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セグレ埋め込み (Segre Embedding)

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導入

kを代数閉体とし,Pnk上のn次射影空間とする.

セグレ埋め込み

Ψ:Pm×PnPN
(ただしN=mn+m+n)を以下のように定める:
ψ:Pm×PnPN[x0::xm]×[y0::yn][x0y0::x0yn::xmy0::xmyn]
このときψはwell-definedであり単射となる.このψセグレ埋め込みという.

セグレ埋め込みは代数幾何において非常に重要な対象であり,ブローアップなどに応用されている.

確認

ψはwell-definedである.

PPm,QPnλ,ωk(ただしλ,ω0)について
P=[x0::xm][λx0::λxm]=P
Q=[y0::yn][ωy0::ωyn]=Q
と表されているとき,この点(P,Q)Pm×Pnψで送ると,
ψ(P,Q)=ψ([λx0::λxm]×[ωy0::ωyn])=[λx0ωy0::λxmωyn]=[(λω)x0y0::(λω)xmyn][x0y0::xmyn](λω0)=ψ([x0::xm]×[y0::yn])=ψ(P,Q)
となり,斉次座標の取り方によらずに一意的に定義されていることが分かる.

ψは単射である.

(P,Q)Pm×Pnについて,PPm,QPn
P=[x0::xm]Q=[y0::yn]
であるとき,あるi,jについてxi0,yj0である.そのようなi,ji=j=0としても一般性を失わない.このとき,
P=[x0:x1::xm][1:x1/x0::xm/x0]=[1:p1::pm]Q=[y0:y1::yn][1:y1/y0::yn/y0]=[1:q1::qn]
と表す.この点(P,Q)ψで送ると,
ψ(P,Q)=[1:q1:qn:p1:p1q1:pm::pmqn]
となる.ここで,(P,Q)Pm×Pnについて,PPm,QPn
P=[x0::xm]Q=[y0::yn]
であるとする.ここでx0=0とすると(P,Q)(P,Q)となるが,この点をψで送ると
ψ(P,Q)=[0:0:0:x1y0:x1y1:xmy0::xmyn]
となり,z00の座標を上式と比較すると明らかにψ(P,Q)ψ(P,Q)となる.y0=0のときも同様にψ(P,Q)ψ(P,Q)となる.さらに,x00かつy00のとき,
P=[x0:x1::xm][1:x1/x0::xm/x0]=[1:p1::pm]Q=[y0:y1::yn][1:y1/y0::yn/y0]=[1:q1::qn]
と表す.点(P,Q)ψで送ると
ψ(P,Q)=[1:q1:qn:p1:p1q1:pn::pmqn]
となる.ここでψ(P,Q)=ψ(P,Q)と仮定すると,上式と比較してz00の座標が等しいので任意のi,jについてpiqj=piqjとなるが,i=0あるいはj=0のときに注目するとpi=piqj=qjとなる.従って,P=PQ=Qとなり(P,Q)=(P,Q)である.よってψは単射となる.

このように単射で埋め込まれているImψ 自体をセグレ埋め込みということもある.以下,Imψ=Yとする.

代数学の準備

Aを環とする.MA加群,N1,N2MMのA部分加群とする.このとき
N1+N2:={x1+x2x1N1,x2N2}
と定義する.

M,MA加群,N1,N2MM=N1+N2となるMA部分加群とする.この時A線形写像f:MMについてfN1が単射でKerfN2であるときKerf=N2となる.

KerfN2を示せば良い.任意のxKerfMについてあるx1N1,x2N2が存在してx=x1+x2と表される.これをfで送ると,
f(x)=f(x1+x2)=f(x1)+f(x2)=0
となるがKerfN2よりf(x2)=0であるのでf(x1)=0となるが,fN1は単射なのでx1=0となる.従ってx=x2N2となりKerfN2となる.

定義イデアル

θ:k[Z00,,Zmn]k[X0,,Xm,Y0,,Yn]
を、θ(Zij)=XiYjと定義する.このとき射影多様体としてY=V(Kerθ)となる.

