双複素解析入門 第9回
双複素多項式の零点の構造について調べている途中ですが,零点といえば因数定理です.そしてその因数定理には関数の正則性が必要です.なので,今回は,双複素関数に連続性や微分可能性といった極限概念を扱います.位相としては$\mathbb{C}^2$や$\mathbb{R}^4$と同じなので,ほとんど同じように極限の概念を考えることができます.まずは連続性を定義しましょう.
$\Omega \subset \mathbb{BC}$を領域とします.
$\Omega$上の双複素関数$F:\Omega \rightarrow \mathbb{BC}$を考える.$Z_{0} \in \Omega$とする.任意の$\varepsilon >0$に対して,ある$\delta >0$が存在し,
$$\|Z-Z_{0}\|<\delta \Rightarrow \|F(Z)-F(Z_{0})\| <\varepsilon$$
が成り立つとき,関数$F$が$Z=Z_{0}$で連続であるという.また,任意の$Z_{0} \in \Omega$で$F$が$Z=Z_{0}$で連続となるとき,$F$は$\Omega$上連続であるという.
いつも通りの連続性の定義ですね.変わったことはしていません.また,双複素連続関数の定数倍,和,差,積,合成なども双複素連続関数となります.さらに,双複素連続関数は実連続関数や複素連続関数と同様の性質をもちます.
さて,次は双複素関数における微分を定義しますが,零因子の存在を忘れてはいけません.なので,近づき方を制限する必要がありますが,同様に微分可能性を定義できます.
$\Omega$上の双複素関数$F:\Omega \rightarrow \mathbb{BC}$を考える.$Z_{0} \in \Omega$において,
$$ \lim_{ Z \to Z_{0}\\Z-Z_{0} \notin \mathfrak{S}_{0}}\dfrac{F(Z)-F(Z_{0})}{Z-Z_{0}}=\lim_{H \to 0\\H \notin \mathfrak{S}_{0}}\dfrac{F(Z_{0}+H)-F(Z_{0})}{H}$$
が存在するとき,関数$F$が$Z=Z_{0}$で微分可能であるといい,上記の極限値を$F'(Z_{0})$と表す.また,任意の$Z_{0} \in \Omega$において$F$が$Z=Z_{0}$で微分可能であるとき,$F$は$\Omega$上正則であるという.さらに,$\Omega$上正則な関数全体の集合を$\mathcal{O}_{\mathbb{BC}}(\Omega)$と表す.
式を見る限りではほとんど今までの関数の微分可能性を議論するときと同じ式ですが,近づけるときに零因子を避けるようにして近づけなければなりません.これが環上の関数の解析の難しくもあり面白いところですね.さて,微分可能性が定義されると次は,1次近似式などの性質がどうなるのかが気になるところです.結論から言いますと,複素関数で成り立った性質は双複素関数でも成り立つことが多いです.
$F(Z) \in \mathcal{O}_{\mathbb{BC}}(\Omega)$とする.任意の$W \in \mathbb{BC}$のおいて
$$F(Z)=F(W)=F'(W)(Z-W)+(Z-W)C(Z)$$
が成り立つ.ただし,$C(Z)$は$C(W)=0$を満たす$\Omega$上の連続関数である.
また,Cauchy-Riemann方程式と類似の関係式も成り立ちます.
任意の$F \in \mathcal{O}_{\mathbb{BC}}(\Omega)$対して,$Z=z_{1}+jz_{2},F(Z)=u(z_{1},z_{2})+jv(z_{1},z_{2})$と表すとき,$u,v$は$\Omega$上偏微分可能で,
$$\dfrac{\partial u}{\partial z_{1}}=\dfrac{\partial v}{\partial z_{2}},\dfrac{\partial u}{\partial z_{2}}=-\dfrac{\partial v}{\partial z_{1}}$$
が成り立つ.
証明は省略させてもらいます.これを読んでいる人ならば難しくはないでしょう.次回は,双複素解析学において最も重要な定理の1つであるRinglebの定理を紹介します.
今回はここまでにします.ありがとうございました.