryaev, A.N. "Probability" Springer-Verlag New York (1984)
- Kunen, Kenneth. "Random and Cohen reals." Handbook of set-theoretic topology. North-Holland, 1984. 887-911.