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双複素多項式の零点の構造 その1

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双複素解析入門 第8回

第7回で,双複素多項式が定義できました.多項式は関数の中でも基本的かつ重要なものなので,詳しく分析した方がよさそうです.ここでは,零点について考えてみましょう.

次の双複素多項式の零点について考察せよ.
  1. Z2Z (2) Z3Z (3) Z23eZ+2e
  1. Z2Z=Z(Z1)=(Ze)(Ze)
    より,Z2Zの零点はZ=0,1,e,eの4個である.

(2)Z3Z=Z(Z+1)(Z1)=(Ze)(Ze)(Z+1)=(Z1)(Z+e)(Z+e)=Z(Z+ee)(Ze+e)
より,Z3Zの零点はZ=0,1,1,e,e,e,e,ee,e+eの9個である.

(3)Z23eZ+2e=(Z2e)(Ze)
より,Z23eZ+2eの零点はZ=e,2eの2個である

例を見ると,高々N次の双複素多項式環BC[Z]Nにおいては因数分解の一意性が成り立たないことがわかります.さらに,高々n次の複素係数多項式環C[z]nの元のように,多項式の次数が零点の個数に一致するとも限りません.これにより双複素多項式の零点の構造は複素多項式のときより複雑になっています.ですが,例を見る限りでは,次数の2乗個より多くはなさそうです.一般に次の命題が成り立ちます.

F(Z)BC[Z]Nする.このとき,F(Z)は高々N2個の零点をもつ.

任意にF(Z)BC[Z]Nをとる.このとき,A(m)BC(m=0,1,,N)を用いて,
F(Z)=m=0NA(m)Zm
とかける.さらに,この多項式をべき等元分解して,
F(Z)=(m=0NA(m)eZem)e+(m=0NA(m)eZem)e
となるので,
Fe(Ze)=m=0NA(m)eZem,Fe(Ze)=m=0NA(m)eZem
とおけば,Fe,Feは高々N次の複素係数多項式になる.代数学の基本定理より,それぞれ高々N個の零点を持つので,F(Z)は高々N2個の零点をもつことが示される.

上記の証明は,零点の個数が最大でもN2個であることを示しているだけであって,完全に個数を決定しているわけではありません.ですが,F(Z)がモニックな多項式(最高次の係数が1である多項式)であれば,零点の個数が重複度も込めてぴったりN2個になることがわかります.

今日はここまでにしましょう.ありがとうございました.

投稿日:20201215
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投稿者

まい.
まい.
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1994
大学院修士課程まで主に解析数論(素数定理周り)の研究をしていました。今はデータサイエンス関連の仕事をしています。Xでは大学数学入門資料を投稿してます。

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