ペアノの公理で誤解しやすいポイントについてまとめました。
なお、本記事では形式的な立場をとり、論理体系は等号付き古典一階述語論理に限定します。
(ここでは特定の公理系で議論を限定するため, 公理系はZFCとする)
集合$N,\ S,\ O$が次を満たすとき, 集合の組$(N,S,O)$をペアノシステムとよぶ.
論理式1.から5.をペアノの公理とよぶ.
語彙は次の4つとする.
次の論理式1.から6.と公理図式7.を集めたものをペアノ算術とよぶ.
2つの大きな違いは次のようになります。
ペアノの公理は「自然数がこんな風になってたらいいなー」ということが書いてますが、具体的に自然数を構成していません。
つまりペアノシステム$(N,S,O)$が存在するかはペアノの公理を定義しただけではわかりません。
またペアノシステム$(N,S,O)$の例はたくさん作れます。
有限順序数全体の集合を$\omega$とし、写像$\mathrm{suc}:\omega\to\omega$を$\mathrm{suc}(n)=n\cup\{n\}$で定義すると$(\omega,\mathrm{suc},\emptyset)$や$(\omega\setminus\{\emptyset\},\mathrm{suc}|_{\omega\setminus\{\emptyset\}},\{\emptyset\})$などはペアノシステムです。
おおざっぱにいえば、数学的帰納法は証明の方法で、再帰的定義は定義の方法です。
ペアノの公理の中に数学的帰納法はありますが、再帰的定義については書いてないので再帰的定義ができることを示さないといけません。
繰り返しになりますが、ペアノシステム$(N,S,O)$について$N$上で再帰的定義ができることを示さないといけません。
$+$を構成をしてからようやく$1+1=2$の証明ができます。
ペアノの公理から+を構成できたとして$1+1=2$を証明しようとするとだいたい↓のようになると思います。
$1:=S(O),\ 2:=S(S(O))$と略記して
$1+1=S(O)+S(O)=S(S(O)+O)=S(S(O))=2.\ \square$
この証明に使っているのは+の定義とペアノの公理のうち$S\colon N\to N$と$O\in N$だけです。
表面上、単射とか、全射でないとか、数学的帰納法とかのペアノの公理の大事な部分を使っていません。
なので、+の構成を省略するならペアノの公理を紹介されても、あまり関係がないように見えると思います。
ペアノ算術における数学的帰納法は↓のことです。
$P$を算術の論理式とする.
$P$の自由変数を$n,\ w_0,\ \ldots,\ w_{i-1}$とする.
$\forall w_0\ldots \forall w_{i-1}((P(0) \wedge (\forall n\ (P(n)\Rightarrow P(S(n)))))\Rightarrow \forall n\ P(n))$
これは一つの公理ではなく、論理式$P$ごとに一つの公理があって、それを全部集めたものです。
なのでペアノ算術の公理の数は無限個になります。
2つのペアノシステム$(N,S,O),\ (N',S',O')$について$(N,S,O)=(N',S',O')$は成り立ちませんが、ある種の同型は成り立ちます。
$(\omega,\mathrm{suc},\emptyset)$はペアノシステム.
任意のペアノシステム$(N,S,O)$について次を満たす全単射$f\colon \omega\to N$がただ一つ存在する.
なのでペアノシステムはペアノシステムの同型の意味で同型を除いてただ一つ存在する、つまり$(\omega,\mathrm{suc},\emptyset)\cong (N,S,O)$です。
一方、ペアノ算術のモデルはモデルの同型の意味で同型でないものがあります。