3

双複素関数

69
0
$$$$

双複素解析入門 第7回
今回でようやく,双複素関数が登場します.前回で$\mathbb{BC}$に位相を入れることができたので,これから関数の解析を少しずつしていくことにしましょう.ですが,いきなり複雑な関数を扱うのは大変です.まずは簡単な多項式から考えていくことにします.

不定元$X$に対して,高々$N$次の双複素係数多項式環$\mathbb{BC}[X]_{N}$の元を考えることにしましょう.

$\displaystyle F(X)=\sum_{m=0}^{N}A(m)X^m \hspace{10mm} (A(m) \in \mathbb{BC})$
とします.ここで$A(m)$は双複素数環の元なので,べき等元分解することができます.すなわち,
$$A(m)=\Phi_{e}(A(m))e+\Phi_{e^{\dagger}}(A(m))e^{\dagger}=A(m)_{e}e+A(m)_{e^{\dagger}}e^{\dagger}$$
と表示することができます.$F$に代入すると,
$$F(X)=\left(\sum_{m=0}^{N}A(m)_{e}X^m\right)e+\left(\sum_{m=0}^{N}A(m)_{e^{\dagger}}X^m\right)e^{\dagger}$$
とできます.ここで,べき等元分解表示したあとの$e,e^{\dagger}$の係数$A(m)_{e},A(m)_{e^{\dagger}}$は複素数の元なので,
$$F_{e}(X)=\sum_{m=0}^{N}A(m)_{e}X^m,F_{e^{\dagger}}(X)=\sum_{m=0}^{N}A(m)_{e^{\dagger}}X^m$$
とおくと,$F_{e}(X),F_{e^{\dagger}}(X)$は高々$N$次の複素係数多項式環$\mathbb{C}[X]$の元になります.つまり,この$F_{e}(X),F_{e^{\dagger}}(X)$は複素関数と思うことができそうです.さらに,$\Phi_{e},\Phi_{e^{\dagger}}$は自然に$\mathbb{BC}[X] \rightarrow \mathbb{C}[X]$と拡張することができます.さて,ここで不定元と扱ってきた$X$を双複素数環の元とするとどのようなことが起きるでしょうか.つまり,$X=Z \in \mathbb{BC}$とします.$X=Z$も双複素数環の元となると,これもべき等元分解することができます.つまり,
$$Z=Z_{e}e+Z_{e^{\dagger}}e^{\dagger}$$
とできます.このとき,自然数$m$に対して,
$$Z^m={Z_{e}}^me+{Z_{e^{\dagger}}}^me^{\dagger}$$
なので,
\begin{align*} Z^me&={Z_{e}}^{m}e,\\ Z^me^{\dagger}&={Z_{e^{\dagger}}}^{m}e^{\dagger} \end{align*}
となります.再びこれを$F(Z)$に代入すると,
$$F(Z)=\left(\sum_{m=0}^{N}A(m)_{e}{Z_{e}}^m\right)e+\left(\sum_{m=0}^{N}A(m)_{e^{\dagger}}{Z_{e^{\dagger}}}^m\right)e^{\dagger}$$
となります.よって,$F_{e},F_{e^{\dagger}}$は複素関数となります.以上のことから,不定元$X$を双複素数環の元だとしても"意味"があるということになります.さらに,この議論は形式的冪級数環$\mathbb{BC}[[Z]]$で考えれば$N \to \infty$としてもよいことがわかります.

$F(Z) \in \mathbb{BC}[Z]_{N}$とする.このとき,高々$N$次の$ F_{e}(Z),F_{e^{\dagger}}(Z) \in \mathbb{C}[Z]$を用いて,
$$F(Z)=F_{e}(Z)e+F_{e^{\dagger}}(Z)e^{\dagger}$$
と表せる.逆に,高々$N$次の$ F_{e}(Z),F_{e^{\dagger}}(Z) \in \mathbb{C}[Z]$をとれば,双複素関数$F(Z) \in \mathbb{BC}[Z]_{N}$を構成することが可能である.

これは,双複素多項式のべき等元分解だと思えます.いくつか例を見てみましょう.

次の双複素関数をべき等元分解せよ.
  1. $F(Z)=eZ^2+Z$ $\hspace{10mm}$ $G(Z)=Exp(Z)$ $\hspace{5mm}$(指数関数)
  1. \begin{align*} F(Z)&=e(Z_{e}e+Z_{e^{\dagger}}e^{\dagger})^2+(Z_{e}e+Z_{e^{\dagger}}e^{\dagger})\\ &=({Z_{e}}^2+Z_{e})e+(Z_{e^{\dagger}})e^{\dagger}. \end{align*}

  2. \begin{align*} G(Z)&=Exp(Z)\\ &:=\sum_{m=0}^{\infty}\dfrac{Z^m}{m!}\\ &=\sum_{m=0}^{\infty}\dfrac{Z_{e}}{m!}e+\sum_{m=0}^{\infty}\dfrac{Z_{e^{\dagger}}}{m!}e^{\dagger}\\ &=Exp({Z_{e}})e+Exp({Z_{e^{\dagger}}})e^{\dagger}. \end{align*}

このように,双複素多項式を1つもってくることは,独立な複素多項式を同時に2つ扱うことと同値になります.(2)では冪級数ですが,やはり同様に1つの双複素関数から2つの複素関数が得られたことになります.

今回はここまでにしましょう.ありがとうございました.

投稿日:20201214
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

まい.
まい.
32
1762
大学院修士課程まで主に解析数論(素数定理周り)の研究をしていました。今はデータサイエンス関連の仕事をしています。Xでは大学数学入門資料を投稿してます。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中