A=k[Z00,,Zmn]と表す.まずV(Kerθ)が射影多様体となることを示す.KerθAの斉次素イデアルである.実際,θは環準同型なのでKerθは素イデアルである.またfKerθとすると,Aは次数付き環より,そのd次の斉次元全体による集合をSdと表すと,
f=s0+s1++sl(sdSd)
のように斉次元の和に一意的に分解できる.これをθで送ると,
θ(f)=θ(s0)+θ(s1)++θ(sl)=0
となるが,degθ(sd)=2dであるので,それぞれの次数の関係に注意するとθ(sd)=0となる.よって任意のdsdKerθとなるので,Kerθは斉次元で生成されており,すなわち斉次イデアルと言える.従ってV(Kerθ)PNは射影多様体である.
 次に集合としての包含を示すが,ImψV(Kerθ)はほとんど明らかである.なぜならば,任意のQImψについてあるPPm×Pnが存在してψ(P)=Qとなるので,任意のfKerθについて
f(Q)=f(ψ(P))=θ(f)(P)=0
となりQV(Kerθ)といえる.次に逆向きの包含V(Kerθ)Imψを示す.任意のQV(Kerθ)についてその斉次座標を
Q=[q00::qij::qmn]
とすると,QPNであるので,0でない座標が少なくとも1つ存在する.これをqabとすると,
Q=[q00::qij::qmn][q00qab::qijqab::qmnqab]
となるが,任意のi,jについて
θ(ZijZabZibZaj)=XiYjXaYbXiYbXaYj=0
であることからZijZabZibZajKerθとなるので,QV(Kerθ)について,qijqab=qibqajが成り立つ.従って
Q=[q00qab::qijqab::qmnqab]=[q0bqa0::qibqaj::qmbqan]=ψ([q0b::qmb]×[qa0::qan])
となり,QImψが示される.

以上より,セグレ埋め込みの定義イデアルは上記のk線形写像の核を求めることによって定まることがわかる.

Aのイデアルak線型部分空間Tをそれぞれ以下のように定める:
a:=({ZijZklZilZkj0i,km,0j,ln}),
T:=Za1c1Zalcll1,a1al,c1clk.
このとき線形空間としてA=T+aである.

TaAk-部分線型空間であることからAT+aであるので,AT+aを示せば良い.また,多項式環Aの任意の元が単項式の線形結合で表されることから,Aの任意の単項式がT+aに含まれることを示せば良い.
 ここで,M={1,,m}N={1,,n}とし,r1に対して(M×N)rに辞書式順序を入れる.任意の単項式μAについて,ある正の整数l1l個組((a1,b1),,(al,bl))(M×N)lが存在して,
μ=tZa1b1Za2b2Zalbl
(ただし(a1,b1)(al,bl)tk)と一意的に表せる.ここで,L1={b1,,bl}とし,bσ(1)=min(L1)とすると,Za1b1Zaσ(1)bσ(1)Za1bσ(1)Zaσ(1)b1aより
μ=tZa1b1Za2b2ZalbltZa1bσ(1)Za2b2Zaσ(1)b1Zalblmoda
となる.同様にL2={b1,,bσ(1)^,,bl}としてbσ(2)=min(L2)とすると,
μtZa1bσ(1)Za2b2Zaσ(1)b1ZalbltZa1bσ(1)Za2bσ(2)Zaσ(1)b1Zaσ(2)b2Zalblmoda
となる.以下同様に,Li=Li1{bσ(i1)}としてbσ(i)=min(Li)を選べば,
μtZa1bσ(1)Zalbσ(l)moda
となるが,bσ(1)bσ(l)よりZa1bσ(1)Zalbσ(l)Tとなり,μT+aを得る.

θT:Tk[X0,,Xm,Y0,,Yn]は単射である.

θは斉次成分を保つ写像であるので斉次元について単射であることを示せば良い.任意の単項式μTtk((a1,b1),,(al,bl))(M×N)l(ただしa1alb1bl)を用いて
μ=tZa1b1Zalbl
と一意的に表される.これをθで送ると,
θ(μ)=θ(tZa1b1Zalbl)=tXa1Yb1XalYbl=tXa1XalYb1Ybl
となるが,a1alb1blであることに注意すると,添字の付け方は元の単項式μの添字によって一意的に決まるので,単項式についてθTは単射である.ここで,斉次元fThμのような単項式で次数が等しいものによる線形結合で表されているので,θが環準同型であることからfのそれぞれの単項式が相異なる単項式に移る.よって斉次元についても単射である.

Kerθ=a.

明らかにKerθaである.実際,aの任意の生成元はθで送ると,
θ(ZijZklZilZkj)=XiYjXkYlXiYlXkYj=0
となるのでKerθに含まれる.さらにA=T+aでありθTは単射であるのでKerθ=aとなる.

Y=V({ZijZklZilZkj0i,km,0j,ln}})

以上よりセグレ埋め込みの定義イデアルが求まる.

参考文献
  1. Atiyah, M.F. and Macdonald, I.G. (1969) Introdiction to Commutative Algebra, Addison-Wesley Publishing Company, Inc.
  2. Hartshorne, Robin (1977) Algebraic Geometry, Springer-Verlag New York Inc.
  3. find ker of map from poly ring to poly ring, related to segreMathlog (searched recently at Jan. 23. 2018)
投稿日:20201213
更新日:20231120
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有限体上の代数曲線の特異点解消について研究していました

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