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怪文書1

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この記事はMath Advent Calendar 2020の12月7日の記事です. もともとintegral morphismについて書こうと思ってたんですが, あまりに気力がなくて大遅刻してしまっているのでとりあえず数学について思うことを書いておきます.

なぜ数学をするのか

私が数学をやっている理由は, 今の所「理解したい」という一点に尽きるように思います. 理解できないものは気持ちが悪い, 気持ちが悪いから理解したい, 隅々まで理解すればきっと気持ちがいい, そういう素朴な感情で数学をやっているように思います. これを「自然さ」という言葉で梱包しています. 「自然じゃない」と言っているのは「理解できない」みたいなことに過ぎません. ただし後述する通り私の「理解』に対するハードルは高いので, まあ大体のことはいまいち理解できていない, すなわち僕にとって自然じゃないわけです. もちろん, この意味ではすべての概念は本来自然であるべきで, それに僕が気づけていないだけなわけです. 下手に「自然」という言葉を使うと対岸の過激派に白い目で見られるので, もっと角の立たない言葉を使うほうがいいのかもしれませんが, まあ人の目を気にしてもしょうがないわけです. 第一自分だって, というか自分こそ過激派なわけで, 周りと違うことを気にしだしたら確実に病みます.

さて, 「理解する」とはどういうことかについて補足します. もちろんこれは正解を述べているわけではありません. 自然言語にwell-definedを求めるな, という言葉があるように, 言葉の意味は人によってまちまちです. 私は一体どのような意味で「理解する」という言葉を使っているのか, ということを, 自分の普段の言動を顧みて分析したまでのことです. さて, どうやら私は「理解する」ということを「背後にあるはずのからくりを見抜く」というような意味で使っているようです. 例えばスキーム論で素イデアルの集合に位相を入れるのはそれなりに不可解な行動だと思います. しかしストーン双対などを知っていれば理解できないものでもありません. こういうものを直観だとかあるいは「からくり」と呼んでいるわけです. もちろん理想を言えば「からくり」をそれ自体数学的理論として組み立ててしまいたいわけですが, やってみると非常に大変です. いつかうまくいったら論文にでもしようかなと思います. いつになることやら.

抽象

私のことを抽象的なものばかり扱っている変態だと思っている人がいるかもしれません. だいたい合っています. しかし私は具体的なものを扱っている人のことを変態だと思っています. 物事の見え方は相対的です.

私が抽象的なものを好んでいるように見えるのは, 数学的概念の裏にあるからくりを綺麗に抜き出すこと, それこそが抽象化だからです. 抽象的ならなんでもいいわけではありません. 例えば私は「圏論的な議論」「圏論的な対象」というものが先にあって, それを綺麗に抜き出すことで圏論が産まれたのだと思っています. これはすなわち「理解する」という行為そのものです. 人は物事を切り分けることによって理解しているところがありますから. 私は数学をやっている人は理解することに偏執的なこだわりを持っているもんだと無意識のうちに思い込みがちなので, 抽象化も好きに決まっていると思いがちです. 悪い癖ですね.

さて, 今の話を踏まえると, 抽象化をする前にまず物事のある側面をうまく見つけないといけないわけです. そのための手法が「翻訳」です. いや, 翻訳というのは今でっち上げた比喩ですが, まあどういうことかというと抽象化したい対象に対してそれと等価なデータをうまく探してくることです. あるいは等価じゃなくてもある程度要点を掴んだデータを探してくることです. そうすることで思いも寄らない抽象化が得られるという仕組みです. 憧れますね, 私はそういう数学がしたい. 環に対してそのスペクトラムを取ってみると, もともとの環を見ていても思いつきそうにもないスキームというアイデアが見えてくる, みたいな感じです. あるいはスキームに対してdg圏を割り当てると, 一般のdg圏でも代数幾何ができそうな気になってくる, みたいなことです. そういうのを非可換幾何っていうそうですが, 私は普通の代数幾何についても赤ちゃんなので道程は長いですね.

実数

さて, 私は散々「実数は不自然だ」「実数は気持ちが悪い」と言って顰蹙を買っているわけですが, 必ずしもこれはネガティブな意味合いで言っているわけではありません. まず, 実数は非常に特殊です. 代数構造, 順序構造, 位相構造が綺麗に両立していて, これらをうまく利用して議論が進んでいくわけです. 解析だって, 不等式評価がなければどうしようもないわけですが, これは順序構造の恩恵だと思います. もっとも解析は避けてきたのであんまりよくわかりませんが. それはもちろん一つの工芸品的美しさなのかもしれません. しかしながら「理解する」のは難しい. いくつかの, 全く違う性格を持った構造が両立しているので, 下手に抽象化すると肝心なところを取り落してしまうわけです. うまい翻訳を探して, 実数とか解析とかの本質をえぐり出すことができたら, そのときはうまい酒を買ってきて飲むことにします. そのころには成人してるでしょうし.

可換環論

いやあ全然わからないです. 最初の難関が加群です. 定義は簡単だし, 環が作用してるアーベル群って聞くと変な概念にも見えませんが, 幾何学的な視点がまだ掴みきれていません. そもそも可換環論において加群がどう本質的に役立つのかを理解しているかと問われればNOと答えざるを得ません. 理解したいですね.

結構前から思っているのは, 加群と層が似ている気がする, ということです. しかしながら任意の$R$代数は$R$加群でもあるのに, 位相空間$X$への射を持つ空間が層とみなせるみたいな話はエタール空間くらいしか知りません. そういうものを含む層の一般化について少し考えていますが, 最近元気が少ないのでそこまで順調に進んではいません. 悪いアイデアではないと思うので元気になったら記事にします. 21日のアドベントカレンダーにするかもしれないです.

ついでに言うと, 一元体みたいな話にも興味があります. 一元体じゃなくてもいいんですが, なんとなく可換環よりも広い代数系のクラスがあったら面白い, と思っています. ところで一点空間上の層というのは集合に対応します. 層と加群が似ているというのを信じるならば, なんとなく一元体との関連が見えてきます. まあ, 妄想に過ぎませんし, これはまだそこまで真剣に考えてはいません.

圏論

ところで巷では圏論が流行っているようですね. 最近は落ち着いているのかもしれないですが. 私はもちろん圏論大好きなわけですが, 圏論に対してどう向き合えばいいのかみたいなところについてちょっと悩みがあったりします. 「圏論的な議論」をするためのフレームワークが圏論である, という意見をよく目にする気がしていて, もちろんそれは圏論の素晴らしいところだとは思うのですが, やっぱり圏自体に対して興味を持ちたいというのが私の思っているところです. つまり, 圏自体を数学的対象として扱うような理論に興味があります. そういう意味で望月新一先生の圏の幾何とかは憧れますが, スキーム論をやってからのほうがいいんだろうなあと思っています. そもそも圏論もそんなに理解しているわけじゃないと最近は思っているので, そういうのもあって圏論好きを自称するのを控えています.

終わりに

最後に, あんまり数学とは関係ないことを書いて終わりにします. なんかこの記事の特に前半を読むと感じると思うんですけど, 私はかなり哲学に向いているのではないかという気がします. 最近はひたすら自分の思想を点検していますし, そろそろ昔の人々の完成度が高い思想を学んで適切に取り入れていくべき時期なのかもしれません. 数学も, 究極的に論理的な哲学の一形態として見ているところがありますし, そういうのが他の数学の人とうまくいかない理由なのかも知れません. そもそも人とうまくコミュニケーションが取れていないところはありますが. 悲しい.

投稿日:20201216

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数学はじめました

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